メトトレキサート(methotrexate:MTX)とは?
- メトトレキサート(メソトレキセート/メソトレキサート)(methotrexate:MTX)はシヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬であり、葉酸拮抗薬で、骨髄形成に必要なメチオニンの合成阻害を起こす。
- 関節リウマチ(RA)をはじめとする自己免疫性疾患、白血病や絨毛癌などの治療に用いられる。
- ホモシスチンからメチオニンへの合成経路が阻害されるため、血中ホモシステイン濃度が上昇する。
メトトレキサート脳症(MTX脳症)(methotrexate-related leukoencephalopathy)とは?
- MTXは薬剤性白質脳症の原因として最も頻度が高い。
- 機序は明らかでないが、アデノシンの蓄積、NMDA受容体への興奮作用、ホモシステイン上昇など複数の機序が考えられている。
- MTXの髄腔内あるいは脳室内投与で出現し易く、大量投与および放射線照射との併用により頻度が増す。
- MTXによる脳症は急性、慢性MTX脳症がある。
急性MTX脳症
- 急性MTX脳症では使用後から2〜4週間後に頭痛、嘔気、倦怠感、精神状態変化などの神経症状が出現する。
- MTX使用患者の11~68%の患者にみられるが、症状を伴うものはそのうち10%以下と報告されている。
- 中止後速やかに改善することが多い。
- 突然の片麻痺や運動失調や言語障害で発症することがあり、症状から卒中様症候群(stroke-like syndrome)ともよばれる。
- MRIにて比較的左右対称性の大脳白質病変を認めることが多いが、局所病変、片側の場合や基底核に病変を認めることもある。そのため、脳梗塞と誤診しないように注意が必要。
- 拡散強調像は早期から高信号を示しADC低下を認める。
- 造影T1強調像ではリング状あるいは結節状の増強効果を示すことがある。
- MTX使用後にPRES(Posterior reversible encephalopathy syndrome)や進行性多巣性白質脳症(propgressive multifocal encephalopathy:PML)を発症することが知られている。ADC低下を示す病変も投与中断により急速に改善しうるため、一過性の代謝障害による細胞性浮腫を見ていると考えられている。
- 放射線照射併用や高用量投与、髄腔内投与例で急激な神経症状の悪化をきたす例では、播種性壊死性脳症(disseminated necrotizing encephalopathy:DNE)の可能性があり、深部白質病変に結節状やリング状の増強効果が出現する。播種性壊死性脳症の名称は化学療法による脳症全般で使われるが、MTXに関係するものが最も多い。CT所見で病変に石灰化を伴うことが知られている。画像では播種性壊死性脳症ではより広範な病変となり、生存例では後に石灰化をきたすことが多い。放射線療法との併用では投与後数年の経過で基底核や皮髄境界に異栄養性石灰化を呈することがあり、mineralizing microangiopathyとよばれるが、臨床症状との関連は明らかでない。
症例 成人例
両側左右対称性に半卵円中心に白質変性あり。U-fiberは保たれています。
メトトレキサート脳症と診断されました。
引用:radiopedia
慢性MTX脳症
- 慢性MTX脳症では月あるいは年単位の経過で発症し、片麻痺や運動失調などの症状が緩徐に進行する。
- 6歳以下の小児に多く、高用量では治療から数週間〜数ヶ月で発症、中等量では12〜24ヶ月後に発症することが多い。
- 放射線治療を併用することで発症頻度が上昇するが、放射線照射に伴う白質脳症との鑑別が困難なことがある。
- 慢性MTX脳症ではT2強調像やFLAIR像では深部白質に斑状の高信号を認め、拡散強調像では信号変化をきたすことは少ない。1回の画像検査のみでは、加齢性変化や、慢性虚血性変化との見分けにくい。
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参考文献:
- 臨床画像 Vol.34 No.4増刊号,2018 P91-2
- 臨床放射線 Vol.63 No.6 2018 P665
- 頭部画像診断の勘ドコロ P235
- 頭部 画像診断の勘ドコロ NEO P237-9