
先に結論:「入ったか」だけでなく「どの段階が悪いか」を読む検査
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何をする検査か | 造影剤入りの食べ物を飲み込む動きを、X線透視の動画で記録して評価する(嚥下造影、VF。modified barium swallow、MBSSとも呼ばれる) |
| 分かること | 口腔期・咽頭期・食道期のどこが乱れているか、気道への流入の有無と深さ、のどに残る場所 |
| 喉頭侵入と誤嚥 | 声帯より上で止まれば喉頭侵入、声帯より下へ入れば誤嚥(Rosenbek 1996の8段階の尺度) |
| むせない誤嚥 | 咳が出ない誤嚥(不顕性誤嚥)があり、むせの有無だけでは見逃す |
| 被ばく | 標準化した方法では被ばくは低く、必要な検査は受けてよいとされる |
嚥下造影検査(VF)とは
嚥下造影検査は、造影剤(バリウムなど)を含む食べ物や飲み物を飲み込む様子をX線透視で動画に撮る検査です。口の中から上部消化管までの食べ物の流れと、飲み込むときの構造の動きをリアルタイムで見られるのが特徴です。言語聴覚士と放射線科医が協力して行うことが重視され、標準化された手順と評価の方法で行えば、飲み込みの障害のタイプと重症度を見分け、安全に口から食べられるかの判断や、対策の効果を試すのに役立つとされています(Martin-Harris 2020)。
多くは座った姿勢で、横(側面)から撮ります。側面では舌・軟口蓋・喉頭蓋・喉頭・咽頭・食道の入口が重ならずに見え、食べ物が気道に入る深さも分かります。正面は、のどの左右差(片側に残る、片側を通る)を見るために加えます。粘り気の違う食べ物(さらさらした液体、とろみのあるもの、固形)を試し、安全に飲める形を探すこともあります。
嚥下の段階と、画像で見るところ
飲み込みは、いくつかの段階に分けて考えます。VFはこの段階ごとの異常を見分けるのに向いています。
| 段階 | 何が起きるか | 画像で見るところ |
|---|---|---|
| 口腔期 | 口の中で食べ物をまとめ、舌で奥(のど)へ送る | 口にこぼれる、舌で押し込めない、送り込みに時間がかかる、のどへ早く流れ込む |
| 咽頭期 | 嚥下反射でのどが動き、喉頭が上がって気道にふたをし、食べ物が食道へ送られる | 反射が始まるタイミング、喉頭の持ち上がり、喉頭蓋が倒れるか、気道への流入、のどへの残り |
| 食道期 | 食道の蠕動運動で胃へ送られる | 食道入口部の開き、食道の通過、逆流。この範囲の評価は検査の手順によって異なる |
食道は、VFでは入口部や上部だけを観察することも多く、食道全体を詳しく見る場合は、別の食道造影や検査が必要になります。食道まで観察するかどうかは、施設や手順によって異なります。
喉頭侵入と誤嚥の違い:Penetration-Aspiration Scale
気道に食べ物が入る現象には、深さによって2つあります。喉頭侵入(penetration)は、食べ物が喉頭の入口から声帯の上まで入ること、誤嚥(aspiration)は、声帯より下(気管)に入ることです(Rosenbek 1996の定義に沿った整理)。
この深さと、入ったものを吐き出せたかを、8段階で表すのがPenetration-Aspiration Scale(PAS)です。PASは気道への流入の深さと、侵入物が出されたかどうかで得点を決める8点満点の尺度で、評価者内・評価者間の信頼性が確認されています(Rosenbek 1996)。最も軽い1点は食べ物が気道に入らない状態、最も重い8点は声帯より下に入り、出そうとする反応もない状態です(Rosenbek 1996に基づく整理)。
| PASの得点 | 状態 | 呼び方 |
|---|---|---|
| 1 | 気道に入らない | 正常 |
| 2〜5 | 声帯より上まで入る(声帯に触れる、出せたか出せないかで分かれる) | 喉頭侵入 |
| 6〜7 | 声帯より下に入る。出せた、または出そうとしても出せない | 誤嚥 |
| 8 | 声帯より下に入り、出そうとする反応もない | 誤嚥(むせない誤嚥) |
報告書では「誤嚥あり」だけでなく、PASの得点と、どの食べ物で、嚥下の前・中・後のどのタイミングで起きたかが書かれているほうが、対策を立てやすくなります。
むせない誤嚥は検査でしか分からない
誤嚥しても咳が出ない「不顕性誤嚥」があります。脳卒中の患者21人の検討では、8人が咳のない誤嚥で、自覚する症状が少なく、咳が弱く、声がかすれることが多いと報告されています。著者は、一側の脳卒中でも嚥下造影を積極的に使うべきとしています(Horner 1988)。
リハビリテーション中の入院患者107人を、嚥下造影と言語聴覚士のベッドサイドの評価で比べた研究では、40%(43人)が造影検査中に何らかの食べ物で誤嚥しました。ベッドサイド評価で見つけられたのはそのうち42%(18人)にとどまりました。ベッドサイドの評価だけでは、神経の病気がある患者の誤嚥を過小評価するとされています(Splaingard 1988)。
症例 バリウム誤嚥(頸部食道の狭窄に伴う)

引用:Radiopaedia(Barium aspiration)
頸部の側面像で、のどにバリウムが溜まり、気管の上部が造影剤で縁取られています。症例ページでは、頸部食道上部の高度な狭窄による造影剤の停滞と誤嚥、上部気管が造影剤で覆われていると記載されています。この症例の誤嚥は食道の狭窄が原因で、飲み込み機能の障害が原因とは限りません。
残留の場所を読む:喉頭蓋谷と梨状陥凹
飲み込んだ後にのどに残る食べ物(残留)も重要な所見です。残る場所は主に2つで、舌の付け根と喉頭蓋の間にある喉頭蓋谷(こうとうがいこく)と、喉頭の両脇にある梨状陥凹(りじょうかんおう)です。梨状陥凹の下には食道の入口があります。
残留の程度を、場所(喉頭蓋谷と梨状陥凹)と量(なし・わずか・軽度・中等度・高度)の5段階で表すのが、Yale Pharyngeal Residue Severity Rating Scaleです。この尺度は喉頭ファイバー(FEES)の画像で作られたものですが、場所と量の考え方はVFの読影にも参考になります(Neubauer 2015)。
| 残る場所 | 一般に考えること |
|---|---|
| 喉頭蓋谷 | 舌の付け根ののどの壁への押し込みの弱さ、のどの内圧の弱さなど |
| 梨状陥凹 | 喉頭の持ち上がり、のどの収縮、食道入口部の開きの弱さなど |
| 両方に残る | 咽頭全体の収縮の弱さ。嚥下後に残ったものを吸い込む(誤嚥)ことがある |
この表は嚥下の生理の一般的な考え方で、実際の原因は動画で動きを確認して判断します。残留が気道に入って誤嚥になるのが、嚥下後に咳が出る、声が湿る場合です。誤嚥したときの肺の所見は誤嚥性肺炎のCT画像所見や誤嚥性肺炎のCT所見と好発部位で解説しています。
どんなときに行うか、ほかの検査との違い
食事中のむせ、飲み込みにくさ、食事に時間がかかる、肺炎を繰り返すなどがあり、口からの食事が安全か、どんな食べ物・姿勢なら食べられるかを調べたいときに行われます。検査を受けるかどうかや、前日からの食事・薬の扱いは、主治医・検査施設の指示に従ってください。
飲み込みを調べるもう1つの代表的な検査が、鼻から細い内視鏡を入れてのどを観察する嚥下内視鏡検査(FEES)です。2つは得意なところが違い、組み合わせて使われます。
| 項目 | 嚥下造影(VF) | 嚥下内視鏡(FEES) |
|---|---|---|
| 方法 | 造影剤入りの食べ物をX線透視で観察 | 鼻から内視鏡を入れ、色のついた食べ物などをのどの中から観察 |
| 見える範囲 | 口・のど・食道の入口まで、動きを通して見える | のどの中の様子(残留・唾液の溜まり)がよく見える。飲み込む瞬間は画面が隠れる |
| 被ばく | あり | なし |
| 向く場面 | どの段階が悪いか、気道に入る深さ、対策の効果の確認 | ベッドサイドでの評価、のどの残留や唾液の評価 |
この比較は一般的な整理で、実際の使い分けは施設の体制や患者さんの状態で決まります。
検査中に試す「対策」:姿勢・とろみ・一口量
VFの利点は、乱れている段階を見つけるだけでなく、その場で対策を試して効果を確かめられることです。標準化された検査では、飲み込みの安全性を調べ、効果が期待できる対策を検査中に試し、口から食べる方法を提案します(Martin-Harris 2020)。
| 見つかった問題 | 試す対策の例 |
|---|---|
| さらさらした液体で気道に入る | とろみをつける、一口量を減らす |
| のどに残留する | 飲み込みを2回する、交互に飲み込む(固形と液体) |
| 嚥下前に早く流れ込む | 顎を引く姿勢、少量ずつ |
| 片側ののどに残る | 顔の向き(頭の向き)の調整 |
これらは嚥下リハビリテーションで一般的に用いられる対策の例で、効果は人によって異なります。実際の方法は、動画で確かめたうえで言語聴覚士・担当医が提案します。
どの段階の異常かを読むチェックリスト
- 口腔期:口からこぼれないか、舌で送り込めるか、時間がかかりすぎないか
- 嚥下反射のタイミング:食べ物が喉頭蓋谷や梨状陥凹まで来てから反射が起きるか(遅れ)
- 咽頭期:喉頭が上がるか、喉頭蓋が倒れて気道にふたをするか、食道入口部が開くか
- 気道への流入:どの食べ物で、嚥下の前・中・後のどこで入るか。深さ(PAS)と、出せたか
- 反応:入ったときに咳が出るか(むせない誤嚥かどうか)
- 残留:場所(喉頭蓋谷・梨状陥凹)と量
- 対策の試行:姿勢、とろみ、一口量を変えると改善するか
バリウムを使う上部消化管の造影検査と、嚥下造影の違いはバリウム検査の写真の見方も参考にしてください。
被ばくについて
嚥下造影は透視を使うので被ばくがあります。成人では、標準化された手順で行えば被ばくは低く、がんのリスクも非常に低いとされ、患者さんの診療に必要なら過度に心配せずに検査を受けてよいと報告されています。一方で、被ばくを減らすために撮影のコマ数を減らすと診断の精度が下がることも示されています。子どもでも被ばくは低いと報告されていますが、将来のがんのリスクはまだ分かっていません(Bonilha 2020)。
よくある疑問(Q&A)
Q. むせなければ誤嚥していないのですか?
A. いいえ。咳が出ない誤嚥(不顕性誤嚥)があり、ベッドサイドの評価だけでは誤嚥の約6割を見逃したという報告があります(Horner 1988、Splaingard 1988)。
Q. 喉頭侵入と誤嚥はどう違いますか?
A. 食べ物が入った深さの違いです。声帯より上で止まるのが喉頭侵入、声帯より下の気管に入るのが誤嚥です(Rosenbek 1996)。
Q. 検査でバリウムを飲んだ後、気をつけることはありますか?
A. 検査後の食事や水分の指示は施設によって異なります。飲み込みに不安がある方は、検査を行った施設の指示に従ってください。気になる症状があれば医療機関に相談してください。
Q. 嚥下造影は誰が行うのですか?
A. 放射線科医(または担当医)と言語聴覚士などが協力して行うことが望ましいとされています(Martin-Harris 2020)。
参考文献
- Rosenbek JC, Robbins JA, Roecker EB, et al. A penetration-aspiration scale. Dysphagia. 1996;11(2):93-8. PubMed
- Martin-Harris B, Canon CL, Bonilha HS, et al. Best Practices in Modified Barium Swallow Studies. Am J Speech Lang Pathol. 2020;29(2S):1078-1093. PubMed
- Horner J, Massey EW. Silent aspiration following stroke. Neurology. 1988;38(2):317-9. PubMed
- Splaingard ML, Hutchins B, Sulton LD, et al. Aspiration in rehabilitation patients: videofluoroscopy vs bedside clinical assessment. Arch Phys Med Rehabil. 1988;69(8):637-40. PubMed
- Neubauer PD, Rademaker AW, Leder SB. The Yale Pharyngeal Residue Severity Rating Scale: An Anatomically Defined and Image-Based Tool. Dysphagia. 2015;30(5):521-8. PubMed
- Bonilha HS, Martin-Harris B, O’Rourke AK, et al. Radiation exposure in modified barium swallow studies. Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg. 2020;28(6):371-375. PubMed
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