一過性大腿骨頭萎縮症(TOH:transient osteoporosis of the hip)
- 一過性の急性の股関節痛と大腿骨頭の骨粗鬆症を来す原因不明の疾患。
- もともと妊娠後期の女性に見られるとされてきたが、妊娠していない女性や中年男性にも多く見られることがわかってきた。
- Regional migratory osteoporosiに移行することがある。
- 原因は、神経性変化、虚血性変化、ホルモンの関与などが言われているが不明。
- 経過は良好で症状は一過性。2-12ヶ月で軽快する。
- 出産後に起こることがあるが、その場合は両側性に起こる。
- 一旦経過した後に数ヶ月おいて別の関節に同様の病態を来すことがあり、migratory osteoporosisとも呼ばれる。中年男性に好発するが原因はわかっていない。TOHとの鑑別は移動したかどうかで後から判断することしかできない。これらを総称して、transient bone marrow edema syndrome(BMES)という疾患名が最近では使用されることがある。
一過性大腿骨頭萎縮症の画像所見
- 単純X線にて、関節裂隙の狭小化を伴わない大腿骨頭~頸部の骨粗鬆症(骨萎縮、骨透亮像)を通常片側性に認める。骨頭の圧潰、破壊はみられない。
- 骨シンチグラフイでは大腿骨頭から頚部に均一なびまん性の集積が見られるが、MRIにより必要性は低下している。
- MRIでは、大腿骨頭~頚部にかけてSTIR像や脂肪抑制併用T2強調像で広範な高信号となる。一般的にMRIではこの骨髄浮腫以外の所見がないのが特徴。
- 骨頭に線状の低信号域は認めない。(しかしこれは原則であり、実際は軟骨下に線状低信号を認めることがある。この点から、若年発症の軟骨下脆弱性骨折(SIF)が自然治癒したものが一過性大腿骨頭萎縮症(TOH)であると言われたり、TOHからSIFに移行するのではないかとも言われている。)
- また発症初期には骨頭内側がspareされる。
- 関節液貯留を認めることがある。
- 鑑別としては、大腿骨頭壊死が問題になるが、この場合、壊死骨を示唆する低信号縁に囲まれた領域が存在する点が一助となる。ただし、大腿骨頭壊死でも急性期にはびまん性の骨髄浮腫を認めるため、経過観察も重要。
症例 40歳代女性 数週前より右股関節の痛みあり。
右大腿骨頸部〜大腿骨頭にT1WIにて低信号、STIRにて広範な高信号あり。
骨髄浮腫の所見であり、明らかな骨折線は認めない。一過性大腿骨頭萎縮症を疑う所見。
症例 40歳代男性 1ヶ月前から誘引なく左大腿前面痛の出現あり。
左大腿骨頸部〜大腿骨頭にT1WIにて低信号、STIRにて広範な高信号あり。
骨髄浮腫の所見であり、明らかな骨折線は認めない。一過性大腿骨頭萎縮症を疑う所見。
外傷や感染のない大腿骨頭の骨髄浮腫の鑑別診断
- 大腿骨頭壊死:ただし壊死部には骨髄浮腫を認めないので他との鑑別になる。
- 疲労骨折 ( 軟骨下脆弱性骨折 )
- 一過性大腿骨頭萎縮症
参考)