子宮頚部に発生する嚢胞性病変は、日常診療で頻繁に遭遇するMRI所見の一つです。
大半は良性であるものの、中には前癌病変あるいは初期の腺癌が紛れていることもあり、慎重な評価が求められます。
特に近年では、LEGH(分葉状頚管腺過形成)を起点として、腺癌に進展する可能性が報告されており、“良性~前癌~悪性”の連続スペクトラムとして理解することが重要です。
■ 子宮頚部に見られる代表的な嚢胞性病変:4つの基本概念
用語 | 略称 | 良性/前癌/悪性 | 解説 |
---|---|---|---|
Naboth嚢胞 | ― | 完全に良性 | 頚管腺の出口が塞がることで分泌液が貯留した保持嚢胞。癌化のリスクはなく、フォロー不要。 |
分葉状頚管腺過形成 | LEGH | 良性~前癌 | 良性の腺過形成だが、一部は胃型腺癌(GAS)の前駆病変(precursor lesion)と考えられている。 |
胃型腺癌 | GAS | 悪性 | 粘液産生に富む悪性腺癌。LEGHからの連続的発生が報告されている。 |
最小偏倚腺癌 | MDA | 悪性(GASの亜型) | 極めて分化度の高い腺癌であり、LEGH → MDA → GAS と進行する場合がある。 |
■ 図式で理解する:4者の関係性
Naboth嚢胞(良性の保持嚢胞)※ここからは癌化しない │ └───×(LEGHとは無関係) LEGH(分葉状頚管腺過形成)←良性過形成だが前癌的要素あり │ (構造的・分子的にGAS/MDAと似ている) ↓ MDA(最小偏倚腺癌)← 高分化型の悪性腺癌 ↓ GAS(胃型腺癌)← 低分化でより悪性度が高く、浸潤性が強い ※つまり、LEGHは、“良性だけど癌とつながっているかもしれない”病変でNaboth嚢胞とは無関係。
LEGH → MDA → GAS へと“連続的に進展する”ことがあり、MRIや病理での早期発見と慎重な経過観察が重要。
■ MRIでの所見比較と鑑別ポイント
項目 | Naboth嚢胞 | LEGH | GAS / MDA |
---|---|---|---|
形状 | 単発or多発の保持嚢胞 | 分葉状、多嚢胞性構造 | 不整なmass状 or solid成分を含む |
造影効果 | なし | 腺間質の軽度造影 | 明らかな造影増強あり |
DWI・ADC | 高値 | 中間~やや高値 | 低値 |
cosmos pattern | × | ◎:中心に小嚢胞、周囲に大嚢胞が花状に分布 | ×:構造は不整 |
mass effect | なし | 軽度あり | 明らかにあり |
■ cosmos pattern(コスモスパターン)の詳細解説
LEGHのMRI T2WIで見られる中心に小嚢胞、周囲に中等大嚢胞が円形に配列するパターンが、まるで“コスモスの花を真上から見たような構造”に見えることから、cosmos patternと名付けられました。
この所見はLEGHに特徴的で、GASやMDAでは基本的に見られません。そのため、cosmos patternの存在はLEGH(良性 or 前癌)の可能性を示唆する視覚的手がかりとなります。
■ まとめ
- Naboth嚢胞は良性で、癌化のリスクはなし。
- LEGHは良性〜前癌で、cosmos patternがMRIで診断のヒントに。
- GAS(胃型腺癌)およびMDAは悪性腫瘍で、LEGHとの連続性がある。
- MRIでは、嚢胞の分布、造影効果、DWIのADC値、mass effectの有無を統合的に評価。
参考文献
- Okamoto Y, et al. MRI imaging of uterine cervix lesions. J Gynecol Cancer. 2014.
- 臨床放射線 Vol.64 No.7:壁在結節を伴う嚢胞性腫瘤の症例では、ADC値やcosmos patternが鑑別に有用
- Nucci MR, McCluggage WG. Lobular endocervical glandular hyperplasia. AJSP 2011.
- Nucci MR, et al. Lobular endocervical glandular hyperplasia: a benign mimic of minimal deviation adenocarcinoma. AJSP. 1999.
- Kojima A, et al. Gastric-type mucinous carcinoma of the uterine cervix. Int J Gynecol Pathol. 2007.
- 臨床放射線 Vol.64 No.7(2019):「子宮頚部腺系病変のMRI」特集。
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