交通事故や転落、あるいは誰かに殴られたりしてお腹に鈍的外傷を受けたときに、肝臓が損傷を受けてしまうことがあり、これを肝損傷(かんそんしょう)と言います。
肝臓はお腹の中の臓器ですので、損傷を受けたかどうかは、外から見ただけでは診断することができません。
ではそんな肝臓の損傷をどうやって見つけるのでしょうか?
またどうやって治療をするのでしょうか?
今回はそんな肝損傷(英語ではliver injury)について
- 肝損傷とはどう言ったものか
- 肝損傷の分類
- 肝損傷の画像所見
- 肝損傷の治療
などについて図(イラスト)や実際のCT画像を用いてわかりやすくまとめました。
先に結論:肝損傷のグレード(分類)とCT
| 日本外傷学会 肝損傷分類2008 | 状態 |
|---|---|
| Ⅰ型 被膜下損傷 | 肝臓の膜(被膜)は破れていない。Ⅰa:被膜下血腫、Ⅰb:肝臓の中の血腫 |
| Ⅱ型 表在性損傷 | 被膜が破れた浅い(深さ3cm未満)裂け目(日本外傷学会臓器損傷分類委員会 2008) |
| Ⅲ型 深在性損傷 | 深い(3cm以上)損傷。Ⅲa:単純、Ⅲb:組織が広く挫滅した複雑なもの |
海外では AAST の Grade Ⅰ〜Ⅴ もよく使われます(下の比較表)。外傷性肝損傷の国際的なガイドライン(WSES 2020)では、循環が安定していれば重いグレードでも手術をしない治療がまず選ばれます(Coccolini 2020)。診断は造影CTが中心で、肝臓の裂け目・血腫・腹腔内出血(血性腹水)・造影剤の漏れ(活動性出血)を確認します。循環が安定していれば手術をしない保存的治療が多く、出血が続けばカテーテル治療(TAE)や手術を行います。Ⅰ型でもあとから悪化することがあるため、経過を追います。
肝損傷とは?

胸腹部の鈍的な外傷によって、肝臓が損傷を受けることを肝損傷と言います。
鈍的な外傷で頻度の高い腹部臓器損傷の一つです。
損傷を受けた肝臓には出血と肝組織の挫滅が起こります。
肝損傷の中でも、肝臓を覆う被膜の損傷を伴う場合には、肝臓の外、すなわち腹腔内に出血をきたし、ショック状態になることがあります。
肝損傷の分類は?
日本外傷学会の肝損傷分類2008によると肝損傷はⅠ型からⅢ型と3つのグレードに分けられます。
- Ⅰ型 被膜下損傷(Ⅰa型:被膜下血腫、Ⅰb型:実質内血腫)
- Ⅱ型 表在性損傷
- Ⅲ型 深在性損傷(Ⅲa型:単純深在性損傷、Ⅲb型:複雑深在性損傷)
それぞれどういう状態なのかを図を使って見てみましょう。
肝損傷分類2008を参照にオリジナルの図を作ってみました。
Ⅰ型 被膜下損傷

被膜下損傷は、肝被膜が保たれており、肝臓の中で出血を起こしている状態です。
さらに、
- 被膜の下に血腫があるのがⅠa型:被膜下血腫
- 被膜から離れた肝実質内に血腫があるのがⅠb型:実質内血腫
と分けられます。
受傷時点でⅠ型だから安心というわけではなく、血腫が大きくなって破れるとⅡ型やⅢ型へと移行することもあるので、フォローが必要です(日本外傷学会臓器損傷分類委員会 2008)。
Ⅱ型 表在性損傷

表在性損傷では、肝被膜にも損傷を認め、肝実質にも損傷が及びます。
創の深さが3cm 未満の損傷が表在性と分類されます(日本外傷学会臓器損傷分類委員会 2008)。
肝臓の被膜に損傷を認めると、肝臓の中の血腫が肝臓の外に出てしまうことがあります。
これを腹腔内出血(ふっくうないしゅっけつ)と言います。
Ⅱ型、Ⅲ型ではこの腹腔内出血の有無が循環動態を左右するため、とくに重要となります。
Ⅲ型 深在性損傷

最も重症なのがこのⅢ型です。
Ⅱ型と同じように、 肝被膜にも損傷を認め、肝実質にも損傷が及びます。
創の深さが3cm以上の損傷を深在性損傷と分類します(日本外傷学会臓器損傷分類委員会 2008)。
さらに、
- 損傷部位や破裂面が比較的整であるものがⅢa型:単純深在性損傷
- 損傷部位や破裂面が複雑で範囲も広範に及ぶものがⅢb型:複雑深在性損傷
と分けられます。
イラスト及び分類はいずれも1)を参照に作成。
AASTの肝損傷グレード(Grade Ⅰ〜Ⅴ)との対応
海外の論文やガイドラインでは、米国外傷外科学会(AAST)の分類(2018年改訂)が使われます。CTの所見で次のように分けます(Kozar 2018、Mohammad 2025)。
| AAST | おもな所見 | 日本外傷学会分類のおよその目安 |
|---|---|---|
| Grade Ⅰ | 被膜下血腫(肝表面の10%未満)、深さ1cm未満の裂傷 | Ⅰa型・Ⅱ型 |
| Grade Ⅱ | 被膜下血腫(10〜50%)、実質内血腫(10cm未満)、深さ1〜3cm・長さ10cm以下の裂傷 | Ⅰ型・Ⅱ型 |
| Grade Ⅲ | 被膜下血腫(50%超)、10cmを超える実質内血腫、破裂した血腫、深さ3cmを超える裂傷、肝臓の中にとどまる活動性出血 | Ⅲa型・Ⅲb型 |
| Grade Ⅳ | 肝葉の25〜75%の実質破壊、腹腔内へ広がる活動性出血 | Ⅲb型 |
| Grade Ⅴ | 肝葉の75%を超える実質破壊、肝後面下大静脈・主肝静脈の損傷 | Ⅲb型(+HV・IVC) |
※日本の分類は形(被膜の破れと深さ)で、AASTは広さ・大きさ・活動性出血まで含めて分けるため、ぴったり1対1には対応しません。
肝損傷の症状は?
肝損傷の症状としては、
- 腹痛
- 腹腔内出血による出血性ショック(呼吸が早い、チアノーゼ、四肢の冷感など)
- 腹膜刺激症状
- 胆汁漏による胆汁性腹膜炎
などが挙げられます。
とくに上の分類で述べた被膜の損傷を伴う場合には、腹腔内に出血を起こすため、ショックを起こしやすいです。
肝損傷の画像所見は?
腹部の鈍的な外傷があり、エコーで(肝臓と右腎臓の間の)Morrison窩に腹腔内出血を疑う所見があれば、肝損傷の可能性があり、腹部CTが撮影されます。
ただし、CTの画像を撮影するには、循環動態が落ち着いていることが前提です。
CTでは、造影剤を用いない単純CTに加えて、造影剤を用いた肝ダイナミック撮影が行われるのが一般的です。
CT画像診断でチェックするべきポイントとして
- 単純CTで腹腔内出血の有無・肝臓の濃度の不均一の有無
- ダイナミックCTでは動脈相で造影剤の血管外漏出(extravasation)や動脈損傷の有無。門脈相では門脈・肝静脈などの静脈系の評価・肝臓実質の損傷を疑う所見の有無
が挙げられます。
では実際の症例を見ていきましょう。
症例 10歳代男性 外傷

腹部単純CTの横断像の画像です。
肝右葉に淡い低吸収域(やや黒い)を認めています。

ダイナミックCTの平衡相では、同部位に造影不良域を認めています。
Ⅰ型の被膜下損傷、中でもⅠb型:実質内血腫の肝損傷と診断され、保存的に加療されました。

1ヶ月後のCTでは肝損傷部位はサイズが小さくなっていることがわかります。
症例 60歳代女性 腹部打撲

先ほどの症例よりは少し複雑に肝右葉に造影不良域を認めています。
肝臓の被膜の破綻を認めており、腹腔内出血を認めていました。
Ⅲb型の複雑深在性損傷の肝損傷と診断されましたが、extravasationははっきりせず、vitalも安定していたため保存的に加療されました。
症例 60歳代男性 3mの高さで作業中に転落

腹部単純CTの横断像です。
脾臓の背側に血腫を疑う高吸収液体貯留を認めています。
腹腔内出血を疑う所見です。

やや尾側のスライスでは、胆嚢の周囲に肝臓との境界が不明瞭な血腫を認めています。
腹腔内出血を疑う所見です。

造影剤を用いたダイナミックCTの動脈相です。
肝門部には広範な造影不良域を認め、その内部に造影剤の漏出(extravasation)を疑う所見を認めています。
その1スライス尾側です。

血管外へ漏出している造影剤は左の肝動脈から連続していることがわかります。
左の肝動脈の血管損傷を疑う所見です。
また、モリソン窩などに広範な腹腔内出血を認めています。

平衡相では動脈相よりも肝門部の低吸収域が明瞭化しており、さらに内部の造影剤の漏出が増大していることがわかります。

動脈相と平衡相を比較すると、肝門部の造影不良域の中の造影剤の漏出量が増大していることがわかります。
平衡相のさらに下のスライス(断面)です。

肝臓の辺縁を追えない部位があり、ここで肝臓の被膜が裂傷を受けて破綻していることがわかります。
またこの破綻により肝臓内の出血が腹腔内に漏れ出ていることが推測されます。
Ⅲb型の複雑深在性損傷の肝損傷と診断され、3次救急病院へ搬送されました。
肝損傷の合併症は?
肝損傷における合併症には
- 胆汁漏
- 血性胆汁
- 胆汁腫(biloma)
- 肝膿瘍
- 仮性動脈瘤
- 動静脈瘻
- 遅発性破裂
などが挙げられます。
とくに高度損傷のあとでは、遅発性出血・膿瘍・仮性動脈瘤・胆汁腫などの合併症を早く見つけるため、経過観察のCTが必要とされます。
肝損傷の治療は?
治療は大きく3つに分けられます。
- 保存的治療
- 動脈塞栓術(TAE:transcatheter arterial embolization)
- 手術療法
保存的治療
循環動態が安定している場合は、保存的に加療される場合が多いです。近年の単施設350例の検討では、86.9%で非手術療法が始められ、その後に開腹へ移行したのは4.9%にとどまりました。死亡はAASTのグレードよりも、ショック指数・ISS・乳酸値といった生理学的な指標や全身の損傷の重さと強く関連しており、CTのグレードだけでなく循環動態とあわせて判断することが大切です。
ただし、活動性出血、仮性動脈瘤、動静脈瘻がない場合です。
動脈塞栓術
循環動態が比較的安定している状態で、活動性出血、仮性動脈瘤、動静脈瘻がある場合に、血管内治療(アンギオ)である動脈塞栓術(TAE)が選択されます。
循環動態が比較的安定している場合は、ダイナミックCTを撮影してこれらの有無を評価します。
とくに、造影剤の血管外漏出像(extravasation)を認めた場合は、動脈性に出血しているということですから、この治療の対象となります。WSESガイドライン(2020)でも、非手術療法を考える患者には必ず造影CTを行い、循環動態が安定していて動脈相で造影剤漏出(arterial blush)があれば、血管造影・塞栓術を第一選択として考慮してよいとされています。また遅延相を撮ると、活動性出血と被包された血管損傷(仮性動脈瘤など)の区別に役立ちます。
カテーテルを用いて、出血部位や仮性動脈瘤部に血管内からアプローチし、これらを塞栓します。
この治療は動脈を塞栓しますので、動脈からの出血があるときに有用であり、肝臓の静脈から出血している場合は有用ではありません。
そのため出血が動脈・門脈・静脈いずれから起こっているのかを術前に把握しておくことが重要です。
手術療法
重度の出血性ショックなど循環動態が不安定な場合は、CTなどの画像検査をスキップして、緊急開腹止血術が施行されることがあります。
下大静脈合流部付近の肝静脈損傷や、門脈損傷の場合はこれに該当することがあります。
損傷している血管が静脈系の場合はタオルパッキングなどの開腹止血術が有用とされます。
外傷性肝損傷のガイドライン(WSES 2020)の要点
| WSESの重症度 | AAST | 循環動態 |
|---|---|---|
| 軽症(WSES Ⅰ) | Ⅰ〜Ⅱ | 安定 |
| 中等症(WSES Ⅱ) | Ⅲ | 安定 |
| 重症(WSES Ⅲ) | Ⅳ〜Ⅴ | 安定 |
| 重症(WSES Ⅳ) | Ⅰ〜Ⅵ | 不安定 |
- 循環が安定している外傷患者では、造影CTが検査の基準とされています(Coccolini 2020)。
- 循環が安定していて、手術が必要なほかの損傷がなければ、軽症〜重症(WSES Ⅰ〜Ⅲ)のいずれも非手術療法(NOM)が第一選択です(Coccolini 2020)。
- 循環が不安定(WSES Ⅳ)な場合は手術を行います(Coccolini 2020)。
- 経過中の遅発性出血は塞栓術、肝動脈の仮性動脈瘤は破裂を防ぐため塞栓術、症状や感染のある胆汁腫(biloma)や肝膿瘍は経皮的ドレナージで治療できるとされています(Coccolini 2020)。
- 子どもでは、CTで造影剤の漏れがあっても、それだけで塞栓術が必要とは限りません(Coccolini 2020)。
肝損傷でよくある疑問(Q&A)
Q. 肝被膜下血腫とは何ですか?
A. 肝臓を包む膜(被膜)は破れずに、その下に血がたまった状態で、日本外傷学会分類のⅠa型にあたります。被膜が保たれているので腹腔内出血はありませんが、大きくなって破れるとⅡ型・Ⅲ型に移るため経過を見ます(日本外傷学会臓器損傷分類委員会 2008)。
Q. 「ショック肝(ショックリバー)」は肝損傷と同じですか?
A. 違います。ショック肝は、ショックや心不全などで肝臓への血流や酸素が足りなくなり、肝細胞が傷んで肝酵素が急に上がる状態です。けがで肝臓が裂けたり血腫ができたりする肝損傷とは別のものですが、大きな外傷で出血性ショックになった人では両方が起こることがあります。
Q. CTの「LDA」とは何ですか?
A. low density area(低吸収域)の略で、CTで周りより黒く見える部分です。肝損傷では、血腫や裂け目、造影されない部分がLDAとして見えます。
お腹や右の脇腹を強く打ったあとに腹痛・気分不良・冷や汗などがあれば、すぐに医療機関を受診してください。
参考サイト
1)日本外傷学会臓器損傷分類委員会:肝損傷分類2008(日本外傷学会).日外傷会誌 2008;22:262. 日本外傷学会臓器損傷分類2008(PDF)
最後に
肝損傷についてまとめました。
ポイントは以下の点です。
- 肝損傷を理解するにはまずは分類を理解する
- その際に肝臓の被膜の損傷の有無に着目することが重要
- 被膜が損傷している場合には、容易に腹腔内出血をきたしショックになるため注意が必要
- CT検査ではダイナミック撮像を行い造影剤が漏出する様子や腹腔内出血を捉えることが重要
- 治療は保存的治療、血管内治療(動脈塞栓術)、外科的治療の3つがある
なかなか難しい腹部臓器損傷ですが、腹腔内出血は一刻を争います。
参考になれば幸いです( ^ω^ )
関連記事:腎損傷の分類(日本外傷学会Ⅰ〜Ⅲ型)と症状・造影CT画像、治療
参考文献
- Coccolini F, Coimbra R, Ordonez C, et al. Liver trauma: WSES 2020 guidelines. World J Emerg Surg. 2020;15(1):24. PubMed
- Kozar RA, Crandall M, Shanmuganathan K, et al. Organ injury scaling 2018 update: Spleen, liver, and kidney. J Trauma Acute Care Surg. 2018;85(6):1119-1122. PubMed
- Lubner M, Menias C, Rucker C, et al. Blood in the belly: CT findings of hemoperitoneum. Radiographics. 2007;27(1):109-25. PubMed
- Yoon W, Jeong YY, Kim JK, et al. CT in blunt liver trauma. Radiographics. 2005;25(1):87-104. PubMed
- Cirillo B, Brachini G, Cirocchi R, et al. Contemporary management pathways in liver trauma: predominant and successful use of non-operative strategies at a high-volume tertiary center. Langenbecks Arch Surg. 2026;411(1). PubMed
- Mohammad SA, Elsayed RA, Arafa NE, et al. Computed tomography of pediatric abdominal trauma: optimizing utilization and enhancing diagnostic interpretation. Pediatr Radiol. 2025;55(10):2018-2036. PubMed
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質問なのですが、
10歳男性の外傷での腹部単純CTで血腫は肝実質内のLDAとして指摘できると記載されていますが、単純CTでは出血病変は高吸収であると記憶していました。
これはどのように考えるのかいまいちピンと来なかったのでご教授いただけると幸いです。
周囲肝実質が高吸収であるため相対的に低吸収になるという感じでしょうか?
質問ありがとうございます。
>外傷での腹部単純CTで血腫は肝実質内のLDAとして指摘できると記載されていますが、単純CTでは出血病変は高吸収であると記憶していました。
出血が周りと比べて高吸収になるのかどうかは、血腫の粘度や時期、あとは撮影条件(ウィンドウ値(Window Level: WL)とウィンドウ幅(Window Width: WW))、さらにおっしゃるように周囲臓器との相対関係によります。
肝臓の場合、CT値は脂肪肝がある場合を含め、40-70HUくらいです。
腹水 0-15HU
血性腹水 20-40HU
血腫・凝血塊 40-70HU
活動性出血 85-350HU
胆汁 0HU
尿 0-15HU
ですので、肝臓内の血腫は肝臓と比較して、高吸収になることもあれば低吸収になることもあります。
ですので、血腫=高吸収というわけではありません。
頭部の脳内出血の場合はほとんど高吸収になりますが。