【新腹部救急】症例12
【症例】60歳代女性
【主訴】右季肋部痛
【現病歴】10日前に発熱、右季肋部痛あり。胆石および胆のう炎疑いで当院消化器内科紹介受診となる。MRCPで総胆管結石の合併を認めたが、炎症の主座が胆嚢と考えられるため、急性胆のう炎の加療を先行し、後日総胆管結石の加療を行う方針となった。7日前に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行。本日、総胆管結石に対してERCP下に乳頭切開術を施行。その後疼痛出現し、軽減しないため精査のために腹部CTが撮影された。
【既往歴】陳旧性心筋梗塞、高血圧、糖尿病、虫垂炎(手術)
【データ】WBC 12100、CRP 1.78、AST/ALT=144/137、ALP 1494、LDH 336、γ-GTP 1030、アミラーゼ 145
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消化管外にairを認めていることががわかります。
腹腔内遊離ガス(free air)でしょうか?
そうではなく、airの分布は肝表など腹腔内遊離ガス(free air)の好発部位ではなく、十二指腸の背側や右腎周囲、上行結腸背側など後腹膜腔に存在していることがわかります。
腹腔内遊離ガス(free air)が混在することもありますが、今回は混在していません。
後腹膜の気腫は、腎臓の下極よりも尾側にも広がっている様子が分かります。
腹腔内に広がるガスとは明らかに異なった分布をしていますね。
では、なぜ後腹膜腔に気腫を認めているのでしょうか?
後腹膜気腫の原因には以下のものが知られています。
- 消化管の穿孔
- 後腹膜臓器の気腫性炎症
- 医原性(内視鏡、手術、腰椎手術など)
- 神経性食思不振症
- 縦隔気腫からのガスの広がり
など。
今回は、上部内視鏡を用いて、ERCP下に乳頭切開術を施行していますので、その際に誤って総胆管もしくは十二指腸、乳頭部に損傷を起こしたことが疑われます。
診断:後腹膜気腫(ERCPによる合併症疑い)
ERCPで2個の結石を除石したのですが、その後の今回のCTにおいて総胆管に結石を疑う高吸収の残存を認めています。
また膵頭部は腫大・浮腫性変化を認めており、反応性の膵炎を疑う所見です。
※残存結石に対して再度ERCPが施行されましたが、乳頭浮腫強く膵胆管へのカニュレーションが困難であり、消化器内科から外科転科の上、緊急手術(総胆管切石術+ドレナージ術)が施行されました。
関連:腹腔内ではない腹膜外腔(腹膜前腔・後腹膜腔・腹膜下腔)とは?
【新腹部救急】症例12の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
airの分布や量、糞便様にも見えたことから結腸の穿孔があるのかと思いました。そもそも外科的ではなかったということで観察が足りませんでした。
アウトプットありがとうございます。
airの分布が今回は重要ですね。
腹腔内ガスではないので、基本は保存的に加療となりますね。
膵頭部の腫大、浮腫、膵の脂肪とairが加わって糞便様とも見えなくない部分もありますが、後腹膜腔にairが広がるとこのような感じになることが多いので覚えておきましょう。
私もdirty mass sign+に思いました。医原性でやぶれたのかとは思いましたが。難しいですね。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>私もdirty mass sign+に思いました。
十二指腸を追うと知らん顔して走行していますし、壁が破れているような様子もありません。
後腹膜腔に広がるairはこのような所見になることを覚えておいてください。
腹膜外腔の理解があいまいだったので、勉強になりました。
腹膜腔内なのか腹膜外腔なのか、境界が可視化されないので難しいところですね。
腹部CTでairを見つけたときには、腹腔内なのかどうかを意識しないとダメですね。
後腹膜の解剖は膵炎のgrade分類などでも大事なのでしっかり覚える必要がありますね。
アウトプットありがとうございます。
>腹部CTでairを見つけたときには、腹腔内なのかどうかを意識しないとダメですね。
そうですね。腹腔内遊離ガスの場合、汎発性腹膜炎に至ることがありますので、要注意です。
腸管外ガスがあることを見つけることがまず第1ですが、見つけたあとはそれがどこにあるのかを考えましょう。
>後腹膜の解剖は膵炎のgrade分類などでも大事なのでしっかり覚える必要がありますね。
ですね。明瞭な境界がなく分かりにくいですが、膵炎などの典型例で解剖が浮かび上がってきますのでそれで押さえておきましょう。
今日もありがとうございます。
総胆管損傷で後腹膜遊離ガスということは総胆管は後腹膜にあるのでしょうか?
後腹膜のガスだったので後腹膜臓器である十二指腸下行脚の損傷だと断定してしまいました。
アウトプットありがとうございます。
>後腹膜のガスだったので後腹膜臓器である十二指腸下行脚の損傷だと断定してしまいました。
総胆管とは限らないので修正しました。
ERCP後の後腹膜気腫の損傷部位としては、
・乳頭部
・十二指腸
・胆管
・膵管
があると報告されていました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem/36/1/36_79/_pdf
今回もありがとうございました。ちょっと細かい質問なんですが。。
腹腔内遊離ガスも、後腹膜遊離ガスも「free air」と言って良いのでしょうか?
それとも後腹膜は「後腹膜気腫」というのが良いのでしょうか?
自分は今までどちらもfree airと言っていたのですが。
アウトプットありがとうございます。
これは人にもよると思うのですが、私は「後腹膜気腫」というのが正しいと思います。
>自分は今までどちらもfree airと言っていたのですが。
非常に優秀な上司も同じようにどちらもfree airと言っているのでどちらも同じでもいいとは思います。
ただ使い分けている書籍などもありますので私は使い分けています。