腸腰靱帯(iliolumbar ligament)とは?L5のランドマークになる理由。

  • 腸腰靱帯は、一般にL5横突起から腸骨(後方翼〜腸骨稜)へ走行する強固な靱帯として描出されることが多い。腰椎MRIの軸位断や冠状断で、横突起外側から腸骨方向へ向かう線状構造として同定しやすい。

ランドマークとしての考え方は単純である。

  1. 通常の腰仙移行が保たれている症例では、腸腰靱帯はL5横突起から起始する頻度が非常に高い
  2. したがって、MRI/CTで腸腰靱帯が起始している椎体(横突起)=L5と仮定できれば、そこを基準に上位・下位の椎体番号を付け直せる。
  3. 腰仙移行椎(lumbosacral transitional vertebra: LSTV)で「見た目がL5っぽい/S1っぽい」が混線しているとき、腸腰靱帯は“番号を振るための支点(アンカー)”として役立つ。
  • 実際、腰椎MRIで腸腰靱帯を用いてLSTVの番号付けを行う手法は、画像診断領域で広く言及されてきた。

症例 50歳代女性

腸腰靱帯を認め、L5の横突起と腸骨を結んでいることがわかります。

症例

左右の高さはやや異なりますが両側で、腸腰靱帯を認め、L5の横突起と腸骨を結んでいることがわかります。

なぜ腰仙移行椎(LSTV)で椎体番号が紛らわしくなるのか

腰仙移行椎(lumbosacral transitional vertebra: LSTV)は、

  • 仙骨化(sacralization):本来のL5が仙骨様に見える
  • 腰椎化(lumbarization):本来のS1が腰椎様に見える

などを含み、横突起の肥大・偽関節形成・癒合など多彩な形態をとる。その結果、腰椎単独の撮像範囲(腰椎MRI/腰椎CT)だけでは、単純に「下から数える/上から数える」方法が破綻しやすい。胸腰移行部の肋骨数や全脊椎のセグメンテーション情報が欠けるほど、混乱が増える。

重要:腰仙移行椎(LSTV)そのものでは「腸腰靱帯=L5」が崩れることがある

  • LSTVや分節異常がある集団では、腸腰靱帯の起始レベルが解剖学的に変動しやすく、L5同定の信頼性が低下すると報告されている。
  • つまり、腸腰靱帯は「便利なアンカー」ではあるが、単独での決め打ちは危険である。
  • 実務的には、腸腰靱帯で得た番号を「仮説」として置き、別の根拠(全脊椎カウント、胸椎肋骨、神経根形態、局在撮像)で整合性を確認するのが安全である。

読影での実践手順

1)可能なら「全脊椎」情報でカウントする

  • 局在撮像(スカウト)でC2から順に数える
  • 胸椎肋骨(通常12対)でT12を確定し、そこから腰椎を数える

椎体番号が治療に直結する状況(術前、ブロック前、紹介状)では、全脊椎カウントが最も堅牢である。

2)腰椎単独画像しかない場合:腸腰靱帯を「補助的」ランドマークとして使う

  • 軸位像で横突起外側から腸骨へ向かう線状構造(腸腰靱帯)を探す
  • 左右差があり得るため、可能なら両側で確認する
  • 腸腰靱帯起始椎体をL5と“仮定”し、LSTVをL5移行かS1移行か推定する

3)レポートには「同定方法」と「不確実性」を明記する

例:「局在撮像がないため、腸腰靱帯起始レベルを基準に椎体番号を付与した」「LSTVにより椎体レベル同定に不確実性がある。術前計画では全脊椎画像での再カウントを推奨する」

参考文献

  1. Hughes RJ, Saifuddin A. Numbering of lumbosacral transitional vertebrae on MRI: role of the iliolumbar ligaments. AJR Am J Roentgenol. 2006.
  2. Konin GP, Walz DM. Lumbosacral Transitional Vertebrae: Classification, Imaging Findings, and Clinical Relevance. AJNR Am J Neuroradiol. 2010.
  3. Farshad-Amacker NA, et al. Is the iliolumbar ligament a reliable identifier of the L5 vertebra in the setting of lumbosacral transitional vertebrae? Radiology/related indexed publication. 2014.
  4. Effect of spinal segment variants on numbering vertebral levels at lumbar MR imaging. Radiology. 2011.

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