髄膜炎症のMRI画像所見(総論)
髄膜炎を診断する上で、おおまかには下記の所見に注目しましょう。
- FLAIR像のくも膜下腔の高信号(FLAIR sulcal hyperintensity)。脳脊髄腋に異常がなくても起こりえる。
- T2強調像やFLAIR像での炎症髄膜に隣接する脳回の腫脹や皮質下白質の低信号(subcortical low intensity;SCLI)。頻度は10%程度。
※これがあるときは髄膜増強効果もあり、髄膜炎の活動性とともに変化。機序はフリーラジカルの一過性増加。
※髄膜炎の他に、ウイルス性脳炎、髄膜転移、初期の皮質虚血性変化、多発性硬化症、Sturge-Weber症候群、もやもや病でも見られる。 - 造影後の局所性またはびまん性の髄膜異常増強効果。
- 拡散強調像で脳表に沿う高信号。
造影の撮像法は?
髄膜病変の異常増強効果を正確に検出するには、造影脂肪抑制T1WI>造影FLAIR像>造影T1WIの順に優れているとの報告あり。
髄膜炎の分類
- 細菌性(化膿性) ※結核は細菌だけど個別に扱われる。
- 結核性
- 無菌性(≠ウイルス性)
- 感染性(ウイルス性、真菌性、寄生虫性)
- 非感染性(自己免疫性、薬剤性、化学性など)
細菌性髄膜炎
細菌性髄膜炎の画像所見
所見感度が低いので、造影MRIで髄膜の異常増強効果がなくても髄膜炎は否定できない。
病初期
- 脳溝不明瞭化(炎症性滲出物)
- 脳回腫脹(脳浮腫)
- 皮質下白質のT2強調像低信号化(フリーラジカル関与)
- pia-subarachnoidパターン(軟髄膜優位型)の造影効果
細菌性髄膜炎(重症化)
- dura-arachnoidパターンの増強効果
- 交通性/非交通性水頭症
- 脳室炎
- 硬膜下水腫(とくに小児)/蓄膿
- 脳膿瘍
- 脳梗塞(動脈性・静脈性)
(Postgrad Med J.86:478-485,2010)
ウイルス性髄膜炎
- 病原ウイルスは同定できないことが多い。
- エンテロウイルスが多い。その他、ムンプスウイルス、アデノウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、Epstein-Barrウイルスなど。
- 画像所見上は、通常は脳炎(VZVやHSV-1)にならないとわからないことが多い。(髄膜炎のみでは一般的に異常所見なし。)
ウイルス性髄膜炎の画像所見
- 脳溝不明瞭化(炎症性滲出物)
- 脳回腫脹(脳浮腫)
- PS(pia-subarachnoid)パターン(軟髄膜優位型)の造影効果
症例 30歳代男性 頭痛、しゃべりづらさ
FLAIRで左前頭葉ー頭頂葉の脳溝沿いに異常な高信号を認めています。
SAHや髄膜炎などを疑う所見です。
造影前のT1WIでは造影効果を認めませんが、造影MRIで脳溝に造影効果を認めています。
また、髄液所見などから、ウイルス性髄膜炎と診断・加療されました。
結核性髄膜炎(tuberculous meningitis)
- 脳底槽髄膜炎(脳底槽の軟膜優位(PS pattern)の増強効果)の頻度が高く、交通性水頭症を起こしやすい。
結核腫:
- 皮髄境界や脳室近傍
- 非乾酪性→充実性乾酪性→液化乾酪性結核腫の時期がある。 非乾酪性期には均一な増強効果。液化乾酪性期では輪状増強効果。
(MR imaging.Neuroradiology,31:299-302,1989)
症例 30歳代男性 肺結核、HIV陽性
引用:radiopedia
脳底部において軟髄膜に広範な造影効果を認めており、髄膜炎を疑う所見です。
結核があり、結核性髄膜炎(tuberculous meningitis)を疑う所見です。
30歳代にしては側脳室下角の開大を認めており、交通性水頭症があると診断できます。
また、左小脳には結核腫を疑う造影効果を認めています。
関連記事:側脳室の解剖とCT画像所見(前角、体部、三角部、後角、下角)
神経サルコイドーシス(neurosarcoidosis)
- サルコイドーシスの5%に中枢神経病変(neurosarcoidosis)あり。
- 神経サルコイドーシスでは脳神経や視床下部、下垂体、脳実質、軟膜、硬膜などに小さい結節や腫瘤を認め、MRI所見は非常に多彩。
- 軟膜から連続し血管周囲腔へ浸潤をきたし、血管周囲腔の走行に一致した増強効果がみられることがある。
- 脳実質内病変を認めることがあるが、血管周囲腔に沿った進展が多い。
- 硬膜肥厚も高頻度(30~50%)で出現。→軟膜、くも膜、硬膜すべてにわたる髄膜の炎症所見(PS patternからDA patternへ)は画像診断の手がかりの1つとなる。
- 慢性髄膜炎による水頭症や視床下部/下垂体病変による尿崩症を合併症とする。
症例 10歳代女性
引用:radiopedia
左小脳半球の表面の広範な浮腫および脳溝に沿った造影効果(肉芽腫を示唆する結節、粒状)を認めています。
髄膜の生検で神経サルコイドーシスと診断されました。
症例 60歳代男性
引用:radiopedia
下垂体とその漏斗は、びまん性かつ均一に肥大し、強い造影効果を認めます。
唾液腺生検によりサルコイドーシスと診断され、神経サルコイドーシスによる下垂体病変と診断されました。
その後、ステロイド治療により、病変は縮小。
関連記事:脊髄サルコイドーシス、神経サルコイドーシスの画像診断
抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連肉芽腫性血管炎
- かつてのWegener肉芽腫症。今後はANCA関連肉芽腫性血管炎と呼ばれる。
- 鼻腔周囲、肺、腎臓が好発の難治性血管炎を特徴とする全身性壊死性肉芽腫症。
- 髄膜病変の合併は少なく(4 ~11%)、髄膜のみ病変が認められる症例は全体の1%未満である。
- 画像所見はびまん性、局所性の硬膜肥厚と増強効果が多い。
右硬膜に沿って造影効果の増強を認めています。
肥厚性硬膜炎を疑う所見です。
動画で学ぶ肥厚性硬膜炎
特発性肥厚性硬膜炎 (IHP:idiopathic hypertrophic pachymeningitis)
- IHPは脳や脊髄硬膜の線維性肥厚を特徴とする慢性炎症性疾患で、慢性片頭痛に類似した通日性拍動性頭痛や多発神経麻痺をきたす。
- 診断には他の疾患を除外する必要あり。
- 蝶形骨翼などの頭蓋底、小脳テント、大脳鎌、頚椎や上部胸椎に局所性もしくはびまん性の増強効果を伴う硬膜肥厚が認められる。
- T2強調像で病変は低信号、部位により軽度高信号を呈する。
IgG4関連髄膜炎
- IgG4関連髄膜炎でも硬膜肥厚がみられる。
- 組織学的にリンパ球形質細胞性の浸潤を示す髄膜炎症を示しIHPに類似することがあるが、IgG4陽性の形質細胞浸潤が確認されることで診断される。
髄膜炎症が低頻度の疾患
- 無菌性髄膜炎は中枢神経系ループス(CNS-SLE) の所見の1つである。3%に見られる。多いのはクリプトコッカス髄膜炎(45%)、リステリア髄膜炎 (18%)。
- Behcet病では静脈血栓症に合併した進行性の髄膜肥厚が報告されている 。
- 関節リウマチではIHPに類似した肥厚性硬膜炎および、近年はリウマチ性軟髄膜炎の報告あり。
薬剤性髄膜炎と化学性髄膜炎
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、特にイブプロフェンによる髄膜炎の報告は40例を超えて最も多い。
- 抗菌薬ではST合剤によるものが多い。
- 画像では異常所見を認めない。
参考文献:
- 臨床画像2011年10月P1192-1202 髄膜の炎症疾患
- 頭部 画像診断の勘ドコロ P222-4
- 新版 所見からせまる脳MRI P110