
先に結論:眼科手術(シリコンオイル注入)の既往がある人の脳室内の丸い高吸収域は、シリコンオイルの迷入を考える。出血と違い、液面をつくらず脳室の上側(非荷重側)に浮かび、腹臥位で位置が変わる。MRIでは周りに化学シフトアーチファクトを伴う。多くは無症状で、見誤らないことが大切
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 起こる人 | 網膜剥離などでシリコンオイルを眼内に入れた人。視神経に沿って移動する(Potts 2018) |
| CT | 丸い高吸収域が脳室の非荷重側にある。報告例で70〜82HU(Cao 2022) |
| 体位で動く | 腹臥位CTで別の非荷重側へ移る(Potts 2018、Carneiro 2019) |
| MRI | 化学シフトアーチファクト。T1強調像で脳脊髄液より高信号(Cao 2022、Mayl 2018) |
| 対応 | 多くは無症状で、摘出の基準は定まっていない(Chang 2013) |
シリコンオイルの頭蓋内迷入とは
シリコンオイルは、複雑な網膜剥離の手術(硝子体手術)で、網膜を内側から押さえるために眼内に入れる物質です(タンポナーデ)。まれに、このシリコンオイルが眼の外へ移動することがあり、視神経・視交叉を通って頭蓋内に入り、脳室に達した例が報告されています(Potts 2018)。眼科の手術の既往が問診で拾えていないと、CTの高吸収域を脳室内出血や腫瘍と間違える原因になります。
報告をまとめると、1983年に視神経へのシリコンオイルの移動が病理で確かめられ、1999年に側脳室への移動の最初の症例が報告されました。2022年の時点で、脳室への移動の報告は自験例を含めて32例です(Cao 2022)。眼の外へのシリコンオイルの移動69人をまとめた系統的レビューでは、視神経・視交叉・鞍上部・くも膜下腔・脳室など篩板より後ろへの移動が35人で報告され、眼窩への移動の群に比べて年齢が高く、糖尿病の人が多い結果でした。また、眼窩への移動は症状が出て手術が必要になることが多いのに対し、篩板より後ろへの移動は偶然見つかることが多く、保存的に経過を見られるとまとめられています(Lam 2020)。
移動の仕組みははっきりしていませんが、慢性の緑内障や視神経乳頭の萎縮のある患者で報告されていること(Carneiro 2019)、先天的な解剖の違い、視神経の萎縮、眼圧の上昇が関係するという考えが述べられています(Cao 2022)。
CTの見え方
シリコンオイルはCTで高吸収に見えます。報告例では、脳室内のシリコンオイルのCT値は70〜82HUで(Cao 2022)、別の報告のまとめでは眼内のシリコンオイルは106〜139HUと高く、脳室内では脳脊髄液で薄まるためか89HUや86HUと低めの値が記載されています(Li 2025)。CT値は血腫と重なることがあるため、値だけでは区別できません(Li 2025)。
区別の手がかりは位置と形です。シリコンオイルは比重が0.97と脳脊髄液より軽く、脳室の上側(非荷重側)に浮かびます。仰向けのCTでは側脳室の前角や第三脳室の前部に、表面張力によって丸い形で見えます。血液は脳室の下側(後角)にたまり、液面をつくるのが典型で、この点が大きく違います(Li 2025)。高吸収域が視神経に沿って続いていたり、眼球内にシリコンオイルが残っていたりすることも、手がかりになります(Carneiro 2019、Cao 2022)。頭部CTの高吸収域の考え方は脳出血のCT所見とCT値と造影剤による頭部CTの高吸収も参考になります。
体位を変えて確かめる
シリコンオイルは軽いため、体位を変えると脳室の別の非荷重側へ移動します。腹臥位で撮り直すと、高吸収域が腹臥位での新しい上側(非荷重側)の位置へ移ったことが報告されています(Potts 2018)。腹臥位の単純CTは、シリコンオイルの比重が低いことを確かめる方法として勧められています(Carneiro 2019)。仰向けのままでも、検査の合間に位置が変わった例があり、CTでは両側前角にあった粒子が、その後のMRIでは右後角へ移り、さらにCT血管造影では前角に戻っていました(Cao 2022)。
| 所見 | シリコンオイル | 脳室内出血 |
|---|---|---|
| 脳室内の位置 | 上側(非荷重側)に浮かぶ。仰向けでは前角に多い | 下側(荷重側)にたまる。仰向けでは後角に多い |
| 形 | 表面張力で丸い塊(Li 2025) | 液面(fluid-fluid level)をつくる(Li 2025) |
| 体位変換 | 腹臥位で新しい上側へ移る(Potts 2018) | 新しい下側へ移る |
| 経過 | 吸収されず、繰り返しの検査で残る(Li 2025) | 時間とともに吸収され、吸収値が下がる |
| ほかの所見 | 眼球内のシリコンオイル、視神経に沿う高吸収(Carneiro 2019) | 脳実質の出血やくも膜下出血の合併 |
症例 70歳代女性 脳室内のシリコンオイル(CT)

引用:Cao S, Zhao H, Wang J, et al. Moving silicone oil particles in the ventricle: a case report and updated review. BMC Ophthalmol 2022;22(1):96(Fig. 1)(CC BY 4.0)
単純CTで、両側の側脳室前角、第三脳室、右鞍上槽に、脳室の上側(非荷重側)に位置する高吸収域があります(A〜C、白矢印)。両側の眼球内にも高吸収のシリコンオイルが見えます(D)。脳室内の粒子のCT値は70〜82HUでした(Cao 2022)。
MRIの見え方:化学シフトアーチファクト
シリコンオイルは、水とも脂肪とも共鳴周波数が違うため、MRIでは周波数方向に信号がずれる化学シフトアーチファクトを生じます。脳室内の塊の縁に、片側が暗く反対側が明るい帯が出るのが特徴で、眼球内のシリコンオイルにも同じアーチファクトが見られます(Chang 2013)。シリコンオイルはT1強調像で高信号を示すことが多く、腫瘤や出血と似るため、化学シフトアーチファクトに気づくことが鑑別を絞る鍵になると述べられています(Mayl 2018)。化学シフトアーチファクトの原理は画像診断機器の原理とMRIアーチファクトまとめで解説しています。
前述の70歳代の例では、T1強調像で脳脊髄液より高信号で周りに低信号の化学シフトアーチファクトを伴い、T2強調像では低信号から高信号までさまざま、FLAIRでは低信号でした。脊髄のMRIでは、脊髄のくも膜下腔への移動は見られませんでした(Cao 2022)。報告によってT2強調像の信号は異なり、T2強調像の信号だけでは判断しにくいことがわかります。
| 撮像法 | 報告された所見 |
|---|---|
| T1強調像 | 脳脊髄液より高信号、周りに低信号の化学シフトアーチファクト(Cao 2022) |
| T2強調像 | 低信号〜高信号とさまざま(Cao 2022)。化学シフトアーチファクトが見える(Chang 2013) |
| FLAIR | 低信号(Cao 2022) |
| 造影 | 造影されない(Cao 2022) |
症例 70歳代女性 脳室内のシリコンオイル(MRI)

引用:Cao S, Zhao H, Wang J, et al. Moving silicone oil particles in the ventricle: a case report and updated review. BMC Ophthalmol 2022;22(1):96(Fig. 2)(CC BY 4.0)
T1強調像(A〜C)で、両側側脳室前角・第三脳室・右鞍上槽の病変は脳脊髄液より高信号で、周りに低信号の化学シフトアーチファクトがあります。T2強調像(D〜F)では低信号(白矢印)と高信号(黒矢印)が混在し、FLAIR(G〜I)では低信号です。右側脳室前角の粒子はCTより小さく、大部分が右後角へ移っていました(黒矢印)(Cao 2022)。
鑑別と見落とさないための工夫
脳室内の腫瘤や高吸収域の鑑別としては、出血のほかに、転移、リンパ腫、脈絡叢乳頭腫・癌、髄膜腫、上衣下腫、上衣腫などが挙げられます。シリコンオイルの迷入をこれらと誤ると、不要な検査や手術につながるおそれがあり、実際に入院が長引いた例も報告されています(Mayl 2018)。第三脳室の前部に丸く見える場合は、コロイド嚢胞と迷うこともあります。
見落とさないための工夫は、次の3つです。1つ目は、眼窩を含めて画像を見て、眼球内のシリコンオイルや眼内レンズなど眼科手術の跡を確認することです。眼の術後の見え方は水晶体のCT・MRI画像所見も参考になります。2つ目は、高吸収域が脳室の上側にあるか下側にあるか、丸い塊か液面かを見ることです。3つ目は、迷ったときに腹臥位CTやMRIで動きと化学シフトアーチファクトを確かめることです。破裂した類皮嚢腫の脂肪滴も脳室の上側に浮かびますが、脂肪はCTで低吸収なので、高吸収のシリコンオイルとは区別できます。
症状と治療
脳室内のシリコンオイルは、頭痛やめまいで撮ったCTや、別の目的の検査で偶然見つかることが多いと報告されています(Chang 2013、Cao 2022)。58歳の女性では、シリコンオイル注入の約10年後にめまいと頭痛で撮ったCTで見つかり、症状に対する治療と外来での経過観察が選ばれました。摘出の基準について一致した考えはなく、報告例の多くは無症状です(Chang 2013)。67歳の女性では頭痛で救急を受診した際に見つかっています(Filippidis 2017)。シリコンオイルは体内で吸収されないため、繰り返しの検査で同じように見え続けます(Li 2025)。治療の要否は主治医(脳神経外科・眼科)が判断するもので、新たな頭痛やめまいがあるときは医療機関で相談することをすすめます。
よくある疑問(Q&A)
Q1. CT値で出血と区別できますか?
難しいです。眼内のシリコンオイルは106〜139HUと高い値が記載されていますが、脳室内では脳脊髄液で薄まって80HU台になることがあり(Li 2025)、報告例では70〜82HUでした(Cao 2022)。位置(上側か下側か)、形(丸い塊か液面か)、体位による動きを合わせて判断します。
Q2. どのくらい前の手術でも起こりますか?
報告では、注入から数か月後に見つかった例から、約10年後に見つかった例まであります(Chang 2013、Cao 2022)。手術の時期にかかわらず、眼科手術の既往を確認することが大切です。
Q3. 脊髄の方まで流れていきますか?
脳脊髄液より軽いため、脳室の上側にとどまりやすく、脊髄への移動の報告はこれまでないとされています(Li 2025)。脊髄MRIで脊髄のくも膜下腔への移動がなかったことを確かめた報告もあります(Cao 2022)。
Q4. 取り除く必要はありますか?
多くの報告で無症状のまま経過を見ており、摘出の基準は定まっていません(Chang 2013)。眼窩へ移動した場合に比べ、篩板より後ろへの移動は偶然見つかることが多く、保存的に経過を見られると報告されています(Lam 2020)。
参考文献
- Cao S, Zhao H, Wang J, et al. Moving silicone oil particles in the ventricle: a case report and updated review. BMC Ophthalmol. 2022;22(1):96. PubMed
- Chang CC, Chang HS, Toh CH. Intraventricular silicone oil. J Neurosurg. 2013;118(5):1127-9. PubMed
- Mayl JJ, Flores MA, Stelzer JW, et al. Recognizing intraventricular silicone. Emerg Radiol. 2018;25(2):215-218. PubMed
- Potts MB, Wu AC, Rusinak DJ, et al. Seeing Floaters: A Case Report and Literature Review of Intraventricular Migration of Silicone Oil Tamponade Material for Retinal Detachment. World Neurosurg. 2018;115:201-205. PubMed
- Carneiro F, Vaz ND. Prone CT for diagnosis of silicone oil intraventricular migration after intraocular tamponade. Radiol Case Rep. 2019;14(7):864-867. PubMed
- Lam SC, Chan AYY, Yuen HKL. Extraocular silicone oil migration to orbit and retrolaminar region: case report and systematic review. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2020;258(12):2799-2807. PubMed
- Li W, Wu C, Xue W, et al. Intraventricular silicone oil migration post-retinal detachment surgery: diagnostic features and classification – a case study with literature review. BMC Ophthalmol. 2025;25(1):109. PubMed
- Filippidis AS, Conroy TJ, Maragkos GA, et al. Intraocular Silicone Oil Migration into the Ventricles Resembling Intraventricular Hemorrhage: Case Report and Review of the Literature. World Neurosurg. 2017;102:695.e7-695.e10. PubMed
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