
先に結論:卵巣癌のCT・MRIのポイント
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 病期分類 | FIGO 2014(卵巣癌・卵管癌・腹膜癌をまとめて扱う)。手術・病理で決まる |
| 術前の標準 | 胸部〜骨盤の造影CT。大きな病変は正確だが、小さな播種は見逃しやすい |
| MRIの役割 | 付属器腫瘤の性状評価(O-RADS MRI)と、拡散強調像による小さな腹膜病変の検出 |
| 見落としやすい所 | 小腸間膜・大腸間膜、大網の脾・胃・結腸への進展、横隔膜下など |
| 次にすること | 婦人科腫瘍の専門施設で、腫瘍減量手術を先行するか術前化学療法を先行するかを判断 |

卵巣癌の組織型と画像の特徴
卵巣癌は、卵巣・卵管・腹膜から生じる性質の異なる上皮性悪性腫瘍の集まりとして捉えられるようになり、これに合わせてFIGOが病期分類を改訂しました(Javadi 2016)。低異型度漿液性癌(LGSC)と高異型度漿液性癌(HGSC)は、分子異常・臨床経過・化学療法への反応が異なる別の疾患と考えられています(Amante 2021)。
| 組織型 | 画像で目立つ特徴 |
|---|---|
| 高異型度漿液性癌(HGSC) | 最も多い組織型。充実成分を含む付属器腫瘤に、腹水・腹膜播種を伴う進行期で見つかることが多い |
| 低異型度漿液性癌(LGSC) | 上皮性腫瘍の約5%。乳頭状突起と充実成分が混在する腫瘤。砂粒体による石灰化が原発巣・リンパ節・転移巣にみられやすい(Amante 2021) |
| 明細胞癌・類内膜癌(子宮内膜症性嚢胞からの癌化) | 内膜症性嚢胞から生じたと考えられる33例中、明細胞癌23例・類内膜癌8例。32例で術前に壁在結節があり、30例で診断前6か月に径が倍増。壁在結節と急な増大が手がかり(Taniguchi 2014) |
付属器腫瘤の良悪性をMRIでどう見分けるかは、卵巣腫瘍の画像診断(単房性・多房性嚢胞と充実成分)と卵巣腫瘍・骨盤内腫瘤の分類とMRI画像診断にまとめています。リスク分類としてはO-RADS MRIがあり、造影される充実部分の有無とその造影パターンでスコアが決まります。
組織型ごとの画像の特徴(高異型度漿液性癌・類内膜癌・明細胞癌・粘液性癌)
主な4つの組織型を、CT・MRIと臨床データで比べた125例(漿液性癌44例・粘液性癌13例・明細胞癌53例・類内膜癌15例)の検討では、次のような違いがありました(Tanaka 2016)。
| 組織型 | 画像・臨床で目立つ点 |
|---|---|
| 高異型度漿液性癌(漿液性癌) | 両側性が多く、腫瘍は比較的小さい。拡散強調像で信号が高い。高カルシウム血症は少ない(Tanaka 2016)。腹水・腹膜播種を伴う進行期で見つかることが多い |
| 類内膜癌 | ほかの組織型と比べて有意だったのは腹膜播種が少ないことだけ(Tanaka 2016)。子宮内膜症性嚢胞から生じることがある(Taniguchi 2014) |
| 明細胞癌 | 片側性で充実部分の割合が大きく、比較的若い人に多く、高カルシウム血症を伴うことがある(Tanaka 2016)。内膜症性嚢胞の壁在結節や急な増大として見つかることがある(Taniguchi 2014) |
| 粘液性癌 | 多くが多房性嚢胞性腫瘤で、CA19-9が高い(Tanaka 2016) |
漿液性癌は化学療法が効きやすく、粘液性癌と明細胞癌は効きにくいとされるため、術前に組織型の見当をつけることには意味があります。ただし画像だけで組織型を決めることはできず、腫瘍マーカーや高カルシウム血症などの臨床情報と組み合わせて「一部推定できる」程度です(Tanaka 2016)。
FIGO 2014病期とCT
FIGO分類は手術・病理所見に基づく分類で、2014年に改訂されました(Prat 2014)。手術が標準とはいえ、初期治療の方針は術前の画像による病期評価で決まり、切除不能・切除困難な病変を見つけることが画像の大きな役割です(Castellani 2019)。
| 病期 | 定義(FIGO 2014の要約) | CTで見る点 |
|---|---|---|
| Ⅰ | 卵巣(または卵管)に限局。ⅠA:片側、ⅠB:両側、ⅠC:術中破綻・術前の被膜破綻/表面浸潤・腹水/洗浄細胞診陽性 | 画像でⅠ期を確定することは難しい。腹水の有無を記載 |
| Ⅱ | 骨盤内への進展。ⅡA:子宮・卵管・卵巣、ⅡB:その他の骨盤内腹膜組織 | 子宮・直腸・膀胱・骨盤腹膜との関係 |
| Ⅲ | 骨盤外の腹膜播種、または後腹膜リンパ節転移。ⅢA1:後腹膜リンパ節転移のみ、ⅢA2:顕微鏡的な骨盤外腹膜病変、ⅢB:骨盤外の肉眼的播種で最大径2cm以下、ⅢC:2cmを超える(肝・脾の被膜への進展を含む) | 播種の部位と最大径、傍大動脈・骨盤リンパ節 |
| Ⅳ | 腹膜播種を除く遠隔転移。ⅣA:細胞診陽性の胸水、ⅣB:肝・脾の実質転移、腹腔外臓器への転移(鼠径リンパ節・腹腔外リンパ節を含む) | 胸水、肝・脾の実質か被膜か、鼠径・横隔膜上リンパ節 |
肝・脾では「被膜表面の播種(Ⅲ期)」と「実質内転移(ⅣB期)」で病期が変わるため、レポートではどちらかを明記します。レポートに書くべき項目は卵巣癌治療前CT/MRIレポートで記載すべき点のまとめも参照してください。
腹膜播種の見方:見落としやすい所
腹膜播種の好発部位(ダグラス窩、大網、右横隔膜下、傍結腸溝など)とomental cakeの見え方は腹膜播種・癌性腹膜炎のCT画像診断で詳しく扱っています。ここでは手術の可否に関わる部位を中心に整理します。
術前の標準は胸部・腹部・骨盤のCTで、大きな病変の評価は比較的正確ですが、小さな病変の広がりの評価には明らかな限界があります。拡散強調像を含むMRIは小さな腹膜病変の検出に優れ、PET/CTは腹部外の進行の確認など判断に迷う例で用いられます(Castellani 2019)。
| 部位・所見 | 根拠 |
|---|---|
| 小腸間膜・大腸間膜への播種、肺転移、胸水、腎下部の傍大動脈リンパ節 | 不十分な腫瘍減量(suboptimal debulking)と関連(Borley 2015) |
| 小腸間膜、大網の脾・胃・結腸への進展 | 不十分な腫瘍減量と関連。CTの部位別感度は全体で68.29%、特異度89%で、重要な部位で感度が下がる(Bagul 2017) |
「CTで播種が見えない=播種がない」ではない点が大切です。とくに小腸間膜・小腸漿膜の小結節は腸管と重なって見落としやすく、手術の可否に直結します。
症例 60歳代女性 1週間前からの腹痛と腹部膨満

引用:Radiopaedia(Omental cake from ovarian cancer)
腹壁のすぐ下、横行結腸の前方で大網が結節状に厚くなり、板状の軟部濃度(大網ケーキ)になっています。肝臓の周りや右の側腹部には大量の腹水が見られ、腹膜も厚くなっています。大網の生検で卵巣癌の播種と確認されました。
よくある疑問(Q&A)
Q. CTでⅢC期と書かれたら、それで病期が決まりますか?
FIGO分類は手術・病理所見に基づくため、CTは「術前の推定」です(Castellani 2019)。ただし治療の順番を決める重要な情報になります。
Q. 子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)があると言われています。何に注意しますか?
癌化した例の多くで、嚢胞内の壁在結節と急な増大がみられました(Taniguchi 2014)。経過観察中の壁在結節は、造影MRIで評価します。
Q. O-RADS MRIのスコアと病期は関係しますか?
O-RADS MRIは付属器腫瘤が悪性かどうかのリスク分類で、病期分類ではありません。悪性が疑われた後の広がりの評価がFIGO病期です。具体的な治療方針は主治医と相談してください。
参考文献
- Prat J. Staging classification for cancer of the ovary, fallopian tube, and peritoneum. Int J Gynaecol Obstet. 2014;124(1):1-5. PubMed
- Javadi S, Ganeshan DM, Qayyum A, et al. Ovarian Cancer, the Revised FIGO Staging System, and the Role of Imaging. AJR Am J Roentgenol. 2016;206(6):1351-60. PubMed
- Castellani F, Nganga EC, Dumas L, et al. Imaging in the pre-operative staging of ovarian cancer. Abdom Radiol (NY). 2019;44(2):685-696. PubMed
- Borley J, Wilhelm-Benartzi C, Yazbek J, et al. Radiological predictors of cytoreductive outcomes in patients with advanced ovarian cancer. BJOG. 2015;122(6):843-849. PubMed
- Bagul K, Vijaykumar DK, Rajanbabu A, et al. Advanced Primary Epithelial Ovarian and Peritoneal Carcinoma-Does Diagnostic Accuracy of Preoperative CT Scan for Detection of Peritoneal Metastatic Sites Reflect into Prediction of Suboptimal Debulking? A Prospective Study. Indian J Surg Oncol. 2017;8(2):98-104. PubMed
- Amante S, Santos F, Cunha TM. Low-grade serous epithelial ovarian cancer: a comprehensive review and update for radiologists. Insights Imaging. 2021;12(1):60. PubMed
- Taniguchi F, Harada T, Kobayashi H, et al. Clinical characteristics of patients in Japan with ovarian cancer presumably arising from ovarian endometrioma. Gynecol Obstet Invest. 2014;77(2):104-10. PubMed
- Tanaka YO, Okada S, Satoh T, et al. Differentiation of epithelial ovarian cancer subtypes by use of imaging and clinical data: a detailed analysis. Cancer Imaging. 2016;16:3. PubMed
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