症例56 解答編

症例56

【症例】50歳代男性
【主訴】腹痛
【現病歴】朝から腹痛があり、他院受診。腹部レントゲンで異常を認めず、保存的に加療されたが、痛み治まらず紹介受診となる。

【身体所見】意識清明、BP 180/98mmHg、HR 77、BT 35.8℃、臍部周囲に圧痛が強い。反跳痛なし。
【データ】WBC 15500、CRP 0.05

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腹部腹側に明瞭な腸間膜浮腫および腸管の造影不良を示す塊があります。

また、正中部にヘルニア門を疑う所見を認めています。

その様子は矢状断像でより明瞭であり、腹側にこれらの腸管および腸間膜が逸脱している様に見えます。

またbeak signを認めていることがわかります。

closed loopの形成が疑われます。

closed loopの復習です。

上のように、腸管および腸間膜が何らかの穴などから逸脱して、出られなくなるのがclosed loopでした。

また、

でみたように、

closed loopを形成している部位、口側の腸管で上のようにbeak signを作ること。
肛門側の腸管は、しれ〜と、知らんぷりして虚脱しているのが特徴でした。

今回の症例はどうでしょうか?
わかりやすいbeak signとは言えませんが、冠状断像で見てみましょう。

すると上のように、closed loopを形成している部分が2カ所beak signを形成している事がわかります。
(左側のものはわかりやすいですが、右側はそうであろうという推測です。)

また左側に虚脱した肛門側の腸管がしれ〜と、出て行く様子がわかります。
右側にはbeak signははっきりしませんが、口側の腸管であろうと推測される腸管が同定できます。

そのすぐ口側には、小腸内に糞便の内容物を認めています。

これは、small bowel feces signであり、この先に閉塞機転があることを示唆する所見でした。
このことはclosed loopを形成している腸管の口側の腸管として矛盾しない所見ですね。

 

診断:絞扼性腸閉塞

※外科コンサルトが必要となります。

さて、closed loopを形成した絞扼性腸閉塞はこれで3症例目ということになります。

closed loopの原因には以下の5種類がありました。

なかでも、

  • 腹膜窩ヘルニア:腹腔内の生理的な穴に入り込む
  • 腸間膜裂孔ヘルニア:腸間膜にできた異常な穴に入り込む

を内ヘルニアというんでしたね。

これまでの2症例で述べたように、絞扼性イレウスであるということがわかることが絶対的に大事であり、その原因まではわからなくてもそれほど問題にならないですし、むしろわからないことが多いと述べてきました。

ですが、今回はその原因が非常にわかりやすい症例ですので、少しそのことに触れてみたいと思います。

今回は腸管および腸間膜の逸脱は腹腔内の一番前側(腹側)に認めています。

ここにあるのは大網です。

ですので、大網に穴が空いてそこから逸脱したのではないかと推測することができます。

イラストで表すとこのような形です。

closed loopの原因を細かく見ると、大網ヘルニア(大網裂孔ヘルニア)があることがわかりますね。

 

絞扼性腸閉塞と診断され、手術が施行されました。

【手術記録(の一部)】

腹腔内を観察すると、肝表面に淡血性の腹水を中等量認めた。

小腸を順にたどると、大網に孔が開いており、そこに小腸が入り込んで絞扼されていた

腸は鬱血を認めたが、虚血の所見は認めず。絞扼を解除したところ、腸管の色調は回復傾向であったため、腸切除は行わず。

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今回の症例は、症状が出てから数時間後に手術が施行されましたので、腸管虚血には陥っていましたが、腸管壊死には陥っておらず、腸切除にならなくて済みました。

これまでの2症例

→単純CTのみの撮影。単純CTで腸管壁の高吸収(出血性梗塞を示唆)あり、腸間膜浮腫著明血性腹水あり。closed loopの形成。

腸間膜の軽度浮腫。closed loopの症例。

と絞扼性腸閉塞を見てきましたが、造影CTで壁の造影不良が起こっているのは今回が初めてでした。

絞扼腸閉塞を疑う所見1)には以下のものがあります。

特異度の高い所見
  • 腸管壁内ガスおよび門脈内ガス(嚢腫状腸管気腫症との区別が必要。)→症例30(NOMI)
  • 腸管壁の造影効果の減弱または欠損(単純CTとの比較が重要。)→今回の症例
  • 腸管の不整な嘴状所見(beak sign) →症例26,52,今回の症例
絞扼が示唆される所見
  • 大量の腹水
  • 腸間膜血管の異常走行(SMAとSMVの逆転や、whirl sign、1箇所への血管集中など)
  • 腸間膜血管のびまん性拡張
  • 腸間膜脂肪の浸潤像(dirty fat sign) →症例26,52,今回の症例
  • 局所的な腸管の造影効果持続
  • 単純CTでの腸管壁の高吸収→症例26
  • ヘルニア嚢内の液体貯留(ヘルニア水)→症例31(外鼠径ヘルニア嵌頓)

 

このうち太字のものをこれまで見てきたことになります。

絞扼性腸閉塞→これらの所見が全部見られる!というわけでなく、あくまで組み合わせで、診断のヒントとなるということがおわかりだと思います。

合わせて他の症例も復習して頂けると幸いです。

参考文献:
1)わかる! 役立つ! 消化管の画像診断 P207

関連:【保存版】イレウスのCT画像診断の徹底まとめ!←今回の症例もこちらに掲載しています。

その他所見:甲状腺右葉にLDAあり。

症例56の解説動画

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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