
先に結論:肥厚性幽門狭窄症は生後1〜3か月ごろの赤ちゃんの噴水状嘔吐の代表的な原因。エコーで幽門筋の厚さ3mm以上・幽門管の長さ約15mm以上が目安(ただし基準値には幅がある)
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 何か | 胃の出口(幽門)の輪状筋が厚くなり、胃の内容が十二指腸へ流れにくくなる病気 |
| いつ | 生後1〜3か月ごろ。乳児の消化管の病気の中でもっとも多い |
| 症状 | 授乳後の胆汁を含まない(緑色でない)噴水状嘔吐、体重が増えない |
| エコー | 厚くなった幽門筋が低エコーの筒として見える。筋層の厚さ・幽門管の長さを測り、内容が通過するかを観察 |
| 次にすること | 小児外科で水分・電解質を整えてから手術(幽門筋切開術) |
肥厚性幽門狭窄症とは
肥厚性幽門狭窄症(hypertrophic pyloric stenosis: HPS)は、胃の出口である幽門の筋肉が厚くなり、胃から腸への通り道が狭くなる病気で、乳児の消化管の病気の中でもっとも多いものとされます(Galea 2018)。
大人でも幽門部は筋層が発達していてCTで壁が厚く見えることがあります。正常な幽門の見え方は胃幽門部は筋層が発達して壁肥厚に見えるをご覧ください。
原因と起こりやすさ
はっきりした原因はわかっていませんが、遺伝的な要因と環境要因の両方が関わると考えられています(Galea 2018)。
- 関連が報告されている要因:人工乳(ボトル授乳)、若い母親、母親の喫煙、生後2週以内のエリスロマイシン投与、家族歴(Galea 2018)
症状:噴水状嘔吐と体重が増えない
典型的には、生後1〜3か月ごろに授乳後の胆汁を含まない噴水状の嘔吐で気づかれ、嘔吐が続くと低カリウム・低クロール性の代謝性アルカローシスを起こすことがあります(Rich 2021)。
ただし、手術で確認された205人の検討では、重炭酸(CO2)が正常だったのは62%で、血液検査が正常であることのほうが多いと報告されています(Tutay 2013)。この検討ではクロールが低かったのは25%、カリウムが低かったのは8%で、代謝性アルカローシスは月齢が進んだ乳児ほど多くみられました。血液検査が正常でもこの病気は否定できません。
右上腹部に触れる「オリーブ様の腫瘤」は古典的な所見ですが、エコーで早く診断されるようになり、触れる例は少なくなっています(Galea 2018)。
赤ちゃんが繰り返し吐く、元気がない、おしっこが少ないなど気になる症状があれば医療機関を受診してください。泣き止まない赤ちゃんの見方は泣き止まない赤ちゃんを見たときの鑑別診断にもまとめています。
エコーの見方:幽門筋の厚さと長さ
何が見えるか
肥厚性幽門狭窄症では、厚くなった幽門〜前庭部の輪状筋が、低エコー(黒っぽい)の筒として見えます(Blumhagen 1983)。エコーはHPSの診断で第一選択の検査とされています(Piotto 2022)。
測るところと目安
| 計測項目 | 報告されている目安 |
|---|---|
| 幽門筋の厚さ(片側の筋層) | 3.0mm以上(Vinycomb 2021)。古い報告では4mm以上を用い、手術で確認された93人中86人が該当(Blumhagen 1983) |
| 幽門管の長さ | 14.5mm以上(Vinycomb 2021) |
| 組み合わせ | 筋層3.0mm以上かつ幽門管14.5mm以上で感度95%、特異度99%(Vinycomb 2021) |
| 内容の通過 | 観察中に幽門を通る流れがないこと:感度99%、特異度91%(Vinycomb 2021) |
基準値に当てはまらない例
基準値はあくまで目安です。
- 607人(615検査)の検討では、正常の乳児は筋層2.0mm未満・幽門管5.0mm未満だったのに対し、HPSでは筋層2.0〜5.0mm・幽門管10.0〜24.0mmでした。HPSでも筋層が2.0mmと薄い例があり、幽門管の長さがもっとも区別に役立ち、幽門の横径は区別に役立たなかったと報告されています(Piotto 2022)。
症例 生後4か月男児 肥厚性幽門狭窄症

引用:Radiopaedia(Hypertrophic pyloric stenosis)
幽門の筋層が厚くなり、計測で約4mm(0.42cm・0.39cm)と3mmを超えています。症例ページでは幽門管の長さ15mm、動画で胃の内容物が幽門を通らない様子と軽い胃の拡張が記載されています。
幽門けいれん(pylorospasm)との違い
幽門が一時的にけいれんして閉じている状態(幽門けいれん)は、エコーでHPSに似て見えることがあります。噴水状嘔吐の乳児の検討では、幽門けいれんの53%で検査中のどこかで筋層が4mm以上、18%で幽門管が18mm以上になりました(Cohen 1998)。
見分けるポイントは時間による変化です。HPSでは長さ・厚さが検査中ずっと変わらないのに対し、幽門けいれんでは計測値や形が検査中に変化します(Cohen 1998)。しばらく観察して幽門が開くか、内容が流れるかを確認することが大切です。
治療と次にすること
治療は手術(腹腔鏡などによる幽門筋切開術)ですが、麻酔の前に脱水と電解質の異常をしっかり整えることが重要とされます(Rich 2021)。手術は腹腔鏡下の幽門筋切開術が一般的で、内視鏡的なバルーン拡張も新しい選択肢として報告されています(Galea 2018)。手術後しばらく吐くことはよくあり、手術が成功すれば長期的な問題は残らないとされています(Rich 2021)。
よくある疑問(Q&A)
Q1. エコーで「ぎりぎり」と言われました。どうなりますか?
HPSでも筋層が薄めの例があり(Piotto 2022)、幽門けいれんでは数値が検査中に変わります(Cohen 1998)。症状の経過を見て、時間をおいてエコーを再検することがあります。
Q2. 血液検査は正常でした。この病気ではないのですか?
手術で確認されたHPSでも血液検査が正常な例のほうが多いと報告されています(Tutay 2013)。血液検査だけでは否定できません。
Q3. 腸重積とはどう違うのですか?
どちらも赤ちゃんの嘔吐の原因になりますが、腸重積は腸が腸に入り込む病気で、エコーではターゲットサインが特徴です。腸重積とは?子どもと大人の違いとエコー所見で解説しています。
治療の時期や方法は赤ちゃんの状態によって異なります。主治医に相談してください。
参考文献
- Rich BS, Dolgin SE. Hypertrophic Pyloric Stenosis. Pediatr Rev. 2021;42(10):539-545. PubMed
- Galea R, Said E. Infantile Hypertrophic Pyloric Stenosis: An Epidemiological Review. Neonatal Netw. 2018;37(4):197-204. PubMed
- Tutay GJ, Capraro G, Spirko B, et al. Electrolyte profile of pediatric patients with hypertrophic pyloric stenosis. Pediatr Emerg Care. 2013;29(4):465-8. PubMed
- Blumhagen JD, Noble HG. Muscle thickness in hypertrophic pyloric stenosis: sonographic determination. AJR Am J Roentgenol. 1983;140(2):221-3. PubMed
- Vinycomb T, Vanhaltren K, Pacilli M, et al. Evaluating the validity of ultrasound in diagnosing hypertrophic pyloric stenosis: a cross-sectional diagnostic accuracy study. ANZ J Surg. 2021;91(11):2507-2513. PubMed
- Piotto L, Gent R, Taranath A, et al. Ultrasound diagnosis of hypertrophic pyloric stenosis – Time to change the criteria. Australas J Ultrasound Med. 2022;25(3):116-126. PubMed
- Cohen HL, Zinn HL, Haller JO, et al. Ultrasonography of pylorospasm: findings may simulate hypertrophic pyloric stenosis. J Ultrasound Med. 1998;17(11):705-11. PubMed
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