先に結論:反回神経の走行と嗄声(声のかすれ)
反回神経は迷走神経の枝で、声帯を動かす筋肉のほとんどを支配する神経です。いったん胸の中まで下りてから血管の下をくぐって折り返し(反回)、気管と食道のあいだの溝を上って喉頭に戻ります。
| 右反回神経 | 左反回神経 | |
|---|---|---|
| 折り返す場所 | 右の鎖骨下動脈の下 | 大動脈弓の下(動脈管索のそば) |
| 長さ | 短い | 長い(縦隔の中を通る) |
| 麻痺の主な原因 | 甲状腺の手術・甲状腺癌、肺尖部の腫瘍など | 甲状腺の病気に加え、大動脈瘤・肺癌・縦隔リンパ節転移・食道癌など |
左のほうが経路が長いため麻痺を起こしやすく、原因不明の嗄声(させい)では首から縦隔まで(大動脈弓のレベルまで)CTで反回神経の通り道を確認します。
嗄声とは
- 音声は、声帯が閉鎖し、呼気がこれを振動させることにより発せられる。
- 嗄声とは「しゃがれ声」の意味であり、声帯閉鎖不全および声帯振動様式の不規則な変動が要因である。嗄声を起こす原因は以下の3つに大別される。
嗄声の原因
- 喉頭の器質的疾患
- 声帯運動にかかわる神経の障害
- 発声器官の過労や機能性発声障害
喉頭の器質的疾患による嗄声の原因
- 声帯結節
- 声帯ポリープ
- 喉頭蓋炎
- 喉頭癌
- 深部感染症(扁桃周囲膿瘍、後咽頭膿瘍、Ludwig angina、Lemierre症候群)
- 喉頭異物
- 血管浮腫
- 全身疾患(アナフィラキシー、重症筋無力症、粘液水腫、皮膚筋炎・多発性筋炎、アミロイドーシス)。
反回神経麻痺による嗄声
- 声帯を動かす内喉頭筋は主に迷走神経の分枝の反回神経にて支配されている。
- 反回神経は索状構造で、右が鎖骨下動脈、左が大動脈の下面を反回したのち同側の気管食道溝に沿って上行し、下咽頭収縮筋の下縁深部、輪状甲状関節、甲状軟骨下角背側を通過、下喉頭神経として輪状甲状筋以外すべての喉頭内因筋を支配する。また、喉頭内因筋は横披裂筋を除くすべてが左右対を成すが、その横披裂筋のみが反回神経の両側支配を受ける。
- 術中、外科医は通常、胸郭入口部において反回神経を同定、頭側に向かって喉頭への進入を確認する。
- 気管食道溝では右側よりも左側でより密接に気管食道溝を走行する。CTで声帯麻痺そのものを示す信頼できる所見は、患側の梨状陥凹の拡大、患側の披裂喉頭蓋ひだの内側偏位と肥厚、患側の喉頭室の拡大の3つです。さらに患側の咽頭収縮筋の萎縮があれば、反回神経より中枢側(迷走神経)の障害を考えます(Chin 2003)。
http://hkytt2004.wilbo.jp/2011/08/25/より引用
反回神経走行路の画像所見
水色:迷走神経
黄緑:反回神経
と神経の走行路に色を付けてみました。

※右反回神経は右鎖骨下動脈の起始部(腕頭動脈が分かれるところ)のレベルで迷走神経から分かれ、右鎖骨下動脈の下をくぐって上行する。

※左反回神経は大動脈弓部の下レベルで迷走神経から起始して上行する。そのため声帯麻痺の精査CTでは、左側は大動脈肺動脈窓(APウィンドウ)、右側は腕頭動脈のレベルまで縦隔を撮影範囲に含めることが重要です(Paquette 2012)。
という点が重要です。
迷走神経・反回神経麻痺の原因
- 脳幹の腫瘍・出血
- 頸静脈孔腫瘍
- 頚部リンパ節病変
- 頚動脈瘤
- 甲状腺腫瘍
- 鎖骨上窩の病変(リンパ節転移など)
- 大動脈弓下リンパ節転移の反回神経浸潤
- 弓部大動脈瘤
- 胸部悪性腫瘍(食道癌・肺癌・縦隔腫瘍など)の反回神経直接浸潤、
- 外傷性、医原性(甲状腺・食道・肺の手術、気管挿管による損傷)

症例 70歳代男性 嗄声

大動脈弓部に瘤を疑う所見の突出あり。迷走神経の走行路であり、嗄声の原因と考えられます。

ちなみに6年前の画像では弓部の瘤の突出はそれほど目立たず経時的に増大していることがわかります。
大動脈弓部の瘤による嗄声と診断されました。
参考)
反回神経リンパ節とは?
反回神経に沿って気管食道溝に並ぶリンパ節で、胸部食道癌703例では右反回神経リンパ節の転移率が最も高く(22.62%)、食道癌の転移先として重要です(Li 2026)。
※声のかすれが続くときは医療機関で相談してください。
実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの胸部CTの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。全体の見方は胸部CTの縦隔の解剖にまとめています。
参考文献
- Paquette CM, Manos DC, Psooy BJ. Unilateral vocal cord paralysis: a review of CT findings, mediastinal causes, and the course of the recurrent laryngeal nerves. Radiographics. 2012;32(3):721-40. PubMed
- Hurtarte Sandoval AR, Carlos Zamora R, Gómez Carrasco JM, et al. Ortner’s syndrome: a case report and review of the literature. BMJ Case Rep. 2014;2014:bcr2013202457. PubMed
- Chin SC, Edelstein S, Chen CY, et al. Using CT to localize side and level of vocal cord paralysis. AJR Am J Roentgenol. 2003;180(4):1165-70. PubMed
- Paddle PM, Mansor MB, Song PC, et al. Diagnostic Yield of Computed Tomography in the Evaluation of Idiopathic Vocal Fold Paresis. Otolaryngol Head Neck Surg. 2015;153(3):414-9. PubMed
- Li Z, Dong K, Lv H, et al. Analysis of lymph node metastasis distribution patterns and dissection efficacy in thoracic esophageal cancer. Eur J Surg Oncol. 2026;52(8):111917. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →

