
先に結論:肛門扁平上皮癌は、手術でなく化学放射線療法で治すのが基本。MRIで局所、PET/CTでリンパ節と全身を調べ、効果判定は治療後しばらく待つ
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どんな癌か | 肛門管にできる癌。扁平上皮癌はHPV感染と関連する。日本の多施設調査(1,781人)では、扁平上皮癌が24.0%、腺癌が70.7%だった |
| 治療の中心 | 扁平上皮癌ではほとんどの例で放射線治療が使われ、化学放射線療法が基本。手術は、腫瘍が残る・再発したときなどに検討される |
| 画像検査 | 初回の局所の病期診断は骨盤MRIとFDG-PET/CTがよく使われる(ACR 2025)。遠隔転移はCTやPET/CTで調べる |
| リンパ節 | 直腸周囲・内腸骨のほか、鼠径リンパ節も所属リンパ節。鼠径部の転移も評価し、放射線の範囲に関わる |
| 効果判定 | 治療の11週での評価では腫瘍が残って見えた人の多くが、26週までに消えた(ACT II)。MRIも24週以降のほうが判定しやすい |
肛門管癌とは
肛門管は、直腸の下端から肛門縁までの短い管で、周囲を肛門括約筋が囲んでいます(筋肉の解剖は直腸癌のMRI診断で知っておくべき筋肉の解剖で解説しています)。ここにできる癌が肛門管癌で、この記事では代表的な組織型である扁平上皮癌を中心に説明します。
肛門癌はヒトパピローマウイルス(HPV)感染と関連があり、扁平上皮癌の危険因子とされます。日本で調べられた87例(2施設の合計)では、約85%にHPV感染があり、HPV-16型が最も多い型でした(Yamada 2023)。
一方で、日本の多施設の後ろ向き調査(肛門管癌1,781人)では、組織型は扁平上皮癌が24.0%、腺癌が70.7%でした(Yamada 2023)。なお、この調査はTNM分類第8版で肛門管の定義が改訂されたことを背景にしています。組織型は画像では決められず、生検で決まります。扁平上皮癌と腺癌では治療の考え方が異なるため、組織型の確認が出発点になります。
直腸癌(腺癌)との違い
直腸癌と肛門管癌は場所が近いものの、組織型・危険因子・病期の決め方・治療の進め方が異なる別の病気として扱われます(Matalon 2015)。
| 直腸癌 | 肛門管癌(扁平上皮癌) | |
|---|---|---|
| 病期の決め方 | 壁への深さ(T)と、転移したリンパ節の個数(N) | 原発の大きさ(T)と、リンパ節転移がある部位の組み合わせ(N)。同じ部位での個数は病期に関係しない |
| 放射線治療 | T3の腫瘍や、直腸周囲・腸間膜・内腸骨リンパ節への転移があるときに行う | ほとんどの肛門癌で行い、範囲は原発の大きさとリンパ節転移の広がりで変える |
| 治療の中心 | 手術が中心 | 化学放射線療法。手術は残存や再発のときなど |
治療:なぜ手術ではなく化学放射線療法か
肛門扁平上皮癌は、手術ではなく化学療法と放射線治療を組み合わせた治療(化学放射線療法)が基本です。これにより、多くの人は臨床的に病変が消えた状態になり、その後に手術が必要になるのは、病変が残った場合や再発した場合に限られます(ACR 2025)。
英国の大規模な臨床試験ACT II(940人)では、マイトマイシンまたはシスプラチンとフルオロウラシルを放射線と併用して比較しました。26週の時点で病変が消えた人の割合は、マイトマイシン群が90.5%、シスプラチン群が89.6%で差はありませんでした。化学放射線療法のあとに維持の化学療法を追加しても、3年の無増悪生存率は74%と73%で変わりませんでした(James 2013)。
放射線の線量や回数、薬の使い方は、病期や施設で異なります。治療の選択は主治医と相談してください。
MRIで見る局所の広がり
初回の局所の病期診断では、骨盤のMRIとFDG-PET/CTが、診察や直腸指診を補うものとして、通常は適切とされています(ACR 2025)。MRIでは、次の点を見ます。
| 見るポイント | 内容 |
|---|---|
| 腫瘍の大きさ | 肛門癌のT分類は、原発の大きさで決まる(Matalon 2015) |
| 括約筋・肛門挙筋への広がり | 内肛門括約筋・外肛門括約筋、肛門挙筋、直腸への進展 |
| 周囲臓器への浸潤 | 膣、前立腺、尿道、膀胱など |
| リンパ節 | 直腸周囲・内腸骨・鼠径リンパ節の腫大や形 |
症状は痔瘻や肛門周囲膿瘍と似ることがあり、画像でも区別が必要です(肛門周囲膿瘍・痔瘻のCT・MRI画像診断)。治療効果の判定では、T2強調像に拡散強調像を組み合わせた評価も使われます(Hanekamp 2026)。
鼠径リンパ節も「所属リンパ節」
肛門管癌では、直腸周囲、内腸骨、そして鼠径リンパ節が所属リンパ節に含まれます。病期のNは、どの部位にリンパ節転移があるかの組み合わせで決まり、その広がりに応じて放射線の照射範囲が変わります(Matalon 2015)。骨盤内のリンパ節の位置は骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節の場所と名前を参照してください。
ただし、画像だけでリンパ節転移を診断するのは難しい面があります。肛門扁平上皮癌でPET-CT陽性のリンパ節181個(67人)をMRIで調べた研究では、短径の中央値は9.0 mm(範囲7.5-12 mm)で、PET-CT陰性のリンパ節78個の中央値6.8 mmより大きいものの、多くは輪郭が整い、丸く、T2強調像で均一な信号という点では陽性と陰性で似ていました。MRIでリンパ節転移を判断する基準は、まだ定まっていません(Gulevski 2024)。
図 PET-CT陽性の鼠径リンパ節のMRI(T2強調像)

引用:Gulevski S, et al. MRI morphological characteristics of lymph nodes in anal squamous cell carcinoma. Abdom Radiol (NY). 2024;49(4):1042-1050(Fig. 4)、CC BY 4.0
肛門扁平上皮癌の研究に掲載された、PET-CT陽性の左鼠径リンパ節のT2強調像です。白矢印のリンパ節は、内部に大きな中心壊死を伴っています。2人の患者さんの例が並べて示されています。
PET/CTの役割
FDG-PET/CTは、初回の局所の評価に加えて、遠隔リンパ節や他の臓器の転移の検出にも通常は適切とされます(ACR 2025)。肛門癌では、診断時の遠隔転移はまれで、再発したときにリンパ節・肝臓・肺に出ることが多いとされています(ACR 2025)。PET-CT陽性のリンパ節でも短径は中央値9.0 mmと小さめで、大きさだけでは判断しにくいため、MRIとPETを組み合わせて評価します(Gulevski 2024)。炎症などでも集積するため、偽陽性には注意が必要です(FDG-PETの偽陽性)。
治療効果の判定は時間がかかる
肛門扁平上皮癌の化学放射線療法は、効果が出るまでに時間がかかります。ACT IIのデータを再解析した研究では、診察で腫瘍が消えた状態(臨床的奏効)になった人の割合が、時期によって次のように増えました(Glynne-Jones 2017)。
| 治療開始からの時期 | 臨床的に腫瘍が消えた人の割合(940人) |
|---|---|
| 11週 | 492人(52%) |
| 18週 | 665人(71%) |
| 26週 | 730人(78%) |
11週の時点で腫瘍が残って見えた209人のうち、151人(72%)は26週までに消えていました。著者らは、早すぎる判定は不要な手術につながるおそれがあり、26週での評価が適切と述べています(Glynne-Jones 2017)。
治療後MRIの見方
肛門癌の治療後の評価では、MRIと診察の両方が重要とされます。MRIは、治療効果の判定、経過観察中の再発の発見、治療や腫瘍による合併症の評価に使われます(El Homsi 2023)。一方、治療後の画像の役割には議論があり、手術が必要になった場合にMRIやFDG-PET/CTで局所の進展とリンパ節転移を調べる、と整理されています(ACR 2025)。
ノルウェーの127人の研究では、治療後のMRIを6・12・24週に撮り、腫瘍が画像上消えたと読まれた割合は、6週で27%、12週で66%、24週で75%と増えました。この研究は、MRIは24週以降のほうが判定が確実で、不確定な画像や不要な救済手術を避けやすいと結論しています(Hanekamp 2026)。治療直後のMRIで腫瘍が残って見えても、すぐに治療失敗と決めないことが大切です。
受診の目安
肛門からの出血、肛門や周囲の痛み、しこり、排便の変化(便が細い、残る感じ)などは、痔でも起こる症状です。痔と思って様子を見ているうちに続く、または大きくなるときは、肛門科や消化器の専門医を受診してください。鼠径部のしこりが続く場合も同様です。この記事は診断や治療を自分で決めるためのものではありません。気になる症状があれば、医療機関に相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 手術はしないのですか?
A. 扁平上皮癌では、化学放射線療法が基本で、手術は病変が残った場合や再発したときに検討されます(ACR 2025)。日本の後ろ向きの調査では、病期ごとの5年生存率に、化学放射線療法と手術で有意な差はありませんでしたが、症例数が限られる研究です(Yamada 2023)。
Q. 「腺癌」と言われました。扁平上皮癌と同じ治療ですか?
A. 肛門管癌でも組織型が腺癌の場合は、扁平上皮癌とは別の病気として治療方針が決められます。日本の調査では肛門管癌の約7割が腺癌でした(Yamada 2023)。組織型と病期をもとに、主治医が方針を決めます。
Q. 鼠径リンパ節が腫れていると言われました。転移ですか?
A. 鼠径リンパ節は肛門管癌の所属リンパ節で、転移の評価の対象です。ただし、サイズや形だけでは判断が難しく、PET-CTやMRIを組み合わせて評価します(Gulevski 2024)。
Q. 治療のあと、MRIで腫瘍が残っていると言われました。失敗ですか?
A. 治療直後は、まだ腫瘍が残って見えても、時間とともに消える人が多いことが知られています。臨床的には26週まで、MRIでは24週以降のほうが判定が確実です(Glynne-Jones 2017、Hanekamp 2026)。経過を見て主治医が判断します。
あわせて読みたい:陽子線治療・重粒子線治療とは、子宮頸癌の放射線治療後のMRI
参考文献
- Expert Panel on Gastrointestinal Imaging, Horvat N, Liu PS, et al. ACR Appropriateness Criteria® Staging and Follow-up of Anal Cancer. J Am Coll Radiol. 2025;22(5S):S396-S404. PubMed
- Glynne-Jones R, Sebag-Montefiore D, Meadows HM, et al. Best time to assess complete clinical response after chemoradiotherapy in squamous cell carcinoma of the anus (ACT II): a post-hoc analysis of randomised controlled phase 3 trial. Lancet Oncol. 2017;18(3):347-356. PubMed
- James RD, Glynne-Jones R, Meadows HM, et al. Mitomycin or cisplatin chemoradiation with or without maintenance chemotherapy for treatment of squamous-cell carcinoma of the anus (ACT II): a randomised, phase 3, open-label, 2 × 2 factorial trial. Lancet Oncol. 2013;14(6):516-24. PubMed
- El Homsi M, Sheedy SP, Rauch GM, et al. Follow-up imaging of anal cancer after treatment. Abdom Radiol (NY). 2023;48(9):2888-2897. PubMed
- Hanekamp BA, Viktil E, Dormagen JB, et al. Optimal time for MRI response evaluation in squamous cell carcinoma of the anus. BJR Open. 2026;8(1):tzag004. PubMed
- Gulevski S, Frennered A, Trägårdh E, et al. MRI morphological characteristics of lymph nodes in anal squamous cell carcinoma. Abdom Radiol (NY). 2024;49(4):1042-1050. PubMed
- Matalon SA, Mamon HJ, Fuchs CS, et al. Anorectal Cancer: Critical Anatomic and Staging Distinctions That Affect Use of Radiation Therapy. Radiographics. 2015;35(7):2090-107. PubMed
- Yamada K, Shiraishi K, Takashima A, et al. Characteristics of anal canal squamous cell carcinoma as an HPV-associated cancer in Japan. Int J Clin Oncol. 2023;28(8):990-998. PubMed
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