先に結論:子宮頸部の嚢胞性病変(Naboth嚢胞・LEGH・胃型腺癌)

  • 子宮頸部の嚢胞の多くはNaboth嚢胞(良性・経過観察不要)ですが、分葉状頸管腺過形成(LEGH)は胃型腺癌の前駆病変となることがあります
  • WHO女性生殖器腫瘍分類 第5版(2020)では、頸部腺癌はHPV関連とHPV非依存性に分けられ、HPV非依存性で最も多いのが胃型腺癌(gastric-type adenocarcinoma)です(Lee 2022)。旧来の悪性腺腫・最小偏倚腺癌(MDA)は、胃型腺癌のうちきわめて高分化なものとして胃型腺癌に含めて扱います(Talia 2018;Molero 2023)
  • MRIでは、LEGHは頸部の上方に集まる小嚢胞の中心に充実部がある「コスモスの花」状の形が特徴で、充実部が多い・境界が不整・造影されるなら胃型腺癌を疑います
  • LEGHの癌化は多くなく、69例の経過観察では1.4%(1例)で、増大や細胞診の悪化が癌化を疑う目安でした
  • 水様の帯下はLEGHや胃型腺癌の手がかりで、疑わしい場合は細胞診・組織診と経過観察を行います

子宮頚部に発生する嚢胞性病変は、日常診療で頻繁に遭遇するMRI所見の一つです。

大半は良性であるものの、中には前癌病変あるいは初期の腺癌が紛れていることもあり、慎重な評価が求められます。

特に近年では、LEGH(分葉状頚管腺過形成)を起点として、腺癌に進展する可能性が報告されており、“良性~前癌~悪性”の連続スペクトラムとして理解することが重要です。

■ 子宮頚部に見られる代表的な嚢胞性病変:4つの基本概念

用語 略称 良性/前癌/悪性 解説
Naboth嚢胞 ― 良性 頚管腺の出口が塞がることで分泌液が貯留した保持嚢胞。癌化のリスクはなく、フォロー不要。
分葉状頚管腺過形成 LEGH 良性~前癌 胃型の頸部腺病変のうち良性の側に位置する腺過形成(Talia 2018;Molero 2023)。一部は胃型腺癌(GAS)の前駆病変(precursor lesion)と考えられている。
胃型腺癌 GAS 悪性 WHO分類 第5版(2020)の「HPV非依存性腺癌・胃型」。胃の幽門腺に似た粘液を産生する腺癌で、HPV関連腺癌より予後が悪い(Talia 2018)。LEGHを背景にした発生が報告されている。
最小偏倚腺癌(悪性腺腫) MDA 悪性(旧称。現在は胃型腺癌に含める) 胃型腺癌のうち極めて高分化なもの。現在は独立した組織型としてではなく、胃型腺癌(高分化)として扱われる(Talia 2018;Molero 2023)。

■ 図式で理解する:4者の関係性

Naboth嚢胞(良性の保持嚢胞)※ここからは癌化しない
│
└───×(LEGHとは無関係)

LEGH(分葉状頚管腺過形成)←胃型病変の良性の側。前癌的要素あり
│
↓(異型を伴うLEGH・胃型上皮内腺癌 gAIS)
↓
胃型腺癌(GAS、HPV非依存性)
 └ きわめて高分化なもの = 旧称:最小偏倚腺癌(MDA)/悪性腺腫

※LEGHは“良性だけど癌とつながっているかもしれない”病変でNaboth嚢胞とは無関係。
LEGHから胃型腺癌への進展は示唆されているが、はっきり証明されたわけではない(Molero 2023)。WHO分類 第5版(2020)では、上皮内腺癌もHPV関連と胃型(gAIS)に分けて扱う(Höhn 2021)。

■ MRIでの所見比較と鑑別ポイント

項目 Naboth嚢胞 LEGH 胃型腺癌(旧MDAを含む)
形状 単発or多発の保持嚢胞 分葉状、多嚢胞性構造 不整なmass状 or solid成分を含む
造影効果 なし 腺間質の軽度造影 明らかな造影増強あり
DWI・ADC 高値 中間~やや高値 低値
cosmos pattern × ◎:中心に小嚢胞、周囲に大嚢胞が花状に分布 ×:構造は不整
mass effect なし 軽度あり 明らかにあり

症例 年齢不詳

ナボット嚢胞 MRI T2強調像 横断像
引用:Radiopaedia(Nabothian cysts)

子宮頸部に大小さまざまな嚢胞が多数集まっており、T2強調像で高信号を示しています。嚢胞の信号強度は一つ一つでやや異なります。多発する比較的大きなナボット嚢胞の例です。

■ cosmos pattern(コスモスパターン)の詳細解説

LEGHのMRI T2WIで見られる中心に小嚢胞、周囲に中等大嚢胞が円形に配列するパターンが、まるで“コスモスの花を真上から見たような構造”に見えることから、cosmos patternと名付けられました。胃型粘液陽性病変(LEGH・胃型粘液性癌)の診断におけるcosmos patternの感度は63.1%、特異度は87.9%と報告されています。さらにcosmos pattern部が頸部間質よりT1強調像で低信号の場合は特異度95.5%に上がり、Naboth嚢胞(T1等〜高信号が多い)との鑑別に役立ちます(Ohya 2021)。

この所見はLEGHに特徴的ですが、厳密には胃型粘液を産生する病変(LEGHと胃型腺癌)に共通してみられうる所見で、LEGHを背景にしたGASでも認められることがあります。そのため、cosmos patternの存在はLEGH(良性 or 前癌)の可能性を示唆する視覚的手がかりとなります。

■ LEGHの癌化の確率は?

LEGHとして経過観察された69例(平均57.1か月)では、12例が増大(腫瘍径20%超)や細胞診の悪化で手術を受け、2例が異型を伴うLEGH、1例が最小偏倚腺癌(現在の胃型腺癌の高分化型)でした。癌化は1.4%(1/69)で、残る57例は大きさも細胞診も変わりませんでした。増大率38.1%を区切りにすると癌化などを感度84.6%・特異度100%で拾えました(Kobara 2020)。

術前診断には、MRIのcosmos sign、胃型粘液の検出、細胞診で核異型がないことの組み合わせが重要で、若い患者さんでは慎重な経過観察も選択肢とされています(Miyamoto 2022)。

■ 最小偏倚腺癌(MDA)とは?

異型が非常に弱く正常の頸管腺とよく似ているため、細胞診や小さな組織検査で見逃されやすい腺癌です。旧来は悪性腺腫(adenoma malignum)・最小偏倚腺癌と呼ばれてきましたが、現在は胃型腺癌(HPV非依存性)のきわめて高分化なものとして胃型腺癌に含めます(Talia 2018;Molero 2023)。WHO分類 第5版(2020)では頸部腺癌をまずHPV関連かHPV非依存性かで分け、胃型腺癌はHPV非依存性の代表です(Lee 2022)。胃型腺癌はp16が陽性になることもあり、免疫染色だけで判断しない点にも注意が要ります(Höhn 2021)。LEGHと症状や組織像が似ています(Miyamoto 2022)。MRIでは充実部や境界の不整がLEGHとの見分けのポイントです。

■ まとめ

  • Naboth嚢胞は良性で、癌化のリスクはなし。
  • LEGHは良性〜前癌で、cosmos patternがMRIで診断のヒントに。
  • GAS(胃型腺癌、旧称MDAを含む)は悪性腫瘍で、LEGHとの連続性が示唆されている。
  • MRIでは、嚢胞の分布、造影効果、DWIのADC値、mass effectの有無を統合的に評価。

Q. ナボット嚢胞とは?原因は?
A. 頸管腺の出口が扁平上皮化生などでふさがり、粘液がたまってできる袋です。症状がなければ治療は不要です。水っぽいおりものが続くなど気になる症状があれば、婦人科で相談してください。

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