外傷性基底核血腫(Traumatic Basal Ganglia Hematoma: TBGH)とは?

  • 頭部外傷に伴い基底核(被殻・淡蒼球・尾状核など)や近傍(内包・視床)に生じる深部脳内出血。
  • 重症頭部外傷の約3〜4%に発生すると報告されている。
  • 重篤な神経脱落症状を残す可能性があるため注意が必要である。
  • 好発部位は被殻および淡蒼球であり、尾状核頭部にも見られる。
  • 大脳基底核には中大脳動脈から分岐するレンズ核線条体動脈(Lenticulostriate arteries)が走行しており、この穿通枝が脳実質の急激な移動に伴って牽引・断裂することで出血が生じる。
  • 加速・減速や回旋を伴う高エネルギー外傷(交通外傷など)が多い。
  • 片側性が多いが両側性もある。両側性は稀で、重症損傷を示唆することがある。
  • びまん性軸索損傷(DAI)を含む重症脳損傷スペクトラムの一部として現れることがあり、初期CTで見逃さないことが重要。

外傷性基底核血腫の画像所見

  • 単純CTで基底核領域(主に被殻・淡蒼球)に境界明瞭な高吸収域(血腫)を認める。
  • 高血圧性脳出血と比較して、血腫量は小〜中等度(20ml以下)であることが多いが、稀に巨大な血腫を形成する。形状は不整であることが多い。
  • くも膜下出血、脳挫傷、頭蓋骨骨折などを合併している場合、外傷性の根拠となる。
  • 受傷直後のCTでは不明瞭であっても、数時間から数日後のFollow up CTで血腫が出現・増大する「遅発性外傷性脳内血腫(DTICH)」の形態をとることがあるため、経時的な観察が不可欠。
  • MRIは、CTでは検出困難な微細な損傷や、背景にあるDAIの評価に優れている。
  • T2*WI / SWI(磁化率強調画像)が微小出血(Microbleeds)の検出に極めて有用。基底核の血腫に加え、皮質髄質境界(Subcortical white matter)、脳梁、脳幹に点状の低信号域(含鉄血支度素の沈着)が散見される場合、強い回転加速度によるDAIの合併が示唆される。
  • DWI(拡散強調画像):受傷早期の剪断損傷による細胞性浮腫を高信号として検出する場合がある。

症例 50歳代男性 交通事故

2025 Apr 14;9(15):CASE24625. doi: 10.3171/CASE24625.より引用。

初回CT(受傷後36時間)では左基底核出血および左側頭葉に浮腫を伴う脳挫傷を認めています。

左基底核出血は外傷性基底核出血と考えられます。

いずれも15日後CTでは軽減しています。

    高血圧性脳出血との鑑別診断

    • 臨床現場において最も重要となるのが、既存の高血圧による「被殻出血」との鑑別。特に外傷の目撃がなく、傷病者が倒れている状態で発見された場合、以下のポイントが鑑別の指標となる。
    鑑別点 外傷性基底核血腫 (TBGH) 高血圧性脳出血 (被殻出血)
    好発年齢 若年者〜全年齢(事故等) 中高年
    血腫の部位 被殻、淡蒼球(多発・両側のことも) 被殻(典型的には外包へ進展)
    合併所見 頭蓋骨骨折、頭皮下血腫、DAI 左室肥大、網膜症など
    MRI (SWI) 他の部位(脳梁等)に微小出血あり 通常は局所的

     

    参考文献

    • Boto GR, et al. Basal ganglia hematomas in severely head injured patients: clinicoradiological analysis of 37 cases. J Neurosurg. 2001;94(2):224-232.
    • Adams JH, et al. Diffuse axonal injury in head injury: definition, diagnosis and grading. Histopathology. 1989;15(1):49-59.
    • Kaen A, et al. Traumatic Basal Ganglia Hematoma: A Study of 18 Cases. The Internet Journal of Neurosurgery. 2005.
    • 日本脳神経外傷学会 (監修). 頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版. 医学書院, 2019.

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