びまん性血管損傷(DVI:Diffuse Vascular Injury)とは?

  • びまん性血管損傷(diffuse vascular injury:DVI)は、交通事故や転落などの際に脳実質に加わった慣性力による回転によって髄質の微小血管(特に髄質静脈系)や微小循環が障害され、微小出血(traumatic microbleeds:TMB)や虚血性変化をびまん性に呈する病態概念。
  • びまん性軸索損傷(diffuse axonal injury:DAI)と並行して語られることが多いが、TMBは「血管損傷の可視化」であり、軸索損傷そのものと同一ではない。
  • DAIは軸索の損傷を中核とする概念であり、典型部位(灰白質‐白質境界、脳梁、脳幹など)に病変が出やすい。一方、DVIは微小血管破綻・微小循環障害を反映し、T2*強調像やSWIで点状〜線状の低信号(TMB)として描出される。
  • Griffinらの報告によると、DVIによる外傷性微小出血(Traumatic Microbleeds: TMB)は、病理学的には血管周囲腔におけるヘモジデリン貪食マクロファージの浸潤を反映しており、SWIで描出される範囲よりも広く侵されていることが示唆されている。すなわち、TMBはDAIとは異なる病態であり、微小血管の破綻による脳血流障害や虚血が、外傷性脳障害(TBI)に関与していると推察される。
  • かつてDVIは、受傷直後から意識障害が出現し、数分から数時間で死に至る重篤な病態であると考えられていた。しかし、近年のTMBに関する検討によれば、約70%は軽度外傷性脳障害(GCS 13〜15点)であるとされる。
  • 一方で、複数の脳葉に出血を認めた症例や、massiveな出血を伴う症例においては予後が悪い傾向にある。

    びまん性血管損傷(DVI:Diffuse Vascular Injury)の画像所見

    • 重症例において頭部CTにて、脳実質のびまん性腫脹、脳溝・脳室の狭小化、白質、基底核における出血を認めることがある。しかし、微小な病変の検出においてCTの感度は限定的。
    • DVIの検出にはMRI、特にT2*強調像(T2*WI)および磁化率強調像(SWI)が極めて有用。点状・線状・結節状の低信号として描出される。これは、血液分解産物による磁化率効果(blooming effect)により、微小出血が高い感度で描出されるため。
    • 微小血管破綻による虚血やうっ血を反映してDWIで高信号、あるいは拡散亢進によるADCの高値を認める場合がある。
    • 虚血性変化を反映して、出血の周囲にT2強調像やFLAIR像で点状・結節状の高信号を認めることがある。
    • DVIにおいて特異的かつ重要な所見として、Convergent-type hemorrhageが挙げられる。側脳室前角に向かって収束するように分布する点状・線状の低信号域を示す。その分布から髄質静脈(medullary vein)の起始部の損傷による髄質静脈のうっ血・出血が原因であると推察している。Anterior caudate vein(前尾状核静脈)、Septal vein(透明中隔静脈)の静脈還流領域に一致して放射状に微小出血が配列するのが特徴。

    DVIとDAIの違い

    • DVI:微小血管損傷・微小循環障害 → T2*/SWIでTMB(点状/線状低信号)が主役
    • DAI:軸索損傷 → DWI高信号(急性期)、FLAIR高信号、DTI異常など(出血を伴う場合もある)

     

    症例

    Brain, 142: 3550-3564, 2019.

    A~Cは従来からよく知られている点状(ドット状)に見える微小出血を示している。D~Fは線状(ストリーク状)に見える微小出血を示している。この線状の形状は、血管の走行(特に静脈構造)に似た位置や方向で見られることが多く、単なる軸索(神経線維)の損傷ではなく、血管そのものの損傷(Traumatic Vascular Injury)であることを示唆している。

    参考文献

    • Griffin AD, et al: Traumatic microbleeds suggest vascular injury and predict disability in traumatic brain injury. Brain, 142: 3550-3564, 2019.
    • Iwamura A, et al: Diffuse vascular injury: convergent-type hemorrhage in the supratentorial white matter on susceptibility-weighted image in cases of severe traumatic brain damage. Neuroradiology, 54: 335-343, 2012.
    • 頭部 画像診断の勘ドコロ NEO 第3章 疾患編 15 外傷:びまん性血管損傷 P513-4
    • Griffin AD, et al. Traumatic microbleeds suggest vascular injury and predict disability in traumatic brain injury. Brain. 2019;142:3550-3564.
    • Park JH, et al. Detection of traumatic cerebral microbleeds by susceptibility-weighted image of MRI. (SWIによる外傷性微小出血の検出に関する報告). 2009.
    • Liu J, et al. Diffuse axonal injury after traumatic cerebral microbleeds. 2014.
    • Haber M, et al. Imaging biomarkers of vascular and axonal injury are spatially distinct in traumatic brain injury. 2021.
    • Susceptibility-weighted MRI(SWI)の外傷性微小出血・びまん性損傷に対する有用性に関する総説/研究(例:mTBIにおけるSWIとmicrobleedsの臨床的意義に関する報告).

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