
先に結論:乳房膿瘍は「乳腺炎のあとに、エコーで液体のたまりが見える」状態。膿を出す処置と抗菌薬を組み合わせて治療し、治りにくいときは炎症性乳癌などを確認する
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どんな状態か | 乳腺炎の炎症が進み、乳房の中に膿がたまったもの。授乳中に多いが、授乳をしていない人にも起こる |
| 授乳中と授乳期以外 | 授乳中は産後の早い時期に多い。授乳期以外は、乳輪の下(乳輪下)にでき、喫煙などが関わって繰り返すことがある |
| エコー所見 | 低エコーから無エコーの液体のたまりで、周囲が炎症で白く見える。処置が可能な「たまり」かの判断にも使う |
| 治療 | 穿刺吸引、ドレナージ(小さな切開と管)、抗菌薬。どれを先にするかは報告や指針で考え方が分かれる |
| 別の病気との区別 | 炎症性乳癌、肉芽腫性乳腺炎。治らない・繰り返すときは、組織検査も考える |
乳房膿瘍とは
乳腺炎は、乳房が赤く腫れて痛む炎症です。細菌が関わる(感染性)ものと、感染を伴わない炎症のものがあります。2025年の米国乳腺外科学会・乳房画像学会・米国病理医協会のガイドライン(JAMA Surg 2026掲載)では、授乳に関連する乳腺炎は感染性と非感染性を区別して扱うことが求められています。非感染性のものは支持療法のみで足り、感染性のものでは処置が必要になることが多いとされています(Mitchell 2026)。
乳房膿瘍は、このうち感染が進んで、乳房の中に膿が袋状・水たまり状に貯まった状態です。炎症だけの時期は、画像でも「腫れた乳腺」として見えます。膿の貯留が確認されると、抗菌薬に加えて、膿を出す処置が検討されます。
授乳中の乳房膿瘍
授乳中の乳房膿瘍は、産後の早い時期に多く見られます。イタリアの64人の授乳中の母親の検討では、68.8%が産後60日以内に発症していました(Pileri 2022)。原因となる菌は黄色ブドウ球菌が最も多く、薬が効きにくい菌(MRSA)の増加も報告されています。リスクとして、高年齢の出産、初産、乳頭の傷(亀裂)、授乳のしにくさ、以前の乳腺炎などが挙げられています。同じ検討でも、64人のうち34人に乳頭の亀裂がありました(Pileri 2022)。
乳腺炎の初期に、痛みや熱が続くのに乳房の中の貯留に気づかれないことがあります。数日たっても熱が下がらない、しこりが硬くなってきたといった場合は、エコーで膿がたまっていないかを確認します。
授乳期以外の乳房膿瘍
末梢型と乳輪下型
授乳をしていない人でも乳房膿瘍は起こります。乳房の周辺部にできるものは、皮膚や皮下の軟部組織の膿瘍と同じように、ドレナージと抗菌薬で治ることが多いとされます。一方、乳輪の下にできるもの(乳輪下膿瘍)は、再発しやすく、乳輪の縁との間に細い管のような通り道(瘻孔)ができることがあるのが特徴です。30歳代の女性で、喫煙歴や生まれつきの陥没乳頭がある人に多いとされ、背景には乳頭の下の乳管が、角質のようなものでふさがれ、乳管の上皮が変化していることがあります(Snider 2022)。
乳管周囲の乳腺炎のうち、乳管の上皮の変化を伴う型(PDM-SMOLD)は、再発する膿瘍の原因として他の乳管周囲炎とは別に扱われます。抗菌薬と、液体がたまっていれば穿刺吸引で治療しますが、瘻孔ができたり、何度も繰り返したりする場合は、乳頭の下の病変の乳管を外科的に切除することが必要になります(Mitchell 2026)。
糖尿病などの背景
授乳歴がなくても、糖尿病で血糖のコントロールが悪い人などでは、ふつうとは違う菌による膿瘍が報告されています。中国の症例報告では、授乳歴や外傷のない20歳代女性が、血糖コントロール不良の1型糖尿病のため、片側の乳房の痛みと発赤・腫れで受診し、画像で乳房膿瘍と診断されました(Chen 2026)。
エコー・CTでの見え方
乳房膿瘍の診断は、症状の診察とエコー(超音波)で行います。エコーでは、低エコーから無エコー(黒っぽい)の腫瘤で、周囲に炎症による浮腫のための高エコーの領域を伴うのが基本的な像です(Pileri 2022)。膿は、壁に囲まれた膿の貯留として見えます(Pileri 2022)。プローブで圧迫すると、内部の小さな点状のエコーが動く所見もみられます(Chen 2026)。
エコーは、膿瘍があるかどうかだけでなく、針やドレーンで抜けるだけの液体があるか(処置できる「たまり」か)を判断するのにも使います。授乳中の64人の検討では、全員が診察室でのエコーを受け、40人は放射線科医のより詳しいエコーで、排膿できる膿瘍の空洞かどうかを評価されました(Pileri 2022)。
| 検査 | わかること | 注意点 |
|---|---|---|
| 乳腺エコー | 膿のたまりの有無・大きさ・数、周囲の炎症。針やドレーンの誘導にも使う | 検査をする人や機器で見え方に差が出る。小さな貯留や深い部位は見えにくいことがある |
| CT | 炎症の広がり、ガス、腋窩リンパ節、周囲の脂肪の変化。ほかの病気を調べるときにも撮られる | 被ばくがある。乳房の診断の第一選択ではなく、エコーが基本 |
| マンモグラフィ・MRI | 治りにくいとき、腫瘍がないかの確認などに使われることがある | 使うかどうかは、症状や施設によって変わる |
乳腺エコーの見方は乳腺エコーの解剖と内部エコー・後方エコーからの鑑別診断にまとめています。
症例 20歳代女性 授乳歴のない乳房膿瘍

引用:Chen W, et al. Front Glob Womens Health 2026;7:1945144 (Figure 1). CC BY 4.0・PMC13597693
A:乳腺エコーで、左乳房に境界のはっきりしない、不整な混合エコーの病変(約5.1×5.0×2.3 cm)があり、内部のエコーは不均一です。圧迫すると、点状のエコーが動く所見も報告されています。画像中に、穿刺の針も写っています。B:CTでは、左乳房の腫大(丸で囲んだ範囲)があり、内側に点状のガスの影と、周囲の脂肪の濃度上昇、左腋窩リンパ節の腫れがあり、化膿性の乳腺炎に合う所見とされています。症例では、エコーで針を誘導して、緑がかった膿を吸引し、培養で特殊な菌が特定されました。
穿刺吸引とドレナージの考え方
膿を出す方法には、穿刺吸引(エコーで見ながら針で膿を吸い出す)と、切開・ドレナージ(小さな切開で管を入れて排膿する)があります。どちらが良いかは、世界でも結論が一致していません。
| 方法 | 内容と利点 | 注意点 |
|---|---|---|
| 穿刺吸引 | 局所麻酔のあと、エコーで見ながら針を刺し、膿を吸引する。外来で行え、傷が残りにくく、繰り返せる。授乳の再開が早いとされる(Pileri 2022) | 1回で終わらず、複数回の吸引が必要なことがある。大きい膿瘍や、厚い膿では不十分になりやすい |
| 切開・ドレナージ | 小さな切開と管で、確実に排膿する。2025年のガイドラインは、感染性の授乳関連乳腺炎で、吸引に向かない濃い貯留があれば、小切開と管の挿入(詰め物はしない)を挙げる(Mitchell 2026) | 傷が残る。外来で行う処置に耐えられない場合は、手術室でのドレナージになる(Mitchell 2026) |
授乳中の乳房膿瘍の治療を比べたコクランレビュー(2015年、4件の試験・325人)では、針の吸引が切開・ドレナージより優れているかは、エビデンスが足りず判断できないとされました。2件の試験では、吸引の失敗は切開より多く(リスク比16.12、エビデンスの質は低い)、吸引が失敗した例は22人中9人、35人中6人で、のちに切開が行われました。一方、授乳の継続は吸引のほうが良い方向の結果でしたが、試験間のばらつきが大きく、まとめて評価できませんでした(Irusen 2015)。
吸引を最初の治療として勧める総説もあります。吸引を1次治療とし、複数回の吸引が必要なことがあり、3 cmを超える大きな膿瘍にはエコー下でカテーテルを留置する選択肢、5 cmを超える膿瘍・多房性・長く続く膿瘍や、吸引で治らないときは切開・ドレナージを考える、と整理されています。膿瘍には抗菌薬を併用し、乳輪下の膿瘍を繰り返したり瘻孔があったりする人は、外科的な治療の相談を勧めています(Lam 2014)。イタリアの64人の授乳中の母親の検討では、46人(71.9%)が針の吸引を受け、切開・ドレナージが必要になった人はいませんでした(Pileri 2022)。
また、乳房膿瘍の壁から組織をとった206人の検討では、9人(4.37%)に悪性腫瘍が見つかりました。著者らは、乳房膿瘍に伴う悪性の頻度は低く、手術での排膿を必須とするほどではないと述べ、エコー下の吸引を最初の治療にすべきだとしています。同じ報告で、吸引についての文献を集計した結果は、1回で成功が79.8%、複数回で11.0%、全体で90.9%(手術が必要になった人は9.1%)でした(Scott 2006)。
炎症性乳癌との区別
乳房が赤く腫れ、熱をもっているのに、治療しても治らない。このような場合に、まず心配されるのが炎症性乳癌です。炎症性乳癌は、乳癌のうち進行が早いタイプで、乳房の皮膚が赤く腫れ、「オレンジの皮のよう」(peau d’orange)な変化をきたすことがあります。炎症性乳癌の患者さんは、最初に乳腺炎と誤診されたと報告することが多く、診断の遅れが問題になっています。マンモグラフィの感度が低いこと、診断が臨床の判断に頼ること、症状が人によって違うこと(皮膚の色により赤みが分かりにくいことなど)が、診断の遅れにつながるとされます(Le-Petross 2021)。
| 状況 | 乳房膿瘍を考えやすい | 炎症性乳癌などを疑う |
|---|---|---|
| きっかけ | 授乳中・産後・乳頭の傷、喫煙など、感染しやすい背景がある | 授乳や感染の背景がなくても、乳房が急に大きくなる |
| 経過 | 排膿と抗菌薬で改善する | 治療しても治らない、繰り返す |
| 見た目 | 局所の発赤、熱感、圧痛が目立つ | 乳房全体の皮膚の肥厚・オレンジの皮のような変化、腋窩リンパ節の腫れ |
| 次にすること | エコーで液体を確認し、吸引または排膿 | マンモグラフィ・MRIなどの画像と、針生検による組織診断 |
乳房膿瘍の壁の組織検査では、悪性が見つかるのは4.37%と低い一方で(Scott 2006)、ゼロではありません。治りが悪い、繰り返す、しこりが残るときは、組織を調べることがすすめられる理由はここにあります。乳房の画像診断全体の流れは乳癌治療の変遷と乳房画像診断総論で、良性の乳腺の変化は乳腺症(マストパチー)の画像診断で説明しています。
肉芽腫性乳腺炎との違い
肉芽腫性乳腺炎は、乳房に膿瘍のような腫れやしこりをつくる、慢性の炎症です。細菌の感染が主体の乳房膿瘍とは別の病気で、治療も違います。2025年のガイドラインでは、肉芽腫性乳腺炎の診断には、針生検で特徴的な組織所見が必要とされます。再発しやすく、治るまでに最大18か月かかることがあり、悪化するときは病変内へのステロイド注射が考えられ、手術での切除や繰り返す吸引は避けるべきとされています。一方、コリネバクテリウムという細菌が関わる特殊なタイプ(嚢胞性好中球性肉芽腫性乳腺炎)では、その菌に対する抗菌薬による治療が行われます(Mitchell 2026)。
| 乳房膿瘍 | 肉芽腫性乳腺炎 | |
|---|---|---|
| 主な原因 | 細菌の感染(授乳中・乳輪下など) | 細菌の感染が確認されないことが多い慢性の炎症(特殊な菌が関わる型もある) |
| 診断 | エコーでの液体の貯留、培養 | 針生検での組織診断 |
| 処置の考え方 | 排膿(吸引・ドレナージ)と抗菌薬 | 繰り返す吸引や切除は避け、ステロイドなどを検討 |
肉芽腫性乳腺炎の画像所見と、心不全などによる片方の胸の腫れとの違いは、肉芽腫性乳腺炎とは?乳がんと間違えやすい乳房の腫れで解説しています。
受診の目安
乳房の痛みや腫れは、早めに相談したほうがよい場合があります。次のような様子があれば、乳腺外科・産婦人科・内科など、できるだけ早く医療機関を受診してください。
- 乳房の一部が赤く腫れ、熱をもって痛み、38℃以上の熱が続く(授乳中でも、授乳をしていなくても)
- 乳房にしこりがあり、押すとぶよぶよしたり、痛みが強くなる
- 数日の治療でも良くならない、治ってもまた同じ場所が腫れる
- 乳房全体が急に大きくなる、皮膚がオレンジの皮のようにぶつぶつしてくる、腋の下が腫れる
- 乳頭から膿のような分泌物が出る、乳輪のあたりに穴が開いて膿が出る
- ぐったりして、意識がぼんやりする、強い悪寒が続く(救急受診を考える)
授乳中の人は、授乳を続けるか、やめるかを自分で決めず、医師や助産師に相談してください。処置や薬の選び方は、症状や検査の結果で変わります。気になる症状があれば、医療機関に相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 針で膿を抜くのは痛いですか?傷は残りますか?
A. 局所麻酔をして、エコーで見ながら細い針で膿を吸い出す方法が使われます。切開に比べて傷が残りにくく、外来で行え、繰り返しもできる点が利点とされています。ただし、1回で終わらない場合もあります(Pileri 2022、Lam 2014)。
Q. 膿をとると、授乳は続けられますか?
A. 針の吸引では、授乳の再開が早い、または授乳が続けやすいとする報告があります(Pileri 2022、Irusen 2015)。ただし、試験間のばらつきが大きく、結論は確立していません。授乳を続けるかどうかは、医師や助産師と相談してください。
Q. 抗菌薬だけで治りませんか?
A. 膿のたまりが確認されたときは、排膿の処置と抗菌薬を併用する考え方が示されています(Lam 2014、Mitchell 2026)。薬の種類や飲み方は、培養の結果や状態で変わるため、主治医の指示に従ってください。
Q. 授乳をやめたあとに、何度も同じ場所が腫れます。
A. 乳輪の下の膿瘍は再発しやすく、瘻孔ができることがあります。喫煙歴や陥没乳頭がある人に多く、乳頭の下の乳管の病変を切除する手術が検討されます(Snider 2022、Mitchell 2026)。繰り返すときは、悪性の病気を除外するための組織検査も大切です(Le-Petross 2021)。
あわせて読みたい:肉芽腫性乳腺炎とは?乳がんと間違えやすい乳房の腫れ
参考文献
- Mitchell KB, Valente SA, Snider HC, et al. American Society of Breast Surgeons, Society of Breast Imaging, and College of American Pathology 2025 Guidelines for the Management of Infectious and Inflammatory Lesions of the Breast. JAMA Surg. 2026;161(6):637-645. PubMed
- Pileri P, Sartani A, Mazzocco MI, et al. Management of Breast Abscess during Breastfeeding. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(9):5762. PubMed
- Irusen H, Rohwer AC, Steyn DW, et al. Treatments for breast abscesses in breastfeeding women. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015(8):CD010490. PubMed
- Lam E, Chan T, Wiseman SM. Breast abscess: evidence based management recommendations. Expert Rev Anti Infect Ther. 2014;12(7):753-762. PubMed
- Scott BG, Silberfein EJ, Pham HQ, et al. Rate of malignancies in breast abscesses and argument for ultrasound drainage. Am J Surg. 2006;192(6):869-872. PubMed
- Snider HC. Management of Mastitis, Abscess, and Fistula. Surg Clin North Am. 2022;102(6):1103-1116. PubMed
- Le-Petross HT, Balema W, Woodward WA. Why diagnosing inflammatory breast cancer is hard and how to overcome the challenges: a narrative review. Chin Clin Oncol. 2021;10(6):58. PubMed
- Chen W, Su N, Lin Q, et al. Lawsonella clevelandensis breast abscess in a young woman with uncontrolled type 1 diabetes: a case report. Front Glob Womens Health. 2026;7:1945144. PubMed
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