脳腫瘍の画像診断-質的診断から鑑別を絞る。

脳腫瘍の診断は非常に難しいものです。腫瘍か否か、良性か悪性かも鑑別できないこともしばしばあります。その前提を知った上で、「質的診断」を勉強して、腫瘍を絞って行きましょう。

腫瘍内部の性状はCT,MRIなどの各モダリティからの総合判断、評価が重要です。

質的診断にあたり着目すべき点

  • 充実部分の性状は?
  • 石灰化や嚢胞成分、出血成分の含有、周囲の浮腫や血管増生の有無は?
  • 腫瘍の広がりは?

充実部分の性状は?

細胞密度

  • 腫瘍の密度が高いものは悪性の傾向がある。
腫瘍の密度が高いとは?
  • CTで高吸収
  • DWIで高信号(ADC信号低下)
  • T2WI低信号(ただし非特異的、軽度高信号のこともある)
  • 造影効果あり

の傾向にあり。

これに当てはまるものとして、

※CTで高吸収腫瘍はじゃ・ま・(な)・リンパ腫と覚える。
(germinoma・medulloblastoma・ML)

  • 逆に腫瘍の密度が疎なもの、つまりCT等〜低吸収、DWI等信号(ADC高値)、T2WI高信号、造影効果なし〜±は、良性腫瘍の傾向あり。

※腫瘍の性状(grading)はADCminと相関する。つまりgrade↑ →ADCmin↓

※また腫瘍のADCのばらつき(ADC difference value)はgrade2より3で大きい。ADCは腫瘍周囲の白質病変が腫瘍の浸潤なのか浮腫性変化なのかの鑑別にも役立つ。

症例 70歳代女性 膠芽腫(Glioblastoma)

glioblastoma1-2

造影効果

  • 不整な造影効果は悪性を示唆する。
症例 70歳代女性 膠芽腫(Glioblastoma)

glioblastoma1-4

高血流

  • 血流が多いほど悪性を示唆する。
  • 注意点すべきこととして、よく染まることと血流が多いことは一緒ではない。
  • つまり、高血流≠強い造影効果。(ある程度は≒だけど比例はしない)
  • 造影効果≒BBBの破綻+間質の量によって決められるから。上記のように、毛様細胞性星細胞腫は良性だけどよく染まる。
  • ではどうやって高血流を評価するか。以下で評価する。
高血流の評価方法は?
  • MRAで脈管の拡張
  • T2WIで病変内部のflow void
  • SWIで病変内部の脈管の拡張
  • 直接灌流が見れる灌流画像の血液量(rCBV)

 

  • 毛様細胞性星細胞腫は充実部はよく染まるが、rCBVは比較的低い(つまり血流量は低い)。逆にこの特徴を見たら、この腫瘍を考える。tight junctionが開いている血管構造を反映するといわれる。(Neuroradiology 49:545-550,2007)
  • 血流はperfusion weighted imaging(PWI)で評価する。rCBVは局所の腫瘍血流量を示唆する。(血管新生や、血管内膜増殖などを反映)。Gliomaのgradingや、予後予測、腫瘍と放射線壊死の鑑別などに有用とされる。
症例 70歳代女性 膠芽腫(Glioblastoma)

glioblastoma1-3

石灰化や嚢胞成分、出血成分の含有は?

石灰化を来しやすい腫瘍

  • 乏突起膠腫 oligodendroglioma
  • 星細胞腫 astrocytoma
  • 上衣腫 ependymoma
  • 神経節膠腫  ganglioglioma
  • 胚細胞性腫瘍 germinoma
  • 頭蓋咽頭腫 craniopharyngioma
  • 髄膜腫 meningioma
  • 中心性神経細胞腫 central neurocytoma
  • 松果体腫瘍 Pineal tumor(胚腫(germinoma)を含む)
  • 海綿状血管腫 Cavernous hemangioma

嚢胞を伴いやすい腫瘍

  • 上衣腫   ependymoma
  • 毛様細胞性星細胞腫 pilocytic astrocytoma
  • 多形黄色星細胞腫  PXA
  • 神経節膠腫  ganglioglioma
  • 血管芽細胞腫 hemangioblastoma

腫瘍の造影パターンから分類

①嚢胞+壁在結節

  • 毛様細胞性星細胞腫、血管芽腫(これら2つは②、③パターンもあり)、
  • 神経節膠腫
  • 多形黄色星細胞腫

リング状増強効果

  • 膠芽腫
  • 転移性脳腫瘍
  • 脳膿瘍
  • 悪性リンパ腫(in AIDS)

③均一な増強効果

  • 悪性リンパ腫

④腫瘍の一部のみの増強効果

  • 退形成性星細胞腫

出血を伴いやすい腫瘍

  • 膠芽腫、退行性神経膠腫
  • 転移性脳腫瘍(肝癌、腎癌、絨毛癌、悪性黒色腫)
  • 上衣腫
  • 血管芽細胞腫
  • 聴神経腫瘍

血流豊富な腫瘍(腫瘍周辺に血管構造あり)

  • 血管芽細胞腫
  • 膠芽腫

T2*WI、SWIの読み方

  • T2*WI、SWIで低信号になるのは、出血、石灰化、flow void
  • 腫瘍内出血石灰化の検出に有用。
  • 特に腫瘍内出血はIntratumoral susceptibility signals(ITSSs)といわれ、有用とされる。

・ITSSは単発性の脳腫瘍の診断に寄与(Kim et al.AJNR2009)

・ITSSの存在は灌流画像で得られる情報に匹敵する(Park et al.AJNR2009)

  • しかし、出血か石灰化のその鑑別が問題となることがある。

SWIで出血と石灰化を鑑別する方法

  • SWIでは出血と石灰化の鑑別が可能な事(位相情報を見る)がある。SWIで中心高信号、辺縁低信号なら出血を示唆する。石灰化はすべて低信号で抜ける。(Löbel U, et al. Neuroradiology 52:1167–1177, 2010. )
  • また腫瘍内および周囲の血流・血管情報が分かる。普通のSWIでは、静脈が主体。(minIPしない画像では、動脈は高信号となる。ただし、PRESTO、FSBBなどの撮像法によっては動脈も描出する。施設のSWIがどちらを使っているかをチェックする。)
症例 80歳代男性

SWIで石灰化のMRI画像

右脈絡叢に生理的石灰化を認めています。

SWIで抜けて、位相情報でも低信号で抜けています。

症例 50歳代男性

MRIのSWIで出血を示唆する画像

左側脳室内に出血あり。

SWIでは抜けあり。他にも脳溝などにも抜けあり。

位相情報では中心高信号、辺縁低信号となっており、出血を示唆する所見。

腫瘍の広がりは?

  • 直接浸潤するもので特徴的な進展を示すもの:
脳梁を介した進展膠芽腫、悪性リンパ腫を考える。
  • CSF播種がないか頭蓋内を隅々までチェック。
  • 腫瘍の分布をチェック。多発なら転移ではない。Gliomaは多発してみえることがある。
  • 腫瘍周囲の白質病変を浮腫なのか、腫瘍の浸潤なのかを鑑別するのにADCが有用。ADC低下していれば、腫瘍。

MRS spectroscopy(MRS)について

  • 悪性腫瘍評価にはshort TE MRSが有用。

MRSから推定される病理像。

  • Choline (Cho) ↑ & myoinositol (Myo)/creatine (Cr) ↓: 悪性病変の指標
  • Lactate↑: 成人の脳腫瘍では,腫瘍の悪性度を反映  小児では大部分の腫瘍で上昇
  • 病変周囲の Cho↑: Glioma (vs. metastasis)
  • 充実性腫瘍で lipid & lactate↑: 悪性リンパ腫
  • Cho↑,lipids and lactate (+) : 毛様細胞性星細胞腫
  • Myo↑: 上衣腫
  • 増強病変周囲の Cho/N-acetylaspartate (NAA) ↑: 腫瘍 浸潤の指標

造影FLAIRについて

  • FLAIR は、T1WIと比べて低濃度の造影剤に感度が高い。
  • 実質内腫瘍の評価においては、必ずしも有用とは言えない:FLAIR高信号域とのコントラスト(Goo HW, et al: Pediatr Radiol 33:843-849, 2003. )
  • 髄液播種などのleptomeningeal disease の評価に有用 (Griffiths PD, et al. AJNR 24:719–723, 2003.)。血管の増強効果を認めない。CSFの信号抑制がより強い。
  • High grade glioma, germ cell tumor, medulloblastomaなどで追加すべき撮像法