
先に結論:乳がんとまぎらわしい乳房の腫れには良性の原因もある。ただし見分けには組織検査が要ることが多い
| 原因 | どんな人に多いか | ポイント |
|---|---|---|
| 肉芽腫性乳腺炎 | 出産経験のある30代中心の女性。授乳後数年以内が多い | 痛みを伴うしこり・赤み。画像は乳がんに似る。診断は針生検 |
| 心不全などによるむくみ(乳房浮腫) | 心不全のある人 | 片側だけのこともある。心不全の治療で引く |
| 新生児の乳腺の腫れ | 生後まもない赤ちゃん(男の子にも) | 母体のホルモンの影響。多くは自然に小さくなる |
| 炎症性乳がん | 成人女性 | 皮膚の赤み・むくみが主で、しこりがはっきりしないこともある |
乳房の腫れ・赤み・しこりがあれば、乳腺外科(乳腺科)を受診してください。
肉芽腫性乳腺炎とは
肉芽腫性乳腺炎(granulomatous mastitis)は、乳腺に慢性の炎症が起こってしこり(腫瘤)を作る、まれな良性の病気です。原因がはっきりしないものは特発性肉芽腫性乳腺炎(idiopathic granulomatous mastitis:IGM)と呼ばれます。
- 多くは出産経験のある女性で、平均年齢は35歳ほど。診断前5年以内に授乳していた人が多いとされます(Dilaveri 2024)
- 乳汁のうっ滞(母乳が乳腺にたまること)が関わると考えられています(Dilaveri 2024)
- 本来は感染症ではないとされてきましたが、コリネバクテリウム属の細菌、とくにCorynebacterium kroppenstedtiiとの関連が多く報告されています(Dilaveri 2024、Saraiya 2019)
- この菌は普通の培養では育ちにくく、検査室に特別な条件での培養を依頼する必要があります。高プロラクチン血症が危険因子の一つとして挙げられています(Saraiya 2019)
症状
痛みを伴うしこりと、赤み・腫れなどの炎症症状で見つかることが多く、これが乳がんとよく似ているのが問題になります。よくなったり悪くなったりを繰り返しながら、6か月〜2年ほど続くことが多いとされます(Dilaveri 2024)。エコーでは皮膚へ向かう膿の通り道(sinus tract)が見えることもあります(Fazzio 2016)。
肉芽腫性乳腺炎の画像所見(マンモグラフィ・エコー・MRI)
画像だけで乳がんと区別することは難しく、最終的な診断には針生検(組織検査)が必要です。組織では乾酪壊死を伴わない肉芽腫がみられます(Dilaveri 2024)。
| 検査 | よくみられる所見 |
|---|---|
| マンモグラフィ | 局所的非対称性陰影(focal asymmetry)が多い(Fazzio 2016) |
| エコー | 境界が不整・角ばった低エコー腫瘤。血流の増加、皮膚へ向かう管状の通り道(sinus tract)(Fazzio 2016) |
| MRI | 不整な造影される腫瘤、または非腫瘤性造影効果(non-mass enhancement:NME)と小膿瘍(Fazzio 2016) |
| わきのリンパ節 | エコーで反応性(炎症による腫れ)の見た目(Fazzio 2016) |
39人を調べたMRIの研究では、92.3%が非腫瘤性造影効果、7.7%が腫瘤様の造影効果を示し、33.3%に膿瘍を伴っていました。病変はT2強調像・STIRで正常乳腺より高信号で、ADC値は正常乳腺より低く(拡散制限)、悪性病変のようにリング状の造影効果が集まって見えることもありました(Aslan 2016)。
つまり「拡散制限がある」「リング状に造影される」だけでは乳がんと区別できません。一方で、膿瘍や皮膚への通り道、反応性のわきのリンパ節がそろうと肉芽腫性乳腺炎を考えるきっかけになります。MRIは病変の広がりや治療効果の確認にも役立ちます(Fazzio 2016)。
乳腺の良性疾患と乳がんの見分け方は乳腺症(マストパチー)の画像診断|MRI所見と乳腺炎・乳癌との違いも参考になります。
治療の考え方
傷の治りが悪い、再発しやすい、見た目の問題が残りやすいことから、できるだけ手術を避け、経過観察や抗菌薬、ステロイド、免疫を調整する薬などの内科的治療が優先される流れです(Dilaveri 2024)。どの治療を選ぶかは主治医と相談になります。
症例 30歳代女性 肉芽腫性乳腺炎

引用:Radiopaedia(Granulomatous mastitis)
左側に写る右乳房の上外側に、境界のはっきりしない非対称性の濃度上昇があり、その中に小さな丸い石灰化が集まっています。症例ページでは乳頭の陥凹も見られ、エコーガイド下の穿刺吸引細胞診で肉芽腫性乳腺炎が示唆されたと記載されています。
片方の胸だけ腫れる原因:心不全による乳房のむくみ
乳房のむくみ(乳房浮腫)は、マンモグラフィで皮膚の肥厚、乳腺の濃度上昇、網目状の線(間質の影)として見えます。原因には、皮膚のリンパ管に広がった腫瘍(炎症性乳がん)、リンパ流のうっ滞や閉塞、そしてうっ血性心不全などがあります(Kwak 2005)。
心不全によるむくみは通常は両側ですが、片側だけに出ることがあり、びまん性の乳がんとそっくりに見えることが報告されています。心不全の治療でむくみが消えたことから、体の下になる側にむくみがたまった(重力による浮腫)と判断された例もあります(Doyle 1991)。
皮膚の赤み・むくみが主で、はっきりしたしこりがない乳がんとして炎症性乳癌の画像診断|写真でみる皮膚肥厚・梁柱の肥厚・橙皮様皮膚があります。心不全がある人の片側の乳房のむくみでも、心不全の治療で引くかどうかを確かめることが大切です。
赤ちゃんの胸のふくらみ:新生児の乳腺の腫れ
生まれて間もない赤ちゃんの胸がふくらむことがあります。これは母体から受け取ったホルモンによる生理的な変化で、多くは症状がなく、生後1週ごろにみられ、6か月以内に自然に消えるとされます。片側のことも両側のこともあり、男の子にもみられます(D’Auria 2021)。
見分けが必要なのは、抗菌薬の治療が必要な新生児の乳腺炎です。エコーで本当のしこりではないことを確かめ、乳腺炎との区別に役立てることができます(D’Auria 2021)。赤い、熱をもっている、機嫌が悪いなどがあれば小児科を受診してください。
男性の乳房のふくらみについては女性化乳房とは?原因とCT・エコー画像所見、男性乳がんとの見分け方で解説しています。
次にすること
- 乳房のしこり・赤み・腫れ:乳腺外科(乳腺科)でマンモグラフィ・エコー、必要に応じてMRIと針生検
- 肉芽腫性乳腺炎が疑われるとき:組織検査に加え、細菌の培養(コリネバクテリウムを意識した条件)を検討してもらう
- 心不全がある人の片側の乳房のむくみ:循環器の主治医にも伝え、むくみの変化を一緒にみてもらう
- 赤ちゃんの胸のふくらみ:小児科へ。赤み・熱・機嫌の悪さがあれば早めに
気になる症状があれば、自己判断せず医療機関を受診してください。
よくある疑問(Q&A)
Q1. 肉芽腫性乳腺炎は乳がんになりますか?
肉芽腫性乳腺炎は良性の炎症で、乳がんとは別の病気です(Dilaveri 2024)。ただ見た目がよく似ているため、組織検査で乳がんではないことを確かめることが大切です。
Q2. 抗菌薬を飲んでもよくならないのですが…
肉芽腫性乳腺炎は経過が長く、よくなったり悪くなったりを繰り返すことが多い病気です(Dilaveri 2024)。治らない「乳腺炎」や繰り返す膿瘍では、肉芽腫性乳腺炎やコリネバクテリウム感染を考える必要があります(Saraiya 2019)。主治医に相談してください。
Q3. 画像だけで乳がんと区別できますか?
難しいことが多いです。マンモグラフィ・エコー・MRIのどれでも乳がんに似た所見を示すことがあり(Fazzio 2016、Aslan 2016)、診断は針生検が基本です。
Q4. 赤ちゃんの胸がふくらんでいます。
新生児の乳腺の腫れは母体のホルモンによるもので、多くは自然に小さくなります(D’Auria 2021)。赤みや熱、機嫌の悪さがあれば小児科で診てもらいましょう。
参考文献
- Dilaveri C, Degnim A, Lee C, et al. Idiopathic Granulomatous Mastitis. Breast J. 2024;2024:6693720. PubMed
- Saraiya N, Corpuz M. Corynebacterium kroppenstedtii: a challenging culprit in breast abscesses and granulomatous mastitis. Curr Opin Obstet Gynecol. 2019;31(5):325-332. PubMed
- Fazzio RT, Shah SS, Sandhu NP, et al. Idiopathic granulomatous mastitis: imaging update and review. Insights Imaging. 2016;7(4):531-9. PubMed
- Aslan H, Pourbagher A, Colakoglu T. Idiopathic granulomatous mastitis: magnetic resonance imaging findings with diffusion MRI. Acta Radiol. 2016;57(7):796-801. PubMed
- Kwak JY, Kim EK, Chung SY, et al. Unilateral breast edema: spectrum of etiologies and imaging appearances. Yonsei Med J. 2005;46(1):1-7. PubMed
- Doyle AJ. Unilateral breast edema in congestive heart failure–a mimic of diffuse carcinoma. Australas Radiol. 1991;35(3):274-5. PubMed
- D’Auria D, Ferrara D, Aragione N, et al. Role of ultrasound in diagnosis of neonatal breast enlargement: a newborn case report. Radiol Case Rep. 2021;16(9):2692-2696. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
