ナボット嚢胞(Nabothian cyst)は、子宮頸部の移行帯(transformation zone)に好発する良性の貯留嚢胞であり、婦人科MRI検査で非常に高頻度に遭遇します。

ナボット嚢胞(Nabothian cyst)

  • 子宮頸部の移行帯(transformation zone)に生じる頻度の高い良性嚢胞。
  • 子宮頸管の腺組織(頚管腺)の開口部が扁平上皮により覆われることで、腺分泌物の出口が閉塞し、分泌物が腺内に貯留することで形成されます。これがナボット嚢胞であり、炎症やホルモン環境の変化なども形成に関与するとされています
  • 充実性部分を伴わない境界明瞭な類円形嚢胞を呈する。
  • 核異型や核分裂像は認めない。
  • 通常、無症候性で経過観察が可能な所見。過去の画像との比較や、月経周期に伴うサイズ変化なども診断の参考になる。
    しかし、嚢胞の増大、壁の肥厚、内部充実性成分の出現などが認められた場合は、他の病変(LEGHや悪性腫瘍)との鑑別が必要

ナボット嚢胞の画像診断上の特徴

  • 大きさ:数mm〜1cm程度の嚢胞で、多発することが多い
  • 形状:境界明瞭な類円形の嚢胞で、充実成分を伴わない
  • T1WI:内容物の蛋白濃度によって低〜高信号
  • T2WI:通常は高信号
  • 造影効果:通常はなし

多発例では、嚢胞間に正常な頸部間質が介在しているのが特徴的で、これにより浸潤性病変との鑑別に寄与する。

症例 50歳代女性

Nabothian cyst

子宮頚部に境界明瞭な多数の嚢胞性病変を認め、Naboth嚢胞が疑われます。

病理的所見と鑑別診断

ナボット嚢胞は基本的に良性であり、核異型や核分裂像を認めないことが特徴です。診断の際は、以下の疾患との鑑別が重要になります。

  • 子宮頸管腺過形成(LEGH):多発嚢胞の集合体に見えることがあり、ナボット嚢胞と画像上の鑑別が困難な場合もあります
  • 悪性腺腫・胃型腺癌(GAS):特にLEGHの一部は前癌病変として捉えられるため注意が必要

なお、LEGHやGASとの明確な鑑別には腫瘍マーカーや精査MRI、時に組織診断が必要となります。

■ 図式で理解する:4者の関係性

Naboth嚢胞(良性の保持嚢胞)※ここからは癌化しない
│
└───×(LEGHとは無関係)

LEGH(分葉状頚管腺過形成)←良性過形成だが前癌的要素あり
│
(構造的・分子的にGAS/MDAと似ている)
↓
MDA(最小偏倚腺癌)← 高分化型の悪性腺癌
↓
GAS(胃型腺癌)← 低分化でより悪性度が高く、浸潤性が強い

※つまり、LEGHは、“良性だけど癌とつながっているかもしれない”病変でNaboth嚢胞とは無関係。
LEGH → MDA → GAS へと“連続的に進展する”ことがあり、MRIや病理での早期発見と慎重な経過観察が重要。

まとめ

ナボット嚢胞はMRIでしばしば偶然見つかる良性病変ですが、画像上での鑑別が難しい病変が存在するため、適切なフォローアップと鑑別診断の知識が求められます。特にLEGHやGASといった病変と混同しないよう、形態的特徴や造影効果、腫瘍マーカー、月経周期との関連を総合的に評価することが重要です。

参考文献:

  • Okamoto Y, et al. MRI imaging of the uterine cervix. J Gynecol Cancer 24: 147-152, 2014

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