
【頭部】TIPS症例58
【症例】70歳代 女性
【主訴】歩行困難、会話困難
【現病歴】他院にて乳癌術後。肝転移に対して経口化学療法中。先月より会話が成り立たなくなり、家族も認識できないなどの見当識障害あり。また歩行困難となったため受診。
【身体所見】JCS3、認知症状が強く、病状の理解は困難。
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CT
MRI
異常所見と診断は?
まずCTから見ていきましょう。
右側頭葉に低吸収腫瘤があり、内部に一部充実部位があるように見えます。
周囲の浮腫性変化はほとんどないようです。
中でもやや高吸収が目立つ部位があり、出血を伴っている腫瘍である可能性があります。
次にMRIを見てみましょう。
充実部位はDWIでやや高信号で、辺縁に一部ADCの信号低下を認めています。
明らかなDWI高信号&ADC信号低下というわけではないですね。
次にT1WIで腫瘤内に高信号が散見され、やはり出血を伴っていることがわかります。
SWIやT2*WIがあればより出血がわかりやすいのですが、今回は撮影されていません。
T2WIは脳脊髄液と同じくらいの高信号の嚢胞部位とやや高信号の充実部位があります。
その中に低信号の血管を疑うflow voidがあり、高血流であることを示唆する所見です。
脂肪抑制造影T1WIでは、腫瘤は分葉状の形態で、辺縁に造影効果を認めます。
また右側壁の充実部位は強く造影されています。
また、右側脳室後角沿いに造影効果を認めており、腫瘍の進展が疑われます。
また右小脳半球背側にも造影効果があり、髄腔内播種が疑われます。
さて、このような所見を見た際に考えるべきは、、、膠芽腫ですが、今回は乳癌の既往があり、肝転移治療中であることを考えるとどうしても脳転移を疑います。
両者の可能性が考えられましたが、生検が施行され、結局、膠芽腫と診断されました。
診断:膠芽腫
※その後、ご家族の意向で、積極的な治療はしないということで、BSC(best supportive care)の方向で他院に転院となりました。
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【頭部】TIPS症例58の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
グリブラとは思いませんでした。メタなら分葉状はおかしいと思いましたが、そういうことなんですね。腫瘍と接している硬膜に沿って造影で高濃度に見えますが、これも硬膜播種でしょうか?見過ぎですかね?既往歴から転移と決めつけてはいけないという例ですね。治療難易度はさらに上がりますが状況を正しく把握できることが重要ですよね。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>腫瘍と接している硬膜に沿って造影で高濃度に見えますが、これも硬膜播種でしょうか?見過ぎですかね?
確かに硬膜の肥厚を認めており、硬膜への直接浸潤が疑われますね。
>既往歴から転移と決めつけてはいけないという例ですね。
そうですね。どうしても引っ張られてしまいますが、決めつけはダメという例ですね。
形の気持ち悪さや顔つきから膠芽腫を連想しましたが、どうも周囲浮腫とシフトの弱さが気になり、脳転移だと考えてしまいました。
また、脳転移と考え脳全体を観察したにもかかわらず、脳室辺縁への浸潤の可能性や髄腔内播種に気が付きませんでした。というより実質部ばかり観察しており、髄腔など解剖を意識しながらの観察ができていませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>どうも周囲浮腫とシフトの弱さが気になり
ですね。ここは膠芽腫らしくありませんね。
>脳室辺縁への浸潤の可能性や髄腔内播種に気が付きませんでした。というより実質部ばかり観察しており、髄腔など解剖を意識しながらの観察ができていませんでした。
複数の部位にあれば転移というわけではありませんが(特に今回の膠芽腫の場合)、造影のできたらthin sliceで3方向からじっくり観察することは小さな転移や播種を見つける上でも大事な作業ですね。
結局は病理検査、遺伝子検査で判断になるので画像だけでの判断は難しいですね
アウトプットありがとうございます。
そうなのですが、グリブラぽい所見を拾っていくことが大事ですね。
今回も既往歴から転移がまず疑われましたが、画像所見だけ見るとグリブラでもよいような・・・と思えることが大事です。
うろ覚えで違ったらすみません。
flow voidは脳梗塞の時は血流鬱滞によるものと説明されていませんでしたっけ?
その体で考えると、今回は血流増加により相対的に血流速度が落ちているということでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>flow voidは脳梗塞の時は血流鬱滞によるものと説明されていませんでしたっけ?
flow voidは正常の血管構造がT2WIで低信号に見えるものです。鬱滞ではありません。
脳梗塞で血管が詰まると逆にこの構造が見えなくなります。
また症例39のもやもや病では本来見えるべき両側の中大脳動脈のflow voidが見えないことで異常に気づかないといけないというものもありましたね。
ゴロー先生の一つ一つの所見への解釈・解説がとても参考になります!ありがとうございます!
「MRI各シークエンスの意義シリーズ」を味わせていただいたおかげで、以下のコメント・矢印表示が、なるほど!!としっくりきます。
「T1で高信号部分があり、出血を示唆しているかも。。」
「T2でCSFと等信号であり嚢胞変性をきたしているかも。。flow voidがあり血流が存在→血管の発達を示唆している。。」
こんなレベルですが、どうか今後ともよろしくお願いします。
(今までMRIがいかにわかっていなかったことか!!「DWI高信号 はい!脳梗塞」でした。。。今は、過去よりは格段に良くなった!!でも原理は・・・(泣))
アウトプットありがとうございます。
シークエンスの意義シリーズがお役に立てて良かったです。
日曜の朝から復習してくださりありがとうございます。
原理は・・・・私もよくわかっていないことが多く、技師さんの方が遙かにくわしいです(;゚ロ゚)