負荷心筋シンチ 虚血と梗塞を負荷像と安静像で見分ける

「負荷心筋シンチで、負荷像と安静像に差があります」と言われました。SSSとかSDSという数字も並んでいて、何を見ればよいのかわかりません。
負荷心筋血流シンチ(SPECT)は、心臓の筋肉に血液がどれだけ届いているかを、負荷をかけたときと安静のときで比べる検査です。負荷でだけ暗くなる所は虚血、どちらも暗い所は梗塞(瘢痕)を考えます。見方の順番と、間違えやすい落とし穴を整理します。

先に結論:「負荷像と安静像の差」を見て、虚血と梗塞を分ける。数字(SSS・SRS・SDS)は、その広さと重さを表したもの

項目 ポイント
何を見るか 負荷時と安静時の心筋の血流分布。負荷でだけ集積が下がる=可逆性欠損(虚血)、どちらでも下がる=固定性欠損(梗塞・瘢痕)
数字の意味 左室を17セグメントに分けて点数化。SSS=負荷像の合計、SRS=安静像の合計、SDS=その差(虚血の量)
一緒に見る所見 TID(負荷で左室が大きく見える)、左室機能。ただし単独では過信しない
落とし穴 乳房・横隔膜による減弱、左脚ブロックの中隔欠損、三枝病変で差が出にくい(バランス虚血)
受ける人へ 検査前に控える飲食・薬は施設ごとに違うため、案内と主治医の指示に従う

負荷心筋血流シンチ(SPECT)とは

心筋に取り込まれる放射性医薬品を注射し、その分布をSPECTで撮影する検査です。心筋への集積は血流にほぼ比例するため、血流が足りない所は暗く(集積低下)写ります。

安静のときは、冠動脈が細くなっていても血流が保たれていることがあります。そこで運動や薬で心臓に負荷をかけ、正常な冠動脈は血流がよく増え、細い冠動脈の先は増えにくいという差を利用して、隠れた虚血を見つけます。画像は、負荷時と安静時の2回分を並べて比べます。

検査の流れと、受ける人が知っておきたいこと

負荷の方法は、大きく運動と薬剤の2つです。

方法 内容 主に選ばれる場合
運動負荷 トレッドミルや自転車で心拍数を上げ、ピークの付近で放射性医薬品を注射する 十分に運動できる人
薬剤負荷 血管を広げる薬などを点滴し、運動と同じように血流の差を作る 運動が難しい人、左脚ブロックやペースメーカー調律の人など

その後、負荷像と安静像を撮影します。順序や日程(同じ日か、別の日か)、所要時間は施設によって異なります。

検査前に控えるもの(食事、コーヒーなどの飲み物、普段の薬の一部など)は、負荷の方法や施設によって決まりが違います。自己判断で飲む・やめるのではなく、検査施設からの案内と主治医の指示に従ってください。ぜんそくなどの持病や、普段使っている薬、妊娠の可能性は、事前に伝えておくことが大切です。胸の痛み、息苦しさ、動悸など気になる症状があるときは、検査の結果を待たずに医療機関を受診してください。

画像の見方:負荷像と安静像を比べる

基本は、同じ断面で負荷像と安静像を上下に並べて比べることです。

負荷像 安静像 解釈
正常 正常 有意な虚血・梗塞を示す所見はない
集積低下 正常(改善) 可逆性欠損=虚血(血流が足りなくなるが、安静では保たれる)
集積低下 同じ程度に低下 固定性欠損=梗塞・瘢痕が第一候補。ただし後述の減弱アーチファクトも鑑別する
集積低下 やや改善 梗塞と虚血が混在、または生きている心筋が残る可能性(バイアビリティ)

固定性欠損に見えても、中に生きている心筋が残っていることがあります。その評価は心筋バイアビリティとは?FDG-PETでの評価で解説しています。欠損の場所と冠動脈の支配領域の対応は、心筋シンチグラフィの見方・読み方(17セグメント)が参考になります。タリウムとテクネチウム製剤の違いはタリウムシンチ(201Tl)とは?を見てください。

17セグメントとSSS・SRS・SDS

左室は、AHA(米国心臓協会)の標準化された区分で17のセグメントに分けて評価します(Cerqueira 2002)。各セグメントの集積を0(正常)〜4(欠損)の5段階で点数化し、その合計を使います。

指標 意味 何を表すか
SSS(summed stress score) 負荷像17セグメントの点数の合計 欠損の広さと重さ(虚血+梗塞)
SRS(summed rest score) 安静像17セグメントの点数の合計 梗塞・瘢痕の量
SDS(summed difference score) SSS-SRS 虚血の量

これらは予後と関係します。日本の4,031人を3年追跡したJ-ACCESS研究では、SSSが正常の人の主要心イベント(心臓死・非致死的心筋梗塞・重症心不全)は3年で2.31%、SSSが高度異常の人では9.21%でした(Nishimura 2008)。また2,686人の検討では、虚血の量(SDS)は心筋梗塞をもっともよく予測し、心臓死をもっともよく予測したのは負荷後の駆出率でした(Sharir 2001)。血流の異常の量と左室の動きを組み合わせると、リスクをより細かく分けられます。

数字だけを見て「点数が高いから危険」と決めることはできません。年齢、糖尿病、腎機能、症状などと合わせて循環器内科で判断します。

症例 70歳代男性 運動負荷で側壁に可逆性の血流低下

運動負荷心筋SPECT 負荷像と安静像 側壁の可逆性欠損
引用:Radiopaedia(Positive nuclear medicine cardiac stress test)

運動負荷と安静の心筋SPECTです。上から仰臥位の負荷像、安静像、腹臥位の負荷像が並んでいます。症例ページでは、側壁に広い可逆性の血流低下があり、同じ部位で壁の厚みの増加(壁肥厚)も低下していると記載されています。この方は翌朝に緊急で心臓カテーテル検査が行われています。腹臥位の撮影は、後で触れる減弱アーチファクトを見分けるための工夫のひとつです。

TID(一過性内腔拡大)をどう考えるか

TID(transient ischemic dilation)は、安静時より負荷時のほうが左室の内腔が大きく見える所見で、広い範囲の虚血や多枝病変を示すサインとされています。負荷時と安静時の左室容積の比(TID比)で表します。

ただし、万能ではありません。ATP負荷の271人を調べた日本の検討では、多枝病変の人でTID比は大きかったものの、多変量解析では多枝病変の独立した予測因子とはならず、負荷後の収縮末期容積の増加と複数の領域の虚血を組み合わせるほうが多枝病変をよく見分けました。TID比のカットオフは1.11でした(Hida 2012)。また、負荷SPECTの血流像は正常なのにTID(28人)または右室の一過性の描出(16人)があった44人では、高度の閉塞性冠動脈疾患があったのは20.5%、多枝病変は4.5%にとどまりました(Naghshtabrizi 2022)。血流像が正常でTIDだけが目立つ場合は、過度に重く受け取らないことが大切です。

症例 60歳代男性 薬剤負荷でTIDを認めた例

薬剤負荷心筋SPECT 一過性内腔拡大(TID)
引用:Radiopaedia(Transient ischemic dilatation)

薬剤負荷の心筋SPECTです。症例ページでは、心尖部〜中隔に小さな固定性欠損があり、負荷で左室が大きくなるTID(TID比1.34)を認めたと記載されています。緑の矢印は、負荷像(上)と安静像(下)の対応する断面で、負荷時に左室の内腔が拡大している様子を示しています。

三枝病変とバランス虚血:差が出にくい落とし穴

SPECTは、心筋の中の血流の「相対的」な差を見る検査です。そのため、三本の冠動脈がどれも同程度に細くなっていると、すべての領域で血流の増え方が同じように悪く、画像の上では「まんべんなく同じ」に見えることがあります。これがバランス虚血(balanced ischemia)です。

SPECTは、このようなびまん性の血流低下を見逃しやすいことが、総説で課題として挙げられています(Alwan 2025)。画像が「正常」でも、負荷中の症状や心電図の変化、TID、左室機能の低下など、血流の分布以外の情報を合わせて考えます。

必要に応じて、冠動脈CT(冠動脈CT(心臓CT)の見方)や、血流を絶対値で定量できるPET、心臓MRIなど、他の検査が選ばれることもあります。

アーチファクトに注意

集積低下は、すべてが病気とは限りません。体の外側の組織が放射線を弱めてしまう減弱(アーチファクト)や、心臓の動きの異常が、偽の欠損をつくります。

原因 出やすい場所 見分け方・対策
横隔膜(腹部臓器)による減弱 下壁 腹臥位の撮影、ゲート像で壁の動きが保たれているかを確認
乳房による減弱 前壁・前側壁 腹臥位の撮影
左脚ブロック・ペースメーカー調律 中隔・前壁中隔 血管拡張薬による負荷を選ぶ、壁の動き、他の検査と合わせる

腹臥位の撮影の効果を調べた139人の検討では、下壁に欠損が疑われた120人のうち89人、前壁に疑われた19人のうち12人で、腹臥位にすると欠損が改善し、減弱による偽の欠損と判断できました(Stathaki 2015)。

左脚ブロックやペースメーカー調律の人では、冠動脈に有意な狭窄がなくても中隔や前壁中隔に欠損が出ることがあります。血管拡張薬によるSPECTまたはPETを受けた55人の検討では、このような中隔・前壁中隔の欠損はSPECTで72%と47%、PETで17%と8%で、SPECTのほうが多くなっていました(Vidula 2021)。左脚ブロックがある人は、検査の前にその旨を医療者に伝え、読影では「中隔の欠損だけで虚血と決めない」ことが重要です。

ほかの検査との使い分け

検査 わかること
負荷心筋血流シンチ 心筋の血流の分布、虚血と梗塞の区別、予後の層別化
冠動脈CT 冠動脈の狭窄や、プラークの形態(冠動脈CTの見方)
心臓MRI(LGE) 心筋の瘢痕・線維化の有無と範囲(心臓MRIの遅延造影(LGE)とは)
FDG-PET 心筋の糖代謝によるバイアビリティの評価

血流の「機能」の評価である心筋シンチと、狭窄の「形」を見る冠動脈CTは、役割が違います。目的に応じて、あるいは組み合わせて使われます。

よくある疑問(Q&A)

Q. 負荷像で欠損があり、安静像で改善しました。梗塞ですか?
A. その所見は可逆性欠損で、梗塞ではなく虚血を示すパターンです。冠動脈に狭窄がある可能性を考え、症状や他の検査と合わせて治療方針を主治医と相談します。

Q. SSS・SRS・SDSは、いくつなら安心ですか?
A. 点数が小さいほど異常の範囲は小さいという関係はありますが、境目を一つの数字で決めることはできません。日本の大規模研究でも、SSSが正常の人と高度異常の人とでイベントの割合が大きく異なることが示されています(Nishimura 2008)。点数は、症状・心機能・合併症と合わせて評価されます。

Q. 左脚ブロックがあると、検査は受けられませんか?
A. 受けられます。ただ、中隔に偽の欠損が出やすいため、検査の方法(血管拡張薬による負荷など)や読影で配慮されます(Vidula 2021)。心電図で指摘されている場合は、予約や検査のときに申し出てください。

Q. 検査の前に、何を控えればよいですか?
A. 負荷の方法や施設によって異なります。食事、飲み物、普段の薬のどれを控えるかは、施設からの案内と主治医の指示に従ってください。自己判断で薬をやめたり、飲んだりしないでください。

あわせて読みたい:BMIPP心筋シンチとは、心アミロイドーシスの画像診断、核医学検査(シンチ・PET)の種類と読み方まとめ

参考文献

  1. Cerqueira MD, Weissman NJ, Dilsizian V, et al. Standardized myocardial segmentation and nomenclature for tomographic imaging of the heart. A statement for healthcare professionals from the Cardiac Imaging Committee of the Council on Clinical Cardiology of the American Heart Association. Circulation. 2002;105(4):539-42. PubMed
  2. Nishimura T, Nakajima K, Kusuoka H, et al. Prognostic study of risk stratification among Japanese patients with ischemic heart disease using gated myocardial perfusion SPECT: J-ACCESS study. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2008;35(2):319-28. PubMed
  3. Sharir T, Germano G, Kang X, et al. Prediction of myocardial infarction versus cardiac death by gated myocardial perfusion SPECT: risk stratification by the amount of stress-induced ischemia and the poststress ejection fraction. J Nucl Med. 2001;42(6):831-7. PubMed
  4. Hida S, Chikamori T, Tanaka H, et al. Postischemic myocardial stunning is superior to transient ischemic dilation for detecting multivessel coronary artery disease. Circ J. 2012;76(2):430-8. PubMed
  5. Naghshtabrizi B, Alvandi M, Shaghaghi Z, et al. Transient ischemic dilation or transient RV visualization in patients with normal SPECT stress myocardial perfusion imaging: Correlation with CT coronary artery calcium scoring and coronary angiography. J Nucl Cardiol. 2022;29(5):2149-2156. PubMed
  6. Stathaki M, Koukouraki S, Papadaki E, et al. The Benefits of Prone SPECT Myocardial Perfusion Imaging in Reducing Both Artifact Defects and Patient Radiation Exposure. Arq Bras Cardiol. 2015;105(4):345-52. PubMed
  7. Vidula MK, Wiener P, Selvaraj S, et al. Diagnostic accuracy of SPECT and PET myocardial perfusion imaging in patients with left bundle branch block or ventricular-paced rhythm. J Nucl Cardiol. 2021;28(3):981-988. PubMed
  8. Alwan M, El Ghazawi A, El Yaman A, et al. SPECT Myocardial Perfusion Imaging in the Era of PET and Multimodality Imaging: Challenges and Opportunities. Prog Cardiovasc Dis. 2025;93:3-9. PubMed

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