先に結論:下顎骨骨折
- 下顎骨骨折は顔面骨折で鼻骨に次いで多く、関節突起・下顎角・体部に多く起こります。U字型の骨なので2か所以上折れることもあり、反対側も確認します
- 関節突起骨折はあごの先を打った力が伝わって起こり、骨片は外側翼突筋に引かれて前・内・下方へずれます
- 関節突起の骨折には、あごの中央や反対側の骨折を伴うことが多く、片側の関節突起骨折でも43.8%に反対側の傍正中部骨折、両側の関節突起骨折では67%に正中部骨折がありました(Reddy 2013)。骨折を1か所見つけたら、下顎全体を見直します
- パノラマとCTの感度は報告で結果が分かれます。ずれのない(非転位の)骨折ほど見逃されやすいので、症状があるときはCTで確かめます(Markowitz 1999;Roth 2005;Wilson 2001)
- CTでは咬み合わせのずれ・歯の損傷・下顎管(下歯槽神経)との関係・気道の腫れもあわせて評価します
下顎骨骨折(mandibular fracture)の原因と頻度
- 顔面骨骨折において鼻骨骨折に次いで頻度が高く、孤立性あるいは他の顔面骨骨折と併せて生じる。
- 原因としては暴行、交通外傷が多く、その他として落下、スポーツ外傷など。
- 若い男性に多い。米国の外傷データベースの解析では、男性が78〜80%を占め、年齢の中央値は28〜32歳、原因は暴行(37〜42%)、交通事故(22〜31%)の順であった(Adik 2023)。
- 骨折部位としては関節突起、角部、体部で特に多い。
- 関節突起部の骨折では偏位を示す例では顎関節により高度の障害を起こすことがある。
- 下顎骨には咀嚼筋や舌骨上筋など多くの筋が付着するため骨折片は付着する筋により特徴的な偏位を来たし歯列の断裂と咬合不全を生じる。
- 咬合不全・顎関節機能の回復が骨折修復治療の目的となる。下顎骨骨折42例の前向き研究では、ヘリカルCTの感度は100%で、パノラマ断層撮影(86%)より見逃しが少なかった。パノラマで見逃された7骨折のうち6つは下顎の後方部であり、CTで新たに骨折が見つかった6例では手術方針が変わった。
下顎骨骨折のCT画像診断と分類

下顎骨骨折は上のように分けられ、中でも
- 関節突起
- 角部
- 体部
の骨折の頻度が高いと報告されています。
関節突起骨折
- 介達骨折が起こる。
- 関節包に包まれている下顎頭骨折と、包まれていない関節突起骨折に分類される。
- 外側翼突筋が付着しているため、小骨片は前下内方に偏位する。
- 歯列全体が偏位するため、咬合不全が起こる。
症例 5歳男児

引用:Radiopaedia
左下顎骨関節突起骨折を認め、骨片は前下方内側に偏位していることがわかります。

関節突起には外側翼突筋が付着しているため、骨折により前下方内側に偏位します。
角部骨折
- 直達・介達骨折がある。
- 近位骨片(下顎枝側)は閉口筋(咬筋・側頭筋・内側翼突筋)に牽引されて上方へ、遠位骨片は舌骨上筋群に牽引されて下方へ偏位する。
- 埋没智歯に注意する。
- 軟部組織の腫脹による気道狭窄に注意。
- 下顎管(下歯槽神経、下歯槽動静脈、リンパ管が走行)の損傷に注意。知覚鈍麻や神経麻痺を起こすことがある。
介達骨折と多発骨折:下顎全体を見直す
- 下顎骨は左右の顎関節をもつU字型の1つの骨です。打撲した場所から離れた部位が折れる介達骨折や、両側・多発の骨折を考え、オトガイ部(あごの先)を打ったときは関節突起の骨折を疑います。
- 関節突起骨折175例の検討では、片側の43.8%に反対側の傍正中部骨折が、両側の67%に正中部骨折が合併していました。片側が58.8%、両側が41.1%でした(Reddy 2013)。
- 読影では、骨折の部位と本数、骨片のずれと粉砕、両側の関節突起、歯・歯槽骨・下顎管を順に確認します。
パノラマX線とCTの使い分け
- 前述の前向き研究(Wilson 2001)ではCTの感度が高かった一方、CT(helical CT)とパノラマで骨折の数と部位に有意な差はなく、CTのほうが読影者間の一致が高かったという報告があります(骨折の数と部位が一致した割合:CT 96%、パノラマ91%)(Roth 2005)。
- 33骨折・21例の前向き比較では、4つの検査の感度に有意差はなく、骨片のずれがないことが見逃しの最大の要因でした。冠状断CTが最も正確で、軸位CTは下顎角部の骨折を標準撮影より見逃しました(Markowitz 1999)。
下顎管(下歯槽神経)と骨折のずれ
- 下顎骨骨折208例(237骨折)の後ろ向き研究では、受傷時に下歯槽神経の障害(感覚の低下)があったのは31.2%で、6か月以上続いたのは1.3%でした。術前CTで骨皮質のずれの合計が9.61mmを超えると、感覚低下のリスクが高く(オッズ比7.9)、下顎管そのもののずれは予測に限界がありました(AUC 0.63〜0.64)(Ritschl 2026)。1施設の研究で、閾値は他施設での検証が必要です。
下顎骨骨折でよくある疑問(Q&A)
Q1. 下顎の骨折は1か所だけのことが多いですか。
いいえ。関節突起骨折175例では、反対側の傍正中部や正中部の骨折の合併が43.8〜67%にありました(Reddy 2013)。1か所見つけたら、下顎全体と両側の関節突起を確認します。
Q2. パノラマで骨折がなければ、CTは不要ですか。
ずれのない骨折はどの検査でも見逃されやすいとされます(Markowitz 1999;Roth 2005)。咬み合わせのずれや痛みが続くときは、CTで確かめます。
※顔やあごを強く打ったあとに、咬み合わせがずれる、口が開きにくい、唇やあごがしびれるなどの症状があるときは、早めに救急外来や歯科口腔外科を受診してください。
参考文献:
- 頭頸部の臨床画像診断学(第3版) P858-865
- すぐ役立つ救急のCT・MRI(第2版) P348-349
- Dreizin D, Nam AJ, Tirada N, et al. Multidetector CT of Mandibular Fractures, Reductions, and Complications: A Clinically Relevant Primer for the Radiologist. Radiographics. 2016;36(5):1539-64. PubMed
- Wilson IF, Lokeh A, Benjamin CI, et al. Prospective comparison of panoramic tomography (zonography) and helical computed tomography in the diagnosis and operative management of mandibular fractures. Plast Reconstr Surg. 2001;107(6):1369-75. PubMed
- Adik K, Lamb P, Moran M, et al. Trends in mandibular fractures in the USA: A 20-year retrospective analysis. Dent Traumatol. 2023;39(5):425-436. PubMed
- Reddy NV, Reddy PB, Rajan R, et al. Analysis of patterns and treatment strategies for mandibular condyle fractures: review of 175 condyle fractures with review of literature. J Maxillofac Oral Surg. 2013;12(3):315-20. PubMed
- Roth FS, Kokoska MS, Awwad EE, et al. The identification of mandible fractures by helical computed tomography and panorex tomography. J Craniofac Surg. 2005;16(3):394-9. PubMed
- Markowitz BL, Sinow JD, Kawamoto HK Jr, et al. Prospective comparison of axial computed tomography and standard and panoramic radiographs in the diagnosis of mandibular fractures. Ann Plast Surg. 1999;42(2):163-9. PubMed
- Ritschl LM, Schwaiberger B, Pippich K, et al. Preoperative CT displacement predicts inferior alveolar nerve injury in mandibular fractures: a tool for clinical risk stratification. Clin Oral Investig. 2026;30(8). PubMed
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