
先に結論:シルエットサイン(silhouette sign)とは
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 何か | 心臓・大動脈・横隔膜などの境界(シルエット)が見えなくなる所見。Felsonが1950年に報告 |
| 意味 | その境界に接する肺に、水と同じ濃度の病変(浸潤影・無気肺・腫瘤・胸水など)がある |
| 代表例 | 右第2弓(右心房)消失→右中葉、左第4弓(左心室)消失→舌区、横隔膜消失→下葉 |
| 注意 | 漏斗胸では病変がなくても右心縁が不明瞭になる(偽陽性) |

シルエットサインの定義(Felson)
シルエットサインは、Benjamin Felsonが1950年に正面像(PA像)で胸部病変の位置を決める方法として報告した所見です(Felson 1950)。
胸部X線写真で心臓や横隔膜の輪郭が見えるのは、軟部組織(水の濃度)のすぐ隣に空気を含む肺があり、濃度差があるからです。その肺が浸潤影や無気肺で水の濃度に置き換わると、濃度差がなくなり輪郭が消えます(Kelly 2012)。つまり用語としては「シルエットが消える」ことを指し、解剖学的な軟部組織の境界が描出されないこととして説明されます(Mahomed 2017)。この用語はFleischner Societyの胸部画像用語集(2008年版、2024年改訂版)にも収載されています。
逆に、病変が境界に接していなければ、重なって見えても輪郭は保たれます。この「消えるか、消えないか」で、病変が前にあるか後ろにあるか、どの肺葉にあるかを推定できます(Kumaresh 2015)。
部位ごとに消える境界と病変の局在
| 消える境界 | その境界をつくる構造 | 接している肺(推定される局在) |
|---|---|---|
| 右第2弓(右心縁) | 右心房 | 右中葉 |
| 左第4弓(左心縁) | 左心室 | 左上葉舌区 |
| 右横隔膜 | 右横隔膜 | 右下葉 |
| 左横隔膜 | 左横隔膜 | 左下葉 |
| 左第1弓(大動脈弓) | 大動脈弓 | 左上葉(境界がぼやける) |
| 右上縦隔の境界 | 上大静脈など | 前方の病変(前縦隔腫瘤など) |
※心縁・横隔膜と肺葉の対応はKelly 2012、大動脈弓と左上葉はKelly 2012、右上縦隔の境界と前縦隔腫瘤はKumaresh 2015の記載によります。
ポイントをまとめると次のとおりです。
- 右心縁が消えて横隔膜が見える→右中葉の病変。右下葉の病変は後方にあるため右心縁は保たれ、右横隔膜が消えます(Kelly 2012)。
- 左心縁が消える→舌区の病変。左下葉の病変では左横隔膜が消えます(Kelly 2012)。
- 左上葉の浸潤影はベールをかけたようなぼんやりした陰影になり、大動脈弓(aortic knob)の輪郭が見えにくくなります(Kelly 2012)。
- 前縦隔腫瘤では右上縦隔の境界が消え、心縁が保たれていれば病変は後方にあると考えます(Kumaresh 2015)。
肺葉の位置関係は肺葉・肺区域の解剖の記事、無気肺での見え方は肺葉性無気肺の胸部レントゲン所見もあわせてご覧ください。
応用:cervicothoracic sign
Felsonはシルエットサインを応用して、上縦隔の腫瘤が前か後ろかを見分ける方法も示しました。胸郭入口部では肺の後方部分のほうが鎖骨より上まで伸びているため、後縦隔の腫瘤は鎖骨より上でも輪郭が明瞭で、前縦隔の腫瘤は鎖骨の高さで輪郭が消えます(Kumaresh 2015)。
どのくらい消えたら陽性か
WHOの小児肺炎研究(胸部X線の標準化読影)では、隣接する陰影があり、境界が後肋骨1本と隣の肋間1つ分以上の長さで消えている場合を「consolidation(浸潤影)」と判定する基準を用いています(Mahomed 2017)。研究用の基準ですが、「少しぼやけている」程度で陽性としない目安になります。
症例 20歳代男性 咳と発熱

引用:Radiopaedia(Right middle lobe consolidation – silhouette sign)
左は比較用の正常な胸部X線で、右心縁(線)がくっきり見えます。右が本症例で、右中葉のコンソリデーションにより、線で示した右心縁の輪郭が消えています(シルエットサイン陽性)。左肺は清明で、心臓の大きさと縦隔の輪郭は正常です。
偽陽性(病気がないのに境界が消える)
漏斗胸
シルエットサインは常に病気を意味するわけではなく、漏斗胸では右心縁が見えなくなることがあります(Mahomed 2017)。漏斗胸の正面像の所見としては、右下肺野内側の濃度上昇、右心縁の不明瞭化、急峻な前肋骨・水平な後肋骨、直線状または凸の左心縁、下行大動脈のシルエット消失などが知られています(Hapuarachchi 2019)。72例の検討では、直線状の左心縁、心陰影の左方偏位、右心縁の不明瞭化が胸骨陥凹に特異性の高い所見でした(Ward 1989)。右中葉肺炎と間違えないよう、側面像で胸骨の陥凹を確認します。→漏斗胸のレントゲン・CT画像所見
心膜外脂肪塊
心横隔膜角の脂肪(pericardial fat pad)も心縁や横隔膜の輪郭をぼかして見えることがあります。→心膜外脂肪塊とシルエットサインの記事
撮影条件
読影の前に、回旋・吸気・透過性の3点で撮影の質を確認することが勧められています(Kelly 2012)。回旋していると左右の濃度が変わり、ポータブルのAP像では心陰影が約20%拡大します(Kelly 2012)。条件の悪い写真で境界がはっきりしないときは、無理に陽性と判断せず、側面像・前回画像・CTで確かめます。
次にすること
- シルエットサインがあれば、側面像や過去画像で陰影の位置と経過を確認します。
- 発熱・咳などがあれば肺炎、症状が乏しく長引く場合は無気肺の原因(腫瘍など)も考え、胸部CTを検討します。
- 健診で指摘された場合は、呼吸器内科などで精密検査(CT)を受けるかを主治医と相談してください。
胸部X線で見るべき境界線は胸部レントゲン読影で知っておくべき7つの境界線にまとめています。
よくある疑問(Q&A)
Q1. 右心縁がはっきり見えないと、いつも右中葉の肺炎ですか?
いいえ。右中葉の浸潤影や無気肺のほか、漏斗胸でも右心縁は不明瞭になります(Mahomed 2017、Ward 1989)。側面像やCTで確認します。
Q2. 陰影が心臓に重なっているのに、心縁がくっきり見えます。どういうことですか?
陰影が心臓と接していない、つまり前後方向に離れた位置(例:右心縁が保たれていれば右下葉など後方)にあると考えられます(Felson 1950、Kelly 2012)。
Q3. シルエットサインはCTでも使いますか?
シルエットサインはもともと正面像で病変の位置を決めるための所見です(Felson 1950)。CTでは断面で直接位置が分かるため、主に胸部X線で使う考え方です。
参考文献
- Felson B, Felson H. Localization of intrathoracic lesions by means of the postero-anterior roentgenogram; the silhouette sign. Radiology. 1950;55(3):363-74. PubMed
- Kelly B. The chest radiograph. Ulster Med J. 2012;81(3):143-8. PubMed
- Kumaresh A, Kumar M, Dev B, et al. Back to Basics – ‘Must Know’ Classical Signs in Thoracic Radiology. J Clin Imaging Sci. 2015;5:43. PubMed
- Mahomed N, Fancourt N, de Campo J, et al. Preliminary report from the World Health Organisation Chest Radiography in Epidemiological Studies project. Pediatr Radiol. 2017;47(11):1399-1404. PubMed
- Hapuarachchi KS, Cowan IA. The medial breast margin sign: A new sign of pectus excavatum in adult females and comparison with classic signs. J Med Imaging Radiat Oncol. 2019;63(6):737-744. PubMed
- Ward CS, Halpin SF, Wilson AG. The posteroanterior chest radiograph in depressed sternum. Clin Radiol. 1989;40(2):139-43. PubMed
- Bankier AA, MacMahon H, Colby T, et al. Fleischner Society: Glossary of Terms for Thoracic Imaging. Radiology. 2024;310(2):e232558. PubMed
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