先に結論:腸腰靭帯とL5の同定
- 腸腰靭帯は腰の一番下の骨(L5)の横突起から、骨盤の腸骨稜へ張る靭帯で、腰椎MRI・CTでL5を見分ける目印としてよく使われます
- ただし腰仙移行椎(腰椎の仙骨化・仙椎の腰椎化)があると、腸腰靭帯=L5が成り立たないことがあり、椎体番号の数え間違いの原因になります
- できれば頸椎(C2)から数え、報告書にはどの方法で数えたかを書いておくと、手術部位の取り違えを防げます
腸腰靭帯はどこにある?構造と働き
- 場所:L5の横突起の先端から、左右の骨盤(腸骨稜の内側〜腸骨の後方)へ張っています。仙腸関節のすぐ上の高さです。
- 形:献体60本の観察では平均の長さ31.7mmで、1本の帯が44本、2本の帯が13本でした。L4から起始する靭帯はみられませんでした(Dąbrowski 2023)。
- 働き:L5を骨盤につなぎとめ、腰仙部の動きを制限します。献体の実験では、両側の腸腰靭帯を切ると仙腸関節の動きが大きくなりました(Pool-Goudzwaard 2003)。
L5は5つある腰椎のいちばん下の骨で、その下の仙骨との間がL5/S1椎間板です。病変の部位を示す基準になるため、L5を正しく決めることが大切です。
腸腰靱帯(iliolumbar ligament)とは?L5のランドマークになる理由。
- 腸腰靱帯は、一般にL5横突起から腸骨(後方翼〜腸骨稜)へ走行する強固な靱帯として描出されることが多い。腰椎MRIの軸位断や冠状断で、横突起外側から腸骨方向へ向かう線状構造として同定しやすい。
ランドマークとしての考え方は単純である。
- 通常の腰仙移行が保たれている症例では、腸腰靱帯はL5横突起から起始する頻度が非常に高い。
- したがって、MRI/CTで腸腰靱帯が起始している椎体(横突起)=L5と仮定できれば、そこを基準に上位・下位の椎体番号を付け直せる。
- 腰仙移行椎(lumbosacral transitional vertebra: LSTV)で「見た目がL5っぽい/S1っぽい」が混線しているとき、腸腰靱帯は“番号を振るための支点(アンカー)”として役立つ。
- 実際、腰椎MRIで腸腰靱帯を用いてLSTVの番号付けを行う手法は、画像診断領域で広く言及されてきた。(Hughes 2006)
症例 50歳代女性

腸腰靱帯を認め、L5の横突起と腸骨を結んでいることがわかります。
症例

左右の高さはやや異なりますが両側で、腸腰靱帯を認め、L5の横突起と腸骨を結んでいることがわかります。
なぜ腰仙移行椎(LSTV)で椎体番号が紛らわしくなるのか
腰仙移行椎(lumbosacral transitional vertebra: LSTV)は、
- 仙骨化(sacralization):本来のL5が仙骨様に見える
- 腰椎化(lumbarization):本来のS1が腰椎様に見える
などを含み、横突起の肥大・偽関節形成・癒合など多彩な形態をとる。その結果、腰椎単独の撮像範囲(腰椎MRI/腰椎CT)だけでは、単純に「下から数える/上から数える」方法が破綻しやすい。胸腰移行部の肋骨数や全脊椎のセグメンテーション情報が欠けるほど、混乱が増える。
重要:腰仙移行椎(LSTV)そのものでは「腸腰靱帯=L5」が崩れることがある
- LSTVや分節異常がある集団では、腸腰靱帯の起始レベルが解剖学的に変動しやすく、L5同定の信頼性が低下すると報告されている。(Farshad-Amacker 2014)
- つまり、腸腰靱帯は「便利なアンカー」ではあるが、単独での決め打ちは危険である。たとえば腰痛患者504例の腰椎MRIの検討(Shaikh 2017)では、腰仙移行部が正常な例では全例で腸腰靱帯がL5から起始していたのに対し、LSTV例でL5から起始していたのは29.3%にとどまった。また3T腰椎MRI 505例の検討では腸腰靱帯を同定できたのは85.7%で、頸胸椎を含むスカウト像に代わる確実な目印はないと結論されている(Tureli 2014)。
- 実務的には、腸腰靱帯で得た番号を「仮説」として置き、別の根拠(全脊椎カウント、胸椎肋骨、神経根形態、局在撮像)で整合性を確認するのが安全である。
読影での実践手順
1)可能なら「全脊椎」情報でカウントする
- 局在撮像(スカウト)でC2から順に数える
- 胸椎肋骨(通常12対)でT12を確定し、そこから腰椎を数える
椎体番号が治療に直結する状況(術前、ブロック前、紹介状)では、全脊椎カウントが最も堅牢である。
2)腰椎単独画像しかない場合:腸腰靱帯を「補助的」ランドマークとして使う
- 軸位像で横突起外側から腸骨へ向かう線状構造(腸腰靱帯)を探す
- 左右差があり得るため、可能なら両側で確認する
- 腸腰靱帯起始椎体をL5と“仮定”し、LSTVをL5移行かS1移行か推定する
3)レポートには「同定方法」と「不確実性」を明記する
例:「局在撮像がないため、腸腰靱帯起始レベルを基準に椎体番号を付与した」「LSTVにより椎体レベル同定に不確実性がある。術前計画では全脊椎画像での再カウントを推奨する」
腸腰靭帯・L5の数え方でよくある疑問(Q&A)
Q. 腸骨稜の高さは腰椎のどのレベルですか?
A. 左右の腸骨稜の上端を結ぶ線(Tuffier線、ヤコビー線)はL4/5の目安とされますが、ずれが大きい目印です。立位のX線200枚の検討では、男性ではL4、女性ではL5を通ることが多く(Snider 2008)、571枚の検討では正面像と側面像で1椎体以上ずれるものが68%ありました(Chowdhury 2018)。
Q. 仙骨の番号はどう数えますか?
A. 仙骨は5つの仙椎(S1〜S5)が癒合した骨で、上からS1、S2…と数え、その下に尾骨が続きます。腰仙移行椎があると、仙骨側から数えた番号がずれることがあります。
参考文献
- Hughes RJ, Saifuddin A. Numbering of lumbosacral transitional vertebrae on MRI: role of the iliolumbar ligaments. AJR Am J Roentgenol. 2006;187(1):W59-65. PubMed
- Konin GP, Walz DM. Lumbosacral Transitional Vertebrae: Classification, Imaging Findings, and Clinical Relevance. AJNR Am J Neuroradiol. 2010;31(10):1778-86. PubMed
- Farshad-Amacker NA, Lurie B, Herzog RJ, et al. Is the iliolumbar ligament a reliable identifier of the L5 vertebra in lumbosacral transitional anomalies? Eur Radiol. 2014;24(10):2623-30. PubMed
- Carrino JA, Campbell PD Jr, Lin DC, et al. Effect of spinal segment variants on numbering vertebral levels at lumbar MR imaging. Radiology. 2011;259(1):196-202. PubMed
- Shaikh A, Khan SA, Hussain M, et al. Prevalence of Lumbosacral Transitional Vertebra in Individuals with Low Back Pain: Evaluation Using Plain Radiography and Magnetic Resonance Imaging. Asian Spine J. 2017;11(6):892-897. PubMed
- Tureli D, Ekinci G, Baltacioglu F. Is any landmark reliable in vertebral enumeration? A study of 3.0-Tesla lumbar MRI comparing skeletal, neural, and vascular markers. Clin Imaging. 2014;38(6):792-6. PubMed
- Jagannathan D, Indiran V, Hithaya F, et al. Role of Anatomical Landmarks in Identifying Normal and Transitional Vertebra in Lumbar Spine Magnetic Resonance Imaging. Asian Spine J. 2017;11(3):365-379. PubMed
- Dąbrowski K, Ciszek B. Anatomy and morphology of iliolumbar ligament. Surg Radiol Anat. 2023;45(2):169-173. PubMed
- Pool-Goudzwaard A, Hoek van Dijke G, Mulder P, et al. The iliolumbar ligament: its influence on stability of the sacroiliac joint. Clin Biomech (Bristol). 2003;18(2):99-105. PubMed
- Snider KT, Kribs JW, Snider EJ, et al. Reliability of Tuffier’s line as an anatomic landmark. Spine (Phila Pa 1976). 2008;33(6):E161-5. PubMed
- Chowdhury A, Sharma H. A review of 571 radiographs on Tuffier’s inter-cristal line and its’ application in lumbar spinal surgery. J Spine Surg. 2018;4(2):383-387. PubMed
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