【新腹部救急】症例2
【症例】40歳代男性
【主訴】腹痛
【現病歴】14日前に腹痛を自覚した。 本日までに医療機関を2カ所受診されたが、腸炎と診断され、経過をみていた。右下腹部痛も増強を認め、倦怠感も強くなり1日前に前医を受診。 その際にも、硬便の訴えあり浣腸と緩下剤処方にて対応された。本日、当院へ紹介受診となった。
【既往歴】 糖尿病、高血圧症、高コレステロール血症
【身体所見】BT 37.2度 BP 141/95 HR90bpm 右下腹部に圧痛、硬結、反跳痛あり。
【データ】白血球 12500 CRP 7.96
画像はこちら
右下腹部に不整な形状の液貯留を認めています。上下にスクロールすると連続性を認めず、腸管ではないことがわかります。
辺縁に造影効果を認めており、膿瘍が疑われます。
ちょっとわかりにくいですが、盲腸はこの膿瘍により背側に圧排されていることがわかります。
またこれもちょっとわかりにくいですが、虫垂根部も同定できます。
わかりにくい場合は必ず冠状断像や矢状断像をチェックしましょう。
冠状断像で見ると、盲腸から虫垂が出る様子がよく分かり、虫垂が膿瘍と連続していることが分かります。
この所見から、虫垂炎穿孔による膿瘍形成が疑われます。
また、回結腸動静脈沿いにはリンパ節を多数認めていますが、これらは虫垂炎による反応性腫大が疑われます。
診断:虫垂炎穿孔、膿瘍形成の疑い
※腹膜炎症状があったため、緊急手術となりました。膿瘍形成があっても、腹膜炎に至っていない場合は、抗生剤で炎症を抑えた上で待期的に手術されることが近年は多いようです。
その他所見:
- 胆嚢底部壁肥厚あり、胆のう腺筋腫疑い。
- 精嚢に石灰化あり。
【新腹部救急】症例2の動画解説
急性虫垂炎の画像診断のポイント
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
症状や経過も含め虫垂炎の膿瘍形成かなと考えましたが、腫瘍の可能性もよぎりました。
アウトプットありがとうございます。
腫瘍が隠れている可能性はもちろんありますが、まずはシンプルにいきましょう。
不整な形状の液貯留を腸管と思い、
回腸末端炎か、虫垂炎の波及の所見かと
書いてしまいました。
よくみると盲腸が押しつぶされているのがわかりました。
難しかったです。
アウトプットありがとうございます。
膿瘍形成はしばしば難しいですね。
連続性のない液貯留で辺縁に造影効果を認める点が重要ですね。
今日もありがとうございます。
膿瘍と虫垂との連続性を見るのに少し苦戦しました。現場ではthin sliceやMPRを駆使しようと思います。
アウトプットありがとうございます。
>現場ではthin sliceやMPRを駆使しようと思います。
そうですね。虫垂炎はとくにこれらが重要となりますね。
横断像だけだと全然分からないのに冠状断像を見ると一目瞭然!!!ということはしばしばあります。
本日もありがとうございました。書籍版はいつ発売されるのですか?楽しみです!
ありがとうございます。
発売などは全く白紙です。まだ作っている段階ですので。腹部のみにするか、全部まとめるかさえも未定です。
もしかしたら発売されないかもしれません。それはそれでいいのですが。
脂肪が少ない子供や高齢者(特に便秘の方)は、毎回、虫垂の同定が困難と感じます。基本を大切にして、回盲部と盲腸の末端を見つけ、その間の管腔構造を丁寧に検索していきたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>脂肪が少ない子供や高齢者(特に便秘の方)は、毎回、虫垂の同定が困難と感じます。
おっしゃるとおりですね。
結局わからないこともたまにありますね。
虫垂炎を除外が必要な場合は手術歴を確認した上で、「虫垂を同定できず、少なくとも腫大は認めない。」とせざるを得ないですね。
やはり膿瘍の形成部位が腸管外かどうか迷いました.
内外で治療方針などに違いが出るかどうかなどはわかりませんが,まずはしっかり膿瘍を指摘して,その原因を考えるということはできていたので,及第点でしょうか.
Free Airの検索などは条件をうまく使って対応できるようにしたいと思います.
アウトプットありがとうございます。
>内外で治療方針などに違いが出るかどうかなどはわかりませんが,まずはしっかり膿瘍を指摘して,その原因を考えるということはできていたので,及第点でしょうか
腸管内で膿瘍を形成することは通常ないので、膿瘍ならば穿孔して外に形成しているということです。
問題はそれが汎発性の腹膜炎を起こすほどに腹腔内に広がっているのか、腹腔内あるいは後腹膜の局所にとどまっているのかで、治療方針は異なりますね。
前者ならば緊急手術となりますし、後者ならば最近では抗生剤で炎症を抑えた上で待期的に手術になるケースも多いようです。
>Free Airの検索などは条件をうまく使って対応できるようにしたいと思います.
そうですね。通常の腹部の条件だと指摘できないこともありますので、必ず濃度を変えてチェックすることが重要ですね。
膿瘍がある事が穿孔しているということは勉強になりました。難しかったです。
一つ教えて頂きたいのですが、現病歴で14日前から自覚していたみたいですが、急性の定義とかはあるのでしょうか、日にちが経っていたり、何度も薬で散らして繰り返している人も現状の痛みとして急性虫垂炎という所見でよろしいでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
急性の定義は難しいですね・・・。通常は発症してから数日程度だと思います。もしかしてどこかに定義されていたら教えて欲しいです。
今回は日にちが経過していますので、急性ではないですね。
>何度も薬で散らして繰り返している人も現状の痛みとして急性虫垂炎という所見でよろしいでしょうか。
この場合は、いつから症状があるのかなども考慮され、画像だけでは急性虫垂炎とは言えないかと考えます。
急性かどうかはそれほど重要ではないかもしれません。
腫大して、周囲に脂肪織濃度上昇があれば炎症は存在すると判断しますし、
臨床的に汎発性腹膜炎に至っている場合は緊急手術となることが多いようです。
膿瘍とされているものは、虫垂の盲端部が拡張したものかと思っていました。airが見られなくても穿孔と診断するのですね。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>膿瘍とされているものは、虫垂の盲端部が拡張したものかと思っていました。
そう思ってしまいがちですよね。上下にスクロールして連続性の内液貯留であれば、膿瘍を考えましょう。
>airが見られなくても穿孔と診断するのですね。ありがとうございました。
ここでおっしゃっているairというのは膿瘍内のairでなく、腹腔内遊離ガス(free air)のことですよね。
今回は(所見が派手なのもあり)穿孔と表現しましたが、厳密には穿通となります。
「穿通とは、被覆穿孔のことをいいます。つまり、穿孔部が周囲臓器や大網などの周囲組織によって覆われて、腸管内腔と腹腔内との間に交通がない状態のことです。」
今回は破綻した虫垂、膿瘍腔と腹腔内に交通がありませんので、厳密には穿通となります。
ただ膿瘍が腹膜腔内なのか後腹膜腔に存在するのか判断が難しいケースも多々ありますね。
いつもありがとうございます!
1つお尋ねしたいのですが、膝踵試験は小脳の検査と聞いたことがあるのですが、膝踵試験陽性と虫垂炎の間には何か因果関係が存在するのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
因果関係はおそらくないですね(^_^;)
ややこしいのでこの身体所見は消した方がいいですね。
おまけの問題ありがとうございました。最後までガッツリな症例でした。腸管の走行を見ていくこと、虫垂を見つけていくことをたくさんの症例で繰り返し繰り返しやってきたので、他の症例でもルーチンのようになってきました。今後も励んでいきます。
アウトプットありがとうございます。
>腸管の走行を見ていくこと、虫垂を見つけていくことをたくさんの症例で繰り返し繰り返しやってきたので、他の症例でもルーチンのようになってきました。
そのように言っていただいて作った側からするととても嬉しいです(^^)
系統的読影法とともに現場で時間が許せば繰り返し追って見てください。
思わぬ結腸癌が見つかったり、人には見えないうなぎ(虫垂)を発見できたりできるようになります。
おまけ症例2も参加させていただきました。
前回虫垂炎で復習したばっかりだったので膿瘍形成とはわかりました。
これが時間が経ってもわかるように復習します。
アウトプットありがとうございます。
虫垂炎破裂による膿瘍形成の場合は、虫垂が同定できないことがしばしばありますので、常に「虫垂が犯人では?」と疑う必要がありますね。
女性の場合は卵巣卵管膿瘍などが鑑別になりますので、位置関係の把握が重要となります。
長かった虫垂ブートキャンプも終わり、消化管を追う能力がとても身についたのを強く実感しています。腹部救急の方ももう35症例目で、終わりが見えてきました。いつもありがとうございます。
ところで、腹部救急が終わったあとも何か胸部や頭部の診断講座が開講されたりするのでしょうか?腹部救急が終わったあと手持ち無沙汰になってしまうのが心許なくて。
アウトプットありがとうございます。
>長かった虫垂ブートキャンプも終わり、消化管を追う能力がとても身についたのを強く実感しています。
嬉しいお言葉ありがとうございます。
>腹部救急が終わったあとも何か胸部や頭部の診断講座が開講されたりするのでしょうか?
次は胸部を考えていますがまだ全く準備ができておりません(^_^;
そろそろ準備します。
これも勉強になりました。「膿瘍の背側に盲腸が押しやられている」という解説で、え、そんなことも分かるの!?とびっくりしました。自分でも上下にスクロールしていましたが、腸管内の膿瘍のように見えていました。自分の中で無理やり上行結腸と膿瘍との『偽の連続性』を作り上げていたのですね・・・(自分が怖い)。丁寧に見れば、膿瘍と盲腸の区別、虫垂と膿瘍の連続性、回腸末端などがしっかりと同定できることを初めて知りました。虫垂、まだまだ学びが尽きませんね〜。
とはいえ、虫垂はコレだ!と思えたのはブートキャンプのおかげだなと思いました。
それと、「膿瘍形成しているのに穿孔はないの・・・どういうこと?」と疑問でしたが、コメント欄に「厳密には穿通」と記載があり納得できました。
学び
・上下にスクロールして腸管と連続性がなければ、膿瘍。あれば腸管。
・膿瘍は虫垂と連続性があるので、しっかりと確認すること!
・虫垂膿瘍は、腹膜炎が局所にとどまっているか汎発性腹膜炎になっているかを確認する。前者なら最近は保存的にまず見る傾向にある。
アウトプットありがとうございます。
>丁寧に見れば、膿瘍と盲腸の区別、虫垂と膿瘍の連続性、回腸末端などがしっかりと同定できることを初めて知りました。
追いにくいこともしばしばありますが、その場合はthin sliceを送って貰うなどして少しでも各解剖を分離したいですね。
破綻している虫垂のかけらがみえることはあります。
>上下にスクロールして腸管と連続性がなければ、膿瘍。あれば腸管。
今回の場合は膿瘍ですが、連続性がなければ腸管以外ということですね。
>虫垂膿瘍は、腹膜炎が局所にとどまっているか汎発性腹膜炎になっているかを確認する。前者なら最近は保存的にまず見る傾向にある。
そうですね。前者の場合は、最近は抗生剤である程度抑えたあとで手術されることが多いようです。