ESPRESSO腹部救急画像診断 復習症例26

症例26

【症例】50歳代 男性
【主訴】心窩部〜左上腹部痛
【現病歴】1週間前に心窩部〜左上腹部に激しい痛みあり。近医受診も感染性腸炎として経過観察された。4日後再度近位受診し、憩室炎疑いとされ、抗生剤内服で経過観察された。以後も症状持続するため、当院受診。
【身体所見】記載なし。

【データ】WBC 9100、CPR 2.42

画像はこちら

脾臓の一部が低吸収域となっており、脾梗塞を疑う所見です。

その原因はと、腹腔動脈から脾動脈を追おうとすると、腹腔動脈に解離腔(血栓性閉鎖型)を認めており、周囲脂肪織濃度上昇を認めています。

やや見えにくいですが、解離腔は脾動脈まで及んでいることがわかります。

脾動脈を追っていくと、解離は脾動脈のほぼ全域に及んでいることがわかります。

 

診断:腹腔動脈ー脾動脈の解離による脾梗塞

 

※保存的に加療され、症状や解離の増悪は認めませんでした。

※(大動脈解離を伴わない孤立性の)腹腔動脈解離を認めた場合、80%程度で、分枝である総肝動脈、脾動脈にも解離腔が及ぶと報告されています。今回総肝動脈は腹腔動脈ではなく上腸間膜動脈(SMA)から分岐している症例であり、総肝動脈への解離は認めませんでした。

関連:

その他所見:

  • 肝嚢胞散見。
  • 膵嚢胞あり。

 

症例26の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。


過去のコメント
  1. 最初に脾臓の造影不良域には
    気づきました。
    心房細動とかの既往も無さそうなので
    じーっと眺めていると
    あ…これかなという感じでした。
    ここまでに少し時間が経過して
    しまいましたが…
    周囲の脂肪織の濃度上昇には
    気づきませんでした。

    横行結腸や膵尾部も少し造影不良域な
    感じがしますが、
    脾動脈からの分岐の後膵動脈と、下膵動脈
    が影響を受けているのでしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >横行結腸や膵尾部も少し造影不良域な
      感じがしますが、

      膵尾部に嚢胞がありそうですね。
      造影不良はなさそうです。

  2. お世話になっています。

    症例を重ね診断のプロセスがなんとなく身についてきた気がします。

    一番目立つ脾梗塞を発見 → 脾梗塞の原因検索 → 腹腔動脈解離、脾動脈の造影不良を確認 → 腹腔動脈からの分岐血管および支配臓器を確認 → 総肝動脈がSMAから分岐することと肝臓に造影不良がないことを確認 → 胃動脈、胃壁に造影不良がないことを確認 → 最終的に、腹腔動脈解離および脾梗塞合併と診断。

    次回も頑張ります。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >一番目立つ脾梗塞を発見 → 脾梗塞の原因検索 → 腹腔動脈解離、脾動脈の造影不良を確認 → 腹腔動脈からの分岐血管および支配臓器を確認 → 総肝動脈がSMAから分岐することと肝臓に造影不良がないことを確認 → 胃動脈、胃壁に造影不良がないことを確認 → 最終的に、腹腔動脈解離および脾梗塞合併と診断。

      完璧ですね(^o^)

      >その他の所見ですが、冠状断で膵臓体尾部付近に嚢胞性病変があるように見えます。主膵管とは連続せず造影効果も認めません。
      膵嚢胞でよろしいでしょうか、または、MRI(MRCPなど)を撮影しないと鑑別は難しいでしょうか?

      嚢胞でよさそうです。
      もちろんMRIを追加すればなお良いですが情報はそれほど増えないかも知れませんね。

  3. 再度すいません。

    その他の所見ですが、冠状断で膵臓体尾部付近に嚢胞性病変があるように見えます。主膵管とは連続せず造影効果も認めません。
    膵嚢胞でよろしいでしょうか、または、MRI(MRCPなど)を撮影しないと鑑別は難しいでしょうか?

  4. 塞栓か解離か迷いましたが,よく考えたら塞栓ならばほぼ全域に近い梗塞像となりそうですね.
    復習症例もありがとうございました.

  5. 解説ありがとうございます。
    関連解説にある、慢性期脾梗塞の凹みがある形が特徴的ですね。
    知らなければ、???となりそうだなと思いました。
    梗塞部位を補う感じで周囲が腫大するのですね。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >慢性期脾梗塞の凹みがある形が特徴的ですね。

      慢性期の場合はそうですね。

      腎臓でも脾臓でも梗塞後の慢性期には凹みますね。

  6. 孤立性の解離というのがあるのですね…「塞栓」としてしまいました。

    「解離」と聞くと、「動脈が汚い」人が多いイメージだったのもあり、正解に至りませんでした( ̄▽ ̄;)
    そして、解離して変になっている血管は、意外と追いづらいなと思いました(一瞬脾動脈がよく分かりませんでした)笑。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >解離して変になっている血管は、意外と追いづらいなと思いました

      今回はちょっと静脈との重なりがあったりで、たまたまだと思いますよ。
      動画内でも苦労していた記憶があります。

  7. こんばんは。いつもお世話になっております!
    脾臓の造影不良域から脾梗塞と判断することはできたのですが、そこから梗塞の原因を探るのに脾動脈を辿る過程で、横断像スライス19あたりの脾動脈末梢部位の低吸収域が目立っていたので、この低吸収部位を塞栓子の存在部位と推定してしまいました。
    ここで満足してさらに脾動脈を近位まで追う作業を怠ってしまったため、解離を疑うことができませんでした。日頃のつめの甘さが露呈してしまいました。
    しっかり復習しておきます!

    1. アウトプットありがとうございます。

      今回脾動脈を追うのがちょっと難しいですね。
      ただし、腹腔動脈の解離所見および周囲脂肪織濃度上昇にまずは気付きたいところですね。

  8. 復習症例も今回で終了ですね。ありがとうございました。
    脾の低吸収域から腹腔動脈解離にたどり着きました。腹腔動脈解離は初めてでした。
    上腸間膜動脈の解離、閉塞は耳にしたり、経験もありますが、腹腔動脈では起こりにくいのでしょうか。
    虫垂もびっくりするほど長く、左の大腰筋付近まで伸びていますね。(間違っていないといいのですが。)

    1. アウトプットありがとうございます。

      >上腸間膜動脈の解離、閉塞は耳にしたり、経験もありますが、腹腔動脈では起こりにくいのでしょうか。

      そうですね。上腸間膜動脈の解離よりは頻度は低いですね。
      ただし、画像診断のポイントは同じなので戸惑いなく診断できますね(^^)

      >虫垂もびっくりするほど長く、左の大腰筋付近まで伸びていますね。(間違っていないといいのですが。)

      それは虫垂ではなく回腸末端ですね。虫垂は右の総腸骨動脈の腹側に見えています。

      (コメントが消えてしまう件、原因追求中です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。)

      1. ありゃまあ、虫垂を間違えてしまい、お恥ずかしい。
        冠状断像で「本当の虫垂」がはっきり見えました。

  9. 貴重な症例ありがとうございます。
    こういうシチュエーションだと単純CTをまずオーダーしてしまいそうなのですが、この症例の単純CTがもしあれば見られないでしょうか?単純でも腹腔動脈付近がおかしいことに気づけますかね?

    1. アウトプットありがとうございます。

      残念ながら単純CTはこの症例はありません。
      むしろ単純CTだけ提示したいくらいですが・・・。

      単純ですと新しい解離の場合は腹腔動脈周囲の脂肪織濃度上昇を認める点で指摘は可能です。

  10. 脾臓は赤色髄の存在で造影不良に見えると教えていただきましたが、脾梗塞との鑑別はどうした良いですか?また本症例では胃幽門部の肥厚があるように見えたのですが、如何でしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >脾臓は赤色髄の存在で造影不良に見えると教えていただきましたが、脾梗塞との鑑別はどうした良いですか?

      脾臓が、不均一な斑状または縞状の造影パターンを呈するのはあくまで動脈相ですので、今回の平衡相のみの撮影で認めたいた場合は正常ではない造影不良を考えます。

      >胃幽門部の肥厚があるように見えたのですが、如何でしょうか?

      幽門側はしばしば正常でも壁肥厚様に見えることがありますので、注意が必要です。

      関連
      https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/37798

  11. 今回は総肝動脈の走行に破格がある症例でしたが、腹腔動脈に解離or血栓があった場合には、脾臓だけでなく肝臓や胃(左胃動脈)にも梗塞があらわれやすいものなのでしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      破格がない症例よりは少なくとも肝臓への梗塞の可能性は高まると考えます。
      ただし、左胃動脈や総肝動脈への梗塞が起こるかどうかは解離腔がどこに向かうかによると思いますのでケースバイケースでしょうね。