【新腹部救急】症例20

【症例】80歳代 男性
【主訴】上腹部痛
【現病歴】本日より突然の腹痛が生じたため、他院受診。便秘の診断で浣腸が施行されたが、腹痛増強あり。当院へ救急搬送された。
【既往歴】労作性狭心症、内頸動脈狭窄症、起立性低血圧、糖尿病、脂質異常症、前立腺肥大症、認知症
【身体所見】sBP 160mmHg前後、BT 37.0℃、SpO2 95%(5L O2)
【データ】WBC 19400、CRP 3.97、D-Dダイマー 35.4

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小腸の拡張およびニボー像を認めています。

そして、腸管壁がペラペラで非常に見えにくいですね。これを腸管壁菲薄化(paper thin wall)と言い、血流が行き届いていないことを示唆する所見です。

その目で見ると、拡張した腸管は、十二指腸と比較して造影効果が不良であることがわかります。

また、上行結腸も下行結腸と比較すると造影不良を認めていることがわかります。

つまり、上腸間膜動脈の栄養領域に造影不良を認めているということです。

上腸間膜動脈(SMA)内に造影欠損を認めており、上腸間膜動脈閉塞を示唆する所見です。

また本来SMA径<SMV径となるのが正常ですが、SMA径>SMV径となっており、これをsmaller SMV signと言います。

このsmaller SMV signは、SMAが狭窄したり、閉塞しているときに見られることがある所見です。ただし、脱水などでも見られることがあり注意が必要です。

 

smaller SMV signが起こる機序は?
上腸間膜動脈(SMA)が詰まると、腸管に行く血流が途絶えます。

→すると、腸管から帰ってくる血流も当然減ります。
→すると、静脈(上腸間膜静脈(SMV))が本来よりも細くなります。
一方で動脈は硬い壁で構成されていますので、血管の太さは変わりません。

結果、本来SMV径>SMA径なのですが、これが逆転してしまうことがあります。

 

 

冠状断像においても、上腸間膜動脈(SMA)の起始部から4cmのところから数cmに渡り、造影欠損を認めており、上腸間膜動脈閉塞を疑う所見です。

 

診断:上腸間膜動脈閉塞(中でも上腸間膜動脈塞栓症疑い)+腸管虚血疑い

 

※緊急手術が施行されました。

 

手術記録より抜粋

  • Treitz靭帯から70cm~横行結腸1/3までの腸管が暗赤色、やや浮腫状に変化していた。
  • 同部位の腸管は刺激を加えても蠕動を魅せず、虚血性変化に陥っていると考えられた。
  • Treitz靭帯から60cm~横行結腸右半までの大量腸管切除と空腸瘻の造設を施行した。

 

ということで、上腸間膜動脈(SMA)の支配領域の広範におよび腸管虚血〜壊死に陥っていたということがわかります。

 

なお、上腸間膜動脈閉塞は、血栓症と塞栓症に分けられ、それぞれ以下の特徴があります。

今回は起始部から4cmから血栓を認めており、塞栓症が示唆されますが、虚血に至っていた腸管は広範でした。

関連:上腸間膜動脈閉塞症とは?血栓症・塞栓症、CT画像、治療まとめ!

その他所見:

  • 両側肺炎疑い。
  • 両側腎にくびれあり。炎症や梗塞後の変化が疑われる。今回既往にAfなどは記載がないが、血栓塞栓による梗塞後の変化の可能性あり。
  • 膵萎縮あり。
【新腹部救急】症例20の動画解説

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