【新腹部救急】症例8
【症例】70歳代女性
【主訴】腹痛、血便
【現病歴】本日朝より、腹痛あり。食事を摂ったところ、腹痛増悪あり。その後下痢があり、血液が混じっていることを自覚し、救急外来受診。
【既往歴】2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、無症候性心筋虚血(PCI後)
【身体所見】意識清明、BT 37℃、PR 87bpm 、BP 132/62mmHg、SPO2 98%(RA)、腹部:平坦軟、圧痛は左側腹部、上腹部にあり。左側腹部に強い印象。直腸診:外痔核あり、直腸内に腫瘤や便塊は触れず。明らかな血便の付着なし。
【データ】WBC 15400、CRP 0.10
画像はこちら
下行結腸に3層構造を保った壁肥厚を認めています。
粘膜下層を主体とした壁肥厚です。
壁肥厚は下行結腸からS状結腸に及んでいることがわかります。
特にS状結腸での壁肥厚が強い印象です。
冠状断像で観察すると特に下行結腸に広範に壁肥厚を認めている点が観察しやすいですね。
腹痛や血便といった症状があり、しかも食後に増強があり、このような左半結腸の壁肥厚を認めた場合に考えるべき疾患は、虚血性腸炎ですね。
診断:虚血性腸炎
※入院となり、絶食、腸管安静による保存的加療で経過観察されました。その後、症状消失し退院となっています。
関連:左側結腸の腸炎の鑑別診断は?虚血性腸炎、偽膜性腸炎とは?
その他所見:胆石あり。
【新腹部救急】症例8の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
大腸は小腸に比べて所見が派手なので指摘することができました^^
頻度が高く画像が典型的なので、症状と画像で診断できる疾患ですね。
虚血性腸炎は感染性腸炎時に比べ、粘膜と固有層の造影が薄い気がしますが、虚血だから仕方ないという感覚でよいですか?三層がいつも濃淡が淡い気がしているので質問させてもらいました。
アウトプットありがとうございます。
>虚血性腸炎は感染性腸炎時に比べ、粘膜と固有層の造影が薄い気がします
そうですね。おっしゃるように虚血ですので、造影効果が右半結腸よりはやや落ちていることもありますが、なかなかわかりにくいこともあります。
単純CTで肥厚が軽度な場合は、虚血性腸炎の診断に迷うことがあります。
実際、症状は腹痛のみで、①下行結腸が軽度に肥厚しているように見え、②ハウストラが消失して冠状断で結腸がダラッとしていたので「虚血性腸炎疑い」とした症例がありましたが…このような所見はありでしょうか? そもそも、ハウストラの消失というのは通常でも見かける所見なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように画像だけでは悩ましい症例はたくさんあり、症状と最後は内視鏡所見で診断されます。
ハウストラの消失は通常潰瘍性大腸炎で認める所見で、虚血性腸炎の場合は、壊死が筋層まで及んだ所見として重要と記載がありますね。
つまり、虚血性腸炎の中でも重症型である壊死型で認める所見ですね。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/69/10/69_10_2607/_pdf
また調べたところ、
・静脈硬化性大腸炎
・結腸結核
・強皮症
・日本住血吸虫症
などでもハウストラの消失が見られることがあるようです。
ご返信ありがとうございます。
「ハウストラ消失」という所見を勘違いしていました。今回の症例の冠状断で認めるような下行結腸のダラッとしたような所見は「ハウストラ消失」とするべきではないということですね。勉強になりました。
Griffith pointとSudeck pointはおそらく,覚える必要は全くないのでしょうが,明日から使いたくなる用語ですね.
そうですね。
ぜひ研修医の先生にドヤ顔で使ってみてください(^Д^)
ただ、このあたりは国家試験後の研修医の方がよく知っていたりする(まだ覚えてる)かもしれませんが・・・・
今日もありがとうございます。
壁肥厚が直腸から連続するように見えて潰瘍性大腸炎も鑑別に考えてしまいました。
虚血性大腸炎との違いは連続性と病歴くらいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>壁肥厚が直腸から連続するように見えて潰瘍性大腸炎も鑑別に考えてしまいました。虚血性大腸炎との違いは連続性と病歴くらいでしょうか?
確かに直腸から連続する場合は潰瘍性大腸炎も考えますが、粘膜下層が肥厚する虚血性腸炎に対して潰瘍性大腸炎は粘膜が肥厚することが知られています。
また早期ではほとんどCTではわからないので、亜急性期以降の既に診断された状態で撮影されることが多いですので、この両者を悩むことはあまりないかなと考えます。
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