
先に結論:帝王切開瘢痕のニッチ(isthmocele)は「深さ2mm以上のくぼみ」、症状を伴うと帝王切開瘢痕症候群(CSDi)
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 何か | 帝王切開の瘢痕部で子宮筋層が欠けたくぼみ。ニッチ(niche)、isthmocele、cesarean scar defectとも呼ぶ |
| 定義(超音波) | 帝王切開部の深さ2mm以上のくぼみ(European Niche Taskforceの合意、2019年) |
| 頻度 | 帝王切開後の約60%にニッチができる |
| よくある症状 | 月経後の茶色い出血(postmenstrual spotting)、月経の延長、痛み、続発性不妊 |
| 病名 | ニッチ+症状(主症状1つ以上 または 副症状2つ以上)=帝王切開瘢痕症候群(cesarean scar disorder)(2023年の国際合意) |
| 検査 | 経腟超音波(ゲル/生食注入でより見やすい)。MRIは補助・術前評価に |
帝王切開瘢痕のニッチ(isthmocele)とは
帝王切開の子宮切開部(多くは子宮下部の前壁)が治る過程で、内腔側に筋層の欠損=くぼみが残ることがあります。これをニッチ(uterine niche)、isthmocele、cesarean scar defectなどと呼びます。帝王切開後の女性の約60%にニッチができるとされています(Klein Meuleman 2023)。
ただし、ニッチは画像上の所見であり、多くは症状がありません。そこで国際的な専門家のDelphi合意(2023年)では、症状を伴うニッチを「帝王切開瘢痕症候群(cesarean scar disorder:CSDi)」と呼び、画像所見だけのニッチと区別することが提案されました(Klein Meuleman 2023)。
超音波での定義と測り方(European Niche Taskforce 2019年)
欧州の専門家によるmodified Delphi法の合意で、非妊娠時のニッチの超音波評価の方法がまとめられています(Jordans 2019)。
- 定義:帝王切開部の深さ2mm以上のくぼみ(indentation)
- 基本の計測(必須):矢状断で、ニッチの長さ・深さ、残存筋層厚(residual myometrial thickness:RMT)、隣接する筋層の厚さ。横断でニッチの幅
- 分枝(branch)があれば記載し、追加で計測する
- 通常の経腟超音波よりゲルまたは生理食塩水を注入した超音波が望ましいが、内腔に液体があれば必須ではない
- プローブの圧のかけ方を変えると描出しやすくなることがある。ドプラはニッチと他の子宮病変の区別に使えるが必須ではない
| 計測項目 | 断面 | 意味 |
|---|---|---|
| 長さ(length) | 矢状断 | くぼみの上下方向の大きさ |
| 深さ(depth) | 矢状断 | 2mm以上でニッチと定義 |
| 残存筋層厚(RMT) | 矢状断 | くぼみの底から漿膜までの筋層の厚さ |
| 隣接筋層厚 | 矢状断 | RMTと比べる基準 |
| 幅(width) | 横断 | くぼみの左右方向の大きさ |
MRIでの見え方
MRIでは、T2強調矢状断で子宮下部前壁の瘢痕部に内腔とつながるくぼみとして見え、内部に液体があれば高信号として描出されます。超音波と同じく、深さ・長さ・残存筋層厚を矢状断で評価します。
帝王切開後3〜4か月の82例で経腟超音波とMRIを比べた前向き研究では、ニッチは経腟超音波で11例、MRIで16例に見つかりました。MRIを基準とした経腟超音波の感度は68.75%、特異度と陽性的中率はどちらも100%で、形は三角形が多かったと報告されています。この研究ではMRIの検出が多かったものの統計学的な有意差はなく、規模の大きな研究が必要とされています(Gupta 2021)。
子宮頸部・子宮下部の解剖は子宮頸部の正常解剖|内子宮口・外子宮口、子宮体部の正常解剖とMRIも参考にしてください。
症例 30歳代女性 帝王切開瘢痕のニッチ(isthmocele)

引用:Radiopaedia(Cesarean section scar isthmocele)
4年前に帝王切開を受けた症例です。子宮下部の前壁、帝王切開の傷あとの位置に、内腔とつながるT2高信号のくぼみ(深さ約13mm)が見られます。子宮は前傾後屈です。
帝王切開瘢痕症候群(CSDi)の診断基準(2023年)
国際的な専門家31人によるDelphi合意で、ニッチ+主症状1つ以上、または副症状2つ以上をCSDiと定義しました(Klein Meuleman 2023)。
| 区分 | 症状 |
|---|---|
| 主症状 | 月経後の点状出血(postmenstrual spotting)、出血時の痛み、胚移植時のカテーテル挿入困難、子宮内液体を伴う原因不明の続発性不妊 |
| 副症状 | 性交痛、異常な帯下、慢性骨盤痛、性交の回避、異常出血に伴うにおい、原因不明の続発性不妊、生殖補助医療でも妊娠しない続発性不妊、自己イメージの低下、余暇活動時の不快感 |
診断の前に満たすべき条件と、除外すべき疾患についても合意が得られています(Klein Meuleman 2023)。
出血との関係(数値)
系統的レビュー・メタアナリシスでは、ニッチ(cesarean scar defect)のある人はない人に比べて異常子宮出血が多く(相対危険度3.47)、次のような特徴が示されています(Murji 2022)。
- 帝王切開既往の集団では、ニッチのある人の異常子宮出血の頻度は25.5%。婦人科的な理由で画像検査を受けた集団では76.4%
- 症状のある人の平均月経期間は13.4日、月経周期早期の不正出血は平均6.8日
- 最も多い表現は「茶色いおりもの(brown discharge)」
- ニッチが大きいほど出血症状が多い
心配な場合とそうでない場合・次にすること
- 心配いらないことが多い:症状がなく、たまたま見つかったニッチ(帝王切開後の約60%にある所見)。
- 相談したい:月経後の茶色い出血が続く、出血時の痛み、続発性不妊など、CSDiの症状がある場合。
ほかに月経異常や痛みの原因となる病気(子宮腺筋症・内膜病変など)の評価も大切です。子宮腺筋症のMRI画像診断、子宮内膜肥厚は何ミリから?も参考にしてください。気になる症状があれば婦人科を受診してください。治療の要否や方法、次の妊娠についての判断は主治医に相談しましょう。
よくある疑問(Q&A)
Q1. ニッチがあると言われたら治療が要りますか?
A. ニッチは帝王切開後の約60%にみられる所見で、症状のないものと、症状を伴うCSDiとは分けて考えるよう提案されています(Klein Meuleman 2023)。
Q2. 報告書の「RMT」とは何ですか?
A. 残存筋層厚(residual myometrial thickness)のことで、ニッチの底から子宮の外側までの筋層の厚さです。ニッチの評価で必須の計測項目とされています(Jordans 2019)。
Q3. 超音波で見えなかったのにMRIで見つかることはありますか?
A. 小規模な研究ですが、MRIのほうが多く検出した報告があります。ただし有意差はありませんでした(Gupta 2021)。
参考文献
- Jordans IPM, de Leeuw RA, Stegwee SI, et al. Sonographic examination of uterine niche in non-pregnant women: a modified Delphi procedure. Ultrasound Obstet Gynecol. 2019;53(1):107-115. PubMed
- Klein Meuleman SJM, Murji A, van den Bosch T, et al. Definition and Criteria for Diagnosing Cesarean Scar Disorder. JAMA Netw Open. 2023;6(3):e235321. PubMed
- Murji A, Sanders AP, Monteiro I, et al. Cesarean scar defects and abnormal uterine bleeding: a systematic review and meta-analysis. Fertil Steril. 2022;118(4):758-766. PubMed
- Gupta T, Singal K, Gupta N, et al. Comparative Study of USG and MRI in Evaluation of Isthmocele. J Obstet Gynaecol India. 2021;71(3):292-296. PubMed
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