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脾損傷のCT画像診断|グレード分類(AAST)と腹腔内出血・造影剤漏出・治療

左腹部や胸部に鈍的な外傷により、この脾臓が損傷することがあり、これを脾損傷(ひそんしょう)と言います。

お腹の中にはいくつかの臓器がありますが、この脾臓は臓器損傷を受けやすい臓器なのです。

今回はそんな脾損傷(英語でsplenic injury)について

  • そもそも脾損傷とは?
  • 脾損傷の分類
  • 脾損傷の症状
  • 脾損傷のCT画像
  • 脾損傷の治療

といった点を図(イラスト)と実際のCT画像を用いてわかりやすく解説します。

脾臓のけがって、どんなときに起こるの?

左のわき腹を強く打ったときに起こりやすいけがです。脾臓は血液が多く集まる臓器なので、傷つくとおなかの中で大きく出血することがあり、CTで程度を調べます。

先に結論:脾損傷のCT

  • 脾損傷は、左のわき腹・胸の下を強く打ったときに起こりやすく、腹腔内に出血してショックになることがあります。左の下位肋骨骨折があるときは特に注意します
  • 診断の基本は造影CTで、被膜下血腫・実質内血腫・裂傷の深さ(国際的にはAAST分類のグレードⅠ〜Ⅴ)と、造影剤のもれ(活動性出血)・仮性動脈瘤の有無を確認します
  • 状態が安定していれば保存療法や血管内治療(塞栓術)で脾臓を残せることが多く、不安定なら手術となります。数日後に遅れて出血(遅発性破裂)することもあるため経過観察が大切です

※左のわき腹を強く打ったあとに、腹痛・左肩の痛み・ふらつきがあるときは、すぐに救急を受診してください。

脾損傷とは?


左胸腹部や背部の鈍的な外傷によって、脾臓が損傷を受けることを脾損傷と言います。
脾臓は腹部の鈍的外傷で損傷を受けやすい臓器の1つです。

脾臓は肋骨に囲まれて存在しますが、被膜が薄く、柔らかい構造であるため、損傷を来たしやすいのです。

脾損傷の原因は?

原因としては、交通事故や転落と言った高エネルギー外傷が多くを占めますが、ちょっとした打撲や転倒でも起こることがあります。

脾損傷の分類(グレード)は?

脾損傷の程度は、血腫の広がりと裂傷(裂け目)の深さで分けます。国際的に広く使われているのがAAST(米国外傷外科学会)の分類で、グレードⅠ(軽い)〜Ⅴ(重い)の5段階です。WSESガイドラインに掲載されている表は次の通りです(Coccolini 2017)。

グレード 種類 損傷の内容
Ⅰ 血腫 被膜下血腫で、脾臓の表面の10%未満
裂傷 被膜の裂け目で、実質の深さ1cm未満
Ⅱ 血腫 被膜下血腫で表面の10〜50%、または直径5cm未満の実質内血腫
裂傷 深さ1〜3cmで、実質内の血管に及ばない
Ⅲ 血腫 被膜下血腫で表面の50%超または増大している、破裂した被膜下・実質内血腫、直径5cm超の実質内血腫
裂傷 深さ3cm超、または脾柱の血管に及ぶ
Ⅳ 裂傷 区域または脾門部の血管に及び、脾臓の25%超が血流を失う
Ⅴ 裂傷 脾臓が粉々に砕けている
血管 脾門部の血管損傷で、脾臓全体が血流を失う

AASTの分類は2018年に改訂されており(Kozar 2018)、CTで見える血管損傷(造影剤の血管外漏出・仮性動脈瘤)も重視されるようになっています。またWSESの分類では、このAASTのグレードに循環動態(血圧などが安定しているか)を組み合わせて、軽症(minor)・中等症(moderate)・重症(severe)に分けます。血圧などが不安定なら、グレードにかかわらず重症(WSES class Ⅳ)として扱います(Coccolini 2017)。

日本では日本外傷学会の臓器損傷分類も使われており、Ⅰ型(被膜下損傷)・Ⅱ型(表在性損傷)・Ⅲ型(深在性損傷)の3つの型に分けます(細かい判定の基準は原典で確認してください)。考え方は同じで、被膜下の損傷か、被膜が破れた浅い損傷か、深い損傷かという形で分けます(肝損傷の分類とほぼ同じ考え方です)。以下、損傷の形ごとに見ていきましょう。

被膜下損傷(被膜下血腫・実質内血腫)

被膜下損傷は、脾臓の被膜が保たれており、脾臓の中で出血を起こしている状態です。
さらに、

  • 被膜の下に血腫があるもの:被膜下血腫
  • 被膜から離れた脾臓の実質内に血腫があるもの:実質内血腫

に分けられます。

表在性損傷(浅い裂傷)

表在性損傷では、脾臓の被膜にも損傷を認め、脾臓実質にも損傷が及びます。
創が脾臓の実質の浅い部分にとどまる損傷を表在性と呼びます。
脾臓の被膜に損傷を認めると、脾臓の中の血腫が脾臓の外に出てしまう(脾破裂)ことがあります。
これを腹腔内出血(ふっくうないしゅっけつ)と言います。
被膜が破れる損傷(表在性・深在性)では、この腹腔内出血の有無が循環動態を左右するため、とくに重要となります。

深在性損傷(深い裂傷)

最も重症なのがこの深在性損傷です。
Ⅱ型と同じように、 脾被膜にも損傷を認め、脾臓実質にも損傷が及びます。
創が脾臓の実質の深い部分まで及ぶ損傷を深在性損傷と呼びます。
破裂面が比較的単純なものと、複雑で広い範囲に及ぶもの(粉砕に近いもの)があります。

イラスト及び分類はいずれも1)を参照に作成。

脾損傷の症状は?

脾損傷の症状は、

  • 脾臓がある左上腹部痛・左季肋部痛と言った痛み
  • 嘔気嘔吐などの消化器症状
  • 左肩への放散痛(左横隔神経刺激に伴う)
  • 出血性ショック(呼吸が早い、チアノーゼ、四肢の冷感など)
  • 腹膜刺激症状

などが挙げられます。
出血性ショックや腹膜刺激症状と言った症状は、脾臓の被膜に損傷を伴い脾臓内の出血が腹腔内に漏れ出ることにより生じます。
脾損傷と肝損傷の分類の考え方はほぼ同じですが、同じ被膜下や実質内の出血であっても、脾臓と肝臓では同じ腹部の臓器でも出血の広がりのリスクが異なります。
肝臓は硬い臓器ですが、脾臓は肝臓よりは柔らかく軟性構造です。

2)を引用改変

すなわち上のように、脾臓は実質内や被膜下の出血であってもloose spaceに分類され、一方で肝臓の実質内・被膜下の出血はtight spaceに分類され、出血が広がるリスクは脾臓のほうが高いのです。

脾損傷のCT画像所見は?

脾損傷を起こした場合、単純CTで血腫は高吸収となり、造影CTで不均一な造影効果・造影不良域を示します。
またダイナミックCTの動脈相で造影剤の血管外漏出像(extravasation)や仮性動脈瘤(pseudoaneurysm)の有無をチェックし、これらがあれば動脈性出血があることを示唆します。
腹腔内出血の有無や、それが活動性の出血なのかをCTで判定します。循環動態が安定している(または安定させられた)外傷患者では、造影CTが診断のゴールドスタンダードとされています(Coccolini 2017)。

腹腔内出血はCTでどう見える?

  • 単純CTで、ふつうの腹水(水に近い濃さ)より高い濃度の液体として見えます。下の症例のように、CT値を測ると血性かどうかの目安になります
  • 固まった血液(凝血塊)ほど濃く見えるため、最も濃い血腫がある場所の近くに出血源があることが多いのが読影のポイントです(sentinel clot sign)。脾損傷では脾臓の周り・左横隔膜下に濃い血腫が集まります
  • 血液は肝臓の周り(モリソン窩)や骨盤の底(ダグラス窩・膀胱の周り)にもたまるため、腹部から骨盤まで確認します
  • 造影CTの動脈相で、血腫の中に造影剤がもれ出る像(extravasation)があれば、いま出血している(活動性出血)ことを示します

脾損傷のCT画像所見と治療方針の関係

裂傷の深さによる分類以外に、以下の血管損傷の有無を評価に含めたCT画像所見と治療方針の関係も評価に有用です。

3)より引用改変。安定した鈍的脾損傷400例の検討では、CTでの活動性出血や血管損傷(仮性動脈瘤・動静脈瘻)を組み込んだCTグレード分類が、従来のAAST分類よりも血管造影・塞栓術や手術が必要な患者をよく予測したと報告されています。

症例  60歳代男性 転倒

腹部単純CTの横断像です。
肝臓辺縁にやや高吸収な腹水を認めています。
脾臓周囲にはより高吸収(白い)な血腫を疑う所見を認めており、脾臓との境界は不明瞭です。
腹腔内出血を疑う所見です。


骨盤底にも従来の腹水よりは明らかに高吸収な液貯留を認めています。

CT値を測定すると47HUと高く血性腹水〜腹腔内血腫であることがわかります。

ダイナミックCTの動脈相の横断像です。
脾臓に造影不良域を認めており、被膜の断裂も疑われます。
明らかな造影剤の血管外漏出所見や仮性動脈瘤を疑う所見ははっきりしませんでした。

深在性の脾損傷で、上のCTグレードではⅣ型相当と診断され、血管内治療が施行されました。

脾損傷の治療は?

脾損傷の治療には大きく3つあります。WSESの分類・ガイドライン(2017)では、損傷の解剖学的程度だけでなく循環動態と合併損傷を合わせて治療方針を決めることを求めており、小児の鈍的脾損傷の大部分は非手術的に管理できるとしています。

  • 保存的治療
  • 血管内治療(動脈塞栓術(TAE))
  • 手術療法

保存的治療

循環動態が安定していて、ほかに手術が必要な腹部の損傷がなければ、損傷のグレードにかかわらず、まず手術をしない治療(非手術的管理)を試みることがWSESガイドラインで勧められています。非手術的管理がうまくいかず手術などが必要になる割合は4〜15%と報告されています(Coccolini 2017)。
経過観察といっても通常、入院は必要となります。
保存的に加療した場合は、施設により受傷数日〜1週間後などに腹部造影CT検査を行い、仮性動脈瘤の有無を確認します。
もし仮性動脈瘤が見つかれば、破裂を予防するために血管内治療(動脈塞栓術(TAE))を行います。

血管内治療

循環動態が比較的安定しており、CTで被膜断裂や活動性の出血を認めた場合には血管内治療が考慮されます。
血管内治療の合併症として脾梗塞があり、特に遠位(選択的)塞栓では区域性の脾梗塞が多くなります。
脾梗塞に伴う発熱や疼痛と言った症状は頻繁に見られ、ときに脾臓壊死や、脾膿瘍形成と言った合併症が起こることがあります。

手術療法

循環動態が不安定な場合や、血管内治療では止血は困難と判断された場合は、手術療法が行われます。
脾臓を摘出したあとは、免疫の働きが落ちて重い感染症(脾摘後重症感染症:OPSI)を起こすことがあるため、ワクチン接種などの予防が行われます(Coccolini 2017)。

遅れて起こる出血(遅発性脾破裂)に注意

脾損傷は、受傷した直後だけでなく、被膜下血腫や仮性動脈瘤があとから破裂して命に関わることがあります(Coccolini 2017)。保存的に治療している間は、腹痛の増強・左肩の痛み・血圧低下・貧血の進行に注意し、必要に応じてCTや超音波で再評価します。

脾破裂の鑑別は?

脾損傷により脾臓の被膜が破れ、腹腔内出血を起こすことを脾破裂と言います。
外傷による損傷によるものがほとんどですが、外傷以外でも起こることが稀にあります。
脾破裂の外傷以外の原因としては、

  • 脾腫を起こす疾患(慢性肝障害、伝染性単核球症など)
  • 抗凝固療法

などで見られます。

脾損傷でよくある疑問(Q&A)

Q1. 脾臓が破裂したらどんな症状が出ますか?
A. 左上腹部〜左わき腹の痛み、左肩の痛み(横隔膜の刺激による)、吐き気のほか、出血が多いと顔色が悪い・冷や汗・脈が速い・ふらつくといったショックの症状が出ます。左のわき腹を強く打ったあとにこのような症状があれば、すぐに救急を受診してください。

Q2. 脾臓を取らずに治せますか?
A. 循環動態が安定していれば、多くは手術をせずに、安静・経過観察や血管内治療(塞栓術)で脾臓を残す治療が選ばれます。小児では大部分が手術をせずに管理できるとされています(Coccolini 2017)。

最後に

脾損傷についてまとめました。

  • 脾臓の損傷を理解するにはまずは分類を理解する
  • その際に脾臓の被膜の損傷の有無に着目することが重要
  • 被膜が損傷している場合には、容易に腹腔内出血をきたしショックになるため注意が必要
  • 脾臓は肝臓よりも組織が柔らかく出血が広がりやすい
  • CT検査ではダイナミック撮像を行い造影剤が漏出する様子や腹腔内出血を捉えることが重要
  • 治療は保存的治療、血管内治療(動脈塞栓術)、外科的治療の3つがある

という点がポイントです。
参考になれば幸いです( ^ω^ )
参考サイト/文献
1)日本外傷学会臓器損傷分類2008
2)画像診断 Vol.33 No.14 2013 P1522

3)日腹部救急医会誌32:1159-1162,2012

参考文献

  1. Coccolini F, Montori G, Catena F, et al. Splenic trauma: WSES classification and guidelines for adult and pediatric patients. World J Emerg Surg. 2017;12:40. PubMed
  2. Schnüriger B, Inaba K, Konstantinidis A, et al. Outcomes of proximal versus distal splenic artery embolization after trauma: a systematic review and meta-analysis. J Trauma. 2011;70(1):252-260. PubMed
  3. Kozar RA, Crandall M, Shanmuganathan K, et al. Organ injury scaling 2018 update: Spleen, liver, and kidney. J Trauma Acute Care Surg. 2018;85(6):1119-1122. PubMed
  4. Marmery H, Shanmuganathan K, Alexander MT, et al. Optimization of selection for nonoperative management of blunt splenic injury: comparison of MDCT grading systems. AJR Am J Roentgenol. 2007;189(6):1421-1427. PubMed

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