【新腹部救急】症例40
【症例】50歳代 男性
【主訴】腰部打撲
【現病歴】本日12時頃、2mの脚立から転落し、左腰部打撲。救急搬送となる。
【既往歴】尿管結石
【身体所見】意識清明、BP 113/72mmHg、P 95bpm、SpO2 99%(RA)、左側腹部に圧痛あり。
【データ】WBC 14700、CRP 0.10、Hb 14.8
画像はこちら
ダグラス窩に液貯留を認めています。
膀胱内の尿と比較すると高吸収であり、血性腹水が疑われます。
出血源はどこでしょうか?
肝表や脾臓周囲にも液貯留を認めていますが、脾臓周囲で最も高吸収であり、脾臓からの出血が疑われます。
今回外傷がありますので、脾損傷による腹腔内出血が疑われます。
ダイナミックCTが撮影されました。
造影CTで脾臓の先端に被膜を含んだ造影不領域を認めており、脾損傷および被膜破綻による腹腔内出血が疑われます。
肝損傷と同様に脾損傷もⅠ型からⅢ型と3つのグレードに分けられます。
- Ⅰ型 被膜下損傷(Ⅰa型:被膜下血腫、Ⅰb型:実質内血腫)
- Ⅱ型 表在性損傷
- Ⅲ型 深在性損傷(Ⅲa型:単純深在性損傷、Ⅲb型:複雑深在性損傷)
日本外傷学会の肝損傷分類2008
今回は、脾被膜に損傷を認めており、脾実質にも損傷が及び、創の深さが1/2以上であるため、Ⅲ型の深在性損傷と分類されます。
ただし、損傷部位や破裂面が比較的整であるため、Ⅲa型に相当すると診断することができます。
診断:脾損傷(Ⅲa)による腹腔内出血疑い
動脈塞栓術が施行されました。
腹腔動脈造影では、脾動脈が描出され、その後脾臓実質が濃染されていく様子が分かります。
その脾臓の実質の造影効果の他に、脾臓辺縁から脾臓外に造影効果を認めており、造影剤の血管外漏出像(extravasation)を疑う所見です。
この血管外漏出像を栄養する脾動脈の分枝を選択して造影すると、血管外漏出像が明瞭化します。
同部を選択的に血管塞栓術が行われ、部分脾動脈塞栓術(PSE:partial splenic embolization)が施行されました。
なお、その尾側に認める卵型の造影効果は副脾です。
関連:
その他所見:
- 副脾あり。
- 膵脂肪置換あり。
- 左尿管結石あり。
- 虫垂や結腸憩室にバリウム糞石あり。
- 小腸間膜に非特異的脂肪織濃度上昇・小リンパ節あり。
【新腹部救急】症例40の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
損傷のグレードは覚えていませんでしたが、出血量が多く重そうだなくらいに思いました。そのつど表で確認しないと忘れてしまいますね。
アウトプットありがとうございます。
グレードはその都度見ればよいと思います。私も覚えていません。
脾臓の周囲の血腫に気づけるかという症例ですね。
血性腹水があり、「損傷部位はどこ?」ということになりますが、これまで教えて頂いたように、より濃い出血(血腫)が脾臓周囲に認めるので、脾損傷ということがわかります。そして、腹腔内に出血がもれているので、単純でⅡ型以上と判断できました。
アウトプットありがとうございます。
>より濃い出血(血腫)が脾臓周囲に認めるので、脾損傷ということがわかります。
そうですね。今回単純のみですが、出血点の推定ができますね。
>腹腔内に出血がもれているので、単純でⅡ型以上と判断できました。
Ⅲaとしましたが、辺縁ですのでⅡ型とした方がいいかもしれないと動画を撮ったあとで思っています(^_^;)
単純ではgrade1かと思いました。それにしては血腫が多いと思いました。造影画像を見返したら、『3でも良いのかな?』と思いましたが、単純では明らかなとき以外は損傷分類すべきではなさそうですね。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね、単純CTのみでのグレード分類はなかなか難しいですが、腹腔内に出血しているということは被膜が断裂しているということですので、グレードはⅡ以上ということになりますね。
単純でもある程度損傷部を推定して、造影CTを撮ろうと思うまでが大切ということですね。
血管撮影と見比べると損傷部位の出血してる様子がわかりやすいです。
アウトプットありがとうございます。
>単純でもある程度損傷部を推定して、造影CTを撮ろうと思うまでが大切ということですね単純でもある程度損傷部を推定して、造影CTを撮ろうと思うまでが大切ということですね。
そうですね。
単純CTで
・腹腔内出血があること
・それが脾臓周囲に高吸収が目立つ→脾損傷ではないかと推測
できることが重要ですね。
今回も大変勉強になりました。腹水は血性腹水と答えていつも満足してしまいますが、更に次の処置や検査を考えられるようにならなければと感じました。
アウトプットありがとうございます。
また今回もご参加いただきありがとうございます。
>腹水は血性腹水と答えていつも満足してしまいますが、更に次の処置や検査を考えられるようにならなければと感じました。
そうですね、緊急性が高いので、次にどの科にコンサルトする必要があるのかをバイタルを常にチェックしながら(ショック状態にならないように)考えないといけないですね。