心筋血流PET MFRで多枝病変・微小血管障害を見る

心臓の検査で「心筋血流PET」という言葉を見かけました。心筋シンチ(SPECT)と何が違うのですか?「MFR」という数字も出てきて、よくわかりません。
心筋血流PETは、心筋に流れる血液の量を、SPECTより精度よく調べる検査です。血流を「相対的な濃淡」で見るSPECTと違い、安静時と負荷時の血流量を絶対値(mL/g/分)で測れ、その比(冠血流予備能、MFR)で、血管の狭窄だけでなく、細い血管の障害も評価できます。SPECTとの違い、MFRの読み方、多枝病変や微小血管障害での使いどころと限界を整理します。


先に結論:心筋血流PETは、SPECTより診断能が高く、血流を絶対値で測れる。MFRは多枝病変や微小血管障害の手がかりになるが、MFR低下の原因は1つではない

項目 ポイント
検査の原理 PET用の血流トレーサー(82Rb・13N-アンモニア・15O-水)を使い、安静時と負荷時の心筋血流を撮る
SPECTとの違い メタ解析で、PETのほうが感度が高い(92.6% 対 88.3%)。特異度に有意差はなし(Parker 2012)
絶対血流量とMFR 血流をmL/g/分で測り、負荷時÷安静時をMFRとする。MFRが約2以下で低下とされることが多い
得意な場面 多枝病変(全体が均等に低下する「バランス型」虚血)や、冠動脈に狭窄がない微小血管障害
注意点 MFRの低下は、多枝病変だけでなく、安静時血流の高さ・負荷不足・体動などでも起こる

心筋血流PETとは

心筋血流PET(心筋血流PET/CT)は、PET用の血流トレーサーを注射して、心筋の血流を安静時と負荷時(運動の代わりに薬剤を使うことが多い)に撮影する検査です。従来の心筋血流シンチ(SPECT)と同じように、血流が足りない部位(虚血)や、血流が途切れた部位(梗塞)を調べますが、PETには血流の絶対量を測れるという大きな特徴があります。SPECTの基本は負荷心筋血流シンチ(SPECT)の見方で、PETの原理はPETの原理で解説しています。

使われるトレーサー(概略)

トレーサー 特徴
82Rb(ルビジウム) ジェネレータから得られ、院内にサイクロトロンがなくても使える。薬剤負荷で、血流画像とMBF・MFRを同時に得られる(Klein 2020)
13N-アンモニア サイクロトロンで作る。MBFとMFRを定量できる(Kawaguchi 2026)
15O-水 サイクロトロンで作る。血流の絶対量の測定に使われてきた(Kajander 2011)

どのトレーサーを使うか、そもそも検査が可能かどうかは、施設によって異なります。検査を受ける前に、検査施設に確認してください。

SPECTとの違い:診断能

PETは、画質がよく、SPECTより診断能が高いとされています(Klein 2020)。冠動脈造影で50%以上の狭窄を基準にした、心筋血流PETとSPECTを比べたメタ解析(117研究、11,862人)があります。

  • プールした感度は、PETが92.6%、SPECTが88.3%で、PETが有意に高い(P=0.035)。
  • 特異度は、PETが81.3%、SPECTが75.8%で、有意差はありませんでした(P=0.39)。
  • ただし、PETの研究数は少なく、両方を直接比べた研究は5つだけでした(Parker 2012)。

この結果から、「PETのほうが、病変の見逃しが少ない」という方向の傾向が言えますが、研究の数と質には限界があります。検査の選択は、患者さんの体格・負荷方法・施設で使える装置にも左右されます。

絶対血流量(MBF)と冠血流予備能(MFR)

SPECTは、心筋のどこに相対的に血流が少ないかを濃淡で見ます。一方、動態撮像を行うPETは、血流をmL/g/分という絶対値で測れます。安静時と負荷時のMBF(心筋血流量)から、

MFR(冠血流予備能) = 負荷時MBF ÷ 安静時MBF

を計算します。負荷をかけたときに、血流がどれだけ増やせるかという「余力」を表す数字です。

MFRの値の目安と予後

基準値は研究ごとに異なりますが、デンマークの82Rb PETの多施設研究(7,169人)では、MFR 2以下を低下としました。MFR 2以下は39.0%の人で、追跡中(中央値3.1年)に死亡した人は、MFR 2以下で15.7%、2を超える人で5.2%でした。年齢・併存疾患・腎機能・左室駆出率・灌流欠損で調整しても、MFR 2以下は死亡の独立した予測因子(ハザード比1.62)でした。可逆性の灌流欠損がない3,101人でも、MFR 2以下の関連は変わりませんでした(ハザード比1.86)(Højstrup 2023)。

つまり、血流画像に可逆性の欠損がなくても、MFRが低い人には予後が悪い人がいる、ということです。

多枝病変とバランス型虚血:SPECTが苦手な場面

相対的な画像の弱点は、3本の冠動脈のすべてが同じように狭い場合、血流が最も良い部位を基準に濃淡をつけるため、「どこも同じ程度に低下」している状態を異常と判断しにくいことです。これを「バランス型虚血(balanced ischemia)」と呼びます。

文献 対象・方法 結果
Kajander 2011 104人、15O-水PET。絶対血流量と相対画像を、造影・FFRと比較 閉塞性の冠動脈疾患の診断で、絶対血流量は正確度92%、相対画像は73%。3枝病変24人のうち、相対画像で正しく評価できたのは9人だけ
Ziadi 2012 120人、82Rb PET。3枝病変の予測にMFRが役立つか 重症3枝病変25人のうち、MFRが全体で低下(2未満)していたのは88%(22/25)。MFRは3枝病変の独立した予測因子
Maaniitty 2021 CTAの後に15O-水PETを行った286人 46人(16%)で、3つの冠動脈の領域すべてで負荷時MBFが低下。その28%は相対血流が均等な「バランス型」で、全体の4.5%は、相対画像では見逃されうる

これらは、絶対血流量やMFRを併用すると、多枝病変・バランス型虚血を見つけやすくなることを示しています(Kajander 2011、Ziadi 2012、Maaniitty 2021)。

症例 70歳代男性 多枝病変(左主幹部・左前下行枝・右冠動脈)

13N-アンモニアPET 多枝病変 負荷・安静血流画像とMFR、冠動脈造影
引用:Kawaguchi N, Okayama H, Ohara K, et al. Diagnosis of multivessel coronary artery disease using 13N-ammonia positron emission tomography and contributing factors of reduced global MFR in the real-world clinical practice. Jpn J Radiol. 2026(Fig. 1). PMC(CC BY 4.0)

13N-アンモニアPETと冠動脈造影を行った、多枝病変の症例です。(a)の負荷時・安静時の血流画像では、前壁〜中隔(左前下行枝の領域)に欠損があり、負荷から安静で一部が埋まる「フィルイン」の所見が示されています。(b)の定量結果では、全体のMFRが2.0未満に低下しています。(c)の造影では、左主幹部に75%、左前下行枝に75%、右冠動脈に50〜75%のびまん性の狭窄が確認されています。

引用元の論文では、この症例を、全体のMFR低下と、フィルインのパターンの欠損がそろう典型的な多枝病変の例としています。

微小血管障害の評価

胸が痛い、息苦しいなどの症状があるのに、冠動脈造影では大きな狭窄が見つからないことがあります。こうした「非閉塞性」の患者さんの一部は、心筋の中の細い血管(微小血管)の障害(CMD)が原因とされます。専門家のコンセンサス文書では、造影で非閉塞性の冠動脈疾患とされた人(最大で60%)のうち、約3分の2にCMDの可能性があるとされ、PETで安静時と負荷時の絶対血流量とMFRを測ることで、CMDを非侵襲的に検出できると述べられています(Schindler 2023)。

また、その文書では、CMDの診断・報告の基準を標準化することが、個々の患者さんに合った治療(薬物治療の個別化)の判断に重要であるとされています(Schindler 2023)。ただし、CMDの診断は、PETの数字だけでなく、症状や造影所見と総合して行います。

MFRが低いときの考え方(限界)

MFRの低下は、多枝病変や微小血管障害を示唆しますが、それだけで原因を決めることはできません。13N-アンモニアPETでMFRが2.0未満だった81人を、造影などで原因別に分けた研究では、多枝病変が51%、残る49%は多枝病変ではありませんでした。両群のMFRに有意差はなく(1.44と1.53、P=0.220)、多枝病変の独立した予測因子は、血流画像で「フィルイン」のパターンの欠損があることだけでした(オッズ比13.80)。

多枝病変でない人のMFR低下の要因として、安静時血流が高い(22人)、薬剤負荷が不十分(12人)、体動の影響(12人)、重症の1枝病変(7人)、心不全(5人)が挙げられ、微小血管障害が疑われる例も5人ありました(Kawaguchi 2026)。つまり、MFRの数字を見るときには、

  • 血流画像の欠損のパターン(フィルインなど)
  • 安静時血流の高さ(血圧や心拍の影響)
  • 負荷が十分にかかっていたか
  • 撮影中の体動

を合わせて確認する必要があります。解釈には、専門の医師による読影が欠かせません。

被ばくと検査前の注意

心筋血流PETは、放射性のトレーサーを使うため、放射線被ばくを伴います。被ばくの量は、トレーサーや撮り方、施設で異なります。気になるときは、検査を行う施設に確認してください。

検査前の食事・飲み物・薬の扱いは、使うトレーサーや負荷の方法で変わります。自己判断で薬を中止せず、主治医と検査施設の指示に従ってください。

どの検査を選ぶか

目的 画像の選び方
虚血の有無の検査(一般) 負荷心筋SPECT、または心筋血流PET。PETのほうが感度が高い(Parker 2012)
多枝病変が疑われる、SPECTで評価しにくい PETの絶対血流量・MFRを併用(Kajander 2011、Ziadi 2012)
冠動脈に狭窄がないのに症状がある PETでMFRを測り、微小血管障害を評価(Schindler 2023)
心筋の代謝・障害の評価 BMIPP心筋シンチなど、別の核医学検査

核医学検査全体の位置づけは核医学検査(シンチ・PET)の種類と読み方まとめにあります。検査の選択は、症状・年齢・体格・腎機能・施設の体制などを考えて、主治医が決めます。

よくある疑問(Q&A)

Q. SPECTで「異常なし」でも、PETで異常が見つかることはありますか?
A. あります。相対的な画像では、全体が均等に低下している多枝病変を見逃しうるため、絶対血流量でわかることがあります(Kajander 2011、Maaniitty 2021)。

Q. MFRが低いと言われました。心臓の血管が詰まっているのですか?
A. 詰まっているとは限りません。MFRは、多枝病変のほか、安静時血流の高さ・負荷不足・体動・心不全・微小血管障害でも低下します(Kawaguchi 2026)。血流画像と、必要なら造影検査の結果を合わせて説明を受けてください。

Q. 微小血管障害は、PETでしかわかりませんか?
A. PETは、微小血管障害を非侵襲的に評価できる検査の1つです(Schindler 2023)。診断は、症状や、冠動脈の造影所見も合わせて総合的に行います。

Q. PETを受けると、薬の指示が変わりますか?
A. 負荷の方法やトレーサーで異なります。自己判断せず、主治医と検査施設の指示に従ってください。気になる胸の症状が続くときは、医療機関に相談してください。

あわせて読みたい:負荷心筋血流シンチ(SPECT)の見方

あわせて読みたい:ソマトスタチン受容体シンチ・DOTATATE PETとは

参考文献

  1. Parker MW, Iskandar A, Limone B, et al. Diagnostic accuracy of cardiac positron emission tomography versus single photon emission computed tomography for coronary artery disease: a bivariate meta-analysis. Circ Cardiovasc Imaging. 2012;5(6):700-7. PubMed
  2. Klein R, Celiker-Guler E, Rotstein BH, et al. PET and SPECT Tracers for Myocardial Perfusion Imaging. Semin Nucl Med. 2020;50(3):208-218. PubMed
  3. Schindler TH, Fearon WF, Pelletier-Galarneau M, et al. Myocardial Perfusion PET for the Detection and Reporting of Coronary Microvascular Dysfunction: A JACC: Cardiovascular Imaging Expert Panel Statement. JACC Cardiovasc Imaging. 2023;16(4):536-548. PubMed
  4. Højstrup S, Hansen KW, Talleruphuus U, et al. Myocardial Flow Reserve, an Independent Prognostic Marker of All-Cause Mortality Assessed by (82)Rb PET Myocardial Perfusion Imaging: A Danish Multicenter Study. Circ Cardiovasc Imaging. 2023;16(8):e015184. PubMed
  5. Ziadi MC, Dekemp RA, Williams K, et al. Does quantification of myocardial flow reserve using rubidium-82 positron emission tomography facilitate detection of multivessel coronary artery disease? J Nucl Cardiol. 2012;19(4):670-80. PubMed
  6. Kajander SA, Joutsiniemi E, Saraste M, et al. Clinical value of absolute quantification of myocardial perfusion with (15)O-water in coronary artery disease. Circ Cardiovasc Imaging. 2011;4(6):678-84. PubMed
  7. Maaniitty T, Stenström I, Saraste A, et al. Extensive and balanced reduction of myocardial blood flow in patients with suspected obstructive coronary artery disease: 15O-water PET study. Int J Cardiol. 2021;338:1-7. PubMed
  8. Kawaguchi N, Okayama H, Ohara K, et al. Diagnosis of multivessel coronary artery disease using (13)N-ammonia positron emission tomography and contributing factors of reduced global MFR in the real-world clinical practice. Jpn J Radiol. 2026;44(8):1438-1449. PubMed

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