【新腹部救急】症例39

【症例】60歳代 女性
【主訴】心窩部痛、右上肢の疼痛
【現病歴】3日前にデパート内で転倒し、心窩部痛と右肘の疼痛で当院へ救急搬送。右肘Xpで右上腕骨近位端骨折と診断された。腹部所見は心窩部に圧痛あるもFAST陰性、外傷機転から臓器損傷を疑われず、帰宅となる。昨日本人の希望で他院受診し入院となる。夜間に血液検査で肝機能異常があり、腹部CTが撮影され、所見を認めたため、当院へ転送となる。
【既往歴】関節リウマチ、高血圧
【身体所見】意識清明、BP 176/73mmHg、HR 86bpm、SpO2 96%(RA)、心窩部に皮下出血斑あり、圧痛あり。体位変換でvitalに変動なし。
【データ】WBC 7400、CRP 9.11、Hb 9.6、AST/ALT=158/338、T-Bil 1.78

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子宮の前後に高吸収な液貯留を認めており、腹腔内出血が疑われます。

子宮の尾側にある膀胱内の尿の濃度と比較すると明らかに高吸収であることがわかりますね。

出血源はどこでしょうか?

3日前に外傷歴があり、腹部臓器損傷の可能性があります。

肝右葉S6-8に不均一な低吸収域を認めており、肝損傷の可能性があります。

当院と転送となり、翌日造影CTが撮影されました。

造影CTで肝右葉S6-8に造影不領域を認め、やはり肝損傷が疑われます。

一部は肝表に達しており肝被膜の損傷により、腹腔内出血を起こしたことが疑われます。

ただし、早期相で造影剤の血管外漏出像(extravasation)や活動性出血ははっきりしません。

 

肝損傷は型からと3つのグレードに分けられます。

  • Ⅰ型 被膜下損傷(Ⅰa型:被膜下血腫、Ⅰb型:実質内血腫)
  • Ⅱ型 表在性損傷
  • Ⅲ型 深在性損傷(Ⅲa型:単純深在性損傷、Ⅲb型:複雑深在性損傷)

日本外傷学会の肝損傷分類2008

今回は、肝被膜に損傷を認めており、肝実質にも損傷が及び、創の深さが3cm以上であるため、Ⅲ型の深在性損傷と分類されます。

中でも、損傷部位や破裂面が複雑で範囲も広範に及ぶため、Ⅲb型に相当すると診断することができます。

 

診断:肝損傷(Ⅲb型)による腹腔内出血

 

※今回vitalが落ち着いており、Hbの低下も止まったため、動脈塞栓術(TAE)は施行されず、保存的に加療されました。

 

関連:肝損傷とは?分類・診断・治療の徹底まとめ!

その他所見:とくになし。

【新腹部救急】症例39の動画解説

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