【顔面+α】症例27

【症例】80歳代 女性
【主訴】意識障害
【現病歴】10日前に歯周炎のため抜歯の抜糸施行後より、発熱あり、7日前に他院入院。当初はJCS1桁であったが徐々に活動性低下・発語もほぼない状態に悪化したため、当院紹介となる。
【身体所見】JCS2桁、開眼あり、呼びかけにわずかにうなずくが発語なし。BT 36.6℃、上肢挙上わずかに可能も左右差評価できず、下肢挙上はできず。
【データ】WBC 9100、CRP 18

画像はこちら。

CT

MRI

左前頭葉脳底部に境界不明瞭な淡い低吸収域を認めています。

脳底部だけでなく左前頭葉に境界不明瞭な淡い低吸収域を認めています。

部位としては左前大脳動脈(ACA)領域に相当し、皮質のspareを認めていないため塞栓性脳梗塞が起こったことが考えられます。

しかし、よく見てみると、わずかですが、左の硬膜に沿っても低吸収域があるように見えます。

これは脳梗塞としては不自然です。

また、左上顎洞、篩骨洞、前頭洞に粘膜肥厚・軟部影があり、副鼻腔炎を疑う所見です。

次にMRIを見てみましょう。

CTで低吸収だった左前頭葉脳底部に一致してDWI高信号、ADC信号低下を認めています。

やはり脳梗塞でしょうか?

ところが、やや頭側では脳内だけでなく硬膜に沿ってDWI高信号、ADC信号低下を認めていることがわかります。

この分布から、やはり脳梗塞ではない、拡散制限が起こっていることが分かります。

では、一体何が起こっているのでしょうか?

頭部救急の復習ですが、DWI高信号は脳梗塞だけで見られる所見ではありませんでした。

 

そう、今考えられるのは、膿瘍など活動性炎症を起こしているということです。

つまり、左前頭葉に脳膿瘍+脳炎を認めており、大脳鎌沿いおよび左前頭部から側頭部の硬膜下に膿瘍形成を認めているということです。

脳内や硬膜下に認めた信号は左上顎洞のパターンに酷似していることが分かります。

次に、FLAIRを見てみましょう。

左前頭葉の病変部はFLAIRで高信号で、大脳鎌沿いや左前頭葉の脳溝は対側と比べて高信号となっており、髄膜炎を疑う所見を認めています。

また、左優位に前頭部の硬膜の肥厚を認めており、これも髄膜炎を疑う所見です。

所見をまとめますと、

  • 前頭部に硬膜肥厚:髄膜炎を示唆
  • 左前頭葉にDWI高信号/ADC信号低下:脳膿瘍・脳炎を示唆
  • 大脳鎌沿い、左前頭部〜側頭部硬膜沿いにDWI高信号/ADC信号低下:硬膜下膿瘍を示唆
  • 左前頭葉の脳溝沿いにFLAIR高信号:髄膜炎を示唆
  • 左上顎洞〜篩骨洞〜前頭洞にDWI高信号/ADC信号低下:副鼻腔炎を示唆

といったことが起こっています。

では、なぜこのようなことが起こっているのでしょうか?

一元的に説明するには、

副鼻腔炎が頭蓋内に進展した

ということです。

もう一度CTを骨条件で見てみましょう。

左上顎洞は軟部影で充満しており、尾側に追うと歯根尖周囲に骨融解像を認めていることが分かります。

つまり、歯性副鼻腔炎を疑う所見です。

歯周病の加療の抜糸後であり、ここから左上顎洞→篩骨洞→前頭洞と細菌感染が進展し、さらに前頭洞→頭蓋内に波及したと考えることができます。

冠状断像見てみましょう。

左歯根尖周囲に骨融解像を認めており、ここから上顎洞→篩骨洞→前頭洞→頭蓋内へと炎症が進展したことが推測されます。

 

診断:歯性副鼻腔炎からの頭蓋内進展による脳膿瘍・脳炎、髄膜炎、硬膜下膿瘍

 

※副鼻腔炎はときにこのように頭蓋内や眼窩内に波及することがあります。頭蓋内には前頭洞から、眼窩内には篩骨洞から進展しやすいと言われています。今回は眼窩内への波及はありませんでした。
※脳外科入院となり、抗生剤治療がされました。意識状態はJCS3まで改善し、単語での簡単な会話のやりとりもできるようになりましたが、活動性の低下を認め、もともとトイレ自立・食事自己摂取・着替え介助・風呂はデイサービス・要介護2の状態でしたが、ベッド上生活で全介助が必要な状態からは改善しない状態で、自宅近くの回復期リハビリテーションとして受け入れ可能な病院に転院となりました。

 

関連:副鼻腔炎の合併症

【顔面+α】症例27の動画解説

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