ESPRESSO腹部救急画像診断 復習症例24

症例24

【症例】20歳代 男性
【主訴】昨日の朝からの腹痛
【身体所見】腹部:平坦、軟、右下腹部に圧痛あり。反跳痛なし。筋性防御なし。

【データ】WBC 9800、CRP 1.72

画像はこちら

盲腸に3層構造を保った著明な壁肥厚を認めています。

盲腸から出ていく虫垂にも壁肥厚、造影効果増強、周囲脂肪織濃度上昇を認めています。

ですので、急性虫垂炎がおこり、盲腸に炎症が波及していると考えられます。

 

冠状断像を見てみましょう。

虫垂は肥厚し、盲腸でとくに壁肥厚が目立ちます。

よく見ると上行結腸にも軽度ですが、3層構造を保った壁肥厚を認めています。

虫垂炎の炎症波及とするとかなり遠いですね・・・。

実はこの症例、非常に悩ましい症例です。

 

ストーリー① 虫垂炎→盲腸への炎症波及

とすると、上行結腸に認める壁肥厚が説明がつきません。いくら虫垂の炎症が激しくても上行結腸の上の方までは及ばないはずです。

 

ということは、逆に!!!逆の発想です。

 

ストーリー② 盲腸炎→虫垂への炎症波及

ならどうでしょうか?

 

これならば、上行結腸への炎症があることも説明は可能です。

回盲部でとくに炎症が強い右半結腸炎があり、盲腸部で炎症が強いために虫垂に及んだというストーリーです。

 

結局この方は保存的に加療され、症状、炎症所見ともに軽快したため、どちらが正解なのかはわかりません。

どちらかといえば、ストーリー②の方が正しそうです。

一流バリスタDr.Tの淹れ方

なかなか悩ましい症例ですが、

自分なら「盲腸(上行結腸近位)主体の腸炎>虫垂炎の疑い」と読影レポートに書くかなとは思います。
根拠は
1.一番炎症が強そうなところが盲腸の壁肥厚の部分である
2.小腸にもところどころ浮腫状・拡張の変化がある(虫垂炎による炎症波及にしては、分布が一様でない。)
3.虫垂を炎症の中心とした場合、大腸や小腸に見られる炎症性変化の範囲が広すぎるわりに、腸間膜への炎症波及が弱い。

といったところでしょうか。
実際は虫垂摘出をしないと答えはでないですが、炎症の首座がどこかということを念頭に置くと、上記のような回答になります。
最近は虫垂炎の手術自体がほとんどやられなくなってきているので、たしかに治療方針にはあまり影響無いかもしれませんね。

 

診断:右半結腸炎(盲腸主体)および炎症の虫垂波及>虫垂炎および盲腸主体に炎症波及

 

実際、このような悩ましい症例は現場ではあるかと思います。
微妙な症例も提示して欲しいというリクエストがありましたので、今回あえて答えが曖昧なこの症例を提示してみました。

※治療方針としてはまずは保存的にとなりますが、施設によっては虫垂炎として手術されるケースもありそうです。

 

関連:

その他所見:回盲部に小リンパ節あり。

 

症例24の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。


過去のコメント
  1. 解説を見て少し新鮮な気分になりました (゚o゚;;

    実は、個人的に、(それ自体が問題ですが(・・;)、)虫垂炎が鑑別に上がっていませんでした。画像を見て、「右半結腸炎」がまず飛び込んできて、盲腸の変化に隠れてか(「虫垂も簡単に同定できるな」とは確かに思ってはいましたが)、「虫垂炎」だとは微塵も思わず、という感じでした。

    今回の症例、もしかすると、プロになればなるほど悩む症例なのかもしれません。他の方の解答が気になります(╹◡╹)

    1. アウトプットありがとうございます。

      非常に難しい症例ですね。

      盲腸の壁肥厚ばかりに目が行く人
      虫垂の壁肥厚ばかりに目が行く人
      その相関関係まで考えられる人

      さまざまですね。

      ただ、
      虫垂炎→盲腸に及び盲腸が壁肥厚を起こす
      盲腸炎→虫垂におよび虫垂が壁肥厚を起こす

      この両者があることはこの機会に覚えておきましょう。

  2. この様な症例、非常に為になります。

    あちらこちらに炎症所見があるような気がしたのでなんだろう?
    と思いつつ、上行結腸〜盲腸付近
    が怪しいと感じました。
    じーっと見ていると虫垂?のようなものが
    壁肥厚しているので、
    結局、急性虫垂炎と判断してしまいました。

    2通りの考え方で攻める方法もあるのですね。
    この前、似たような症例と出会ったのですが、外科の先生は回盲部の炎症、
    私は虫垂炎?と意見が出たので、
    先生は回盲部炎症+虫垂炎と答えを出されていたと思います。
    今から思うと回盲部炎症が虫垂に、波及したと見るのが正しかったのかなと反省しています。

    悩ましい症例ですが、こういう回答の出し方もあるのですね。

    回答の仕方が大変参考になりました。
    ありがとうございます!

    質問なのですが
    回盲部の小リンパ節は
    冠状断像の26〜30スライスあたりの
    回盲部の左あたりの
    小さい丸のようなものでしょうか?
    これは白っぽいので血管でしょうか?
    画像を直接貼れればいいのですが…
    貼り方がわかりませんので
    言葉だとわかりにくくてすみません。
    よろしくお願します。

    急性虫垂炎

    1. すみません、動画拝見しました。
      小リンパ節は
      30スライス目の白いポツポツしたものでしょうか?

      1. 回盲部の小リンパ節は
        冠状断像の26〜30スライスあたりの
        回盲部の左あたりの
        小さい丸のようなもの

        で合ってますよ。

    2. アウトプットありがとうございます。

      >先生は回盲部炎症+虫垂炎と答えを出されていたと思います。
      今から思うと回盲部炎症が虫垂に、波及したと見るのが正しかったのかなと反省しています。

      そうですね。同じような悩ましい症例はたくさんありますよね。

      >回盲部の小リンパ節は
      冠状断像の26〜30スライスあたりの
      回盲部の左あたりの
      小さい丸のようなものでしょうか?

      合ってます!複数ありますね。

      1. 白っぽいので造影された血管
        だと思いましたがリンパ節なのですね。
        ありがとうございました。

  3. お世話になっています。

    私も「右側結腸有意な大腸炎で虫垂や回腸にも炎症がおよぶ、しかも比較的、盲腸に限局した炎症が見られる」と読みました。
    ただし、「虫垂炎で、炎症が上行結腸全体に及ぶようなことがあるのか?」と言うことで虫垂炎の可能性はかなり低そうと考えました。そこで、食事の記載はなっかたのですが、アニサキスなら盲腸から広範囲に炎症が起きても良いのではないだろうかと思い、「右側結腸炎、またはアニサキス」という所見としました。

    これからは、「広範囲に炎症がおよぶ虫垂炎も存在する」ということを念頭において読影したいと思います。

    1. アウトプットありがとうございます。

      腸管の3層構造を保った壁肥厚が局所的であるという点で、アニサキスは鑑別に挙がるかもしれませんが、

      アニサキス症腸炎の画像所見の特徴として、

      ・局所的な腸管の壁肥厚(3層構造は保たれる)
      ・腸間膜の浮腫
      ・腹水を伴う

      という特徴があり、後半2つが見られない点や、
      小腸に多いのでその点もちょっと可能性という点では低くなるかも知れませんね。

      >これからは、「広範囲に炎症がおよぶ虫垂炎も存在する」ということを念頭において読影したいと思います。

      そうですね。
      腸管の方向というよりは漿膜側、虫垂周囲に広範囲に波及することの方が多いですね。
      それこそ破綻して膿瘍形成して、周囲に炎症が波及して腹膜炎を起こすという方向ですね。

  4. 遅くなりましたが・・・
    今回とても勉強になる良い症例だったと思います.
    まずは炎症がどこに起きているのか.その後その関係をどう考えるか.やはりこのあたりが読影を専門にされる放射線科の先生方の腕の見せ所というか,面白いところなのかなと思いました.
    そして,そのレベルの問題が出てくるような,この講座のレベルの高さを感じました.漫然と教科書の症例を体験するだけではなく,そのような深い読影を目標に頑張って勉強したいと思いました.

    1. アウトプットありがとうございます。

      >その後その関係をどう考えるか.やはりこのあたりが読影を専門にされる放射線科の先生方の腕の見せ所というか,面白いところなのかなと思いました

      そうですね。炎症が起こっている元はどこなのかは、所見が目立つ症例ほど難しくなる傾向にありますね。

      >漫然と教科書の症例を体験する

      そうですね。連続画像でやはり見ないと今回のような症例は書籍のみでは伝わらないでしょうね。

  5. こんばんは。毎日お世話になっております。
    今回は、なんの迷いもなく急性虫垂炎としてしまいました。
    「急性虫垂炎ならば、ここまで炎症の範囲が広いのは不自然」という感覚がまだ身についていませんでした。
    ただし、腸管周囲の脂肪織濃度の上昇がそんなに激しくないということには違和感を感じることができました。
    もっと経験を積まなければ、と思った次第です!!

    1. アウトプットありがとうございます。

      >「急性虫垂炎ならば、ここまで炎症の範囲が広いのは不自然」という感覚がまだ身についていませんでした。

      今回かなり高度な話ですので、まずは虫垂炎と指摘できれば良いと思います。

      正解もどちらかはわからないですし。

  6. > 最近は虫垂炎の手術な自体がほとんどやられなくってきているので

    これは知りませんでした(;’∀’)
    そういう意味でも、主座を見つけることは重要ですね。

    「虫垂が腫れてる=虫垂炎=手術」と考えてしまいがちな人も少なくないと思います。要注意ですね☆

    1. アウトプットありがとうございます。

      >「虫垂が腫れてる=虫垂炎=手術」と考えてしまいがちな人も少なくないと思います。

      そうですね。
      糞石の有無や穿孔、膿瘍形成などに加えて汎発性腹膜炎を起こしていないかのチェックが必要ですね。

  7. 大変教育的な症例ありがとうございます。
    自分としては回盲部が炎症の首座で、周囲のリンパ節腫脹を伴っていることから素直にエルシニア腸炎を鑑別に挙げるかな、と思います。
    質問ですが便培養などは施行されていたのでしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >自分としては回盲部が炎症の首座で、周囲のリンパ節腫脹を伴っていることから素直にエルシニア腸炎を鑑別に挙げるかな、と思います。

      そうですね。それでも良いと思います。
      回腸末端よりは盲腸に炎症の主座がありそうな気もしますが、正解はないですね・・・。

      便培養は残念ながら施行されていません。