手関節の腱鞘炎(tenosynovitis)
- 腱組織が腱鞘の狭窄部や骨の隆起部を滑動するなどの繰り返す慢性的な刺激が腱周囲に加わり、炎症を引き起こすことが多い。
- ゴルフ・テニスなどのラケットスポーツ、体操、重量挙げなどで多い。
- 手関節の負荷が強いと腱の変性や断裂を伴うこともある。
手関節背側の伸筋腱の解剖
- 手関節背側部を走行する腱は手関節の近位で橈尺骨のくぼみを取り巻く背側手根靭帯により6区画に分類される。
橈側から、
- 第1区画:長母指外転筋腱、短母指伸筋腱
- 第2区画:長・短橈側手根伸筋腱
- 第3区画:長母指伸筋腱
- 第4区画:総指伸筋腱、示指伸筋腱
- 第5区画:小指伸筋腱
- 第6区画:尺側手根伸筋腱
とされ、各区画に腱鞘が存在する。
- 伸筋腱の腱鞘炎ではこれらのうち、第1区画と第6区画に腱鞘炎が多いとされる。De Quervain腱鞘炎(de Quervain tenosynovitis)は、急性もしくは反復性の外傷に伴う狭窄性腱鞘炎で、第1区画である長母指外転筋腱、短母指伸筋腱に生じる。
交差点/腱交差症候群(intersection syndrome)
- 手指の伸筋腱は近位&遠位の2か所で交差する。
- 近位側:第1区画および第2区画の伸筋腱交差部(上図)→慢性的な機械的刺激が生じやすく、腱鞘炎や腱の変性・断裂が起こり、”intersection syndrome”と呼ばれる。リスター結節(Lister結節)の約4cm近位で起こる。De Quervain腱鞘炎(de Quervain tenosynovitis)と似た手関節橈側の疼痛や腫脹を生じるが、症状はde Quervain腱鞘炎よりやや近位側に認める。
- 遠位側:第2区画および第3区画の伸筋腱交差部→リスター結節(Lister結節)の直上からやや遠位部で起こりdistal intersection syndromeと呼ばれる。
- 近位側のintersection syndromeがより頻度が高く、テニス、バドミントン、ラクロスなどのラケットスポーツや、スキー、乗馬などのように手関節を固定しつつ回内外動作をくり返すスポーツにみられる。
- MRIでは、いずれもそれぞれの区画の腱周囲に浮腫や液体貯留を認める。
症例 30歳代男性
引用:radiopedia
長母指外転筋(APL) および 短母指伸筋(EPB) が 長橈側手根伸筋(ECRL)および短橈側手根伸筋(ECRB)腱と交差する箇所の腱鞘内の液体による軟部組織の腫れおよび浮腫を認めています。
(近位の)交差点/腱交差症候群(intersection syndrome)を疑う所見です。
参考文献:
- 必ず診療に役立つ スポーツ傷害の画像診断 P126-8
- 画像診断 Vol.39 No.6 2019 P569-571
- 画像診断 Vol.41 No.1 2021 P80-1