
症例52
【症例】60歳代女性
【主訴】(脳梗塞後の筋力低下に対してリハビリ目的で入院中)前日夜から腹痛、嘔吐出現あり。
【身体所見】腹部:膨満あり、軟、自発痛なし、臍部を中心に圧痛あり、反跳痛なし。
【データ】WBC 11300、CRP 0.31
画像はこちら。
小腸の拡張およびニボー像を認めています。
閉塞機転がないかを探しましょう。
すると腸管が細くなっている場所があることがわかります。
beak signを疑う所見です。
beak signの腸管をよく観察すると、closed loopを形成していることがわかります。
- 口側の腸管
- closed loopを形成している腸管
が拡張し、それらが合計3カ所のbeak signを形成し、肛門側の腸管は拡張せずに虚脱している様子がわかります。
closed loopを形成した絞扼性腸閉塞については、症例26でも扱いました。
上のように腸管および腸間膜が狭い索状物やなんらかの穴に入り込んだ結果、出られなくなり形成されるのがclosed loopでしたね。
このclosed loopは、C字型やU字型と表現されることがありますが、今回それがよりわかりやすいのが冠状断像です。
冠状断像ではclosed loopを形成し、口側の拡張した腸管、虚脱したままの肛門側の腸管の様子がよくわかります。
今回の症例で起こっていることをイラストで表すと次のようになります。
- ピンク色:closed loop
- 水色:拡張した口側腸管
- 黄土色:虚脱したままの肛門側腸管
です。
診断:絞扼性腸閉塞(closed loopの形成あり、索状物の形成や内ヘルニアが疑われる)
※絞扼の解除が必要ですので、外科コンサルトとなります。緊急手術となりました。
手術の結果、小腸間膜に異常な穴を認めており、ここに腸管が入り込んでclosed loopを形成していました。
上の術中写真はその腸管を解除したあとのものです。
幸いにも、腸管は壊死には至っておらず、解除のみで腸管切除はなされませんでした。
絞扼性腸閉塞というと症例26で厚かったような単純CTで腸管壁の高吸収があり、腸間膜の浮腫がかなり進行しているような症例がまず思い浮かびますが、今回の症例のように初期の段階であれば、腸間膜の浮腫は軽度ですので、それらの所見がないから重症ではない、手術の適応ではないなどと考えないようにしましょう。
さて、closed loopの原因には以下のようなものがあります。
今回は、小腸間膜の穴に腸管が入り込んでいましたので、腸間膜異常裂孔ヘルニアに相当し、内ヘルニアに分類されます。
内ヘルニアには、今回のように本来存在しない穴が形成され、そこに入り込んでしまう腸間膜裂孔ヘルニアのほか、生理的に腹腔内に存在する穴に入り込んでしまう腹膜窩ヘルニアがあります。
また、さらに細かく見ると、closed loopの原因は以下のようになります。
今回は中でも、小腸間膜ヘルニアに相当します。
ですが、症例26の解説でも述べたように、細かい原因・分類ができればなおよいですが、大事なのは、手術が必要な絞扼性腸閉塞であることに気付くことです。
この症例も例えばこのまま、小腸腸閉塞(癒着性か?)などと診断されていたら、状況はますます悪くなっていたでしょう。
非常にclosed loopの形成がわかりやすい症例ですので、今一度ご自身でも確認してみてください。
色つきのpdfファイルを置いておきますので、是非ダウンロードしてチェックしてみてください。
その他所見:
- 肝硬変あり。
- 胆摘後。
- 両側腎萎縮あり。
- 腹壁瘢痕ヘルニアあり。
- 動脈硬化あり。
- 少量腹水あり。
症例52の解説動画
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
う~む・・・・・
腸管壊死に至っていないのは患者さんにとってはプラスでしかないですが、診断という意味ではレベルが結構上がってしまう気がします。
ビークサインやクローズドループという言葉は確かに頭の中にありましたが、scarにばかり目が行ってしまい、閉塞起点を見つけることができませんでした↷
解説を見ると、確かに確かにはっきりと分かるのですが、果たしてどのくらいの割合のかたが所見で閉塞起点を見つけることができたんでしょう・・・
もっと見慣れないとですね!(^^)!
所見で→初見で
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
この症例はclosed loopとなっている腸管が短いのと、
所見の派手さが全くないので、術前に指摘するのはなかなか難しい症例かもしれませんね。
一旦入院でフォローされて、次画像を撮影したらよりひどくなっていた→手術だ!
となっていてもおかしくありませんね。
で、あとで画像を見直してみると、、、確かにここか!みたいな。
closed loopを理解するのに良い症例だと思いましたので、今回提示しました。
確かに画像上の派手さがないので,
「あれ,closed loopあるから絞扼性やし,手術必要?でも派手じゃないし」って思ってしまいました.今後であった時は夜間でも迷わず外科コンサルトできるようにしたいと思います.
アウトプットありがとうございます。
>「あれ,closed loopあるから絞扼性やし,手術必要?でも派手じゃないし」
そうですね。今回は所見が派手じゃないのが悩ましいところかも知れませんが、だからこそ腸切除せずに済んだ症例ですね。
自信を持ってclosed loopと診断していきましょう!
猛省。closed・・・あるかな、あるようにも見えるけど、血液検査でも大したことないし・・・なんて思ってしまいました。ありますね
アウトプットありがとうございます。
closed loopを形成して、非常に初期のある意味貴重な症例ですので、横断像でも冠状断像でもぜひ何度も味わってください!
Closed loopまではわかりました。絞扼性と書かなきゃいけませんでした(反省)。
10年くらい前に、癒着部を起点に捻転し、絞扼をきたした症例を経験しました。はじめは、症状のわりに所見が軽く、closed loopをみつけられず、入院して経過観察となり、followで症状が派手になったものの、症状が軽くなったのでさらに経過観察となり、翌日、検査データも異常値がひどくなり、緊急手術となり、壊死に陥った小腸を切除となりました。苦い経験です。今回は、早い段階でclosed loopに気づけてよかったです。
これもごろ~先生に鍛えていただいてるおかげだと思います。有難うございます。
アウトプットありがとうございます。
>Closed loopまではわかりました。
気づければOKですね。
>翌日、検査データも異常値がひどくなり、緊急手術となり、壊死に陥った小腸を切除となりました。苦い経験です。
皆さん苦い経験はたくさんされていますよね。
私も苦い経験をして、痛い目にあってこそ次は同じミスはしないと心に決め、また痛い目に遭うという・・・。
解説ありがとうございます。
beak sighはすぐに見つけられたものの、最初は癒着性のものと悩んでしまいました。
closed loopの有無で癒着性は除外しても大丈夫でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
癒着が原因で異常裂孔が生じて、そこに腸管が入り込んでclosed loopを作ることもありますが、そうでなくて、
単なる癒着により単純性機械性イレウス(腸閉塞)を生じているならば、closed loopは作らないですね。
「closed loop=絞扼性」→早急な手術が必要
と考えてよろしいでしょうか?
closed loopがあり内ヘルニアだということは分かったのですが、
腸管壊死(腸管壁高吸収)になってないように見えたので血流は保たれているのでは?と考えてしまいました。
自然解除はありえないので、手術しないといけないということですか?
>closed loopがあり内ヘルニアだということは分かった
いいですね!!!
>「closed loop=絞扼性」→早急な手術が必要
と考えてよろしいでしょうか?
おっしゃるとおりです。現状血流は保たれているかも知れませんが、自然解除は基本ないです。
いつもありがとうございます。
closed loopを見つけることができなかったので、疑わしき診断をこじつけですが、CTで特異的な所見が見つけづらいとされているNOMIとしてしまいました。しかし、SMV>SMAですし、病歴からも考えにくかったですね‥
言われればあっと気づくものの、自分で見つけ出すのにはやはりまだまだ修練が必要だと感じました。
胆管内に高吸収領域がある(水平断25スライド目)と思うのですが、これは何が高吸収に見えているのでしょうか?
また、腎臓周囲や腸間膜にかけて脂肪織の乱れがあるように感じたのですが、これは乱れがあると所見として述べても大丈夫なレベルですか?
アウトプットありがとうございます。
>言われればあっと気づくものの、自分で見つけ出すのにはやはりまだまだ修練が必要だと感じました。
ちょっと今回はわずかな変化でしたので気付きにくいですね。
>胆管内に高吸収領域がある(水平断25スライド目)と思うのですが、これは何が高吸収に見えているのでしょうか?
これは胆摘後のペッツですね。
>また、腎臓周囲や腸間膜にかけて脂肪織の乱れがあるように感じたのですが、これは乱れがあると所見として述べても大丈夫なレベルですか?
おっしゃるように若干あるかもしれません。ただしこのあたりは非特異的所見でなかなか有意とは取れないですね。
比較的最近の比較画像がある
以前の画像ではこのような所見は見られなかった
炎症反応が上がっている
尿検査で感染を示唆する所見がある
CVA tenderness陽性である
もしこれらをすべて満たすのであれば、有意な所見として取るでしょう。
加齢や炎症後、個人差などにより見られる所見ですので、単発で見えても、
よほど左右差がないとかでないとなかなか有意とはいえませんね。
「何らかのものによる絞扼性イレウス」「開腹を」と書けたので及第点かな、と思います(^-^;
しかし「メッケル憩室かもしれません」という謎診断をしてしまいました(;’∀’)
確かに「closed loopの形成がわかりやす」かったですが、前後の腸管を追うのに少し苦労した、というより正しく追えていなかったと思います。進行してclosed loop自体がもう少し拡張すると「(あくまで)画像的には」より診断しやすかったのかな、と思います。
「後医は名医」という言葉もありますが、何でも「早期に発見すること」「早期に診断すること」がいかに難しく、かつ重要であるかを日々痛感させられています。
アウトプットありがとうございます。
>「何らかのものによる絞扼性イレウス」「開腹を」と書けたので及第点
ですね。
>進行してclosed loop自体がもう少し拡張すると「(あくまで)画像的には」より診断しやすかったのかな、と思います。
もちろんそうですね。
しかし、その頃には腸管は・・・かもしれません。
>何でも「早期に発見すること」「早期に診断すること」がいかに難しく、かつ重要であるかを日々痛感させられています。
同じくです(;゚ロ゚)
その他の所見の肝硬変についての質問です。
前にも肝肥大の基準について質問させてもらいました。「経験だと」お答えをもらい、難しいなぁと、感じました。
今回の症例は辺縁が凸凹、脾臓も少し肥大ぎみに見えるのですがどうでしょうか?肝臓は肥大はしていないで良いですか?
もう1つ、IVC の形が扁平のように見えるのですが、どうでしょうか?
その場合虚血、脱水の症状ですよね?
アウトプットありがとうございます。
>前にも肝肥大の基準について質問させてもらいました。「経験だと」お答えをもらい、難しいなぁと、感じました。
経験と申し上げましたかね(^_^;)
肝腫大についてこちらに追記しました。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/13995
>今回の症例は辺縁が凸凹、脾臓も少し肥大ぎみに見えるのですがどうでしょうか?肝臓は肥大はしていないで良いですか?
おっしゃるように肝硬変があるのは間違いありません。
脾臓はやや大きめ程度ですね。
肝腫大・肥大はありませんね。
>IVC の形が扁平のように見えるのですが、どうでしょうか?
その場合虚血、脱水の症状ですよね?
おっしゃるとおり、IVCがぺしゃんこですね。脱水が示唆されますね。
小腸間膜の穴を写真で見ると大きさも様々あるのだと思いました。closed loopを形成していても今回のように所見が派手に見えなかったり、その逆だったり。腸管はしっかり追えるようにならないといけないと思いました。虚脱した肛門側の小腸を見つけれるように努力します。
アウトプットありがとうございます。
>closed loopを形成していても今回のように所見が派手に見えなかったり、その逆だったり。
ちょっと今回のケースはかなり初期であり、所見が派手でないので気づきにくいですね。
派手な場合で、絞扼性イレウスを疑う所見がある場合は、単なる腸閉塞やイレウスで終わらせずに要注意ですね。
>虚脱した肛門側の小腸を見つけれるように努力します。
なかなか難しいケースもありますが、beak signを示す3つの腸管+虚脱した肛門側の小腸を意識して見てください。
うーむ、今回は難しかったです。
小腸を追っていたのですが、違う部分の小腸を追ってしまい、ガスで壁が見えにくく、ここが閉塞部位?と勘違いしてしまいました。
追っていて、追いにくい場合には、思い切って別の部位の小腸から追ってみるということも必要だなと思いました。
アウトプットありがとうございます。
ちょっと今回は難しかったですね。
わずかな腸間膜の浮腫やbeak signに気づけるかが重要です。
小腸の腸閉塞らしい。SMA根部の石灰化は強いが、閉塞はなさそう。smaller SMVもなさそうだ。胆嚢摘出術後だからと腹壁瘢痕ヘルニアはないかしら、と思ってみると44~48/88に腹壁外に腸管(臍部?の左)があるではないか!腹壁瘢痕ヘルニアでいいかな、と考えました。とんでもないことがお腹の中で起こっていたのですね。びっくりしました。
アウトプットありがとうございます。
>44~48/88に腹壁外に腸管(臍部?の左)
ここに目が行かれた方が複数おられるようですね。ちょっと見えにくいかもしれませんが腹腔内との連続性ははっきりしません。もちろん、連続性がいまいちはっきりしない外ヘルニアもあるのですが、それにしても周囲の小腸に同部とbeak signなどは認めていないですね。
今回は非常に指摘するのは難しいかもしれない小さなclosed loopですが、「THE closed loop」として覚えておいてください。
貴重な症例ありがとうございます。
横断像の33/88らへんの、下行結腸のそばにあるものは腹膜垂でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
腹膜垂ならば通常は脂肪濃度ですので、ここにだけ何らかの液貯留があるように見えます。
丁寧な解説ありがとうございます
47枚目の腹壁内の低吸収域はなんでしょうか。腹壁瘢痕ヘルニアと位置がずれていますし、腹腔鏡の手術主義から考えるとへそともかんがえづらいですし。
御解答お願いします。
アウトプットありがとうございます。
>47枚目の腹壁内の低吸収域はなんでしょうか。腹壁瘢痕ヘルニアと位置がずれていますし、腹腔鏡の手術主義から考えるとへそともかんがえづらいですし。
何でしょうね・・・。
すぐ横に手術瘢痕?と思われる臍部がありますので、過去の手術に関連する瘢痕かもしれません。
リンパ節としてもなんでここだけという話になりますし。
いずれにせよ腹腔内との連続性はありませんので、有意ではありません。
いつもありがとうございます。
closed loop の原因までは画像から分からなかったのですが、内ヘルニアらしい所見は本症例でありますでしょうか。ope歴(胆嚢摘出)がありそうなので、バンド形成でも良さそうな気がしてしまいました……
アウトプットありがとうございます。
>closed loop の原因までは画像から分からなかった
ここのところかなりの絞扼性腸閉塞の症例を見返してみましたが、原因までわかることはむしろ稀です。
存在診断まででその原因まではわからないものだと思った方が良いかもしれません。
>ope歴(胆嚢摘出)がありそうなので、バンド形成でも良さそうな気がしてしまいました……
おっしゃるように最も多いものがバンド形成、癒着よるclosed loopの形成ですね。
特に大網が関与している症例が多い印象です。