頭蓋骨はいくつかの骨が組み合わさってできており、その骨と骨の結合部分を縫合線(suture)と呼びます。縫合線は解剖学的に決まった位置に存在し、多くの場合、左右対称でギザギザした形状をしています。
CT画像においては、縫合線と骨折線が類似した所見を呈することがあるため、誤診を防ぐためにもその鑑別方法を知っておく必要があります。
縫合線とは?頭蓋骨の接合部の正常構造
縫合線とは、頭蓋骨を構成する骨同士が解剖学的に接合する部位であり、生理的なギザギザとした不整な走行を示します。代表的な縫合線には以下のようなものがあります:
- 冠状縫合(coronal suture):前頭骨と頭頂骨をつなぐ縫合線
- 矢状縫合(sagittal suture):左右の頭頂骨をつなぐ縫合線
- ラムダ縫合(lambdoid suture):頭頂骨と後頭骨をつなぐ縫合線
CTでは骨条件のスキャン(bone window)にて縫合線が低吸収帯として描出され、対称性があり、皮質骨の中断や骨偏位を伴わないのが特徴です。
マイナーな縫合線には以下のものがあります。
- 鱗状縫合(squamosal suture):頭頂骨と側頭骨鱗部をつなぐ縫合線
- 前頭篩骨縫合(frontoethmoidal suture):前頭骨と篩骨をつなぐ縫合線
- 後頭乳突縫合(occipitomastoid suture):後頭骨と側頭骨乳様部をつなぐ縫合線
- 頭頂乳突縫合(parietomastoid suture):頭頂骨と側頭骨乳様突起をつなぐ縫合線
- 篩蝶形骨縫合(sphenoethmoidal suture):篩骨と蝶形骨をつなぐ縫合線
- 前頭蝶形骨縫合(sphenofrontal suture):前頭骨と蝶形骨をつなぐ縫合線
- 頭頂蝶形骨縫合(sphenoparietal suture):頭頂骨と蝶形骨をつなぐ縫合線
- 鱗状蝶形骨縫合(sphenosquamosal suture):側頭骨鱗部と蝶形骨をつなぐ縫合線
- 蝶形頬骨縫合(sphenozygomatic suture):蝶形骨と頬骨をつなぐ縫合線
- 頬骨前頭縫合(zygomaticofrontal suture):頬骨と前頭骨をつなぐ縫合線
- 頬骨側頭縫合(zygomaticotemporal suture):頬骨と側頭骨をつなぐ縫合線
この中でも頭部CTで骨折線と間違えやすいものが後頭乳突縫合(occipitomastoid suture)です。
頭部CTにおける縫合線の特徴と骨折の鑑別ポイント
頭部CT画像では、縫合線は解剖学的な位置にあるギザギザした線として描出されます。特に骨条件で観察すると、その特徴的な形状がよく分かります。縫合線のギザギザした走行は、正常な状態での見え方です。
新生児や乳幼児では、縫合線が離解(骨と骨の間が開いている状態)していることがあります。また、小児では縫合線がギザギザしておらず、直線的な透亮線として描出されることがあり、骨折線との区別が難しい場合があります。一方、成人では縫合線は骨折線とは異なり、一般的にギザギザしていて直線的ではないという特徴があります。
実際の頭部CTの骨条件に縫合線の解剖を記載しました。
連続画像で確認する場合はこちら→頭蓋骨の縫合線の頭部CT画像における正常解剖
縫合線と骨折の鑑別ポイント
頭部外傷のCT読影において、最も重要なポイントの一つが、縫合線と骨折線を正確に見分けることです。
鑑別のためのポイントは以下の通りです:
- 形状と走行: 縫合線は通常、解剖学的な位置にあり、左右対称で、ギザギザした直線的でない走行をしています。骨折線は多くの場合、直線的な透亮線として見えます。
- 位置: 縫合線は特定の解剖学的な場所にしかありません。CT画像を観察する際には、まず縫合線がどこにあるべきかを知っておくことが重要です。
- 対象性: 縫合線は左右対称に存在します。片側にだけ異常な線が見られる場合は、骨折を疑う必要があります。
- 辺縁の滑らかさ: 骨折線は辺縁がよりシャープで滑らかに見えることが多いのに対し、縫合線は辺縁がギザギザしています。
ただし、小児では縫合線が直線的に見えることがあるため、鑑別がより困難になります。また、強い外力が加わった場合には、縫合線に沿って骨折が生じることもあります。CTによる頭部外傷の評価では、骨条件で骨折線の存在を詳細に確認することが推奨されています。
以下の表は、縫合線と骨折線のCT画像上の違いを示したものです:
特徴 | 縫合線 | 骨折線 |
---|---|---|
形状 | ギザギザ(鋸歯状) | 比較的直線的 |
走行 | 解剖学的位置に一致 | 非対称・不規則 |
周囲の骨変形 | なし | 骨の偏位や皮質の中断を伴うことがある |
年齢との関連 | 小児では未癒合の縫合が残存 | 全年齢で発生 |
まとめ
縫合線と骨折線の鑑別には、CT画像読影の経験とともに正常解剖の知識が必須です。特に頭部外傷症例では、偽陽性を避けるためにも、対称性・皮質の連続性・ギザギザした形状・解剖学的位置というポイントを押さえ、慎重に評価することが求められます。
CT撮影時には骨条件(bone algorithm)と3D再構成が非常に有用であり、特に小児例では加齢による縫合の閉鎖状況も鑑別の一助となります。
参考文献・出典
- Takagi R. 頭蓋骨骨折. 臨床画像. Vol.34 No.10: 2018.
- Osborn AG. Cranio-cerebral Trauma: Diagnostic Neuroradiology. Mosby, 1994.
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