α1AT欠損症 下肺優位の汎小葉性肺気腫と肝臓

喫煙をほとんどしていないのに、胸部CTで「肺気腫がある」と言われました。しかも肺の下のほうに強いそうです。タバコが原因のCOPDとは違うのでしょうか?
喫煙歴が少ない、年齢が比較的若い、肺の下のほうに気腫が強い、というときに考えたい病気の1つが「α1アンチトリプシン欠損症」です。肺を守るたんぱく質が生まれつき少なく、肺気腫のほか、気管支拡張や肝臓の病気を起こすことがあります。日本ではとても少ない病気ですが、CTの見え方と、肝臓との関係を整理します。

先に結論:α1アンチトリプシン欠損症は、肺を守るたんぱく質が生まれつき少ない遺伝性の病気。肺では下肺優位の汎小葉性肺気腫が典型だが、上肺優位の人もいる。肝臓の病気も合併しうる

項目 ポイント
どんな病気か 血液中のα1アンチトリプシン(AAT)が不足する遺伝性疾患。肺気腫と肝臓の病気のリスクが高まる(Miravitlles 2017)
胸部CTの特徴 典型は下肺野に強い汎小葉性肺気腫。ただし気腫が上肺優位の人もいる(Parr 2004)。気管支拡張を伴うことも多い(Stockley 2023)
喫煙COPDとの違い 喫煙によるCOPDは小葉中心性の気腫が上肺に目立つ。欠損症は若い年齢で、喫煙が少なくても気腫を生じうる
肝臓 乳児期の胆汁うっ滞(黄疸)から、成人の肝硬変・肝細胞癌まで幅がある(Sveger 1976、Tanash 2019)
日本での頻度 全国調査で推定24人と、きわめて少ない(Seyama 2016)

α1アンチトリプシン欠損症とは

α1アンチトリプシン(AAT)は、主に肝臓でつくられて血液中に出るたんぱく質で、好中球エラスターゼという酵素が肺の組織を壊しすぎないように抑える働きがあります(Ragnoli 2026)。この量が生まれつき少ないと、炎症のたびに肺の壁(肺胞)が壊れやすくなり、肺気腫が進みます。AATをつくるSERPINA1遺伝子の変異で起こり、重い欠損では両親から変異を1つずつ受け継いだ「PI*ZZ」型が代表です。

欧州呼吸器学会(ERS)の声明(2017年)は、この病気を成人で最も多い遺伝性疾患の1つとし、肺気腫と肝臓の病気のリスクが高いこと、診断されないままの人が多いことを述べています。肺気腫は喫煙との結びつきが強い一方で、喫煙しない人の一部にも進行する肺の病気が起こるとされます(Miravitlles 2017)。

診断されにくい理由は、症状が「ふつうのCOPD」と同じ、息切れ・慢性の咳・繰り返す気管支炎だからです。そのため長年「COPD」として治療され、あとから見つかる例が報告されています。60歳代の元喫煙者の報告では、長く「COPD」と診断されていましたが、HRCTで下肺に強い汎小葉性肺気腫が見つかったことが診断のきっかけになりました(Ragnoli 2026)。

胸部CTで見えること:喫煙のCOPDとの違い

肺気腫は、肺胞が壊れて空気が溜まった状態です。CTでは、肺の中に壁のない黒い(低吸収の)領域として見えます。どの部分が壊れるかによって「型」があり、型と分布が原因を考える手がかりになります(二次小葉の見方は胸部CTの二次小葉の記事で解説しています)。

項目 喫煙によるCOPD(小葉中心性) α1アンチトリプシン欠損症(汎小葉性)
気腫の型 小葉の中心部から壊れる。小さな黒い点が散らばる 小葉全体がまんべんなく壊れる。肺全体が薄く黒くなり、血管が細く見える
好発部位 上肺野 典型は下肺野(ただし上肺優位の人もいる)
発症年齢 喫煙歴を重ねた中高年 喫煙の影響が加わると比較的若く発症しうる
併発しやすいもの 慢性気管支炎、肺がん 気管支拡張、肝障害

喫煙によるCOPD全般の画像はCOPD(肺気腫)の記事で、ブラ・ブレブとの違いは肺のブラ・ブレブの記事で説明しています。

「下肺優位」はどこまで当てはまるか

欠損症の気腫は下肺に強いのが典型とされますが、実際はばらつきがあります。PiZ型の119人のCTを定量した研究では、気腫のあった102人のうち65人は下肺優位でしたが、37人(36%)は上肺優位でした。そして気腫が同じ量なら、下肺優位の人のほうが1秒量(FEV1)の低下が強く、上肺優位の人のほうがガス交換(動脈血酸素分圧)の低下が強い、と報告されています(Parr 2004)。

最近の自動計測の研究(75人)では、血中AAT濃度が低い重い群(濃度40 mg/dL以下の46人)では下肺優位の気腫で、最も強いのは中葉と舌区でした。一方、濃度が高めの群では上肺優位の気腫でした(Höger 2025)。血中の濃度や喫煙歴によっても分布は変わるため、「下肺優位だから欠損症」とも「上肺優位だから違う」とも言い切れないのが実際です。

症例 60歳代男性 α1アンチトリプシン欠損症(PI*ZZ)の汎小葉性肺気腫

α1アンチトリプシン欠損症 汎小葉性肺気腫の胸部HRCT
引用:Ragnoli B, et al. Delayed Diagnosis of Alpha-1 Antitrypsin Deficiency in an Elderly Patient. Diagnostics (Basel) 2026;16(9):1329 (Figure 2). CC BY 4.0。PMC13163515

両側の肺に広がる低吸収の領域の中に、壊れずに残った肺胞の薄い壁が細い線として見えます(B)。小葉の構造が壊れた汎小葉性肺気腫の所見で、気管支壁の肥厚もあります。Aの高さでは、右下葉に肺炎に合う浸潤影があります。

気管支拡張を合併する

欠損症の肺は、気腫だけでなく気管支の病変も起こします。国際登録(EARCO)のPiZZ型で、CTのあった418人のうち、気腫に気管支拡張を併せた人が113人(27%)、気管支拡張だけの人が38人(9.1%)でした。気管支拡張だけの人は女性の非喫煙者が多く、呼吸機能は正常範囲でした(Stockley 2023)。気管支拡張の見え方は気管支拡張症のCT所見の記事で説明しています。

痰が多い、咳が長引く、肺炎を繰り返す、といった症状があるとき、気腫だけでなく気管支拡張の有無もCTで確認します。気腫が目立たない人でも、気管支拡張だけが見つかって欠損症の診断につながることがあります。

肝臓の病気:乳児から成人まで

AATは肝臓でつくられます。欠損症のZ型では、変異したAATが肝細胞の中にたまりやすく、これが肝臓の障害につながると考えられています。肺の病気は主に成人で、肝臓の病気は乳児期と成人期にそれぞれ現れます。

時期 報告されている内容
乳児期 スウェーデンで新生児20万人をスクリーニングした研究では、PiZ型120人のうち14人に長引く閉塞性黄疸があり、うち9人は臨床的にも検査でも肝障害が明らかでした。肝障害のあった22人はいずれも6か月時点で元気でした(Sveger 1976)
成人期 スウェーデン登録のPiZZ型1,595人(平均追跡12年)で、何らかの肝疾患は10%、肝硬変は7%、肝細胞癌は2%でした。発症の平均年齢は61歳。男性、50歳超、肝酵素の繰り返す上昇、肝炎ウイルス感染、糖尿病が危険因子でした(Tanash 2019)

つまり、肺の症状がなくても、原因のはっきりしない肝障害や肝硬変では欠損症が隠れていることがあります。画像では、肝硬変の変形や肝細胞癌として見つかります(肝硬変の形の変化は慢性肝障害と肝の中心性肥大の記事で解説しています)。肺と肝臓は別の科で診られることが多いため、「肺と肝臓の両方に病気がある若い人」という情報は、診断のヒントになります。

日本での頻度

欧米の白人に多い病気ですが、日本ではきわめて少ないとされます。厚生労働省の研究班と日本呼吸器学会による全国調査では、200床以上の1,598病院のうち1,467病院が回答し(回答率91.8%)、登録された患者は14人(10病院と診療所1か所)、そこから日本の患者数は24人(95%信頼区間22〜27)と推定されました。変異を調べた7人のうち6人はPI*Siiyamaのホモ接合体で、欧米で多いZ型ではありませんでした(Seyama 2016)。

この調査は2016年の報告で、その後の登録数は含まれていません。日本では欠損症に当たる人がきわめて少ないため、診断の際は、血液検査と遺伝子検査を行える専門の施設と相談することになります。

診断と治療の入口

  • 血液検査:血中のAAT濃度を測ります。低い場合に、遺伝子型(PI型)を確認します。
  • 画像:胸部CTで気腫の型と分布、気管支拡張を評価します。肝臓は血液検査と、超音波・CTなどで確かめます。
  • 家族:遺伝性の病気なので、診断された場合は家族の検査(家族内スクリーニング)が検討されます(Ragnoli 2026)。
  • 治療:欠損したAATを補う「補充療法」は、肺の病気に対する特異的な治療として位置づけられています。禁煙、ワクチン、生活習慣の見直しなどの一般的な管理も大切です(Ragnoli 2026)。治療の適応や継続は専門施設が決めます(Miravitlles 2017)。

先ほどの症例の報告者らは、COPDや、治りにくい喘息の成人には、年齢や喫煙歴にかかわらず、少なくとも一度は検査を行うことを勧めています(Ragnoli 2026)。ERSの声明は、この希少疾患の管理は国や地域の専門施設が担うことが重要としています(Miravitlles 2017)。

受診の目安

次のような場合は、呼吸器内科などの医療機関に相談してください。

  • 若いころから息切れ、咳、痰が続いている、または何度も気管支炎・肺炎になる
  • 喫煙歴が少ないのに、健診のCTで「肺気腫」「気腫性変化」と言われた
  • 家族に、若くして肺気腫や原因不明の肝硬変になった人がいる
  • 原因のわからない肝機能異常が長く続いている(肝臓内科・消化器内科)

急いで受診したほうがよいとき:安静にしていても息苦しい、唇や爪が紫色になる、高い熱と膿のような痰、突然の胸の痛みを伴う息苦しさ(気胸の疑い)があるときは、救急を含めてすぐに受診してください。

よくある疑問(Q&A)

Q. この病気は喫煙しなければ防げますか?
A. 喫煙は気腫の進行を大きく早めるため、禁煙が重要です。ただし、非喫煙の欠損症の人にも肺の病気が起こりえます(Miravitlles 2017)。

Q. 肺気腫が下の肺に強ければ、この病気と決まりますか?
A. 決まりません。典型は下肺優位ですが、上肺優位の人も36%いました(Parr 2004)。確定には血液検査と遺伝子検査が必要です。

Q. 日本人にも起こりますか?
A. 起こりますが、きわめて少ないです。全国調査での推定患者数は24人で、変異のタイプも欧米と異なっていました(Seyama 2016)。

Q. 肺に症状がなくても、肝臓の検査は必要ですか?
A. 成人のPiZZ型では、10%に肝疾患がありました(Tanash 2019)。肝酵素の異常が続くこと、50歳を超えていること、男性、糖尿病、肝炎ウイルス感染は、肝疾患の危険因子として報告されています。必要な検査は主治医とご相談ください。

あわせて読みたい:COPD(肺気腫)とは?CT・レントゲン所見と「気腫性変化」と言われたら

参考文献

  1. Miravitlles M, Dirksen A, Ferrarotti I, et al. European Respiratory Society statement: diagnosis and treatment of pulmonary disease in α1-antitrypsin deficiency. Eur Respir J. 2017;50(5):1700610. PubMed
  2. Parr DG, Stoel BC, Stolk J, et al. Pattern of emphysema distribution in alpha1-antitrypsin deficiency influences lung function impairment. Am J Respir Crit Care Med. 2004;170(11):1172-1178. PubMed
  3. Höger P, Benholz J, Weinheimer O, et al. Quantitative analysis of chest computed tomography in alpha-1-antitrypsin deficiency. Respir Res. 2025;26(1):320. PubMed
  4. Stockley RA, Pye A, De Soyza J, et al. The prevalence of bronchiectasis in patients with alpha-1 antitrypsin deficiency: initial report of EARCO. Orphanet J Rare Dis. 2023;18(1):243. PubMed
  5. Tanash HA, Piitulainen E. Liver disease in adults with severe alpha-1-antitrypsin deficiency. J Gastroenterol. 2019;54(6):541-548. PubMed
  6. Sveger T. Liver disease in alpha1-antitrypsin deficiency detected by screening of 200,000 infants. N Engl J Med. 1976;294(24):1316-1321. PubMed
  7. Seyama K, Hirai T, Mishima M, et al. A nationwide epidemiological survey of alpha1-antitrypsin deficiency in Japan. Respir Investig. 2016;54(3):201-206. PubMed
  8. Ragnoli B, Pochetti P, Veselagu X, et al. Delayed Diagnosis of Alpha-1 Antitrypsin Deficiency in an Elderly Patient. Diagnostics (Basel). 2026;16(9):1329. PubMed

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