
先に結論:肝梗塞は「肝動脈と門脈の両方の流れが悪くなったときに起こるまれな梗塞」
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 肝臓の一部の血流が途絶えて組織が壊死(えし:細胞が死ぬこと)した状態 |
| 主な原因 | 肝胆膵の手術後、肝移植後、塞栓術などのカテーテル治療後、外傷、妊娠中のHELLP症候群、抗リン脂質抗体症候群など |
| CTの典型像 | 肝臓の表面に接するくさび形の造影されない領域。圧排(周りを押す所見)がなく、中を血管が通り抜ける |
| 経過 | 縮んで瘢痕(はんこん:傷あと)になるか、液化して液体の溜まりになる |
| 見分けたい病気 | 肝膿瘍(感染)、biloma(胆汁の溜まり)、腫瘍 |
肝梗塞とは
肝臓は肝動脈と門脈の二重の血流を受けているため、梗塞はまれです。どちらか一方が途絶えても、もう一方がある程度補うためです。報告の多くは、手術やカテーテル治療で肝動脈の血流が急に途絶えた例です(Holbert 1996、Smith 1998)。
肝梗塞の原因
報告されている主な原因を表にまとめます。
| 状況 | 具体例 |
|---|---|
| 手術 | 肝移植後の合併症、腹腔鏡下胆嚢摘出術の合併症(Holbert 1996)、肝胆道の手術(Smith 1998)、膵頭十二指腸切除(Shindo 2020) |
| カテーテル治療 | 肝動脈の塞栓術などの血管内治療(Smith 1998) |
| 血管の病気 | 外傷による動脈損傷(Holbert 1996)、抗リン脂質抗体症候群による腹腔動脈閉塞(Smith 1998) |
| 妊娠 | HELLP症候群(溶血・肝酵素上昇・血小板減少)、抗リン脂質抗体症候群(Munter 2024) |
膵頭十二指腸切除後に造影CTを受けた153例の検討では、29例に肝梗塞が見られ、腹腔動脈や総肝動脈の切除、門脈の切除が危険因子でした(Shindo 2020)。
症状は?
症状ははっきりしないこともあり、手術後の経過観察のCTや、肝機能の数値の上昇をきっかけに見つかることがあります。妊娠に関連した肝梗塞50妊娠のまとめでは、78%がみぞおちや右上腹部の痛みで受診し、64%で肝酵素(トランスアミナーゼ)が上昇していました(Munter 2024)。お腹の痛みなど気になる症状があれば医療機関を受診してください。
CT画像所見
典型像:被膜に接するくさび形の低吸収域
造影CTで、肝臓の表面(被膜)に接するくさび形の造影されない領域として見えるのが典型です。肝移植ではない肝臓(native liver)の14病変はすべて、低吸収・辺縁性・くさび形でした(Smith 1998)。膵頭十二指腸切除後の検討では、肝梗塞を「肝表面まで広がり、圧排のない非造影域」と定義し、S7に最も多く(36.2%)見られました(Shindo 2020)。
同じ検討では、梗塞の中を門脈の枝がそのまま通り抜ける所見(PV penetrating sign)が特徴的とされています(Shindo 2020)。腫瘍や膿瘍は周りを押しのけることが多いのに対し、梗塞は「組織の形を保ったまま色が抜ける」イメージです。
形はくさび形だけではない
肝動脈の血流不全による肝梗塞18例・55病変の検討では、形は次の3つに分けられました(Holbert 1996)。
| 形 | 病変数 | 特徴 |
|---|---|---|
| くさび形 | 18 | 肝臓の辺縁にある |
| 円形・楕円形 | 26 | 辺縁にも中心部にもできる。腫瘍や膿瘍と紛らわしい |
| 胆管に沿う不整形 | 9 | 胆管と並ぶように伸びる低吸収域 |
尾状葉はほとんど侵されませんでした。また経過を追えたくさび形16病変のうち4病変が円形に変化しました(Holbert 1996)。時期によって見え方が変わる点に注意が必要です。
経過での変化
経過観察のCTでは、梗塞が縮んで萎縮・瘢痕になるもの、しだいに液化するもの、その両方を示すものがありました(Smith 1998)。液化した梗塞は、次に述べる膿瘍やbilomaとの区別が問題になります。
症例 30歳代女性 肝梗塞

引用:Radiopaedia(Hepatic infarction)
肝右葉に地図状の低吸収域があり、その中に小さなガス像が散らばっています。症例ページでは右門脈後枝の血栓、胆道気腫、被膜下のガスが記載され、肝梗塞に合う所見とされています(乳がんの肝転移もある症例です)。
肝膿瘍・bilomaとの違い
| 肝梗塞 | 肝膿瘍 | biloma | |
|---|---|---|---|
| 正体 | 血流途絶による壊死 | 細菌などの感染による膿の溜まり | 胆管から漏れた胆汁の溜まり |
| 形 | 辺縁のくさび形が典型、圧排なし、血管が通り抜ける | 円形。小膿瘍が集まるcluster sign(Jeffrey 1988)、double target sign(Rahmatullah 2026) | 辺縁が整った液体の溜まり |
| 手がかり | 直前の手術・血管内治療、肝動脈の閉塞 | 発熱・炎症反応 | 胆道の手術・外傷・胆管の虚血 |
3つは無関係ではありません。肝動脈は胆管にも血液を送っているため、肝移植後の肝動脈閉塞では、胆管の虚血(ischemic cholangiopathy)、胆管の壊死、biloma、肝膿瘍が続いて起こることがあります(Quencer 2023)。梗塞のあとに液体の溜まりや気体が出てきたら、感染やbilomaの合併を考えます。
関連記事:bilomaとは?原因から診断、治療まで、肝膿瘍とは?原因・症状とCT・MRI画像診断、脾梗塞とは?、腎梗塞とは?
次にすること
- 受診先:手術や治療の後に見つかった場合は、その治療を担当した科(外科・消化器内科・移植外科など)。妊娠中であれば産科と連携します。
- 検査:造影CTで肝動脈・門脈の流れを確認し、血液検査で肝機能や凝固の状態を調べます。妊娠関連では抗リン脂質抗体の検査が行われることがあります(Munter 2024)。
- 経過観察:CTで縮小・瘢痕化か、液化・感染の合併かを追います(Smith 1998)。
治療は原因によって異なり、妊娠関連では抗凝固療法やステロイドなどを組み合わせた報告があります(Munter 2024)。具体的な方針は主治医に相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 肝梗塞は自然に治りますか?
A. 経過観察のCTでは、縮んで瘢痕になる例が報告されています(Smith 1998)。一方で液化して膿瘍やbilomaの問題が出ることもあるため、経過は主治医と確認してください。
Q. 肝梗塞は肝臓のどこにできやすいですか?
A. 膵頭十二指腸切除後の検討ではS7(右葉の後ろ上)に多く(Shindo 2020)、尾状葉はほとんど侵されないと報告されています(Holbert 1996)。
Q. 妊娠中にも肝梗塞は起こりますか?
A. まれですが、HELLP症候群に関連して起こることが知られています。妊娠関連50妊娠のまとめでは、34%に高血圧性疾患、26%に抗リン脂質抗体症候群があり、診断は58%がCTで行われていました(Munter 2024)。
参考文献
- Holbert BL, Baron RL, Dodd GD. Hepatic infarction caused by arterial insufficiency: spectrum and evolution of CT findings. AJR Am J Roentgenol. 1996;166(4):815-20. PubMed
- Smith GS, Birnbaum BA, Jacobs JE. Hepatic infarction secondary to arterial insufficiency in native livers: CT findings in 10 patients. Radiology. 1998;208(1):223-9. PubMed
- Shindo D, Yamamoto A, Amano R, et al. The findings of the contrast-enhanced CT and risk factors for hepatic infarction after pancreatoduodenectomy. Jpn J Radiol. 2020;38(6):547-552. PubMed
- Munter BT, Boyd AR, Tchani R, et al. Hepatic infarction in pregnancy: a systematic review. Am J Obstet Gynecol MFM. 2024;6(6):101377. PubMed
- Jeffrey RB, Tolentino CS, Chang FC, et al. CT of small pyogenic hepatic abscesses: the cluster sign. AJR Am J Roentgenol. 1988;151(3):487-9. PubMed
- Rahmatullah ZF, Arshad H, Chu LC, et al. Hepatic abscess on CT: pearls, pitfalls and diagnostic challenges. Emerg Radiol. 2026;33(5):1209-1217. PubMed
- Quencer KB. Transplant Hepatic Artery Rupture. Semin Intervent Radiol. 2023;40(3):279-282. PubMed
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