梗塞(こうそく)といえば、脳梗塞心筋梗塞が有名ですね。

梗塞とは、血流が途絶えて組織が壊死に陥ることを言います。

ですので、脳や心臓に限ったことではありません。

例えば、臓器●●が梗塞になることを●●梗塞と言います。
左腹部にある脾臓(ひぞう)への血流が少なくなったり、途絶えると脾臓は梗塞に陥り、脾梗塞(ひこうそく)と言います。
今回は、この脾梗塞について

  • そもそも脾梗塞とは?
  • 脾梗塞の原因
  • 脾梗塞の症状
  • 脾梗塞の画像診断
  • 脾梗塞の治療

などについて図(イラスト)と実際のCT画像を用いてわかりやすく解説します。

脾梗塞とは?

脾臓への血流が途絶えて、脾臓の全体もしくは一部が壊死に陥ってしまうことを脾梗塞と言います。

脾臓は末端動脈であり、脾臓に血流を送る脾動脈以外からの血流がないため、梗塞を起こしやすい臓器と言えます。

通常は脾臓の一部が梗塞に陥ります。

脾梗塞の原因は?

脾梗塞の原因としては、脾臓を栄養する血管が血栓などで詰まったり、血液疾患により生じることが有名です。
原因としては大きく、

  • 血液疾患
  • 塞栓症
  • 血栓症
  • その他

に分けられます。

一般的に、脾梗塞の原因として40歳以上の場合は血栓などで血管が詰まる塞栓症、40歳以下の場合は血液疾患が多いとされます1)
全体としては、塞栓症による脾梗塞が原因の中でも最多です。
1つ1つ見ていきましょう。

血液疾患

血液疾患としては、

  • 骨髄線維症(髄外造血が循環不全を起こすため)
  • 自己免疫性溶血性貧血
  • 悪性リンパ腫
  • 白血病
  • 骨髄腫

などが原因となります。

塞栓症

血管が何かで詰まってしまう原因としては、

  • 血栓
  • 敗血症性塞栓(septic emboli)
  • 動脈瘤・動脈硬化

などがあります。

血栓による塞栓症が原因として最多で、心内膜症、心房細動、左室血栓などの心原性血栓が中でも最多です。

また肝硬変や白血病などで脾臓が大きくなりすぎて(脾腫(ひしゅ)という)、脾臓の機能を抑えたいときに治療としてあえて脾梗塞を起こすことがあります。

脾動脈にコイルや塞栓物質を留置して部分的な脾梗塞を作る治療で、部分的脾動脈塞栓術(Partial splenic embolization:PSE)と言います。

このPSE(読み方はそのまま「ピーエスイー」)もこの塞栓の範疇に分類されます。

血栓症

血栓ができてしまうことにより血管が細くなり脾梗塞になる原因としては

  • 血管炎
  • 膵炎
  • 腫瘍浸潤(膵癌が多い)
  • 脾捻転

が挙げられます。

その他

そのほか、Gaucher病という代謝性疾患が原因になることがあります。
また原因が特定できない特発性のケースもあります。

脾梗塞の症状は?


脾梗塞の症状には

  • 突然の持続する左側腹部痛・左上腹部痛といった痛み
  • 発熱
  • 呼吸困難
  • 悪心・嘔吐

などがあります。
ただし、慢性的な血液疾患の場合、無症状のことも多いです。

脾梗塞のCT画像診断は?

脾梗塞の画像所見は梗塞が起こっている急性期と、瘢痕・繊維化した慢性期で異なります。

診断が重要となるのは急性期です。

急性期の画像所見

脾梗塞では、造影剤を用いたCT検査、MRI検査が診断に有用です。

造影CTやMRIでは、典型的には、単発もしくは複数の楔状の造影不良域として描出されますが、円形や不整形の場合もあります。

楔状の辺縁には薄い被膜の造影効果が残ることがありますが、被膜からの血流と考えられています。

造影剤を用いない単純CTでは、周囲の正常脾臓よりも低吸収域として描出されます。

ただし、梗塞部位に出血を生じることがあり(出血性梗塞と言います)、その場合は低吸収域の内部に高吸収域を未tめることがあります。

エコー(腹部超音波検査)でも楔状もしくは地図状の低エコー域として描出されますが、早期には描出困難なことが多いです。

症例 80歳代男性 発熱・左側腹部痛


腹部造影CTの横断像です。
脾臓に楔状の造影不良域を認めています。
典型的な脾梗塞のCT画像所見です。
精査の結果、心原性血栓が原因と診断されました。

症例 80歳代女性 左腰部痛

腹部造影CTの横断像です。
先ほどの症例と同じように、脾臓に楔状の造影不良域を認めています。
典型的な脾梗塞のCT画像所見です。

冠状断像では脾臓の他に左腎臓にも造影不良域が見られ、脾梗塞+腎梗塞と診断されました。
こちらの症例も精査の結果、心原性血栓が原因と診断されました。

症例 60歳代男性 白血病

造影剤を用いていない腹部単純CTの横断像です。
著明な脾臓の腫大(脾腫)を認めており、その内部に楔状の周囲脾実質よりも低吸収域を認めています。
脾腫+脾梗塞と診断されました。
白血病が背景にあり、血液疾患が原因となり脾梗塞が起こったことがわかります。

慢性期の画像所見

発症から時間が経過したものは、線維化による収縮により、凹みを残して治癒します。
そして、代償性に周囲の脾臓が肥大を認めます。
稀に石灰化を伴うことがあります。

症例 80歳代男性 発熱・左側腹部痛 最初の症例と同様

急性期と比べると慢性期は梗塞部位は凹み、周りに肥大を認めています。

脾梗塞の治療は?

脾梗塞単独の場合は、治療を要することは少なく、厳重に経過観察される(保存的療法)ことが多いです。

むしろ原因となっている病気に対する治療を優先するべきとされています。

ただし、脾梗塞の結果、梗塞部位に破裂して遅発性の出血(脾破裂)を生じたり、膿瘍(のうよう)を形成した場合はドレナージ術や外科手術など治療を要することがあります。

予後は脾破裂や脾膿瘍を生じなければ良いとされています。

脾梗塞と鑑別すべき疾患は?

脾梗塞は腫瘍ではなく、壊死病変なのですが症状がない場合などは充実性病変と鑑別が必要になることもあります。
鑑別するべき疾患としては、

  • 転移性脾腫瘍
  • 悪性リンパ腫
  • 血管肉腫
  • 過誤腫
  • 血管腫
  • リンパ管腫
  • 脾膿瘍

などが挙げられます。

最後に

脾梗塞についてまとめました。
ポイントをまとめると

  • 脾臓を栄養する動脈は終末動脈であり、何らかの原因で詰まったり狭窄が起こると脾梗塞を起こしやすい。
  • 脾梗塞の原因は大きく4つに分けられる。
  • その中でも心原性による血栓が脾動脈に飛んで塞栓されることが原因として最多。
  • ただし40歳以下の場合は血液疾患が原因として多い。
  • 症状としては、左腹痛や腰痛といった痛みのほか、発熱、悪心嘔吐、呼吸苦などがある。
  • CTによる画像診断では楔状の造影効果不良域が典型的だが、円形や不整形の場合もある
  • 治療は、通常保存的に経過観察されることが多いが、脾破裂や脾膿瘍を伴った場合は、外科治療やドレナージ術などが必要となることがある。

となります。
脾梗塞は、左腹痛や腰痛の原因となり、また早期の場合はエコーや単純CTといった画像検査では検出できないこともありますので、造影剤を用いた検査が必要となります。

参考文献:
1)肝胆膵の画像診断―CT・MRIを中心に (『画像診断』別冊KEY BOOKシリーズ) P489

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