【新腹部救急】症例18
【症例】70歳代 女性
【主訴】腹痛
【現病歴】脳外科入院中。左内頸動脈狭窄に対して、左中大脳動脈-浅側頭動脈バイパス術後。数日後退院の予定であったが、今朝から腹痛あり。
【既往歴】慢性心不全、脳梗塞、糖尿病、白内障、高血圧、腰椎術後
【身体所見】腹部:軟、右側腹部〜右下腹部にかけて圧痛あり、反跳痛なし、筋性防御あり。
【データ】WBC 6800、CRP 0.02
画像はこちら
回腸が脂肪を含む腸間膜とともに上行結腸~横行結腸に入り込んでいる様子が分かります。
腸管の中に脂肪濃度があるのが非常に特徴的です。
腸重積を疑う所見です。
成人の腸重積の場合、先端部に腫瘍を伴っていることが多いので腫瘍の有無をチェックしましょう。
そうすると、重積部位の先端には造影効果を有する不整な腫瘤影を認めていることがわかります。
また、腸重積を認めた場合は重積部位の腸管虚血や腸管壊死を伴うことがありますが、今回それらを疑うような明らかな所見は認めません。
少量の腹水を認めています。
診断:腸重積(先端部に腫瘍性病変の疑い)
※手術が施行されました。
手術記録より抜粋
回盲部から重積あり、先進部は横行結腸にあった。Hutchinson手技により重積を解除、腸管壁の色調は良好であった。
※Hutchinson(ハッチソン)手技:重積腸管の先進部を用手的に押し戻す操作
手術所見ですが、上の矢印の部位で腸管および腸間膜が入り込んでいる様子が分かります。
またやはり先端部には腫瘍を伴っており、病理学的に乳頭状腺癌と診断されました。
今回の症例で起こった事をイラストにすると次のようになります。
その他所見:
- 腰椎術後による金属アーチファクトあり。(腹部大動脈が一部低吸収に見える部位があるが、いずれもアーチファクトによるもの。)
- 少量腹水あり。
【新腹部救急】症例18の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
小腸と大腸をまたいでいたので、重積部位がどこなのか同定するのに時間がかかりました(^^;)
アウトプットありがとうございます。
そうですね。小腸と小腸ならばわかりやすいのですが、上行結腸に入ってしまうと一体どうなっているのかわかりにくいですね。
イラストを参考いただければ今回の状況がよく分かるかと思います。このイラストも原稿を書くのに何度もパニクりました(^_^;)
小腸が入り込んで上行結腸が結腸っぽくなく見えるので、最初は回転異常でもあるのかと思いました。
腸重積自体は指摘できましたが、先端の腫瘍については違和感を覚えながらも小腸腫瘍の頻度は少ないと考え明記できませんでした。腸重積を起こすわけですから原因を考えなければなりませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>先端の腫瘍については違和感を覚えながらも小腸腫瘍の頻度は少ないと考え明記できませんでした。腸重積を起こすわけですから原因を考えなければなりませんでした。
そうですね。
リンク先に、成人では、8割に原因疾患が認められる。原因としては、脂肪腫が最多であり、腺癌、悪性リンパ腫、平滑筋肉腫、黒色腫など。
と記載があるように成人の場合は通常腫瘍が先端にあることが多いので、腸重積の指摘だけでなく腫瘍があるのではないかという目で見ることが重要ですね。
今日もありがとうございます。
成人の腸重積だったので腫瘍の同定を試みたのですが難しかったです…
アウトプットありがとうございます。
腫瘍があるはずだ!という目でみないと(その目で見ても)難しいですね。
まずは腸重積に気づくことが何より重要です。
原因としての腫瘍は頭にあったのですが,やはり指摘が難しかったです.
造影効果などの差にももう少し気を配らねばと思いました.
アウトプットありがとうございます。
そうですね。その目で見ないとなかなか難しいですね。
脂肪腫の頻度が高いので、脂肪の塊がないかをまずは探しましょう。
虚血はないとのことでしたが、上行結腸が壁肥厚しているように見え、浮腫状と思ったのですがどうでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
虚血の有無については判断が難しいところですね。
おっしゃるように浮腫性肥厚を認めています。
ただし、これが即虚血なのかというと難しいですね。
少なくとも造影不良は認めていませんので積極的に虚血とは言いにくいかと思います。
ただし右傍結腸溝などに腹水を認めていますね。
腸重積わかりませんでした、難しかったです。回答を見た後に画像を見返しても、重積した回盲部を追うのは難しかったです。勉強になる症例をありがとうございます。
この症例の腸重積のシェーマですが、赤い腫瘍を先進部として回腸が上行結腸内に入り込んでいる小腸の腸重積の図になっています。回腸腫瘍ならこうなりそうですが、今回は盲腸の腫瘍です。腫瘍のある盲腸が先進部として横行結腸内にあり(腫瘍と盲腸の所在部位は同じ)、回腸自体は先進部ではないので上行結腸内に顔を出していないのではと思いました。盲腸腸重積の背景に、移動盲腸(固定されていない盲腸)があったと推定しました。
アウトプットありがとうございます。
>今回は盲腸の腫瘍です。腫瘍のある盲腸が先進部として横行結腸内にあり(腫瘍と盲腸の所在部位は同じ)、回腸自体は先進部ではないので上行結腸内に顔を出していないのではと思いました。
おっしゃるように盲腸の腫瘍ですが、回盲弁および回腸末端も隣接していますので、回腸も着いていかないとあんなに奧まで腫瘤が入らないと考えられます。
盲腸と一緒に回腸末端も入り込んでいると考えます。
ただおっしゃるように、シェーマの記述にある、「回腸および腸間膜が」は「盲腸および回腸、腸間膜が」とした方がよいですね。
>盲腸腸重積の背景に、移動盲腸(固定されていない盲腸)があったと推定しました。
おっしゃるとおりなのだと推定します。
ありがとうございます。盲腸腫瘍を先進部として盲腸、回腸末端、腸間膜が一体となって横行結腸まで移動しているという理解は、ごろ~先生と同じです。
・盲腸に引っ張られて横行結腸まで移動してきた回腸が、横行結腸内において盲腸と上行結腸の外側でたわんでトグロを巻いている気もするのですが、腸をうまく追えず、すっきりしません。
・造影効果のある不整な腫瘤影近傍に見られる液体貯留は、最初は盲腸内腔と思ったけれど、盲腸が反転した状態で入り込んでいるなら盲腸内腔は無いはずなので、回腸内腔でしょうか。何度見ても難しいです。
>横行結腸内において盲腸と上行結腸の外側でたわんでトグロを巻いている気もするのですが、腸をうまく追えず、すっきりしません。
明確にここはここと同定できず難しいですね・・・。
このシェーマ(微妙に正しくないシェーマですが)を作る際にもかなり混乱しながら下書きをした記憶があります。
>造影効果のある不整な腫瘤影近傍に見られる液体貯留
こちらは液体貯留ではなく浮腫だと思われます。一部内部に血管が走行しているように見え、腸間膜でしょうか・・・。
はじめ回転異常症を疑いましたが、SMAの周囲に起きているわけではなく、小腸も大腸も巻き込んでおり血管病変かと思いました。 非常に勉強になりました
アウトプットありがとうございます。
腸回転異常症や、小腸間膜捻転などはないですね。
腸管の内腔に脂肪がある状態をみたら腸重積を思い出してください。