ESPRESSO腹部救急画像診断 復習症例6

症例6

【症例】60歳代 男性
【主訴】心窩部痛
【身体所見】意識清明、BT 38.3℃、BP 115/70mmHg、P 92、SpO2 98%(Room air)、腹部:平坦、板状硬、心窩部を最強とし、腹部全体に強い圧痛あり、反跳痛あり、筋性防御あり。
【データ】WBC 6300、CRP 1.51

画像はこちら

肝辺縁、モリソン窩、網嚢内側上陥凹などに腹腔内遊離ガス(free air)を認めています。

消化管穿孔を疑う所見です。

腹腔内遊離ガス(free air)の分布を確認すると、下腹部にも認めていることがわかります。

ちなみに、free airと穿孔部位の大まかな関係は、

  • 大量→胃十二指腸、大腸
  • 上腹部腹腔内のみ→胃、十二指腸球部
  • 後腹膜→十二指腸下行〜水平脚
  • 腸間膜内→結腸、小腸
  • 骨盤内に限局→結腸、小腸

の穿孔という傾向があります。(あくまで傾向です。)

(今回は、下腹部にも認めますが、腹側のみなので、上部が疑われます。)

 

では、どこで穿孔を起こしているのでしょうか?

 

穿孔している腸管と周囲の特徴としては、

  • 腸管壁の肥厚・造影効果増強、壁の欠損。
  • 周囲脂肪織濃度上昇。
  • 消化管内容物の逸脱。(特に結腸からの便塊(dirty mass sign))

といったものがあります。

 

上部消化管(胃・十二指腸)をよく見ると・・・

胃の前庭部に壁肥厚があることがわかります。
3層構造を保ち、粘膜下層の肥厚を認めています。

その左側(胃体下部後壁)に背側に突出する像があります。

胃潰瘍を疑う所見です。

また前庭部前壁にも突出様構造を認めており、同部では粘膜の断裂を認め、腹腔内遊離ガスとの連続性を認めています。

同部(胃潰瘍)からの穿孔が疑われます。

※外科コンサルトとなります。

腹水をDouglas窩などに認めており、腹膜の肥厚を認めています。

腹膜炎を疑う所見です。

上部消化管穿孔は保存的に加療されることもありますが、腹膜炎を起こしており手術の適応です。

診断:上部消化管穿孔(胃潰瘍)および汎発性腹膜炎

(手術記録より抜粋)

腹腔内を観察すると、腹腔内全体が膿性腹水で高度に汚染され、膿苔が多量に付着していた。
(中略)
穿孔部位を検索すると、胃幽門側前壁の小弯よりに1cm弱の穿孔部位を認め、同部位から食物残渣の排出を認めた。穿孔部周囲の胃壁は強い浮腫状を呈しており、固かった。腹腔内の汚染が高度であることから、開腹手術へ移行することとした。(中略)
穿孔部周囲は固かったが、限局的であった。悪性病変ではなく胃潰瘍が示唆される所見であった。
(中略)
大網充填で修復する方針とした。大網はあまり発達していなかったが、穿孔部に大網の辺縁を十分に充填し穿孔部の胃壁と3-0 vicrylで固定した。

 

ということで、胃穿孔で、広範な腹膜炎になっていたことがわかります。

ところで、造影CTの早期相をよくみると、

肝臓の辺縁に造影効果があることがわかります。

肝辺縁の早期濃染といえば、Fitz-Hugh-Curtis症候群が有名ですが、今回の症例を見て、

性別まで無視して、肝辺縁の早期濃染→Fitz-Hugh-Curtis症候群 としてはもちろんNGです。

今回のように上部消化管穿孔や腹膜炎を起こしている場合などに肝辺縁の早期濃染を認めることがありますので、合わせて覚えておきましょう。

関連:

その他所見:

  • 肝左葉に2カ所、S7に血管腫の疑い。
  • 膀胱結石あり。
  • 膀胱バルーンあり。

症例6の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。


過去のコメント
  1. お世話になっています。
    胃体下部付近に潰瘍所見がありますが、その病変から前庭部よりにも突出像があるのですが、こちらも潰瘍でよろしいでしょうか?

    1. アウトプットありがとうございます。

      おっしゃるように、そちらにもあり、むしろ穿孔部位はこちらですね。
      また時間を見つけて修正しておきます。

  2. 今日は久しぶりにまぁまぁ読めたかな、と思います。大まかなところがつかめてくると、細かなところまで追加で勉強できますね。
    胃の突出像が胃潰瘍を示唆すること(GFと違って色がないので難しいですね)、腹膜の肥厚から腹膜炎を読み取ること(今まで何度も出てきましたが、その他の所見でいっぱいいっぱいでひとまず腸間膜脂肪織濃度上昇のみで評価していました)などが今回の改めての収穫かな、と思います。

    >肝辺縁の早期濃染といえば、Fitz-Hugh-Curtis症候群が有名ですが、

    そうですね、有名ですよね、僕もとても詳しいです! ・ ・ ・
    詳しいのですが、まずはこの読み方をGoogle先生に聞いてみることにします 笑。

    1. そういえば、今回肝ダイナミックCTをオーダーした臨床家の意図はなんだったのでしょうか…?

  3. いつもありがとうございます
    Fitz-Hugh-Curtisですが血行性のことがあるので、性別を超えてもよいという論文を過去に読んだことがあり、そんなんだと思っていたことを思い出しました。
    『Neisseria gonorrhoeae による腹膜炎の一例』豊科赤十字病院中央検査室 赤羽貴行

    消化管穿孔の場所は難しいです。手術所見と合うのだからすごいなと尊敬の念を抱くばかりです。

    1. >Fitz-Hugh-Curtisですが血行性のことがあるので、性別を超えてもよい

      そうなんですね。知りませんでした。ありがとうございます!!!

  4. 3層構造の考え方は、胃でも使えるのですね。言われてみれば当たり前のようですがわかっていませんでした。
    胃潰瘍がCTので見えると知りませんでした。もっと小さいものと思っていました。勉強になりました。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >3層構造の考え方は、胃でも使えるのですね。

      3層構造は胃でも、小腸でも結腸でも使えます。

      >胃潰瘍がCTので見えると知りませんでした。もっと小さいものと思っていました。

      小さなものはもちろん見えませんが、今回のように大きなものはCTでも見えることがありますので覚えておいてください。

  5. 後壁の巨大潰瘍に惑わされそうになりましたが前壁の破綻を見つけることが出来てよかったです(治療方針はあまり変わらないでしょうが)。
    前壁・後壁の潰瘍はaxialでいいですが、体上下部の小彎・大彎の潰瘍はcoronalを作成しないとわかりにくいことがあると感じています。穿孔!となったらすぐにthin sliceおよびMPRを作成するようにしています。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >体上下部の小彎・大彎の潰瘍はcoronalを作成しないとわかりにくいことがあると感じています。穿孔!となったらすぐにthin sliceおよびMPRを作成するようにしています。

      そうなんです。胃や十二指腸の潰瘍の穿孔はcoronalも重要ですね。
      また、thin sliceを作ってはじめて穿孔部がわかったと言うことも結構あるので、通常の厚みでわからない場合はとくに、thin slice重要ですね。

  6. free airが上腹部に見られること・dirty mass signがないこと
    から、上部消化管穿孔だろう、という風に読影しました。
    が、細かく見るともう更に同定できるんですね。

    胃の粘膜下層の肥厚は意識してみたのですが、脂肪織濃度上昇や腹水もあってか、指摘できませんでした(^-^;
    胃壁の突出像は、もう少し分かりやすく、使えそうな所見かもしれません(^^♪
    併せて覚えておきます。

    1. アウトプットありがとうございます。

      上部の場合は穿孔部周囲の粘膜下層の肥厚を来しやすいので、胃および十二指腸の特に球部を隈無く

      壁肥厚がないか
      潰瘍がないか
      穿孔部がないか
      周囲脂肪織濃度上昇がないか
      液貯留がないか

      をチェックしましょう。

      大きな潰瘍があっても本当にそこが穿孔部位なのか隈無く見ましょう(と自分に言っています。)

  7. 3層構造を保っていることと潰瘍に気づかず、胃癌の腹膜播種かと考えてしまいました。
    妄想の世界にとんでいってしまいました。反省です。
    ストーリーを考えるより、丁寧に所見を拾うことに集中するように努力します。

    1. アウトプットありがとうございます。

      胃壁は正常でも結構厚いことがありますが、3層構造を保った肥厚の場合は、
      そこに炎症(や場合によっては虚血)が存在することをまずは考えましょう。

  8. free airを確認して
    上腹部をメインにairあり、
    肝表面に大量のair、
    なので上腹部消化管穿孔、
    胃潰瘍あり、前庭部粘膜肥厚まで
    は正解でしたが、
    肝心の穿孔部位がわからなかったです!

    胃壁を見るときは
    動脈相より、平衡相のほうが
    良いですか?

    胃潰瘍部の胃壁が、動脈相、門脈相より
    平衡相の方がよく見えたので…

    1. アウトプットありがとうございます。

      ほぼ正解ですね。
      おっしゃるように平衡相を中心に見ていきましょう。
      ただし、活動性出血などをチェックする場合は動脈相も大事ですし、
      今回のような肝表の早期濃染も腹膜炎を示唆する所見ですので、
      動脈相を見なくていいというわけではありませんが。

  9. 63/290 胃体部小弯側 大動脈左側に見える腫瘤はなんでしょうか.
    胃壁内にも見えますが

    56/290 肝右葉(S7?)に見える腫瘤はなんでしょうか.早期濃染あり.washoutは軽度?内部やや不均一.→HCCでしょうか.

    1. アウトプットありがとうございます。

      >63/290 胃体部小弯側 大動脈左側に見える腫瘤はなんでしょうか.
      胃壁内にも見えますが

      確かにありますね。その後のCTをチェックしてみましたが、壁と連続はありますが壁外のように見えます。
      SMTなどと思います。

      >56/290 肝右葉(S7?)に見える腫瘤はなんでしょうか.早期濃染あり.washoutは軽度?内部やや不均一.→HCCでしょうか

      こちらも血管腫ですね。追記しました。

  10. いつも勉強させていただいています。
    大量のfree airから胃or大腸の穿孔を疑い、大腸は全部追えたので、おそらく胃であろう・・・と推測しましたが、肝心の穿孔部位は指摘できませんでした。再度復習したいと思います。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >大量のfree airから胃or大腸の穿孔を疑い、大腸は全部追えたので、おそらく胃であろう・・・と推測しましたが

      それでOKです。

      >肝心の穿孔部位は指摘できませんでした。再度復習したいと思います。

      潰瘍が少なくとも2つありますが、私も背側の大きなものだけに目が行き、そこから穿孔したと思い込んでいました。
      上部の場合は、潰瘍のある周囲の粘膜下層の肥厚が目立ちますので粘膜下層の肥厚の有無や周囲の脂肪織濃度上昇の有無を探しましょう。

  11. 上部消化管穿孔で、free airと腹水くらいしかチェックできませんでしたが、いろいろ勉強になるものが盛りだくさんでした。
    骨盤内のfree airは上腹部のガスが回り込んできたのでしょうか。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >骨盤内のfree airは上腹部のガスが回り込んできたのでしょうか。

      おっしゃるとおりです。穿孔からある程度時間が経過しているのだと推測されます。

  12. 症例ありがとうございます。
    体部後壁の派手な潰瘍を穿孔部位と思いそこで終了、前庭部前壁小弯側の真の潰瘍穿孔部を見逃してました。
    1つ病変を見つけて満足してはいけないケースですね。勉強になりました。
    また腹膜炎の所見である腹膜の肥厚に、自分は気がつきにくい感じがします。
    今後の課題として、注意して読影したいと思います。

    1. アウトプットありがとうございます。

      >体部後壁の派手な潰瘍を穿孔部位と思いそこで終了、前庭部前壁小弯側の真の潰瘍穿孔部を見逃してました。

      実は私も最初派手な方から穿孔したのだろうと思っていました(^_^;)

      >1つ病変を見つけて満足してはいけないケースですね。勉強になりました。

      同じくです。

      >腹膜炎の所見である腹膜の肥厚に、自分は気がつきにくい感じがします。

      腹膜炎の画像診断はしばしば画像だけでは難しいですが、今回は肝表の造影効果が目立ちましたね。