
症例5
【症例】20歳代女性
【主訴】性交後から下腹部痛出現。
【身体所見】意識清明、BP 112/65、PR 75、Sp02 98%(RA)、腹部:平坦、軟、下腹部に圧痛あり、反跳痛なし、筋性防御なし。
【データ】WBC 10500、CRP 0.02、Hb 12.3、尿妊娠反応陰性
画像はこちら
Douglas窩などに腹水貯留を認めています。
Douglas窩の腹水は通常認める腹水よりも高吸収(白い)であることがわかります。
これは、膀胱の尿の濃度と比べても明らかに高吸収です。
血性腹水が示唆されます。
では、どこから腹腔内に出血を来しているのでしょうか?
若年女性の場合、まず考えなければならないのが、
- 子宮外妊娠
- 卵巣出血
の2つです。
妊娠反応は陰性でしたので、卵巣出血の可能性をまず考えます。
Douglas窩の濃度の高い部位をよく見ると、造影剤の血管外漏出(extravasation)を疑う所見を認めています。
動脈相と平衡相を比べてみると、漏出している造影剤がやや増大しています。
また濃度の高い血性腹水はダグラス窩の中でも右優位に認めています。
右に黄体嚢胞を疑う所見を認めており、同部の血管の破綻が疑われます。
診断:右卵巣出血(黄体嚢胞)
※婦人科コンサルトとなり、保存的に加療されました。(腹腔内出血ではありますが、卵巣出血は保存的に加療されることが多いです。ただし、抗凝固剤療法中の場合は致死的になりうるので、外科的に止血を行うことがあります。)
※黄体期の黄体嚢胞は新生血管の発達が盛んであり、血管が脆弱であるために破綻しやすいと言われています。
関連:卵巣出血の原因は?症状からCT、MRI画像診断のポイントは?
その他所見:とくになし。
症例5の動画解説
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

骨盤部はまだ苦手かな、と思います。
下記について返信をお願いできればと思います。
・子宮に液貯留があるように思えますが、これは正常ですか?周期的に変動したりはしますか?
・子宮からの出血がエマージェンシーになることはありますか?血性腹水貯留の原因とか…
・今回の症例で、アンギオというチョイスもありですか?当然婦人科にもコンサルトしますが、放射線科にも声をかけるべきでしょうか?
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
アウトプットありがとうございます。
>・子宮に液貯留があるように思えますが、これは正常ですか?周期的に変動したりはしますか?
液貯留はとくにないようです。
>・子宮からの出血がエマージェンシーになることはありますか?血性腹水貯留の原因とか…
あるとすると、出産後出血止まらないパターン(頚管妊娠とかの除去とかの病状も含む)やあと大きな子宮腫瘍(体癌とか頚癌とか)からの出血ですかね。
>・今回の症例で、アンギオというチョイスもありですか?当然婦人科にもコンサルトしますが、放射線科にも声をかけるべきでしょうか?
同じ腹腔内出血でもHCCの破裂などと異なり、卵巣出血の場合は、経過観察される事が多いです。
抗凝固剤療法中の場合は致死的になりうるので、外科的に止血を行うことがありますが、基本的に放射線科が呼ばれることはないと思います。
少なくとも私は経験がありません。
>主科(例えば精神科)が画像を見た時点で、婦人科・放射線科の2科に同時にコンサルトするべき
卵巣出血に関しては、婦人科コンサルトのみでよいと考えます。
↑
アンギオについて、
コンサルトを受けた婦人科が放射線科に相談するべき なのか
主科(例えば精神科)が画像を見た時点で、婦人科・放射線科の2科に同時にコンサルトするべき なのか
についてご教示いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
いつもお世話になってます。
卵巣卵管膿瘍と間違ってしまったのですが、それとは関係なく動脈性の出血に関して質問です。
アクティブな出血のある時に、動脈相で点状に描出されるが、平衡相で周囲と混じって薄まっていることが多いように思います。今回のような平衡相で高濃度部(100 HUをゆうに超えるような)が増大しているときは、
① 周囲に混じる時間がないほどに出血している
② 出血状態と止血された状態が繰り返し、コアグラ状になっているため周囲に混じらない
① だと保存的な治療できないように思うのですが、考え方は② でよいでしょうか?
ご教示お願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるようにかなり高吸収な出血をDouglas窩に認めています。
今回は症状が出現してから数時間後にCTが撮影されていますので、難しいところではありますが、おっしゃるように②なのでしょう。
卵巣出血に限っては、出血している血管が小さいためなのか、保存的に加療されることがほとんどです。
別の方も質問されていますが、アンギオになることは通常ありませんし、私は経験がありません。
ですので、仮に①であっても、他の腹腔内出血を起こす疾患と比較して、通常は経過観察されることが多いです。
おかげさまで婦人科の骨盤部CTも大分見慣れてきました。
腟・子宮・卵巣は同定できるようになったと感じており、私の中では大きな進歩です。
卵巣出血の原因についても、先生の図を思い浮かべることができ、診断にたどり着けました。
が、extravasation を指摘できませんでした(見ようとしていませんでした)。
出血の際は必ず探しにいくことを心がけたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>おかげさまで婦人科の骨盤部CTも大分見慣れてきました。腟・子宮・卵巣は同定できるようになったと感じており、私の中では大きな進歩です。
それは良かったです!!
>extravasation を指摘できませんでした(見ようとしていませんでした)。
卵巣出血の場合は、基本保存的に加療されますが、腹腔内含め(消化管内などであっても)出血を認めた場合は、探していくようにしましょう。(ダイナミック撮影がされていたらですが)
卵巣出血はなぜかいつも意識から抜けがちなので(おそらくあまり国試に出ておらず,勉強した記憶が少ない?),もう少し念頭に置いて読影するようにしたいと思います.
アウトプットありがとうございます。
>卵巣出血はなぜかいつも意識から抜けがちなので
若い女性の腹腔内出血は、卵巣出血、子宮外妊娠をまず思い浮かべましょう。
卵巣に何か所見があることは合っていたのですが造影剤の漏出には気づくことができませんでした。
子宮外妊娠と卵巣出血が疑えるように見ていきたいです。
アウトプットありがとうございます。
>子宮外妊娠と卵巣出血が疑えるように見ていきたいです。
そうですね。まずはその2つを思い浮かべるようにしてください。
今回もご指導ありがとうございます。
今回の症例では、ダイナミック撮影がされており、extravasationの状況を確認することができますが、自分自身は、「女性の下腹部痛」という主訴で。あまりダイナミック撮影にはしていないように思いました。
根本的な質問になってしまうのですが、ダイナミック撮影とすべきかどうかの判断などありましたらご教示いただければと思います。よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
>自分自身は、「女性の下腹部痛」という主訴で。あまりダイナミック撮影にはしていないように思いました。
そうですね。
個人的には今回は単純CTも欲しかったところです。
オーダー医の普段の習慣がこの辺りにも出てくるようです。
(消化器の先生は救急でもダイナミックCTが多かったりと)
ダイナミックCTは救急の場合は、
・消化管出血
・腹腔内出血
が疑われる場合や、
どこか腹部臓器にフォーカスが決まっている場合(肝臓で肝膿瘍が疑われる場合や、胆嚢炎が疑われる場合、症例Dのように膵炎が疑われる場合(症例Dでは1相でしたが(^_^;))などに撮影されます。
卵巣出血について、原因や対処についての基本的なところを再確認できてよかったです(^^♪
「黄体嚢胞と卵胞」との画像上の鑑別は「大きさ」が一番分かりやすいですか?
アウトプットありがとうございます。
そうですね。卵胞はなかなかCTでは同定できないことが多いかと思います。
大きさがわかりやすいですね。
出血源の特定がうまくいきませんでした.これまでの症例でもextravasationの検出が弱い印象です.
基本的なことをご質問させてください.
・動脈相と早期相 ,後期相と平衡相とは同義で使われるのでしょうか.
・黄体嚢胞と単なる卵巣嚢胞との鑑別は難しいですが,厳密には経時的に縮小するかどうかの違いで鑑別するものなのでしょうか.CTでもエコーでも卵巣内に見える嚢胞性病変はいつも表現に悩みます.
・ダイナミックCTの撮影条件は,肝臓,膵臓,消化管 などいくつくらいあるのでしょうか.
アウトプットありがとうございます。
>・動脈相と早期相 ,後期相と平衡相とは同義で使われるのでしょうか.
これはときと場合にもよりますが、一般的には同義で良いと思います。
ただし、CTなのか、MRIなのかで用語が異なることもあるので注意が必要です。
さらに、動脈相の中にも早期動脈相、後期動脈相と分けられることもあるので注意が必要です。
>厳密には経時的に縮小するかどうかの違いで鑑別するものなのでしょうか
黄体嚢胞も(機能性)卵巣のう胞も経時的に縮小します。
機能性でない卵巣嚢胞の場合はおっしゃるよう通りです。
>ダイナミックCTの撮影条件は,肝臓,膵臓,消化管 などいくつくらいあるのでしょうか
施設にもよると思いますがうちでよく撮影されるものでは、CTでは
・肝ダイナミック
・膵ダイナミック
・腎ダイナミック
・出血プロトコル
があります。
extravasationですが、解説動画で68~70/182と160~161/182の増加を指摘されていましたが、
61~65/182と152~157/182の黄体嚢胞の腹側の高吸収は出血の増加ではないでしょうか。
黄体への血管を見ているだけでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>61~65/182と152~157/182の黄体嚢胞の腹側の高吸収は出血の増加ではないでしょうか。
そうですね。こちらは卵巣などからの静脈をみているのだと考えます。extravasationではないですね。
いつもお世話になっております。
病歴や検査所見、画像所見から卵巣出血であることは診断できました。extravasationもその目で探しましたが、解説を拝見するまで指摘できず、まだまだ練習が必要と思いました。
1点ご質問させていただきたく思います。左卵巣内にも嚢胞があり、extravasationが指摘できなかったので、左右どちらの卵巣が出血源なのか迷ってしまいました。左卵巣内の嚢胞は正常卵胞でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>1点ご質問させていただきたく思います。左卵巣内にも嚢胞があり、extravasationが指摘できなかったので、左右どちらの卵巣が出血源なのか迷ってしまいました。左卵巣内の嚢胞は正常卵胞でしょうか?
確かに平衡相だけですと、左とも繋がっているようにも見えややこしいですね。
また左にもおっしゃるように嚢胞を認めており、やや壁が厚いよう見え判断に迷うところです。
ただし早期相ではやはり右ですので、右からと判断して良いと考えます。
左は正常といいますか破裂はしていないのだと考えられます。