ESPRESSO腹部救急画像診断 復習症例22

症例22

【症例】60歳代 男性
【主訴】(脊柱管狭窄手術にて10日前に手術。整形外科入院中)昨晩より続く心窩部痛、間欠的に差し込むような痛み、血性下痢
【身体所見】tapping painなし。筋性防御なし。心窩部から左季肋部に圧痛あり、反跳痛なし。

【データ】WBC 13600、CRP 4.02

画像はこちら

横行結腸から下行結腸にかけて粘膜下層の著明な浮腫および周囲脂肪織濃度上昇を認めています。

3層構造を保った腸管壁肥厚です。

とくに、横行結腸で目立ちます。

何らかの結腸炎が疑われます。

下行結腸〜S状結腸にかけて、つまり左半結腸に認めている場合は虚血性大腸炎が鑑別の第1位になります。

しかし今は、横行結腸にも壁肥厚を認めています。

横行結腸を含む右半結腸に好発する結腸炎としては

  • サルモネラ
  • カンピロバクター
  • O-157腸炎
  • 薬剤性腸炎(出血性)
  • アメーバ腸炎
  • 赤痢菌
  • 好中球減少性腸炎

などが知られています。

実はこの方、整形外科で術後であり、発症2日前まで、ユナシン・サワシリン(ともにペニシリン系抗生物質)を内服していました。

薬剤による出血性腸炎と考え、整腸剤、絶食、点滴にて経過観察されました。

診断:薬剤性腸炎(急性出血性大腸炎)疑い

※加療後、内視鏡検査が勧められましたが、ご本人が拒否されたようです。ですので、「疑い」とします。

薬剤性腸炎とは1)

薬剤の投与によって、腸管病変が生じ、下痢・血便や腹痛などが起こる病態を薬剤性腸炎といいます。

中でも抗生物質投与によるものが多く、抗生物質菌性大腸炎としては、

  • 急性出血性大腸炎
  • クロストリジウム・ディフィシル関連腸炎(偽膜性腸炎含む)
  • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による腸炎

が知られています。

急性出血性大腸炎とは1)

そして、急性出血性大腸炎の原因薬剤としては、

  • 合成ペニシリン
  • セフェム系
  • テトラサイクリン系
  • マクロライド系

などが知られています。

内服してから数日後に下痢、血性下痢(トマトジュース様)、腹痛で急性発症するのが特徴です。

横行結腸に好発し、S状結腸と直腸にはほとんどないとされています。

ちなみにこの急性出血性大腸炎は現在減ってきていると言われています。その原因としては汎用される抗生剤が合成ペニシリン(サワシリン、ユナシン、バカシル)から、クラビットなどのニューキノロンに代わっている傾向があるためとされています。

結腸で3層構造を保った壁肥厚の鑑別

結腸で3層構造を保った壁肥厚、すなわち粘膜下層の非行が目立つ症例を認めた場合、以下の疾患を鑑別に挙げる必要があります。

とくに頻度が多いのが憩室炎と虚血性大腸炎でしたね。

今回の症例はどこにも入っていないじゃないか!

ということですが、同じ抗生物質起因性大腸炎ということで、偽膜性腸炎を引き起こすクロストリジウム・ディフィシル(症例37)の仲間として認識ください。

参考文献:
1)わかる!役立つ!消化管の画像診断(秀潤社)P151

関連:右側結腸の腸炎の鑑別診断、CT画像診断

その他所見:

  • 肝嚢胞あり。
  • 腎嚢胞あり。
  • 少量腹水あり。
  • 腰椎術後。

 

症例22の動画解説

補足:3層構造を保った壁肥厚とその鑑別まとめ

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。


過去のコメント
  1. >「横行結腸を含む右半結腸」

    ははぁ~~(;’∀’) なるほど~(;’∀’)
    素人的に、直観的には、
    「横行結腸+下行結腸」だと、「左」だと思いがちになりそうですね(^-^;
    虚血性腸炎としてしまいました(;’∀’) (まぁ、今回の経緯ですと完全には否定できないのかもしれませんが)

    ちなみに、その「虚血性腸炎」を復習してみました。
    Wikipediaの「上腸間膜動脈」で出てくる、結腸の血流支配の図を見てみました。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E8%85%B8%E9%96%93%E8%86%9C%E5%8B%95%E8%84%88

    要するに、「この図で、側副血行路の少なそうな腸管」に、
    虚血性腸炎が好発するっていう感覚でいいわけですよね(;’∀’)?

    1. アウトプットありがとうございます。

      ウィキペディアにあるように、上腸間膜動脈の栄養範囲は横行結腸までです。

      ・脾弯曲部である左結腸曲のGriffith点
      ・S状結腸・直腸移行部であるSudeck点

      で虚血性腸炎は好発部位となります。
      ともに下腸間膜動脈領域で、交通枝の発達が良好でないためと言われています。

  2. お世話になっています。

    今回は、大腸炎の分布に迷いました。一応、左側有意と思いましたが、右側有意の腸炎も考えなければいけないと思いました。そこで、食事や薬剤などの記載がなかったので虚血性腸炎としました。病名を絞り込むときに、「術後で抗生剤を投与してるかも」と考えるべきでした。大腸炎を考える際は、食事や薬剤、臨床データを加味することの大切さを実感します。

    一つ質問ですが、下腸間膜動脈に加えて上腸間膜動脈まで及ぶような虚血性腸炎というのはめったに見かけないのですか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >今回は、大腸炎の分布に迷いました。

      おっしゃるようにかなり悩ましい症例でしたね。

      >「術後で抗生剤を投与してるかも」と考えるべきでした。大腸炎を考える際は、食事や薬剤、臨床データを加味することの大切さを実感します。

      そうですね。まさにおっしゃるとおりだと思います。

      >一つ質問ですが、下腸間膜動脈に加えて上腸間膜動脈まで及ぶような虚血性腸炎というのはめったに見かけないのですか?

      そうですね。

      もしかすると見かけているのかもしれませんが。
      虚血性腸炎の重症型である壊死型がありますが、
      これはNOMIと関連しているのではないか、
      同じものをみているのではないか
      という話があります。

      NOMIなのか、広範な壊死型の虚血性腸炎なのかは、
      鑑別は困難だと思います。

  3. 下行結腸の炎症と血性下痢で
    虚血性腸炎。
    横行結腸の炎症と入院中で
    偽膜性腸炎。

    この2つが、両方起こっているのかなと
    思いましたが、見事に違ってました。

    抗生剤が、原因のようですので、
    一種の、偽膜性腸炎?と考えても良いのでしょうか?
    それともやはり急性出血性大腸炎という
    別物と考えた方がよろしいのでしょうか。

    あとSMVがSMAと同じ大きさに見えるので
    少し虚血性腸炎もある感じがしますが…

    色々考えすぎてまとまらずすみません。
    とりあえず
    横行結腸に、好発する腸炎は
    薬剤性腸炎と覚えておきます。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >抗生剤が、原因のようですので、
      一種の、偽膜性腸炎?と考えても良いのでしょうか?
      それともやはり急性出血性大腸炎という
      別物と考えた方がよろしいのでしょうか。

      解説にもあるように、薬剤性腸炎という共通はありますが、
      原因菌や内視鏡所見は異なりますのでそういう意味では別物です。

      >あとSMVがSMAと同じ大きさに見えるので
      少し虚血性腸炎もある感じがしますが…

      確かに同じくらいの大きさですね。
      非常に重要な所見ですが、脱水時などでも起こります。

      >横行結腸に、好発する腸炎は
      薬剤性腸炎と覚えておきます。

      部位からのアプローチと
      やはり現病歴からのアプローチが重要です。

      入院中の方で食中毒(感染性腸炎)はやはり順位が落ちますし。

  4. 勉強になりました.いつもよく見る左半結腸優位の画像とは違っていて,鑑別はこの前の動画であったなあ.と考えましたが,やはり鑑別を細かくは覚えていませんでした.今回のようなタイミングで何度も検討することが重要かもしれませんね.
    経口抗生剤投与を疑ったのと,若干アコーディオンサインのようにも見えたので偽膜性腸炎としてしまいましたが,血便はあいませんね.

    1. アウトプットありがとうございます。

      >いつもよく見る左半結腸優位の画像とは違っていて

      そうですね。ここに気づけるかが1つめのポイントですね。

      >経口抗生剤投与を疑ったのと,若干アコーディオンサインのようにも見えたので偽膜性腸炎としてしまいました

      方向としては良いですね。

  5. 横行結腸まではっきりと炎症があるのはおかしいなと思いつつ虚血性大腸炎と判断してしまいました。横行結腸の炎症では右側結腸の腸炎の鑑別を考えるようにします。ちなみに本症例では起炎菌は検出されたのでしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      起炎菌は同定されておりません。
      ノロウイルス、CD、ベロトキシン いずれも陰性となっています。

  6. おはようございます。毎日お世話になっております。
    私も虚血性腸炎と診断してしまいました…。
    横行結腸まで炎症が及んでいるのをみたら「おやっ」と思わなければならないんですね。
    勉強になりました!

    1. アウトプットありがとうございます。

      >横行結腸まで炎症が及んでいるのをみたら「おやっ」と思わなければならないんですね。

      そうですね。今回のポイントはここですね。

      あと性別や入院中という特殊な状況も、虚血性腸炎としては非典型的ですね。

  7. お疲れ様です。

    偽膜性腸炎と間違えそうなのですが、
    血性下痢がある点で
    出血性大腸炎と鑑別している感じでしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      >血性下痢がある点で
      出血性大腸炎と鑑別している感じでしょうか?

      いいえ、そうではないです。
      症状だけでは鑑別できませんね。

      ポイントは壁肥厚を認める結腸の分布です。
      あとは、性別や入院加療中であるという点も参考になります。

  8. 言われてみれば、虚血性腸炎と分布が違いますね…う~む…

    新年度に入り、なかなか忙しいから(ということにしていますが(;’∀’))、
    あんまり頭が働いていないような気もしています↷
    土曜の丑の日で鰻を焼いてくれるみたいなので、そろそろ盛り返したいです☆

    1. アウトプットありがとうございます。

      そうですね。
      結腸炎の場合、分布は重要ですね。

      >土曜の丑の日で鰻を焼いてくれるみたいなので、そろそろ盛り返したいです☆

      了解です。しかし、その頃には復習症例が終わっ(略)

  9. S状結腸の肥厚もあるように見えますが、どうでしょうか。(横断像71/102,冠状断像57/87)。
    横行結腸~下行結腸の肥厚と比べれば大分、大人しくなっていますし、
    周囲の脂肪織濃度や腸間膜の浮腫状変化などははっきりしませんから、
    S状結腸の肥厚はなしと判断していいのでしょうか。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >S状結腸の肥厚もあるように見えますが、どうでしょうか。(横断像71/102,冠状断像57/87)

      ここは壁肥厚とは取れないですね。蠕動による変化と思われます。

  10. いつもわかりやすい解説をありがとうございます。
    私も虚血性腸炎としてしまいましたが、他多くの方も同様だとわかって少しホッとしました(笑)
    横行結腸に炎症所見が強い点から右半結腸炎を生じる疾患も考えなければいけないのかな、という思いもよぎりましたが、上行結腸に全く炎症所見がなかったので鑑別から外してしまいました。
    改めて血管支配を含めた解剖が大切だと実感しました。薬剤性腸炎の画像を初めて見られたこともとても良い経験になりました。
    今後ともよろしくお願いいたします。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >私も虚血性腸炎としてしまいましたが、他多くの方も同様だとわかって少しホッとしました(笑)

      まずは結腸の壁肥厚に気づけたことが重要ですね。

      >改めて血管支配を含めた解剖が大切だと実感しました。薬剤性腸炎の画像を初めて見られたこともとても良い経験になりました。

      頻度としては虚血性腸炎>>薬剤性腸炎ですが、その上で、分布がやはりおかしいので虚血性以外の可能性も考えるようにしてください。

  11. 本日もありがとうございました。

    サルモネラ、O157、カンピロバクターあたりの感染か?と考えましたが、よくよく病歴を見ると入院中の発症なので積極的には考えませんね^^;

    後出しじゃんけんですが、入院中発症というところから7Dで鑑別するとよかったのかもなぁと。。
    Device(カテーテルやドレーンなど)、Diarrhea(下痢)、CPPD(偽痛風)、CD腸炎、Drug(薬剤熱)、Decubitus(褥瘡)、Debris(胆泥)

    1. アウトプットありがとうございます。

      >サルモネラ、O157、カンピロバクターあたりの感染か?と考えましたが、よくよく病歴を見ると入院中の発症なので積極的には考えませんね^^;

      そうですね。入院中の食事なので基本的に食中毒は考えなくてよいですね。

      >入院中発症というところから7Dで鑑別するとよかったのかもなぁと。。
      Device(カテーテルやドレーンなど)、Diarrhea(下痢)、CPPD(偽痛風)、CD腸炎、Drug(薬剤熱)、Decubitus(褥瘡)、Debris(胆泥)

      7Dで鑑別というのは初めて聞きました。偽痛風は入院中なのでしょうか。

      1. 偽痛風も入院中見逃されやすい発熱として鑑別に上がるそうです。
        From 内科レジデントの鉄則 聖路加国際病院内科チーフレジデント著より

        入院中に発熱を見たらまずは7Dで鑑別するようにと指導医に言われました。

        1. そうなんですね。勉強になりました。ありがとうございます。