先に結論:膵頭十二指腸切除後の脂肪肝
- 膵頭十二指腸切除術(PD)の後には、膵外分泌機能の低下による栄養吸収障害などから、術後数か月以内にびまん性の脂肪肝が起こることがあります
- CTでは肝臓のCT値が脾臓より低くなることで分かり、重いと肝機能障害・脂肪肝炎に進むことがあります
- PD後は膵外分泌不全による消化吸収障害と体重減少が起こりやすく、良性腫瘍に対するPDの系統的レビューでは術後に約45%で膵外分泌不全がみられました
- 膵酵素補充療法と栄養管理で改善することが多いため、術後のCTで肝臓の濃度の変化に気づいて伝えることが大切です
膵頭十二指腸切除術(PD: pancreatoduodenectomy)後には、術前に脂肪肝を認めなくても、術後に新規(de novo)でびまん性脂肪肝が出現することがあります。PD後104例を単純CTで評価した報告では、約25%(26例)に術後脂肪肝が出現し、多変量解析で術後の膵外分泌不全が唯一の独立した危険因子でした。
この病態は、一般的な肥満・インスリン抵抗性を背景とする脂肪肝とはやや性格が異なり、膵外分泌不全(pancreatic exocrine insufficiency: PEI / EPI)、消化吸収不良、体重減少、低栄養が前景に立つ点が重要です。
PD後に脂肪肝が生じる機序

PD後脂肪肝の本態は、単純な過栄養ではなく、膵外分泌不全を背景とした吸収障害と栄養障害である。
- 膵外分泌不全による脂肪・蛋白の消化吸収障害
PD後には膵酵素分泌の低下、消化管再建に伴う消化と吸収のタイミングのずれ、残膵機能低下などにより、脂肪便、下痢、体重減少を来しやすい。とくに脂質と蛋白の吸収低下は、術後脂肪肝の形成に深く関与すると考えられている。 - 低栄養に伴う肝内脂質輸送障害
肝臓で合成された中性脂肪を肝外へ輸送するためには、VLDLの形成が必要であり、そのためにはアポ蛋白合成に必要なアミノ酸や各種栄養素が必要となる。PEIによりこれらの吸収が障害されると、肝内で産生された脂肪を十分に血中へ輸送できず、肝細胞内に脂肪が蓄積しやすくなる。 - 飢餓様状態による脂肪動員の亢進
消化吸収不良が持続すると、生体は相対的飢餓状態となり、末梢脂肪組織から遊離脂肪酸が動員される。一方で、低栄養下では肝からの脂質輸送能が低下しているため、流入した脂質が肝内に蓄積しやすい。 - 残膵量・残膵機能の影響
残膵容積の減少や残膵機能低下は術後PEIと関連し、結果として脂肪肝の発症リスクに関与する。近年は、残膵容積と術中膵液アミラーゼ活性を組み合わせた術後外分泌指数が、PD後脂肪肝の予測因子となることも報告されている。
したがって、PD後脂肪肝は「太っているから生じる脂肪肝」ではなく、やせ、体重減少、筋肉量低下、下痢、脂肪便、低アルブミン血症などを伴う「吸収不良・低栄養型脂肪肝」として理解するのが実臨床では有用である。
臨床的に注意すべき患者像
- 術後の持続する体重減少を認める
- 筋肉量低下やサルコペニアが疑われる
- 下痢、脂肪便、腹部膨満などの吸収不良症状がある
- Alb、PreAlb、総蛋白、総コレステロールなどの栄養指標が低下している
- フォローアップCTで新規のびまん性肝低吸収が出現している
PD後の患者では、BMIが高くない、むしろ体重が減少しているにもかかわらず脂肪肝が進行することがある。したがって、体重やBMIのみで脂肪肝リスクを過小評価しないことが重要である。
PD後の体重減少と消化吸収障害
- 良性・前がん病変に対するPDの系統的レビューでは、術後に新たな膵外分泌不全が44.9%(109/243例)、新たな糖尿病が14.1%にみられ、PD/PPPD後608例のうち145例(23.8%)に脂肪肝が生じた(Beger 2022)。
- 主な症状は、脂肪便、下痢、腹部膨満、体重減少である。
- 国際膵外科研究グループ(ISGPS)の提言では、便中エラスターゼ検査は感度・特異度が低いこと、未治療の膵外分泌不全が重い栄養障害につながることから、PD後は膵酵素補充療法をルーチンに始め、少なくとも術後6か月は続けることが勧められている(Gianotti 2018)。
- PD後のランダム化試験の追加解析では、術後3か月で5%を超える体重減少が脂肪肝の独立した危険因子で、1年後の脂肪肝は膵酵素補充群9.5%、プラセボ群23.1%だった(Kim 2026)。
術後に体重が減り続ける、下痢や脂っぽい便が続くなど気になる症状があれば、主治医に相談してください。
画像診断のポイント
- 術前後比較で新規に出現したびまん性肝低吸収を見つけることが最も重要である。
- 定量評価は、可能であれば単純CTで行うのが基本である。
- 研究では、肝CT値そのものや肝/脾比(L/S比)が脂肪肝の指標として用いられている。
- びまん性脂肪化の中に局所脂肪温存(focal sparing)を伴うと、限局性病変や腫瘤様に見えることがある。
- 逆に、局所脂肪沈着(focal fat deposition)が非典型分布を示すと、転移や炎症性病変との鑑別が問題となることがある。
びまん性脂肪肝とは?CTでの見方(L/S比)
びまん性脂肪肝は、肝臓全体に脂肪がたまった状態で、単純CTでは肝臓が脾臓より低吸収(黒っぽく)に見えます。
- 生体肝移植ドナー154例の検討では、肝/脾CT値比(L/S比)0.9が感度と特異度のバランスのよい基準で、0.8では30%以上の大滴性脂肪化を特異度100%・感度82%で診断できた(Park 2006)。
- PD後の研究では、肝CT値40HU未満、または肝が脾より10HU以上低いものを脂肪肝と定義したものがある(Kim 2026)。
術後患者では、化学療法関連肝障害、胆道系合併症、感染、アルコール性肝障害など他の肝障害も鑑別に挙がるため、単に「脂肪肝らしい」で終わらせず、術前画像との比較と臨床情報の統合が必須である。
症例 70歳代女性 PD後

術前には明らかな脂肪肝を認めていなかったが、術後フォローCTではびまん性の肝低吸収が新たに出現している。臨床経過と併せ、PD後のびまん性脂肪肝と診断される。
読影時の実践的な見方
- まず術前CTの肝吸収値と比較する
- 可能なら単純CTで肝・脾の吸収値を測定する
- 肝内のまだらな高吸収域を見た際は、focal sparingの可能性を考える
- 肝腫瘤様に見えても、分布、血管走行、既往、術後経過から脂肪分布異常を疑う
- 読影レポートでは、「PD後PEI/低栄養に伴う脂肪肝の可能性」まで言及すると臨床的価値が高い
臨床対応
- まずPEIを疑うことが重要である。
- 膵消化酵素補充療法(PERT)を適切に行い、症状、便性状、体重、栄養指標を見ながら用量調整する。
- 栄養介入として、蛋白・エネルギー補充、必要に応じた脂質投与の工夫、低栄養の是正を行う。
- 高用量消化酵素補充により、PD後脂肪肝の発症抑制を示したランダム化比較試験が報告されている。膵切除473例の検討では、消化酵素を使っていない患者の新規脂肪肝は膵体尾部切除後3%、PD後17%、膵全摘後45%であった。脂肪肝を来した患者の1年後の改善率はパンクレリパーゼ群で92%と、他の消化酵素群(51%)や無投与群(56%)より有意に高かった。
- 一方で、全例で一律に同じ効果が保証されるわけではなく、術式、残膵機能、栄養状態、化学療法の有無なども総合的に評価する必要がある。
- 併せて、アルコール、ウイルス性肝炎、薬剤性肝障害、胆道感染、胆汁うっ滞などの鑑別を行う。
まとめ
- PD後には、術前に脂肪肝がなくてもde novoにびまん性脂肪肝が出現することがある。
- この病態は、典型的な肥満関連脂肪肝とは異なり、膵外分泌不全と低栄養が中心病態となりやすい。
- 画像診断では、術前後比較と単純CTによる評価が有用である。
- 新規のびまん性肝低吸収を見た場合は、単なる偶発的脂肪肝ではなく、術後PEIや低栄養のサインとして捉えるべきである。
- 漫然と経過観察するのではなく、PERTの最適化と栄養介入を早期に行うことが、肝機能温存と全身状態改善につながる可能性がある。
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