ESPRESSO腹部救急画像診断 復習症例23

症例23

【症例】90歳代 女性
【主訴】嘔吐
【既往歴】リウマチ性多発筋痛症、Parkinson病、DM、左乳癌、骨粗鬆症
【身体所見】腹部:膨満、軟、全体的に圧痛あり、反跳痛あり、筋性防御なし。

【データ】WBC 17800、CRP 0.09

画像はこちら

小腸の軽度拡張および液貯留、ニボー像を認めています。

また比較的広範に小腸内にプツプツとした糞便様構造を認めています。

※このプツプツとした糞便様構造はsmall bowel feces signといってその先に閉塞機転があることを示唆するサインとされますが、この症例では割と広範に認めています。

拡張した腸管を追っていくと右下腹部にたどり着きます。

ここでsmall bowel feces signがやや目立ち、その先が追えなくなります。

よく見ると周囲にbeak signを2箇所認めています。

また虚脱した肛門側の腸管と思われる構造も認めています。

すなわち、ここでClosed loopを形成していることが疑われます。

よく見ると上の赤色で囲った部分は腸管壁肥厚が目立ち、壁の造影効果が不良です。
また腸間膜の浮腫を認めています。

これらはいずれも絞扼性腸閉塞の特徴です。

Closed loopは上のように、逸脱した腸管およびその口側の腸管の3つでbeak signを形成し、肛門側の腸管は虚脱するのが典型的でした。また、逸脱した腸管の腸間膜に浮腫を認めるのも重要な所見です。

この症例を見た際に、上に様に、赤色で囲った腸管群がどこか外に出ているようなイメージ、根元で首を絞められているようなイメージを持てるかが重要です。

  • 腸管壁肥厚・造影効果不良
  • 腸間膜浮腫

を来している腸管群です。

冠状断像においてもこの腸管群だけ異色を放って存在しているということに気付かなければなりません。

 

診断:絞扼性腸閉塞

※外科コンサルトで緊急手術となります。
※この症例も緊急手術となります。

【手術記録より抜粋】

右下腹部に壊死した腸管を認め、絞扼性イレウス(腸閉塞)が疑われた。

右卵管が腸間膜に癒着し、これがbandとなり、回腸末端から約120cmの回腸が入り込み絞扼されていた。
左卵巣嚢腫あり。
腸管は完全に壊死しており、壊死した腸管(回腸末端から5cm〜その口側140cm)を切除した。

 

ということで、Closed loopを形成していた腸管はやはり造影不良であり、広範な腸管壊死に陥っていたことがわかります。

今回単純CTが撮影されていませんが、もし撮影されていたら単純CTでは壁はやや高吸収であったかもしれません。

さて、closed loopを形成して、絞扼性腸閉塞を来していることがわかれば問題ないのですが、今回は以下の分類のどこに相当するのでしょうか?

今回は、

右卵管が腸間膜に癒着し、これがbandとなり、回腸末端から約120cmの回腸が入り込み絞扼されていた。」

ということですので、①索状物であり、ここに腸管が入り込んでしまったということですね。

関連:【保存版】イレウスのCT画像診断の徹底まとめ!

その他所見:

  • 左肺尖部に石灰化肉芽腫あり。
  • 右胸膜石灰化あり。
  • 胆石あり。
  • 腎嚢胞あり。
  • 左卵巣嚢腫の疑い。
  • 石灰化子宮筋腫あり。
  • L2-4圧迫骨折あり。

 

症例23の動画解説

※動画内で用いている「イレウス」という用語は、すべて「腸閉塞」と呼ぶのが正しいのでご注意ください。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。


過去のコメント
  1. 「外科的な処置が必要です」と書けたので、救命はできたんじゃないかな、と思っています( ̄▽ ̄;)
    最初に書いた答えは正解だったんですが、(closed loopも)消して、間違いに書き直してしましました(;’∀’)
    骨盤底の石灰化、悩みました(;’∀’)
    当然、子宮筋腫も考えました。が、、

    まず書いたのは「腹膜ねずみ」。そして、その後、
    閉塞部に非常に近く、その周囲を「何らかの腸管壁」と思ってしまうと、
    もう、「とても大きな糞石」にしか見えなくなってしまいました(;’∀’)
    糞詰まりだけど、場所的に内科的に取れないだろうから、外科的にとってくれ、というテンションでした(・・;)
    まさかこんなにも虚血が広がっていたとは(;´Д`)

    <反省ポイント>

    ①「造影効果」の評価が0だったこと
    「腸管拡張を見たら、造影効果」くらいに意識してみます(^-^;
    どうしても直観的には、「腸管の拡張度合い」とか「腹水の量」とかが重症度の印象で最初に飛び込んできてしまって、
    「腸管の拡張がひどくなければ、それほど重い病態になっていないだろう」という感覚が無意識に芽生えてしまっているような気がします(;’∀’) 気を付けないとですね(;’∀’)

    ② beak signと書いておきながら、「糞石による閉塞」としてしまったこと(;’∀’)
    色々な「sign」は覚えやすいですが、機序を考えないとですね。

    <質問ですm(__)m>
    胸部の石灰化(右の胸膜に沿ったもの、左の肺尖部)は、頻度的な上位には、何が来ますか?
    「粉塵曝露」とか「結核」とかなのでしょうか?
    「結核既往」とかだと、結構「気道」がギラギラになっている印象があって、
    今回の方は、気管支はかなり綺麗だったので、結局石灰化の評価が難しいな、と思ってしまいました( ̄▽ ̄;)

    お手数をおかけいたしますが、ご回答をお待ちしておりますm(__)m

    1. アウトプットありがとうございます。

      >骨盤底の石灰化、悩みました(;’∀’)

      さまざまなバイアスがかかって、悩まなくてよいところで悩んでしまいましたね(;゚ロ゚)

      >①「造影効果」の評価が0だったこと

      手術でこれだけ壊死に陥っていても造影効果はこの程度ということですね。
      単純CTがあれば高吸収になっていたのかもしれません。(そういう意味で単純を撮影して欲しかったですね)

      今回のように造影しかない場合は、
      普通に造影されている小腸や結腸との比較が大事ですね。

      >胸部の石灰化(右の胸膜に沿ったもの、左の肺尖部)は、頻度的な上位には、何が来ますか?
      「粉塵曝露」とか「結核」とかなのでしょうか?

      おっしゃるように結核による陳旧性胸膜炎が上位にきます。
      左肺尖部にも石灰化結節を認めていますし。

      >「結核既往」とかだと、結構「気道」がギラギラになっている印象

      そのケースもありますが、今回のようなケースもありますよ。

  2. 今までに出してくだった症例の
    おかげでだいぶ落ち着いて取り組める様になりましが…
    それでも腸管ははっきりと追えませんでした。

    ただなんとなく
    腸管拡張、ビークサインがあり、
    ホイールサイン?
    造影不良かな?
    と感じて、
    ・腸管虚血している
    絞扼性イレウス
    と判断しました。

    まだ、実際の、生の症例に出会った事がないです。

    放射線技師として、
    この様な症例に遭遇した時、

    「腸管虚血を起こしている
    イレウスだと思います。」

    と伝えたら良いでしょうか?

    あと91スライス目のあたりは
    ホイールサインの様に見えますが
    いかがですか?

    今日も、ありがとうございました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >「腸管虚血を起こしている
      イレウスだと思います。」

      そうですね、手術が必要であろうということを伝えていただけたら現場の医師は大変ありがたいと思います。

      >あと91スライス目のあたりは
      ホイールサインの様に見えますが
      いかがですか?

      whirl signのことでしょうか?
      同部あたりがヘルニア門になっていますので、そのように見えますね。

      1. whirl signのことでしょうか?
        →そうです、
        ワールサインですね。
        読み型が間違っておりました。
        すみません。

  3. お世話になっています。

    この問題は、絞扼性イレウスの原因に悩みました。子宮がかなり前方へ偏移して、冠状断において子宮から連続する構造物(子宮円靱帯と記載してしまいましたが…)の下を通過しているように見えたので、子宮広間膜ヘルニアを疑いました。

    右卵管の癒着による絞扼性イレウスでしたので、画像を見返してイメージを修正したいと思います。

    1つ質問なのですが、90歳という年齢にしては、子宮が大きく、子宮内膜が肥厚してるように感じるのですが、所見となりえるでしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >絞扼性イレウスの原因に悩みました。子宮がかなり前方へ偏移して、冠状断において子宮から連続する構造物(子宮円靱帯と記載してしまいましたが…)の下を通過しているように見えたので、子宮広間膜ヘルニアを疑いました。

      closed loopの原因となるとどこに入り込んでいるかは術前に指摘するのはかなり難しいことが多いですね。

      >子宮が大きく、子宮内膜が肥厚してるように感じるのですが、所見となりえるでしょうか?

      確かに少し大きいかも知れませんが、薄いですし有意ではないのではないかと考えます。

  4. 重症な症例ほど,「なんだかよくわからないけど読影しにくい」と思うのですが,気のせいでしょうか.
    それだけ変化しているということなのか.

    1. アウトプットありがとうございます。

      腸間膜の浮腫
      beak sign
      腸管の造影不良
      どこか外に出ているような腸管群

      これらを手がかりに異変に気付きましょう。
      腸間膜の浮腫がこの症例でも目立ち、異様です。

  5. 最近「ちゃんちゃらおかしい」読影が続いていた中、久々に方向性は正しい読影ができてよかったです(^^)/

    今日はまずはシンプルにシンプルに「腸管の造影効果がないこと」を絶対に頭から外さないようにしました。
    その次に、beak sign, small bowel feces signが見えてきました。

    次も大筋を外さないように読影を続けていきたいです(^^)

    1. アウトプットありがとうございます。

      >久々に方向性は正しい読影ができてよかったです(^^)/

      それはよかったです!!

      >今日はまずはシンプルにシンプルに「腸管の造影効果がないこと」を絶対に頭から外さないようにしました。
      その次に、beak sign, small bowel feces signが見えてきました。

      イレウス、腸閉塞症例、イケてきましたね!

  6. こんばんは!毎日お世話になっております。
    今回もなんとか正解にたどり着くことができました。
    見た瞬間に「なんだかおかしいぞ!!」と頭のセンサーがざわつき、読影に入れるようになってきたような気がします。
    しかし、子宮筋腫の石灰化を腹膜ネズミ疑いとしてみたり、左卵巣嚢腫を見逃したり、まだまだ解剖学的l構造が頭に入っていないので修練する必要があると感じました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >見た瞬間に「なんだかおかしいぞ!!」と頭のセンサーがざわつき、読影に入れるようになってきたような気がします

      このセンサーが非常に大事です。

      やばいイレウスなのかやばくないイレウスなのか、待てるの待てないのか、このセンサーが非常に重要です。

      >子宮筋腫の石灰化を腹膜ネズミ疑いとしてみたり、左卵巣嚢腫を見逃したり、まだまだ解剖学的l構造が頭に入っていないので修練する必要があると感じました。

      ま、このあたりはおまけみたいなものですね。
      あまり気にされなくて大丈夫です。

  7. 解説ありがとうございます。
    イレウスの原因を見つけるのはまだまだ難しいですね。。
    ですがこの講義のおかげで、besk sighや虚血を以前よりも早く自信を持って指摘できるようになった、と思います。
    本日も勉強になりました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >イレウスの原因を見つけるのはまだまだ難しいですね。。

      難しいです。わかりやすい外ヘルニアでない限り、そういうもんです(^_^;
      まずは、やばいやつか、やばくないやつかを見分けられることが大事ですね。

      >besk sighや虚血を以前よりも早く自信を持って指摘できるようになった、と思います。

      それはよかったです!!!

  8. 絞扼性腸閉塞と診断できました。他の先生も書いていますが、私も渦巻き状のwhirl signだと感じました。
    左下腹部の卵巣嚢腫の疑いですが、左卵巣静脈を追うとその腫瘤近くまで追えますので、やっぱりそうかな、と納得。
    両手が絞扼性腸閉塞あたりのお腹に写っていたのは、やっぱり相当痛かったのだろうと臨場感がありました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >他の先生も書いていますが、私も渦巻き状のwhirl signだと感じました。

      whirl signのように見えるところもありますね。

      >左下腹部の卵巣嚢腫の疑いですが、左卵巣静脈を追うとその腫瘤近くまで追えますので、やっぱりそうかな、と納得。

      近くまでは確かに追えますね。

      >両手が絞扼性腸閉塞あたりのお腹に写っていたのは、やっぱり相当痛かったのだろうと臨場感がありました。

      確かに両手の挙上ができていませんね。スカウト画像やこういった所見から状況を推測することも重要ですね。

  9. 腸間膜の浮腫や造影効果の低下、beak signは読み取ることができましたが、closed loopを形成している腸管や、下行結腸~直腸を上手く追うことができず、確信を持って答えることができませんでした

    1. アウトプットありがとうございます。

      >腸間膜の浮腫や造影効果の低下、beak signは読み取ることができましたが、closed loopを形成している腸管

      closed loopを形成している腸管は腸間膜の浮腫を認めている部分ですね。
      絞扼性腸閉塞が疑わしいと考えることができればOKです。

  10. いつも勉強になっております。
    基本的なことになってしまうのですが2点質問させてください。
    ・beak signとcaliber changeの違いは前者が腸管径が急に先細りする絞扼を示唆する所見で後者が単に口径差がある腸閉塞を示唆する所見という認識であっていますか?
    ・closed loopではないけど絞扼性腸閉塞ということもあるのでしょうか

    1. アウトプットありがとうございます。

      >・beak signとcaliber changeの違いは前者が腸管径が急に先細りする絞扼を示唆する所見で後者が単に口径差がある腸閉塞を示唆する所見という認識であっていますか?

      beak signは文字通り鶏のクチバシ状に見えるサインです。caliber changeは閉塞機転であり、多くはbeak signなのですが、そうでない場合も含んだものです。同義なことも多いと思われます。

      >closed loopではないけど絞扼性腸閉塞ということもあるのでしょうか

      外ヘルニアの嵌頓にしても基本的にclosed loopを形成した絞扼性腸閉塞と言えますので、closed loopではないけど絞扼性腸閉塞ということはないと考えています。もし例外があれば教えて欲しいです。

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