
鼻脳型ムコール症とは、ケカビ目の真菌が鼻・副鼻腔の血管に入り込み、組織を壊死させながら眼窩・海綿静脈洞・脳へ急速に広がる感染症です。CTで骨が保たれていても否定できず、造影MRIで「造影されない粘膜(black turbinate sign)」と副鼻腔の外への広がりを部位ごとに確かめます。研修医のハジメくんと一緒に、CTとMRIで見る場所を整理します。
先に結論
- 鼻脳型ムコール症とは、血管に入り込む真菌が鼻・副鼻腔の組織を虚血・壊死させ、眼窩・海綿静脈洞・脳へ広がる感染症。コントロール不良の糖尿病や免疫抑制の人に多い。
- CTの骨びらんは感度が低い。骨が保たれていても否定できず、上顎洞の後ろの脂肪と眼窩の脂肪を見る。
- 造影MRIで造影されない粘膜(black turbinate sign)を探し、眼窩・視神経・海綿静脈洞・内頸動脈・脳への広がりを部位ごとに書き分ける。
目的から読む: ムコール症とは / CT所見 / black turbinate sign(MRI) / 眼窩・海綿静脈洞・脳への広がり / 見逃さない読み方 / 報告の数値
鼻脳型ムコール症とは? 血管に入り込むカビの感染症
ケカビ目(Mucorales)の真菌が鼻・副鼻腔から血管の壁に入り込み、その先の組織を虚血・壊死させる感染症です。眼窩や頭蓋内へ広がる型を鼻脳型(鼻眼窩脳型)と呼び、コントロール不良の糖尿病や免疫抑制の人に起こりやすいとされます(Safder 2010)。
ムコール症(mucormycosis)は、ケカビ目(Mucorales)の真菌による感染症です。鼻・副鼻腔から始まり、眼窩や頭蓋内に広がる型を「鼻脳型」あるいは「鼻眼窩脳型(rhino-orbital-cerebral mucormycosis:ROCM)」と呼びます。初めの症状は鼻づまりや顔の痛みなどありふれたものなので、普通の副鼻腔炎や眼窩の病気と思われて診断が遅れやすいとされます(Safder 2010)。
副鼻腔の外へは、血管や神経に沿って眼窩・海綿静脈洞・頭蓋内へ広がり、視神経の虚血や圧迫、眼窩蜂窩織炎、海綿静脈洞血栓症、真菌性動脈瘤、内頸動脈閉塞、脳梗塞、脳炎、脳膿瘍などの重い合併症を起こします(Kurokawa 2022)。
欧州医真菌学会(ECMM)などによる2019年の国際ガイドラインは、ムコール症を「診断が難しく、進行が速く、死亡率の高い病気」と位置づけ、疑った時点で病変の広がりを画像で確かめること、続けて外科的なデブリードマンを行うことを強く勧めています(Cornely 2019)。画像は診断を確定するためというより、手術と治療の範囲を決めるために撮る、という位置づけです。
副鼻腔の真菌症には、菌球(アスペルギルスなど)、アレルギー性真菌性副鼻腔炎、急性浸潤性真菌性副鼻腔炎などの型があります。ムコール症は急性浸潤性の代表です。型ごとの違いは真菌性副鼻腔炎の画像診断にまとめています。
新型コロナウイルス感染症に合併したムコール症は、インドなどで多数報告されました(Yadav 2022、Kumar 2023)。50例の報告では糖尿病が最も多い合併症で、病期はHbA1cの値と相関していました(Yadav 2022)。
ムコール症のCT所見: 骨が保たれていても否定できない
CTで見るのは、片側の粘膜肥厚、骨壁の破壊、副鼻腔の外の脂肪の濃度上昇です。骨びらんは特異的でも感度が低く、骨が保たれていてもムコール症は否定できません(Slonimsky 2018)。
多くの施設で、最初に撮るのは副鼻腔のCTです。著者らは、骨びらんはムコール症の診断にも否定にも頼りにならず、診察・内視鏡・疑わしい粘膜の生検が診断の柱だとしています(Slonimsky 2018)。CTは骨の状態と手術の計画に向きます(Kurokawa 2022)。
CT所見の読み方
| CT所見 | 読み方 |
|---|---|
| 片側の鼻腔・篩骨洞・上顎洞の粘膜肥厚 | 普通の副鼻腔炎と区別できないことが多い。骨が保たれていてもムコール症は否定できない |
| 骨壁の破壊 | 見えれば浸潤性を強く疑うが、感度は低い(Slonimsky 2018) |
| 上顎洞の後ろ・前の脂肪の濃度上昇 | 骨が保たれていても、血管に沿って副鼻腔の外へ広がっている可能性がある |
| 眼窩内の脂肪の濃度上昇・外眼筋の腫大 | 眼窩への進展。MRIで範囲と壊死の有無を確かめる |
副鼻腔CTの正常解剖とドレナージの経路は副鼻腔CTの正常解剖と見方、翼口蓋窩の交通は翼口蓋窩とはで確かめられます。翼口蓋窩は、病変が眼窩・海綿静脈洞・側頭下窩へ抜ける交差点です。
ムコール症のMRI所見: black turbinate signとは
black turbinate signとは、造影MRIで本来よく造影される鼻甲介や副鼻腔の粘膜が造影されず、黒く抜けて見える所見です。血管侵襲による虚血・壊死を反映すると考えられ、鼻のムコール症の早期のMRI所見として報告されました(Safder 2010)。
CTの所見が非特異的な段階で、MRIが手がかりになりうるという点が重要です(Safder 2010)。一方で、浸潤性真菌性副鼻腔炎のない人のMRIでも、鼻甲介の造影されない所は30%に見られ、多くは下鼻甲介の後ろ側でした。正常のものは、薄くなめらかな縁の造影が保たれ、後の撮像で造影が増えることが多いとされます(Han 2019)。患者背景・周りへの広がり・内視鏡や生検と合わせて判断します。新型コロナウイルス感染症に合併したROCMの50例では、black turbinate signと造影されない鼻副鼻腔粘膜が82%に見られました。著者らは、black turbinate signと上顎洞周囲の軟部組織への浸潤を早期の所見、鼻の外の組織梗塞・視神経の拡散制限・血管侵襲を進行した病変の所見としています(Yadav 2022)。
症例 MRIのblack turbinate sign

引用:Sreshta K, et al. Indian J Ophthalmol. 2021 (Figure 3). PMC8374747 CC BY-NC-SA 4.0
- 左の鼻腔と篩骨洞:粘膜が厚くなり、T2強調像で低信号の内容を含みます。
- 造影後のT1強調像:この異常な粘膜が造影されません(アスタリスク)。これが「black turbinate sign」です(Sreshta 2021, Figure 3)。
眼窩・海綿静脈洞・脳への広がりをMRIで見る
部位ごとに役立つ撮像法が違います。鼻副鼻腔はT2強調像・拡散強調像・造影T1強調像、眼窩は脂肪抑制T2(STIR)で眼窩脂肪と外眼筋、拡散強調像で視神経、造影像で上眼静脈を見ます(Kumar 2023)。
同じく新型コロナ関連のROCM 47例をMRIで評価した報告では、病変は鼻副鼻腔43例、副鼻腔外の軟部組織25例、眼窩23例、脳17例に見られました(Kumar 2023)。MRIは軟部組織・眼窩・海綿静脈洞・脳への広がりの評価に向きます(Kurokawa 2022、Kumar 2023)。
部位ごとにMRIで探す所見
| 部位 | MRIで探す所見 |
|---|---|
| 鼻腔・副鼻腔 | 造影されない粘膜(black turbinate sign)、T2で低信号の内容 |
| 副鼻腔の外 | 上顎洞の後ろの脂肪・翼突筋への浸潤、翼口蓋窩の脂肪の消失 |
| 眼窩 | 外眼筋の腫大、眼窩脂肪の浮腫、造影されない壊死組織、眼窩先端部の病変 |
| 視神経 | 拡散制限(拡散強調像で高信号・ADCで低下。虚血を示す)、神経周囲の造影 |
| 海綿静脈洞・上眼静脈 | 上眼静脈の拡張と造影欠損、海綿静脈洞の膨隆と造影欠損(血栓) |
| 内頸動脈・脳 | 動脈壁の肥厚と造影・狭小化、梗塞、脳炎、膿瘍、三叉神経に沿った進展 |
眼窩・海綿静脈洞・内頸動脈の病変は、それぞれ失明・脳神経麻痺・脳梗塞につながるため、報告書には部位ごとに有無を書き分けることが役立ちます(Kurokawa 2022)。内頸動脈の走行と区分は内頸動脈の解剖と分岐で確認できます。
ムコール症を見逃さないための読み方
つまずきやすいのは「骨が壊れていないから普通の副鼻腔炎」と判断することです。糖尿病・免疫抑制の人の片側の副鼻腔炎では、副鼻腔の外の脂肪と眼窩を見て、造影MRIで造影されない粘膜を探します(Slonimsky 2018、Yadav 2022)。
状況ごとの画像での対応
| 状況 | 画像での対応 |
|---|---|
| 糖尿病・免疫抑制の人の片側の副鼻腔炎 | 骨が保たれていても、副鼻腔の外の脂肪と眼窩を丁寧に見る。造影MRIを検討する |
| 鼻の粘膜が造影されない | black turbinate signとして急性浸潤性真菌症を疑い、すぐに主治医へ伝える |
| 眼の症状(眼球突出・眼の動きの障害・視力低下) | 眼窩先端部・視神経の拡散制限・上眼静脈・海綿静脈洞を確認 |
| 意識障害・片麻痺 | 内頸動脈の閉塞と脳梗塞、脳炎・膿瘍を確認 |
ガイドラインは早期の外科的介入と抗真菌薬による治療を強く勧めており(Cornely 2019)、画像の報告は早いほど意味があります。どの検査を組み合わせるかは、症状と腎機能などをもとに主治医と決めます。
根拠(もう少し詳しく): 報告の数値
| 報告 | 内容 |
|---|---|
| CTの骨びらん(Slonimsky 2018) | ムコールによる急性浸潤性真菌性副鼻腔炎13例(12例は血液悪性腫瘍などで免疫抑制)。手術中に骨への真菌の侵襲が確認された6例のうち、術前の非造影CTで骨びらんが見えたのは1例 |
| MRI 50例(Yadav 2022) | 新型コロナ関連ROCM。black turbinate signと造影されない鼻副鼻腔粘膜82%、眼窩への進展76%、視神経の拡散制限24%。頭蓋内では神経に沿った脳への進展42%、脳炎30%、内頸動脈の病変16% |
| MRI 47例(Kumar 2023) | 新型コロナ関連ROCM。鼻副鼻腔の重症度スコアが高いことは死亡と(p=0.007)、眼窩のスコアが高いことは視力喪失と関連(p=0.001)。コントロール不良の糖尿病では頭蓋側への広がりが大きかった |
| 病態と合併症(Kurokawa 2022) | 副鼻腔の外へは血管・神経に沿って眼窩・海綿静脈洞・頭蓋内へ広がる。造影されない領域は血管侵襲による組織の虚血を示す |
| 正常の鼻甲介の造影(Han 2019) | 浸潤性真菌性副鼻腔炎のない人の造影MRI。造影されない鼻甲介は30%で、多くは下鼻甲介の後ろ側。正常のものは後の撮像で造影が増え、薄い縁の造影が保たれ、内部に薄い隔壁を伴うことが多い |
よくある勘違い
Q. CTで骨が壊れていなければ、ムコール症は否定できる?
否定できません。手術で骨への侵襲があっても、術前CTで骨びらんが見えないことが多いと報告されています(Slonimsky 2018)。疑いが残るときは、内視鏡・生検と造影MRIで確かめます。
Q. black turbinate signがあれば、ムコール症と言い切れる?
言い切れません。この所見は粘膜の虚血・壊死を疑わせるもので、正常の人の鼻甲介にも見られます(Han 2019)。診断は内視鏡で見た粘膜の状態と、生検・培養などの検査で決まります。画像は「疑いを強め、広がりを示す」役割です。
Q. 粘膜が造影されないのは、炎症が軽いから?
反対です。ふつうの副鼻腔炎の粘膜はよく造影されます。ムコール症が疑われる背景で周りへ広がる造影されない所は、血管侵襲で血が届かず、組織が虚血・壊死していることを疑います(Safder 2010、Kurokawa 2022)。ただし正常でも、とくに下鼻甲介の後ろ側に造影されない所が見られます。薄くなめらかな縁の造影が保たれ、後の撮像で造影が増える場合は正常のことがあります(Han 2019)。患者背景・周りへの広がり・内視鏡や生検と合わせて判断します。
今日のまとめ
- 鼻脳型ムコール症は血管に入り込む真菌感染。糖尿病・免疫抑制の人の片側の副鼻腔炎で疑う。
- CTは骨より脂肪。骨が保たれていても、上顎洞の後ろの脂肪と眼窩を見る。
- 造影MRIで造影されない粘膜を探し、眼窩・視神経・海綿静脈洞・内頸動脈・脳を部位ごとに書き分けて、すぐ伝える。
参考文献
- Safder S, Carpenter JS, Roberts TD, et al. The “Black Turbinate” sign: An early MR imaging finding of nasal mucormycosis. AJNR Am J Neuroradiol. 2010;31(4):771-4. PubMed
- Yadav T, Tiwari S, Gupta A, et al. Magnetic Resonance Imaging in Coronavirus Disease – 2019 Associated Rhino-Orbital-Cerebral Mucormycosis (CA-ROCM) – Imaging Analysis of 50 Consecutive Patients. Curr Probl Diagn Radiol. 2022;51(1):112-120. PubMed
- Slonimsky G, Slonimsky E, Yakirevitch A, et al. The significance of Computed Tomography in invasive paranasal mucormycosis. Rhinology. 2018;56(1):54-58. PubMed
- Kurokawa M, Kurokawa R, Baba A, et al. Deadly Fungi: Invasive Fungal Rhinosinusitis in the Head and Neck. Radiographics. 2022;42(7):2075-2094. PubMed
- Kumar I, Verma A, Dangwal J, et al. Magnetic resonance imaging spectrum of COVID-associated rhino-orbital-cerebral mucormycosis and assessment of anatomical severity. Neuroradiol J. 2023;36(4):404-413. PubMed
- Cornely OA, Alastruey-Izquierdo A, Arenz D, et al. Global guideline for the diagnosis and management of mucormycosis: an initiative of the European Confederation of Medical Mycology in cooperation with the Mycoses Study Group Education and Research Consortium. Lancet Infect Dis. 2019;19(12):e405-e421. PubMed
- Sreshta K, Dave TV, Varma DR, et al. Magnetic resonance imaging in rhino-orbital-cerebral mucormycosis. Indian J Ophthalmol. 2021;69(7):1915-1927. PubMed
- Han Q, Escott EJ. The Black Turbinate Sign, A Potential Diagnostic Pitfall: Evaluation of the Normal Enhancement Patterns of the Nasal Turbinates. AJNR Am J Neuroradiol. 2019;40(5):855-861. PubMed
症例画像は各図の引用元のとおりです。
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