【新腹部救急】症例21
【症例】60歳代男性
【主訴】腹痛
【現病歴】食道癌、傍気管リンパ節転移に対して化学療法で入院中。1時間前から腹痛出現あり。
【既往歴】胃体部癌(ESD後)、アルコール性肝硬変、前立腺肥大症
【身体所見】意識清明、BT 37.0℃、BP 97/47mmHg、SpO2 91-94%(経鼻酸素4L)、腹部:広範に圧痛あり。
【データ】WBC 4600、CRP 4.79
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肝の中枢から末梢にかけてガスを認めています。
このように末梢までガスを認めている場合に考えなくてはならないのが、肝内門脈内ガス(門脈気腫)です。
門脈内ガスは、良性の腸管気腫症で認めることもありますが、まず除外しなければならないのが、腸管虚血〜壊死によって認めているケースです。
今回はどうでしょうか?
まず、本当に肝内胆管ガスではなく、門脈内ガスであることの確認として、肝内門脈〜門脈の本幹〜上腸間膜静脈(SMV)にガスがあるかをチェックします。
今回は上腸間膜静脈(SMV)内にairを認めており、やはり門脈内ガスであることがわかります。
ガスは、門脈内だけでなく、腸管壁や腸間膜にも認めています。
そして、小腸は広範に拡張して、壁の菲薄化を認めています。
また造影効果が不良であり、腸管虚血〜壊死が疑われます。
ではどうして、腸管虚血〜壊死が起こっているのでしょうか?
今回腸管は拡張していますが、閉塞機転ははっきりせず、腸閉塞ではなさそうです。麻痺性イレウスが疑われます。
このような腸管壁の菲薄化を認めた場合、上腸間膜動脈からの血流が少なくなっていることを考えなければなりませんが、今回は上腸間膜動脈に塞栓や解離などは認めていません。(また今回はsmaller SMV signも認めていません。)
そのようなときに考えなくてはならないのが、非閉塞性腸管虚血(NOMI)です。
診断:非閉塞性腸管虚血(NOMI)疑い
※腸管虚血〜壊死が疑われ緊急手術となりました。
Treitz靱帯から約130cmまでの腸管が色調不良で握雪感を認めました。NOMIによる腸管虚血と診断し、空腸をTreitz靱帯から30-130cmの範囲で約1mが切除されました。
※ちなみにLDH 214、CK 34とLDH、CKの上昇は認めていませんでした。
関連:
その他所見:
- PEGあり。
- 心嚢水あり。
- 胸水あり。
- 肝表に腹水貯留あり。
- 肝S6術後か。
- 下大静脈内airあり。
【新腹部救急】症例21の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
閉塞機転や絞扼がないことからNOMIを推測できました。
症状があったため腸管気腫症を否定しましたが、NOMIとの鑑別は症状や虚血の有無での判断で問題ないでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>閉塞機転や絞扼がないことからNOMIを推測できました。
素晴らしいですね。NOMIは腹部救急画像診断の中でも診断するのが最難関疾患の一つだと思います。
>症状があったため腸管気腫症を否定しましたが、NOMIとの鑑別は症状や虚血の有無での判断で問題ないでしょうか?
そうですね。今回は造影CTが撮影されているので腸管虚血を診断することができる点はよりNOMIを疑いますね。
あとはおっしゃるように、症状があることや、採血結果などから判断しますが、腸管気腫症との鑑別はしばしば難しいこともありますね。
門脈ガスがあって大慌てするも、患者さんはなんともない→次の日再検したら綺麗に消えていたということはよくありますね。
見た瞬間、「大変なことが起きている」って感じでした…所見を漏らさず正確に解答することを心がけました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。まずその感想を持てることが重要ですね。
「pneumobiliaでしょう。何かのイレウスでしょう。」としてはいけない状態ですね。
画像診断の主な役割は、腸管虚血を疑われる症例で、SMA閉塞症、絞扼などを除外すること、消化管の状態の把握にあります。とありますが、『門脈ガス・腸管壊死』で止めてしまってました。不十分でしたが今後に活かします。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>とありますが、『門脈ガス・腸管壊死』で止めてしまってました。
いえいえ、これでとりあえずは十分ですよ。
今回造影があるので、あとはSMAに着目できるかですね。
見た瞬間明らかに悪いことが分かりますね
あまり出会う機会は多くはないのかもしれませんが、出会ったときにはしっかり診断できるようにしたいです。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように出会う頻度は多くはありませんが、出会ったときに「やばいやつだ」と診断できなくてはいけません。
良性の腸管気腫症ではないと判断できることが大事です。画像のみからでは難しいこともありますが。
今日もありがとうございます。
絞扼性を否定し、血管系の病変も否定し、門脈ガスや腸管虚血までは拾えたもののNOMIまでは辿り着けませんでした…
書籍でもNOMIは頻繁に取り上げられているものの、現場でまだ遭遇した事がなく、貴重な症例ありがとうございました!
アウトプットありがとうございます。
>絞扼性を否定し、血管系の病変も否定し、門脈ガスや腸管虚血までは拾えたもののNOMIまでは辿り着けませんでした…
あと一歩ですね。
>現場でまだ遭遇した事がなく
NOMIだけどNOMIと診断されていない症例も実際にはあると思われます。
「なんらかのイレウス」みたいな診断になっているものの中に重篤なのが紛れていると思われます。(経験的にも。)
意識清明で炎症所見もそこまで上がってなく、良性の腸管気腫だと思ってしまいました。
画像上での良性と壊死の鑑別がどうしてもできません。何かポイントはありますでしょうか。
失礼しました。ジジさんのコメントの返信で書かれていましたね。造影CTがひとつポイントになるのですね。paper thin wallとなっている腸管は壁が見えないのですが、こういうのは造影不良ととるにでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>paper thin wallとなっている腸管は壁が見えないのですが、こういうのは造影不良ととるにでしょうか。
そうですね。血流が少なくなっていることを示唆する所見ですね。
これに加えてpaper thin wallとなっていないところでも広範な小腸で造影不良を認めています。
胃や十二指腸球部などの造影効果と比べるとわかりやすいですね。特に早期相でわかりやすいです。
麻痺性イレウスでここまでドキッとする所見を呈することがあるのですね。
どこかに絶対閉塞起点があるのではないかと見てしまいました。
勉強になります。
アウトプットありがとうございます。
本編でもありましたが、腸管がペラペラで見えにくいということはSMAの血流が減っていることを示唆する所見であり、SMAそのものに解離や閉塞がないか、ない場合はNOMIを考慮ですね。
NOMIを思いつくことができませんでした(原因不明の腸閉塞かイレウスと回答)。次は回答できるようになっていたいです。ありがとうございました。静脈内エアについて考察してみたのですが、
・脾静脈内のエアは、エアの発生源が壊死した小腸と考えると、SMVから門脈に流れてきたエアが脾静脈に逆流したものと考えてよいでしょうか。
・下大静脈内のエアは、脾門部のやや尾側にある太い血管が脾腎シャントで、脾静脈を逆流したエアが脾腎シャントに入り込んで、左腎静脈を経て下大静脈に入ったと考えてよいでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>脾静脈内のエアは、エアの発生源が壊死した小腸と考えると、SMVから門脈に流れてきたエアが脾静脈に逆流したものと考えてよいでしょうか。
そうですね。脾臓が壊死に陥っているわけではないので、おっしゃるとおりだと考えられます。
>下大静脈内のエアは、脾門部のやや尾側にある太い血管が脾腎シャントで、脾静脈を逆流したエアが脾腎シャントに入り込んで、左腎静脈を経て下大静脈に入ったと考えてよいでしょうか。
こちらは脾静脈のように連続性がないのでなんともですが、確かに脾腎シャントは存在しますし、左の腎静脈内にもエアを認めていますのでその可能性が考えられますね。