
症例59
【症例】70歳代 男性
【主訴】腹痛・嘔気・嘔吐
【身体所見】BT 36.0℃、BP 125/70、PR 100、SpO2 98%(room air)
腹部:術後創部に膨隆あり。心窩部圧痛あり・自発痛なし・反跳痛なし・筋性防御なし、腸蠕動音減弱
【データ】WBC 7700、CRP 1.56
【既往歴】S状結腸癌術後、肝右葉切除後。
画像はこちら
小腸の拡張および液貯留・ニボー像を認めています。
小腸腸閉塞を疑う所見です。
今回は閉塞機転を探すのは容易です。
腹壁から腸管の逸脱を認めています。周囲にはヘルニア水を認めています。
腹壁瘢痕ヘルニアの嵌頓が疑われます。
同部より口側の腸管が拡張しており、ここが閉塞機転となって、小腸腸閉塞を来しています。
骨盤底などに腹水貯留を認めています。
診断:腹壁瘢痕ヘルニアの嵌頓(による小腸腸閉塞)
嵌頓している部位は、小さなclosed loopを形成しており、嵌頓の解除が必要です。
今回は、用手的に嵌頓が解除されました。
その数日後に待期的に腹壁瘢痕ヘルニア根治術が施行されました。
外ヘルニアとは?
ところで、今回のような、腹腔外の外に腸管などが逸脱してしまうものを外ヘルニアといいます。
一方で、腹腔内にできた異常な穴や生理的な穴に入ってしまうものを内ヘルニアと言います。
外ヘルニアの種類は?
外ヘルニアには鼠径部にできるものと、腹壁にできるものの大きく2つに分けられます。
このうち、鼠径部に見られる
はすでに経験済みですね。合わせて復習しておきましょう。
その他所見:
- 肝右葉術後。
- 胆摘後。
- 肝内胆管拡張軽度あり。胆摘後の影響の疑い。
- 総腸骨動脈分岐部直上に腹部大動脈瘤あり。
- 右優位に両側胸水あり。左胸膜石灰化あり。
- 左鎖骨下静脈からCVポート留置あり。
- 腹水貯留あり。
症例59の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
細かい質問攻めになり大変申し訳ないのですが(・・;)w、
・経験が少なく、あまり見慣れないプロトコルな気がします…どういうタイミングで撮影していますか?施設でのプロトコルの名前はありますか(「HCCプロトコル」「マルファンプロトコル」みたいな…)?2相目はいわゆる遅延相として、1相目は早期相(動脈相)というには少し遅いようにも見えます… なんか、門脈相+遅延相みたいな感じに見えちゃいます…(・・;)
・瘢痕は、肝切除時のものと考えてよろしいでしょうか?
・特に病歴には記載がありませんが、胆摘は右葉切除と同時に行われていますか?
お手数をおかけいたしますが、ご回答いただければ幸いですm(_ _)m
よろしくお願い申し上げますm(_ _)m
アウトプットありがとうございます。
>2相目はいわゆる遅延相として、1相目は早期相(動脈相)というには少し遅いようにも見えます… なんか、門脈相+遅延相みたいな感じに見えちゃいます…(・・;)
おっしゃるとおりですね。
1相目は早期相(動脈相)というには少し遅いですね。
プロトコルは、
肝ダイナミック
膵ダイナミック
腎ダイナミック
出血プロトコル
などがあります。
これは施設によって異なります。
ちなみに遅延相ではなく、平衡相ですね。
遅延相は尿管に造影剤が排泄される相で180秒以降に撮影されます。
(この方は腎不全があるのでその通りにはならないでしょうが)
>・瘢痕は、肝切除時のものと考えてよろしいでしょうか?
だと思われます。
>・特に病歴には記載がありませんが、胆摘は右葉切除と同時に行われていますか?
すいません。これは調べましたが記載がありませんでした。
お疲れ様です。
今回は割とすぐにわかりました。
慣れてきたせいでしょうか^_^
今回も、少し質問なのですが
今回の疾患と
胸水は関係ありますか?
あと精嚢が少し大きい感じがするのですが…
よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>今回も、少し質問なのですが
今回の疾患と
胸水は関係ありますか?
右側のみですので関連がありそうです。
>あと精嚢が少し大きい感じがするのですが…
そうですね。
ただ個人差がありますので、これくらいならばよくあります。
お世話になっています。
症例の本筋ではないのですが…肝切除後の画像をほとんど見たことがないので勉強になりました。胆汁瘻を鑑別として悩みましたが、肝臓(肝内胆管)や総胆管の造影効果や血液データより術後変化と判断しました。
アウトプットありがとうございます。
術後変化に加えて今回の腹壁瘢痕ヘルニアによる反応性の腹水もあると考えられますね。
再度、すいません。教えていただきたいなのですが、今回の肝切除術は半月状線での切開ですか? 素人的な質問で恐縮なのですが腹部の手術では、どの部位で切開することが多いのしょうか? 腹部術後の画像を読影するのに参考にしたいと思います。
肝切除術の際の皮膚切開部位はさまざまです。
https://home.hiroshima-u.ac.jp/home2ge/digestive/lgp/surgery.php
切開方法に宗派?もいろいろあるようで、うち(の医局)はベンツ型(リンク先のメルセデス切開)の切開が多いようです。
ここまでで,ほとんどのヘルニアを経験したことになるんですね.
今後それぞれをしっかり見分けられるように復習したいと思います.
そうですね。外ヘルニアですね。
外ヘルニアは攻略しやすいので、パターンを覚えておきましょう。
今回は画像があれば診断はそれほど難しくないですかね。
時間があるときは、症例の病歴を見て、自分ならどういう画像をオーダーするかなと考えてから画像をみる、オーダーのシミュレーションをしています(╹◡╹)
症例提示ありがとうございます。
腹壁瘢痕ヘルニアは腸管の嵌頓は指摘できました。腸管の増強効果が動脈相でやや不良にみえると判断しましたが有意でしょうか。
肝切除面に沿った脂肪織濃度上昇、右前腎筋膜の肥厚があり肝切除面で感染などが起こっていると判断してしまいました。上記の変化は今回の腹壁瘢痕ヘルニアの一連の病態として説明がつく変化なのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>腸管の増強効果が動脈相でやや不良にみえると判断しましたが有意でしょうか。
この症例もやや微妙ではありますが、動脈相ではやや不良に見えますね。ヘルニア水もでていますし、有意ととって良いと思います。
>肝切除面に沿った脂肪織濃度上昇、右前腎筋膜の肥厚があり
術後の変化が入っていますので、過去画像との比較をした上での評価が必要となります。
また感染となると膿瘍形成したりしないとなかなか言いにくいところですね。
嵌頓してヘルニア水が貯留しておりますので、少なからず今回の腹壁瘢痕ヘルニアの病態も入っていると考えます。
腹壁瘢痕ヘルニアを最初に疑いつつも、なにかウラがあるのではないだろうか…と謎の思考がはたらき、腸間膜の血管が渦巻いているwhirl sign(スライド136〜138)があるのでは?と判断して、ここが閉塞点となって、腸管が拡張し、拡張した腸管に押されて、瘢痕部位にヘルニアが形成された、といったストーリーを勝手につくってしまいました。腸管の連続性を追ってtrasition zoneを明らかにしようとしたのですが、今回も盛大に間違えてしまいました。
しっかりと復習しておきます…
アウトプットありがとうございます。
>腹壁瘢痕ヘルニアを最初に疑いつつ
シンプルに行きましょう(^_^;
今回の症例は追加症例にしてはやや簡単でしたかね。
>trasition zone
は嵌頓部位です。
whirl signは正常でも見られることがよくあるので、あまり取り過ぎには注意ですね。
解説の中で肝内胆管の拡張を御指摘されていますが、この症例はperiportal callarありと判断してよいのでしょうか。
判断できれば原因としては胆摘後の生理的変化と考えてよいのでしょうか。御解答よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>この症例はperiportal callarありと判断してよいのでしょうか。
periportal collarは(−)ですね。
横断像で左葉でそのように見えるところもありますが、冠状断像では認めていません。
門脈の一側のみの拡張で肝内胆管の拡張で、おっしゃるように胆摘後の生理的変化と考えられます。
腹壁瘢痕ヘルニアはわかりましたが、beak signがあるから、「嵌頓」までつけないといけないですね。
肝切除の断端に脂肪織濃度上昇あるいは水の貯留が見られるので、術後まだ余り時間が経っていないのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>beak signがあるから、「嵌頓」までつけないといけないですね。
腸閉塞を起こしていますからね。
単に腸管や腸間膜が逸脱しているだけではなく、腸閉塞を起こしている点が重要ですね。
>肝切除の断端に脂肪織濃度上昇あるいは水の貯留が見られるので、術後まだ余り時間が経っていないのでしょうか。
術後もこのような断端周囲に液貯留が残ることがありますので、これだけでは何ともいえないですね。
十二指腸下降部の壁肥厚はどの様に読影したら良いでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
確かに壁肥厚所見があり、膵実質と連続しているように見えますね。
もしかしたら、輪状膵があるのかもしれません。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/9155
いつも勉強になっています。
1点質問ですが、よく「胆嚢摘出後の胆管拡張」と言いますが、どれぐらいまでが生理的かという基準はあるのでしょうか。
それともその他の所見と合わせて判断するほかないのでしょうか。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
肝内胆管は正常例では見えないのが普通ですので、基本的に見える時点で拡張ありと考えていただいて大丈夫です。
総胆管は11mm以上が拡張ありとされることが多いです。
関連
https://matsushita-er.blogspot.com/2018/07/seven-eleven-rule.html